外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第99話:世紀の結婚式

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断罪の儀から季節は一つ巡った。
王都を襲った悲劇の傷跡は、人々の力強い営みの中で少しずつ癒え始めていた。破壊された街並みは以前にも増して美しく再建され、王都の心核が放つ清らかな魔力は人々の心から不安の影を拭い去っていた。
そして復興の象徴として、そして新たな時代の幕開けを告げる祝祭としてその日はやってきた。
聖女リナリアと英雄アシュレイ・フォン・アイゼンベルク公爵の世紀の結婚式。
その日、王都は建国以来の最大級の祝福と歓喜に包まれていた。

王宮の最も格式高い大聖堂は、数千もの白い薔薇と清らかな百合の花で埋め尽くされていた。ステンドグラスから差し込む光は、まるで虹色のシャワーのように祭壇へと続くバージンロードを照らし出している。
その祭壇の前で、アシュレイ様が私を待っていた。
彼はアイゼンベルク公爵家に代々伝わる純白の儀礼服に身を包んでいた。銀糸で施された精緻な刺繍は彼の気高さを際立たせ、その顔にはこれ以上ないほどの幸福に満ちた穏やかな笑みが浮かんでいた。
やがて大聖堂の重厚な扉がゆっくりと開かれた。
そして、父の代わりとして国王陛下自らにエスコートされ、私がその姿を現した。
その瞬間、参列していた全ての貴族たちから感嘆と、そして祝福のため息が一斉に漏れた。
私が身に纏っていたのは、あの夜会で着たドレスをさらに神々しく、そして花嫁にふさわしく仕立て直した世界で一着だけのウェディングドレス。
ドレスには数えきれないほどの小さな光の魔石が縫い込まれ、私が一歩歩むたびにまるで星屑の軌跡のように、きらきらと幻想的な光を放っていた。
頭上にはあの日彼が私に貸してくれたアイゼンベルク家のティアラが、今や正当な所有者の証として誇らしげに輝いている。
私は国王陛下に支えられながら、一歩、また一歩と愛する人の待つ祭壇へと進んでいった。
その道の両脇には、私たちの未来を祝福してくれる大切な人々の顔があった。
涙ぐみながらも母親のような優しい笑顔で見守ってくれるマーサさん。
いつもと変わらぬ完璧な執事の貌を保ちながらも、その目には深い感動の色を浮かべているセバスチャンさん。
そして、その武骨な顔を嬉しそうに、そして少しだけ寂しそうに歪ませているギルバート団長。
エルムヘイム村の村長の姿もあった。領民の代表として、はるばるこの地まで駆けつけてくれたのだ。
その全ての温かい視線に包まれながら、私はついに祭壇の前へと辿り着いた。
国王陛下は私の手をアシュレイ様の手にそっと手渡した。
「……娘を、頼む」
その声には一国の王としてではなく、一人の父親としての温かい想いが込められていた。
「はい。生涯をかけて」
アシュレイ様は力強くそう答えた。
彼の手はいつもと変わらず温かかった。
私たちは二人で並んで祭壇の中央に立つ大司教の前に跪いた。

「汝、アシュレイ・フォン・アイゼンベルクは、リナリアを生涯の伴侶とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、これを愛し、敬い、慈しむことを神の御前に誓いますか」
「はい。誓います」
彼の声は一点の迷いもなく、大聖堂の隅々まで力強く響き渡った。
「汝、リナリアは、アシュレイ・フォン・アイゼンベルクを生涯の伴侶とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、これを愛し、敬い、支えることを神の御前に誓いますか」
「……はい。誓います」
私の声は涙で少しだけ震えていた。けれど、その奥には彼と共に生きるという絶対的な覚悟が込められていた。
「では、誓いの口づけを」
大司教の厳かな声。
アシュレイ様は私の顔を覆うベールを、その美しい指先でゆっくりと持ち上げた。
そして、その紫の瞳で私をまっすぐに見つめた。
その瞳には世界の全ての愛を集めてきたかのような、深く、そしてとろけるように甘い光が宿っていた。
彼はゆっくりと、その顔を私に近づけてきた。
そして、その唇が私の唇にそっと重ねられた。
その瞬間、大聖堂の鐘が高らかに、そしてどこまでも鳴り響いた。
参列者から割れんばかりの拍手と祝福の歓声が湧き起こる。
私たちは夫婦となったのだ。
名実ともに永遠に結ばれた。

その後の王宮の庭園で開かれた祝賀会は、まさに世紀の宴だった。
国中の人々が私たちの結婚を祝い、歌い、踊り、そして未来への希望を語り合った。
その中心で、アシュレイ様は私を片時もその腕から離そうとはしなかった。
「……綺麗だ、リナリア。私の花嫁は、世界で一番美しい」
彼は何度も何度も、私の耳元でそう囁いた。
その度に私の心は、どうしようもないほどの幸福感で満たされていく。
そして多くの人々が、その光景を目に焼き付けていた。
あの感情を見せることのなかった『氷の公爵』が。
愛する花嫁を前にして見せた、とろけるように甘く、そして幸せに満ち溢れたあの奇跡のような笑顔を。
その笑顔は、この国の新たな時代の幕開けを象徴する輝かしい伝説として、末永く、末永く語り継がれていくことになったのだった。
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