外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第45話:奇跡の瞬間

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中庭の空気は、水を打ったように静まり返っていた。
全ての視線が、再び私一人に注がれる。国王の期待、アシュレイ様の信頼、貴族たちの好奇、そして姉たちの悪意。その全てを背中に感じながら、私はもう一度、世界樹の若木の前に深くしゃがみこんだ。
イザベラ姉様の妨害は、私の心を乱すどころか、むしろ逆の効果をもたらしていた。私の心の中にあった最後の躊躇いを消し去り、絶対的な覚悟を固めさせてくれたのだ。
私は、ただ癒やすだけではない。
見せつけるのだ。
私の力が、彼らの言うような「不浄な力」などでは決してないことを。そして、私自身が、もはや彼らに蔑まれるような「出来損ない」ではないということを。
私は、再び、枯れた幹に両手を触れさせた。
そして、今度は、先ほどよりもさらに深く、さらに強く、私の魂の全てを注ぎ込むように、意識を集中させた。
スキル【修復】。
私の内なる力が、黄金色の輝きとなって、両手から溢れ出す。
それは、もはやただの光ではなかった。
私の決意、アシュレイ様への想い、そして、虐げられてきた過去との決別。その全ての感情が乗った、生命力そのものの奔流だった。
黄金色の光は、枯れ木の幹の中へと、まるで太陽が大地に光を注ぐように、力強く、そして優しく浸透していく。
若木の芯の奥底で、か細く灯っていた生命の残滓が、その光に触れて、歓喜の声を上げるのを、私は確かに感じた。
まるで、長い眠りから目覚めた巨人が、大きく伸びをするかのように。
ミシ、ミシッ……。
乾ききっていた幹から、微かな、しかし確かな音が鳴り始めた。
ひび割れていた樹皮が、内側からの力によって、ゆっくりと剥がれ落ちていく。その下から現れたのは、まるで生まれたての赤子のように、瑞々しく、生命力に満ち溢れた、新しい樹皮だった。
「おお……!」
「見ろ! 幹の色が変わっていくぞ!」
貴族たちの間から、驚愕の声が上がる。
しかし、奇跡はまだ始まったばかりだった。
新しい樹皮を得た若木は、まるで喉の渇きを癒すかのように、私の力を貪欲に吸い上げていく。そして、その力は、幹から枝の隅々へと、驚くべき速度で巡り始めた。
次の瞬間。
ぽっ、ぽっ、ぽぽぽっ……!
枯れ木だったはずの枝の、その至る所から、一斉に、小さな緑色の新芽が芽吹き始めたのだ。
その光景は、まるで早送りの映像を見ているかのようだった。芽は見る見るうちに成長し、柔らかな若葉を広げていく。
そして、その葉の色は、ただの緑ではなかった。
陽光を浴びて、キラキラと、まるで銀粉をまぶしたかのように輝いている。
「葉が……! 銀色の葉が、蘇ったぞ!」
誰かが、叫んだ。
そうだ。これこそが、世界樹の若木が持つ、本来の姿。
だが、奇跡はまだ終わらない。
イザベラ姉様、エドワード王子。あなたたちが望んだ『華やかな奇跡』を、今、見せてあげる。
私は、さらに強く、力を込めた。
すると、銀色の葉を茂らせた枝の先端に、今度は小さな、真珠のような白い蕾が、いくつも、いくつも姿を現した。
そして、それらの蕾が、まるで合図でもしたかのように、一斉に、ふわりと、その花弁を開き始めたのだ。
咲き誇ったのは、純白の花々。
その中心は、淡い金色に輝いている。
その花々が咲き誇った瞬間、これまで感じたことのないほどに、清浄で、甘やかな香りが、中庭全体に満ち溢れた。
それは、ただの芳香ではない。
その香りを吸い込んだ者たちの、心の澱や、身体の疲れを、優しく癒していく、聖なる香り。
「なんと……なんと、美しい……」
「この香りは……身体が、軽くなるようだ……」
貴族たちは、もはや言葉もなく、目の前の光景にただただ見惚れていた。
国王陛下も、玉座に見立てた椅子から身を乗り出し、その目を驚愕に見開いている。
アシュレイ様は、その唇に、誇らしげな、そして深い愛情に満ちた笑みを浮かべていた。
そして、私は、そっと立ち上がった。
私の目の前には、もはや枯れ木の姿はどこにもなかった。
そこに在ったのは、銀色に輝く葉を茂らせ、純白の聖なる花を咲き誇らせる、神々しいまでの生命力に満ち溢れた、一本の美しい若木だった。
奇跡は、成し遂げられた。
それも、誰の目にも明らかな、完璧な形で。
私は、ゆっくりと振り返った。
そして、貴族たちの中から、二つの顔を探し出す。
姉、イザベラと、第二王子エドワード。
彼らは、そこにいた。
顔面を蒼白にさせ、信じられない、ありえないという表情で、ただただ呆然と、蘇った世界樹を見つめている。その瞳には、先ほどまでの自信や愉悦の色は欠片もなく、ただ、絶望と、そして自らが犯した過ちの大きさに気づいたことによる、深い恐怖の色だけが浮かんでいた。
彼らの計画は、完全に、打ち砕かれたのだ。
私は、そんな二人に向かって、静かに、そしてゆっくりと、微笑んでみせた。
それは、勝利の笑みだった。
長年、私を虐げ、蔑み続けてきた者たちへの、完全なる、勝利宣言。
中庭には、風にそよぐ銀色の葉の音と、聖なる花の甘い香りだけが、満ちていた。
その奇跡の瞬間を目の当たりにした全ての者たちが、息をのんで、ただ、私と、蘇った世界樹の若木を、見つめていた。
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