外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第67話:領地の祭り

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エルムヘイム村での祝宴は夜更けまで続いた。
五年ぶりに取り戻した平穏と未来への希望。村人たちの喜びは尽きることがなかった。私もアシュレイ様と共に、その温かい輪の中で村人たちとの交流を楽しんだ。
翌朝、私たちが村を発つ時。
村の入り口には再び全ての村人たちが集まっていた。しかし、その顔には昨日までの病的な暗さは微塵もなく、誰もが晴れやかで健康的な血色を取り戻している。
「聖女様! 公爵閣下! 本当に、本当にありがとうございました!」
「この村をお救いいただき、感謝の言葉もございません!」
彼らは深々と頭を下げ、私たちの馬車が見えなくなるまで何度も、何度も手を振ってくれていた。
その光景は私の胸に、温かい宝物のように深く刻み込まれた。

エルムヘイム村を後にして、私たちは再び南へと馬車を進めた。
しかし、すぐに王都へ戻るわけではなかった。
「せっかく私の領地まで来たのだ。もう少し見て回らないか」
アシュレイ様のその提案に、私は喜んで頷いた。
私たちの次の目的地は、アイゼンベルク領の中心都市アイゼンブルクだった。
数日後、私たちが辿り着いたその街は、王都とはまた違う、落ち着いた気品と活気に満ちた美しい場所だった。
古い石造りの建物が並ぶ街並みは歴史の重みを感じさせ、行き交う人々もどこか誇らしげで、自分たちの土地を愛しているのが伝わってくる。
そして私たちが街を訪れた日は、偶然にも年に一度の収穫祭の日にあたっていた。
街の広場にはたくさんの露店が立ち並び、色とりどりの旗やリボンで飾り付けられている。どこからともなく軽快な音楽が聞こえてきて、街全体が陽気で華やかな雰囲気に包まれていた。
「すごい……! とても賑やかですわね!」
私は馬車の窓からその光景を見て、目を輝かせた。
アシュレイ様はそんな私の様子を満足げに眺めている。
「アイゼンベルクの収穫祭は領内でも一番大きな祭りだ。領地の各地から自慢の産物が集まってくる。……君にも見せてやりたかったんだ」
その声には、故郷の祭りを愛する人に見せられることへの純粋な喜びが滲んでいた。

アシュレイ様が領主として滞在するための館に荷物を置くと、私たちは早速お祭りの喧騒の中へと繰り出すことにした。
人目を避けるため、アシュレイ様はフード付きの簡素な外套を羽織り、私もまた彼が用意してくれた、街の娘が着るような素朴で可愛らしいワンピースに着替えた。
二人で並んで歩いていると、私たちはまるで祭りにやってきたごく普通の若い恋人同士のように見えただろう。その事実が、私の心をくすぐったいような甘い気持ちで満たした。
広場はまさに熱気の渦だった。
「さあ、安いよ安いよ! 今年採れたての氷晶果だよ!」
「焼きたての猪肉の串焼きはいらんかね!」
威勢のいい呼び込みの声。香ばしい食べ物の匂い。人々の笑い声。その全てが生命の喜びに満ち溢れている。
私は初めて体験するお祭りの雰囲気に、完全に心を奪われていた。
「リナリア。あれを食べてみないか」
アシュレイ様が指さしたのは、蜂蜜をたっぷりとかけた揚げ菓子の屋台だった。
「はい!」
私たちは熱々のお菓子を買い、二人で分け合って食べた。外はカリカリで中はふんわり。口の中に広がる優しい甘さに、私は思わず頬が緩む。
「美味しいです!」
「そうか」
彼は私の口元についた蜂蜜を自分の指でそっと拭ってくれた。その何気ない仕草に、私の心臓はまた大きく跳ねた。
私たちはその後も、祭りの喧騒の中を手を繋いで歩き回った。
珍しい工芸品を売る店を覗いたり、陽気な吟遊詩人の歌に耳を傾けたり、子供たちのための人形劇を一緒になって笑いながら見たり。
その全てが私にとって新鮮で、楽しくて、かけがえのない思い出になっていく。
特に私の心を惹きつけたのは、広場の中央で楽しそうに踊る人々の輪だった。
軽快な笛と太鼓のリズムに合わせて、男も女も老いも若きも手を取り合って、くるくると陽気に踊っている。その笑顔はどこまでも自然で、幸せに満ちていた。
「……楽しそう」
私は思わずぽつりと呟いた。
その声を聞き逃さなかったアシュレイ様が、私の耳元で悪戯っぽく囁いた。
「……踊ってみるか?」
「ええっ!? い、いえ、とんでもないです! 私、ダンスなんて習ったことも……!」
私は慌てて首を横に振った。王宮の夜会で踊られるような優雅で格式高いダンスとは違う、もっと素朴で自由な踊り。けれど、だからこそ私には難しく感じられた。
しかし、アシュレイ様はそんな私の抵抗などお構いなしに、私の手をぐいと引いた。
「大丈夫だ。私がリードしてやる」
彼はそう言うと、私を踊りの輪の中へと強引に連れて行ってしまった。
「きゃっ!」
突然輪の中に引き入れられた私に、周りで踊っていた人々がにこやかに手招きをしてくれる。
アシュレイ様は私の両手をしっかりと取ると、音楽のリズムに合わせてゆっくりとステップを踏み始めた。
私はおずおずと彼の動きに合わせて足を動かす。最初はぎこちなかったが、彼が完璧に私をリードしてくれるおかげで、不思議とすぐにその場のリズムに溶け込むことができた。
くるり、と彼が私を回転させる。ワンピースの裾がふわりと広がった。
軽快な音楽。人々の手拍子。そして、目の前で私だけを見つめて優しく微笑んでくれる、愛する人の顔。
楽しくて、楽しくて仕方がなかった。
私はいつの間にか恥ずかしさも忘れ、心の底から無邪気な子供のように笑っていた。
生まれて初めて私は、音楽に合わせて身体を動かすことの喜びに身を委ねていた。
その姿をアシュレイ様は、どこまでも愛おしそうに、そして少しだけ切なそうに見つめていた。
彼が、私から奪われていた当たり前の幸せと喜びを、一つ一つ取り戻してくれている。
その事実が私の胸を、温かい感謝の気持ちでいっぱいにする。
祭りの喧騒の中で、私たちの心は言葉などなくても完全に一つに結ばれていた。
陽気な音楽は、いつまでもどこまでも、アイゼンブルクの青い空の下に響き渡っていた。
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