外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第44話:姉との再会

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私が世界樹の若木に力を注ぎ始めた、その時だった。
奇跡が顕現する直前の、張り詰めた静寂を破って、甲高い、鈴を転がすような声が響き渡った。
「お待ちになって、リナリア」
その声を聞いた瞬間、私の背筋を、氷水が流れ落ちるような悪寒が走った。
忘れるはずもない。
私を長年虐げ、嘲笑い続けてきた、姉、イザベラ・エルフィールドの声だった。
私はゆっくりと振り返った。
貴族たちの人垣が割れ、その間から、イザベラが優雅な足取りでこちらへ向かってくる。その隣には、婚約者である第二王子エドワードが、自信に満ちた笑みを浮かべて寄り添っていた。
イザベラは、今日も美しかった。陽光を浴びて輝く金の髪、最新のデザインの華やかなドレス。その姿は、まるで物語に出てくる気高い姫君のようだ。
しかし、その美しい貌に浮かんでいるのは、私に対する隠しようもない侮蔑と、これから起こるであろう出来事への、歪んだ愉悦の色だった。
彼女は、国王陛下の前まで進み出ると、完璧な作法で一礼した。
「陛下。妹が、国の秘宝である世界樹様に対し、無礼を働こうとしております。どうか、お止めくださいませ」
その言葉に、国王は眉をひそめた。
「無礼、だと? イザベラ嬢。リナリア嬢は、朕の勅命に従い、今まさに奇跡を起こそうとしているのだぞ」
「いいえ、陛下。それは奇跡などではございません」
イザベラは、悲劇のヒロインのように、憂いを帯びた表情で首を横に振った。
「私の妹が持つ【修復】という力は、壊れたものを元に戻すだけの、地味で不浄な力。世界樹様のような、神聖な御神木に触れることなど、本来あってはならない穢れた力なのでございます」
その言葉に、貴族たちの間から、ざわめきが起こる。
アシュレイ様の表情が、すっと険しくなった。彼の全身から、冷たい怒りのオーラが立ち上り始めている。
しかし、イザベラはそれに気づかないのか、あるいは気づいていて尚、その芝居を続けた。
「あなたのような出来損ないに出来るはずがないわ」
今度は、私に向かって、侮蔑を込めて言い放った。
「いいこと、リナリア。今すぐその汚い手を、世界樹様から離しなさい。あなたの力では、この御神木を蘇らせるどころか、逆に穢してしまうだけだわ」
彼女は、まるで私を諭すかのように、しかしその実、私を貶めるためだけの言葉を紡ぎ続ける。
「真に世界樹様を癒すことができるのは、精霊に愛された、清浄な力だけ。そう、例えば、私の持つこの【祝福】の力のような、ね」
イザベラはそう言うと、自信に満ちた笑みを浮かべ、自らの両手を掲げてみせた。すると、彼女の手のひらから、淡い、キラキラとした光の粒子が溢れ出し、蝶のように宙を舞った。
それは、彼女のスキル【祝福】。精霊の加護を顕現させる、華やかで美しい力。
貴族たちから、感嘆の声が上がる。
「おお、あれがエルフィールド嬢の……」
「なんと美しい力だ」
イザベラの狙いは、明らかだった。
私の地味な【修復】と、自分の華やかな【祝福】を、公衆の面前で比較させる。そして、どちらが世界樹を癒すのに相応しい力であるかを、人々に印象付けようとしているのだ。
第二王子エドワードが、勝ち誇ったように口を開いた。
「父上! ご覧ください! 真に奇跡を起こす力とは、イザベラが持つような、光に満ちた力のことです! 彼女に、この試練をお任せください。そうすれば、リナリアのような得体のしれない力に頼らずとも、世界樹は蘇りましょう!」
その言葉は、国王の心を揺さぶるのに、十分な説得力を持っていた。
国王は、眉をひそめ、私とイザベラを交互に見比べ、迷っているようだった。
貴族たちも、囁き合っている。
「確かに、王子殿下の言う通りかもしれん」
「あの地味な娘より、イザベラ様の方が、いかにも奇跡を起こしそうだ」
空気は、完全にイザベラたちの思惑通りに流れていた。
アシュレイ様が、ついに堪忍袋の緒が切れたように、一歩前に進み出ようとした。
「陛下、お待ちを――」
しかし、その彼の腕を、私は、世界樹に触れていない方の手で、そっと掴んで制した。
アシュレイ様が、驚いたように私を見る。
私は、彼に向かって、静かに微笑んでみせた。そして、かすかに首を横に振る。
『大丈夫です。見ていてください』と、目で語りかける。
私のその落ち着き払った態度に、アシュレイ様は何かを悟ったように、一歩下がってくれた。
私は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、私の行く手を阻むように立つ、姉イザベラと、第二王子エドワードの前に、静かに向き直った。
もう、私の心に、恐怖や劣等感はなかった。
あるのは、これから始まる反撃への、静かな高揚感だけ。
「……お姉様。そして、王子殿下」
私は、練習した通りに、完璧で、優雅な礼をした。
「ご忠告、痛み入ります。ですが、ご心配には及びませんわ」
私は、顔を上げた。そして、かつてないほどに、穏やかで、しかし絶対的な自信に満ちた笑顔を、二人に向けてみせた。
「私の力が、不浄な力かどうか。そして、本当に世界樹様を癒すことができるのかどうか。……その答えは、これから皆様の目の前で、明らかにいたしましょう」
私のその堂々とした態度に、イザベラとエドワードは、一瞬だけ、怯んだように目を見開いた。彼らの知っている、いつも俯いて怯えていた妹とは、全く違う私の姿に、戸惑っているのだ。
だが、彼らはまだ、自分たちの計画が成功すると信じて疑っていなかった。
「……ふん。口だけは達者になったようね、出来損ないが」
イザベラは、憎々しげに吐き捨てた。
「いいわ。ならば、見せてもらいましょう。あなたに、一体何ができるというのかをね!」
彼女は、勝ち誇ったようにそう言うと、エドワードと共に、見物する貴族たちの列へと戻っていった。
これで、舞台の役者は、全て揃った。
私の、そして私たちの、完全な勝利のための、最高の舞台が。
私は、もう一度、世界樹の若木へと向き直った。
そして、心の中で、強く、強く念じた。
さあ、始めよう。
本当の奇跡を。
そして、愚かな者たちへの、完璧な断罪を。
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