外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第97話:氷解の公爵様、復活

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アシュレイ様の奇跡のような笑顔。
それはギルバート団長を始めとする騎士たちにとって、十年以上ぶりに見る、あるいは生まれて初めて見る主君の本当の姿だった。
彼らは一瞬呆然と、その光景を見つめていたが、やがて全てを悟ったのだろう。
誰からともなく雄叫びが上がった。
「おお……! おおおおっ!」
「閣下の呪いが……! 完全に解けている……!」
「聖女様が……! リナリア様が閣下をお救いになられたのだ!」
その歓喜の声はすぐに、地下聖堂全体を揺るがすほどの大歓声へと変わった。騎士たちは兜を脱ぎ捨てて天に放り投げ、互いに肩を叩き合い、涙を流して主君の完全なる復活と聖女の偉業を心から祝福した。
その熱狂の渦の中心で、アシュレイ様は少しだけ照れたように、しかしどこまでも幸せそうに微笑んでいた。
呪いから完全に解放され、全ての感情を取り戻した彼はもはや『氷の公爵』ではなかった。
ただ一人の、愛する女性を守り抜き、そして自らも救われた心優しき気高き騎士、アシュレイ・フォン・アイゼンベルク。
その本来の姿に還ったのだ。

ゾルディアスと、意識を失ったままのエドワード王子は、駆けつけた王宮の近衛騎士たちによって厳重に拘束され、連行されていった。
王都を襲った魔物の群れも、騎士団の奮闘により完全に殲滅されていた。
破壊された街の復旧にはまだ時間がかかるだろう。しかし、王都を覆っていた絶望の闇は完全に晴れたのだ。
夜が明け、新しい朝の光が街を照らし始めた頃。
私たちはようやく公爵邸へと帰還した。
屋敷では、マーサさんやセバスチャンさんを始めとする使用人たちが涙ながらに私たちの帰りを迎えてくれた。
彼らは主君であるアシュレイ様の呪いが解けた、その晴れやかな姿を見て言葉にならないほどの喜びに打ち震えていた。
「閣下……! 本当に、本当におめでとうございます……!」
「リナリア様……! 我らが主君をお救いいただき、なんとお礼を申し上げたら……!」
その温かい歓迎に、私の胸も熱くなった。
長い長い戦いは本当に終わったのだ。

疲労困憊だった私は、マーサさんに促されるまま自室で休むことになった。
温かいお風呂で身体を清め、柔らかな寝間着に着替えて、雲のようにふかふかのベッドに身を横たえる。
あっという間に、深い眠りが私を包み込んでいった。
どれくらいの時間眠っていただろうか。
ふと頬を優しい何かが撫るのを感じて、私はゆっくりと目を開けた。
窓の外はすでに夕暮れの茜色に染まっていた。
そして、私のベッドの傍らには一人の男性が静かに座っていた。
「……アシュレイ様」
私の寝起きの、かすれた声。
彼は私の頬を撫でていたその手で、私の髪を優しく慈しむように梳いてくれた。
その紫の瞳には、私がこれまで見たこともないほどに深く、そしてとろけるように甘い愛情の色が満ち溢れていた。
「……よく眠れたか」
「はい。……夢を見ていました」
「ほう。どんな夢だ?」
「とても幸せな夢です。……あなた様とずっと一緒にいる夢」
私のその無邪気な言葉に、彼は息をのんだ。
そして、その瞳を熱っぽく潤ませた。
「……リナリ-ア」
彼は私の名前を囁くように呼ぶと、私の手を取りその手の甲にそっと唇を寄せた。
そして、顔を上げると真剣な、そして彼の魂の全てを込めたような瞳で私を見つめた。
「……夢ではない」
彼の声は熱っぽく、そして震えていた。
「それはこれから私たちが共に歩んでいく現実だ」
彼はベッドからゆっくりと立ち上がった。
そして、私の前で完璧な騎士の礼法に則り、深くその場に跪いた。
「……え?」
私は驚いて身を起こそうとする。
しかし彼はそれを静かに手で制した。
「リナリア・エルフィールド」
彼は私の名を厳かに、そしてどこまでも優しく呼んだ。
「君は私の全てだ。私の光、私の希望、私の命そのものだ」
その言葉の一つ一つが、私の心に深く深く刻み込まれていく。
「君がいない世界など私にとっては闇そのものだ。君と共に生き、君と共に笑い、そして君と共に老いていきたい。……いや、老いることさえ惜しい。君と過ごす一瞬一瞬が、私にとっては永遠よりも価値がある」
彼のあまりにも情熱的な愛の告白。
私の目から涙が溢れ出した。
それはもう悲しみや安堵の涙ではなかった。
ただひたすらに幸せな、喜びの涙だった。
彼はその懐から、小さなベルベットの箱を取り出した。
そして、その蓋を開ける。
中には一つの指輪が、夕暮れの光を浴びてきらきらと輝いていた。
それはシンプルな、しかしどこまでも気品のある白銀の指-央には彼の瞳の色と同じ、美しい紫水晶が嵌め込まれていた。
「……私と結婚してほしい」
彼の震える声が、静かな部屋に響き渡った。
「私の全てを君に捧げる。私の妻として、私の隣で永遠に輝き続けてはくれないだろうか」
それは私が夢にまで見た瞬間。
答えはもう決まっていた。
私は涙で濡れた顔のまま、最高の、そして世界で一番幸せな笑顔で頷いた。
「……はい」
その一言に、私の全ての想いを込めて。
「喜んで……!」
私のその返事を聞いて、彼の顔がぱっと輝いた。
それはまるで初めて光を見た子供のような、純粋でそしてどうしようもないほどの喜びに満ちた笑顔だった。
彼は震える手で指輪を箱から取り出すと、私の左手の薬指にそっとそれをはめてくれた。
指輪は、まるで最初からそこにあったかのように私の指にぴったりと収まった。
紫水晶が、彼の愛の証のようにきらりと輝いた。
彼は私の手を取り、その指輪にもう一度深く敬虔に口づけを落とした。
そして、顔を上げるとその腕で私の身体を優しく、しかし力強く引き寄せた。
そして、今度こそためらうことなく。
その熱い唇を私の唇にそっと重ねた。
それはどこまでも、どこまでも甘く、そして優しい誓いのキスだった。
氷解の公爵様は復活した。
そして、その愛は奇跡を起こした聖女を、世界で一番幸せな花嫁へと導いていく。
私たちの本当の物語は、今、ここから始まろうとしていた。
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