Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第五話 銀色の神獣

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床に残された魔石と錆びた大剣。ガーディアンスケルトンが存在していた唯一の証だ。俺はそれを拾い上げ、改めて【神の眼】で鑑定した。

【アイテム名】魂の宿る大剣
【ランク】B(封印状態)
【状態】呪詛による劣化、錆の付着。本来の性能が著しく低下している。
【詳細】古代の鍛冶師が魂を込めて作り上げた魔剣。聖なる銀で浄化し、研磨することで真の力を解放する。解放後は、使用者の魔力に応じて切れ味が増す特性を持つ。
【真の名称】ソウルイーター

「……ソウルイーターだと?」

ただの錆びた剣ではなかった。適切な処置を施せば、Bランク級の強力な魔剣になるという。こんな情報、通常の鑑定スキルでは到底見抜けない。アレクシスたちがこれを見つけたとしても、価値のないガラクタだと判断して捨て置いただろう。

「これも、神の眼の力か」

俺はソウルイーターを慎重に背負った。今の俺にはこれを浄化する手段がないが、いずれ必ず役に立つ時が来るはずだ。

興奮で高鳴る心臓を落ち着かせ、俺は再びダンジョンの奥へと歩を進めた。
通路は迷路のように入り組んでいたが、【神の眼】は壁の向こう側にある通路の構造や、床下に隠された罠の位置までも見通すことができた。

【警告:前方5メートル、床下に感圧式の落とし穴。深さ10メートル。底には毒を塗った杭】
【警告:前方通路の壁、左右に矢の発射口。赤外線感知式の罠】

次々と現れるウィンドウの警告に従い、俺はまるで答えを知っているパズルを解くかのように、罠を一つずつ解除していく。もし【神の眼】がなければ、最初の落とし穴で俺は確実に死んでいただろう。
かつてのパーティーでの探索を思い出す。罠の可能性がある場所では、いつも俺が先頭に立たされた。鑑定で危険を察知し、皆を安全なルートへ導く。それでも、リリアナは言った。「あなたの慎重さは臆病なだけ。もっと大胆に進めないの?」と。

「……ふん。大胆に進んだ結果が、串刺しか」

皮肉な笑みが、自然と口元に浮かんだ。
彼らがいかに、俺の地道な貢献の上で安穏と冒険していたか。今ごろ思い知っていればいい。いや、おそらく彼らは気づきもしないだろう。自分たちの実力で切り抜けてきたと、今も信じているに違いない。

そんなことを考えながら進んでいると、やがて通路は終わりを告げ、巨大なドーム状の空間に出た。
そこは、まるで神殿だった。
天井は遥か高く、どこからか差し込む淡い光が、空間全体を幻想的に照らしている。壁には星図のような精密な模様が描かれ、床には巨大な魔法陣が刻まれていた。空気中に満ちる魔素の密度は、入り口付近とは比較にならないほど濃い。

そして、その空間の中央。
一段高くなった円形の祭壇の上に、それはいた。

最初は、銀色の毛玉にしか見えなかった。
近づくにつれて、その正体が分かる。銀色の美しい毛並みを持つ、子犬ほどの大きさの獣。狼に似ているが、その姿は気品に満ち、神々しささえ感じさせた。
だが、その神々しい獣はひどく弱っているようだった。祭壇に繋がれた黒い鎖に身を縛られ、ぐったりと体を横たえている。呼吸は浅く、時折か細い声で「くぅん」と鳴くだけだった。

俺は息を殺し、【神の眼】を集中させた。
鑑定結果が、俺の脳を揺さぶる。

【名前】フェン(名を持たないため仮称)
【種族】神獣(フェンリル)
【ランク】???(測定不能)
【状態】極度の衰弱、魔力欠乏、主との契約喪失による存在希薄化。このままでは24時間以内に消滅する。
【弱点】なし
【スキル】
・???(封印)
・???(封印)
・???(封印)
【詳細】
月の女神に仕えし伝説の神獣フェンリルの幼体。遥か昔、主と共にこの神殿を守っていたが、主が命を落としたことで魔力供給が途絶え、永い眠りについていた。侵入者の魔力に反応して覚醒したが、蓄積された魔力は既に尽きかけている。
【契約条件】
純粋な魔力を持つ者が、自らの魔力を分け与え、魂の共鳴に成功した場合、新たな主として認識し、主従契約を結ぶ。契約者はフェンリルの絶大な力の一部を行使する権利を得る。

「……神獣、フェンリル……」

嘘だろう。おとぎ話や英雄譚にしか出てこない、伝説の中の存在。それが、今、目の前で死にかけている。
ランクは測定不能。スキルはすべて封印されているが、そのポテンシャルは計り知れない。
俺はゴクリと唾を飲んだ。

神獣と契約する。
それは、どんな冒険者にとっても夢物語だ。もし成功すれば、俺は文字通り世界でも指折りの力を手にすることになる。アレクシスたちを見返すどころの話ではない。英雄や賢者と呼ばれる存在と、肩を並べることさえ可能になるかもしれない。

だが、リスクも大きい。
【神の眼】は「純粋な魔力を持つ者」と示しているが、それが俺に当てはまる保証はない。鑑定士である俺の魔力量は、お世辞にも多いとは言えない。下手に魔力を分け与えれば、俺自身が衰弱し、共倒れになる可能性だってある。

どうする?
見過ごして、このダンジョンから立ち去るか?
安全な道を選び、薬草採取の報酬である銀貨5枚を握りしめて、辺境の街で地道に暮らすか?
それとも、この千載一遇のチャンスに、すべてを賭けるか?

俺は、祭壇の上で弱々しく横たわる銀色の獣を見た。
その金色の瞳が、わずかに俺の方を向いた気がした。そこには、何の力も敵意もない。ただ、永い孤独と、消えゆく命の儚さだけが揺らめいていた。

その瞳を見た瞬間、俺の心は決まった。
損得勘定や、復讐心だけではない。
俺も、捨てられた。
信じていた仲間から、無価値だと断じられ、一人で闇の中に突き落とされた。
この小さな神獣も、主を失い、誰にも知られず、たった独りで消えようとしている。

「……冗談じゃない」

俺は呟き、祭壇に向かって歩き出した。

「俺もお前と同じ、捨てられた身だ。そんなお前を見捨てて、俺だけが生き延びるなんて、できるわけないだろう」

理屈じゃない。これは、俺の意地だ。
もしここで失敗して死ぬなら、それも俺の運命だ。だが、何もしないで後悔するより、ずっといい。

俺は祭壇の前に立つと、震える手を伸ばした。
ぐったりとしていたフェンリルが、俺の気配に気づき、最後の力を振り絞るように頭を上げた。その金色の瞳が、まっすぐに俺を捉える。
俺は意を決して、その小さな頭に、そっと手を置いた。

ひんやりとした、しかし驚くほど柔らかな毛皮の感触。
俺は目を閉じ、体内のけっして多くはない魔力を、すべてその小さな体に注ぎ込むイメージを描いた。
さあ、どうなる。俺の運命は、ここですべて決まる。
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