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第96話:愛の奇跡
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私の意識が現実の世界へと引き戻された時。
最初に感じたのは、彼の確かな温もりだった。
私は、地下聖堂の冷たい石畳の上にアシュレイ様の胸にしっかりと抱きしめられる形で倒れていた。彼の心臓が力強く、そして穏やかに、どくん、どくんと鼓動しているのが、私の耳に心地よく響いていた。
ゆっくりと目を開けると、視界に飛び込んできたのは聖堂の高い天井と、そして私を心配そうに覗き込む彼の紫水晶の瞳だった。
その瞳にはもう呪いの闇も虚ろな光もどこにもなかった。
そこにあったのは全ての苦しみから解放された、深く澄み切った湖のような静けさと、そして私に対する揺ぎない絶対的な愛情だけだった。
「……リナリア」
彼が私の名前を呼んだ。その声はもう呪いによって感情を抑圧されていたかつての響きではなかった。温かく、そして全ての感情の彩りを取り戻した彼の本当の声。
「……アシュレイ様」
私の声は涙で震えていた。
「よかった……。本当に、よかった……!」
私は彼の胸に顔をうずめ、子供のように声を上げて泣いた。
安堵と喜びと、そして愛する人が無事に戻ってきてくれたことへの感謝。その全ての感情が涙となって溢れ出した。
「ああ。私も本当に良かった」
彼は私の背中を優しく何度も何度も撫でてくれた。
「君が無事で。……君が私の傍にいてくれて」
その声もまた感極まったように震えていた。
私たちはしばらくの間、そうして互いの存在を確かめ合うように、ただ固く抱きしめ合っていた。
やがて私が少し落ち着きを取り戻した頃。
私たちはゆっくりと身体を起こした。
そして、ようやく周囲の状況を確認する。
地下聖堂の中は静まり返っていた。
私の黄金色の光はすでに収まっていたが、完全に修復された王都の心核が清らかな青い光を放ち、聖堂全体を神秘的に照らし出している。
壁際では、セバスチャンさんや護衛の騎士たちが意識を取り戻し始めていた。彼らは何が起こったのか分からないというように、困惑した表情で私たちを見つめている。
そして、聖堂の中央。
そこに一人の老人が、まるで抜け殻のようにその場にへたり込んでいた。
魔術師長ゾルディアス。
彼は死んではいなかった。
しかし、その瞳からは完全に光が失われ、ただ虚空を見つめているだけだった。
私が最後に放った純粋な愛の光。
そのあまりにも強大で清浄なエネルギーを真正面から浴びたことで、彼の邪悪な魔力は完全に中和され霧散してしまったのだ。
彼はもはや魔術師ではなかった。
ただの無力な老人。
それが人の心を弄び、世界を混沌に陥れようとした邪悪な魔術師の末路だった。
「……終わったのだな。全て」
アシュレイ様が静かにそう呟いた。
その声には、長い長い戦いを終えた戦士の深い安堵が滲んでいた。
彼は立ち上がると、私に向かってそっと手を差し伸べた。
「さあ、帰ろう、リナリア。私たちの家へ」
そのあまりにも優しい響きに、私は涙で濡れた顔のまま最高の笑顔で頷いた。
「はい、アシュレイ様」
私がその手を取ろうとした、その瞬間。
ガタン、という大きな物音と共に。
地下聖堂の重厚な鉄の扉が、外側から激しく蹴破られた。
そして、そこに雪崩れ込むようにして現れたのは。
「閣下! リナリア様! ご無事ですか!」
血相を変えた騎士団長のギルバート様と、アイゼンベルク騎士団の屈強な騎士たちだった。
彼らは市街地の魔物を完全に殲滅した後、アシュレイ様が地下聖それに向かったという報せを受け、慌てて後を追ってきたのだ。
彼らは聖堂内の異様な光景を見て、一瞬息をのんだ。
力なくへたり込む見知らぬ老人。
そして、その中央で手を取り合って見つめ合うアシュレイ様と私。
ギルバート様は状況が全く飲み込めないというように、困惑した表情でアシュレイ様に問いかけた。
「……か、閣下。これは一体、何が……?」
その問いに、アシュレイ様は振り返った。
そしてギルバートが、そしてそこにいた全ての騎士たちが生涯忘れることのないであろう光景を目の当たりにする。
アシュレイ・フォン・アイゼンベルクが。
あの感情を見せることのなかった『氷の公爵』が。
まるで春の陽光のように穏やかで温かく、そして心の底からの幸せに満ちた笑顔で告げたのだ。
「ああ、ギルバート。……全て終わったのだ。彼女が全てを救ってくれた」
その奇跡のような笑顔は。
愛の奇跡がもたらした、何よりも雄弁な勝利の証だった。
最初に感じたのは、彼の確かな温もりだった。
私は、地下聖堂の冷たい石畳の上にアシュレイ様の胸にしっかりと抱きしめられる形で倒れていた。彼の心臓が力強く、そして穏やかに、どくん、どくんと鼓動しているのが、私の耳に心地よく響いていた。
ゆっくりと目を開けると、視界に飛び込んできたのは聖堂の高い天井と、そして私を心配そうに覗き込む彼の紫水晶の瞳だった。
その瞳にはもう呪いの闇も虚ろな光もどこにもなかった。
そこにあったのは全ての苦しみから解放された、深く澄み切った湖のような静けさと、そして私に対する揺ぎない絶対的な愛情だけだった。
「……リナリア」
彼が私の名前を呼んだ。その声はもう呪いによって感情を抑圧されていたかつての響きではなかった。温かく、そして全ての感情の彩りを取り戻した彼の本当の声。
「……アシュレイ様」
私の声は涙で震えていた。
「よかった……。本当に、よかった……!」
私は彼の胸に顔をうずめ、子供のように声を上げて泣いた。
安堵と喜びと、そして愛する人が無事に戻ってきてくれたことへの感謝。その全ての感情が涙となって溢れ出した。
「ああ。私も本当に良かった」
彼は私の背中を優しく何度も何度も撫でてくれた。
「君が無事で。……君が私の傍にいてくれて」
その声もまた感極まったように震えていた。
私たちはしばらくの間、そうして互いの存在を確かめ合うように、ただ固く抱きしめ合っていた。
やがて私が少し落ち着きを取り戻した頃。
私たちはゆっくりと身体を起こした。
そして、ようやく周囲の状況を確認する。
地下聖堂の中は静まり返っていた。
私の黄金色の光はすでに収まっていたが、完全に修復された王都の心核が清らかな青い光を放ち、聖堂全体を神秘的に照らし出している。
壁際では、セバスチャンさんや護衛の騎士たちが意識を取り戻し始めていた。彼らは何が起こったのか分からないというように、困惑した表情で私たちを見つめている。
そして、聖堂の中央。
そこに一人の老人が、まるで抜け殻のようにその場にへたり込んでいた。
魔術師長ゾルディアス。
彼は死んではいなかった。
しかし、その瞳からは完全に光が失われ、ただ虚空を見つめているだけだった。
私が最後に放った純粋な愛の光。
そのあまりにも強大で清浄なエネルギーを真正面から浴びたことで、彼の邪悪な魔力は完全に中和され霧散してしまったのだ。
彼はもはや魔術師ではなかった。
ただの無力な老人。
それが人の心を弄び、世界を混沌に陥れようとした邪悪な魔術師の末路だった。
「……終わったのだな。全て」
アシュレイ様が静かにそう呟いた。
その声には、長い長い戦いを終えた戦士の深い安堵が滲んでいた。
彼は立ち上がると、私に向かってそっと手を差し伸べた。
「さあ、帰ろう、リナリア。私たちの家へ」
そのあまりにも優しい響きに、私は涙で濡れた顔のまま最高の笑顔で頷いた。
「はい、アシュレイ様」
私がその手を取ろうとした、その瞬間。
ガタン、という大きな物音と共に。
地下聖堂の重厚な鉄の扉が、外側から激しく蹴破られた。
そして、そこに雪崩れ込むようにして現れたのは。
「閣下! リナリア様! ご無事ですか!」
血相を変えた騎士団長のギルバート様と、アイゼンベルク騎士団の屈強な騎士たちだった。
彼らは市街地の魔物を完全に殲滅した後、アシュレイ様が地下聖それに向かったという報せを受け、慌てて後を追ってきたのだ。
彼らは聖堂内の異様な光景を見て、一瞬息をのんだ。
力なくへたり込む見知らぬ老人。
そして、その中央で手を取り合って見つめ合うアシュレイ様と私。
ギルバート様は状況が全く飲み込めないというように、困惑した表情でアシュレイ様に問いかけた。
「……か、閣下。これは一体、何が……?」
その問いに、アシュレイ様は振り返った。
そしてギルバートが、そしてそこにいた全ての騎士たちが生涯忘れることのないであろう光景を目の当たりにする。
アシュレイ・フォン・アイゼンベルクが。
あの感情を見せることのなかった『氷の公爵』が。
まるで春の陽光のように穏やかで温かく、そして心の底からの幸せに満ちた笑顔で告げたのだ。
「ああ、ギルバート。……全て終わったのだ。彼女が全てを救ってくれた」
その奇跡のような笑顔は。
愛の奇跡がもたらした、何よりも雄弁な勝利の証だった。
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