外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第100話:新たな日常と未来への扉【完】

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世紀の結婚式から、季節は穏やかに巡った。
アイゼンベルク公爵邸での日々は、まるで陽だまりの中で紡がれる詩のように甘く、そして満ち足りたものだった。
「……ん……」
朝の柔らかな光が瞼を透かし、私は心地よい眠りからゆっくりと覚醒する。隣からは、愛する人の穏やかな寝息が聞こえていた。
そっと顔を上げると、腕枕をしてくれているアシュレイ様の寝顔がすぐそこにあった。呪いから解放された彼の寝顔は、かつての氷のような貌が嘘のように、どこか無防備で子供のようにも見える。その美しい銀色の髪に、そっと指先で触れてみた。
すると、閉じていたはずの彼の瞼がゆっくりと持ち上がった。
「……おはよう、リナリア」
寝起きの少しだけ掠れた甘い声。
その紫の瞳が朝一番に私を映し出し、どうしようもなく愛おしいという色に細められる。
「おはようございます、アシュレイ様」
「その呼び方はもうやめようと言っただろう?」
彼はそう言うと、私の身体をその腕の中にさらに強く抱き寄せた。
「……アシュレイ」
私がはにかみながら彼の名を呼ぶ。
「うん。それでいい」
彼は満足そうに頷くと、私の額に朝の挨拶のキスをそっと落とした。
これが、私たちの新しい日常。
公爵夫妻としての甘く穏やかな日々。
私はもう、かつてのように怯えたり俯いたりすることはなかった。この屋敷の女主人として、そして何より彼に愛される妻として、私の心は揺ぎない自信と幸福感で常に満たされていた。
もちろん、私はただの公爵夫人として日々を過ごしているだけではない。
『聖女』としての私の役目も続いていた。
公爵邸の東棟には、私のために小さくしかし陽当たりの良い一室が設けられていた。そこは私の助けを求める人々が、身分に関わらず訪れることができる小さな診療所のような場所だった。
壊れてしまった子供のおもちゃ、動かなくなった農具、そして時には心に深い傷を負った人々の砕け散った想い。
私はその一つ一つに丁寧に向き合った。私の力が誰かの涙を笑顔に変えることができる。その喜びが、私の心をさらに豊かにしてくれた。

そんな穏やかな午後だった。
アシュレイ様の書斎で二人きりで紅茶を楽しんでいると、執事長のセバスチャンさんがいつもより少しだけ厳かな表情で入ってきた。
その手には、見慣れない紋章の封蝋が施された一通の親書が恭しく捧げ持たれている。
「閣下。海を越えた隣国、海洋国家『アクアティス』より、国王陛下直々の親書が届きました」
「アクアティスから?」
アシュレイ様は少し驚いたように眉を寄せた。アクアティスは優れた航海技術を持つ古くからの海洋国家だが、これまで我が国との正式な国交はほとんどなかったはずだ。
彼はセバスチャンさんから親書を受け取ると、その封を切り、静かに文面に目を通し始めた。
最初は穏やかだった彼の表情が、読み進めるうちに徐々に険しくなっていくのが隣にいる私にも分かった。
「……アシュレイ?」
私が心配そうに声をかけると、彼は深く、深く息を吐いた。そして、その手紙をまるで重い荷物のようにテーブルの上に置いた。
「……君にも読んでもらった方がいいだろう」
促されるまま、私はその親書を手に取った。
そこに綴られていたのは、一国の王が記したとは思えないほどに切実で、そして悲痛な願いだった。

『――我が国には、たった一人の世継ぎの姫君がおります。しかし、その姫は数年前から原因不明の『眠りの呪い』にかかり、以来一度もその目を開けることはございません。国の最高の魔術師も神官も匙を投げてしまいました。日に日に、姫の生命の灯火は弱くなるばかり……。
そのような折、風の噂で貴国に現れたという聖女様の奇跡を耳にいたしました。いかなる呪いをも癒し、失われた生命の輝きさえも取り戻すという、そのお力を。
誠に厚かましく、そして非礼な願いとは承知の上で伏してお願い申し上げます。
どうか、我らが国のたった一つの希望であるこの『呪われた姫君』を、貴国の聖女様のその大いなるお力でお救い頂けないだろうか――』

読み終えた時、私の胸は締め付けられるような痛みに襲われていた。
眠りの呪い。
日に日に弱っていく生命の灯火。
その姫君の境遇に、私はかつて呪いに苦しみ心を閉ざしていたアシュレイ様の姿を、そして誰からも必要とされず絶望の中で生きていた過去の自分の姿を重ねていた。
「……もちろん、断る」
沈黙を破ったのはアシュレイ様だった。
その声はきっぱりとしており、議論の余地など微塵も感じさせなかった。
「君をそのような見知らぬ危険な土地へ行かせるわけにはいかない。君の穏やかな日々を、これ以上誰にも邪魔はさせない」
彼の言葉は、私を心から案じる深い愛情から来るものだと痛いほどに分かった。
けれど、私は静かに首を横に振った。
そして顔を上げ、彼の瞳をまっすぐに見つめ返した。
「いいえ、アシュレイ」
私は彼の名をはっきりと呼んだ。
「わたくしは行かなければなりません」
私のその揺るぎない言葉に、アシュレイ様は息をのんだ。
「私にはこの力があります。そして、この力で救うことのできる命が海の向こうで助けを待っています。……その声を聞いてしまった以上、わたくしはもう、ここにじっとしていることはできません」
私はゆっくりと立ち上がった。そして窓の外に広がる、どこまでも青い空を見上げた。
「それが、わたくしに与えられた聖女としての道なのですから」
その瞳には、もはや迷いも怯えもなかった。
ただ、人々を救いたいという強く、そして気高い絶対的な意志だけが宿っていた。
アシュレイ様はしばらくの間、そんな私の横顔をただ黙って見つめていた。
やがて彼は、まるで敵わないとでも言うように深く息をついた。しかし、その顔には困惑ではなく、深い、深い愛情と、そして誇らしげな笑みが浮かんでいた。
「……本当に君には敵わないな。私の気高き聖女様は」
彼は立ち上がると、私の隣に立った。
そして、窓の外に広がる遥か海の彼方を見つめながら、私の肩を強く、そして優しく抱きしめた。
「分かった。行こう」
彼の声には絶対的な覚悟が込められていた。
「君が行くというのなら、地の果てであろうと海の底であろうと、私が必ず共にいこう。君の盾となり、君の剣となって、君を、そして君が救おうとする全てを、この私が守り抜く」
その言葉に、私は隣に立つ愛する人の顔を見上げた。
彼の紫の瞳が私を見つめ返している。
その視線が交錯する。
そこには言葉など必要としない絶対的な信頼と、どんな困難も二人で共に乗り越えていくという固い、固い誓いが満ちていた。
私は世界で一番幸せな笑顔で、彼に微笑み返した。

『外れスキル』だと蔑まれた少女の物語は、ここで一つの終わりを告げる。
しかし、それは決して終着点ではない。
愛する人と共に世界を救うための新たな旅。
その輝かしい未来へと続く、希望に満ちた扉が開かれた瞬間だった。

【完】
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感想 4

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みんなの感想(4件)

mari-enosawa
2025.11.11 mari-enosawa

スピード感があって一気に読みました
物語は早い展開なのに恋愛面はジレジレ
目が離せませんなー
楽しみにお待ちしてます

解除
紅茶
2025.10.19 紅茶

リナリアがんばれー‼️
アシュレイ様と聖剣がついてるよ😊
姉と家族と王子に勝つのだ‼️

解除
柏屋檸檬
2025.10.18 柏屋檸檬

第1話が重複投稿されているようです。

解除

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