隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第10話 完璧なスイッチ、あるいは俺だけが知る素顔

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翌朝、俺は酷い寝不足だった。
原因は、昨夜のスタンプ爆撃だ。俺が『可愛いな』と返信してしまったのが運の尽きだった。それに気を良くした雪城冬花は、まるで堰を切ったように、手持ちのスタンプを全て見せつけるかのような勢いで送りつけてきたのだ。
おかげで俺のスマホは夜中までピコンピコンと鳴り続け、そのたびに俺の心臓は変な音を立てた。あのクールな氷の女王が、ベッドの中でスマホを連打し、ファンシーな動物たちを俺に送りつけている。そのシュールな光景を想像するだけで、頭がおかしくなりそうだった。

もちろん、今朝も彼女は俺の家の前で待っていた。
もはや恒例行事と化した、地獄の二人きり登校。しかし、数日続いたおかげか、俺のメンタルも少しは鍛えられたらしい。突き刺さる視線の雨にも、以前ほど胃は痛まなくなっていた。慣れとは恐ろしいものだ。
「おはようございます、優斗さん。昨夜はお楽しみいただけたようですね」
「どの口が言うんだ。おかげで寝不足だよ」
俺がジト目で睨むと、彼女は表情一つ変えずに答えた。
「それは光栄です。あなたの睡眠時間を奪えるほど、私の存在が大きくなったということですから」
ポジティブすぎる。この女、思考回路が常人とは違いすぎた。
学校に着き、教室に入る。相変わらずの注目度だが、俺はもう気にしない。自分の席に着くと、雪城さんはすっと文庫本を開いた。完璧なポーカーフェイス。昨夜、スマホの向こう側でアザラシを乱舞させていた人物と、同一人物とは到底思えなかった。

その完璧なスイッチング能力は、一日を通して遺憾なく発揮された。
数学の授業中、教師が難問を黒板に書き、「誰か分かる者はいるか?」と問いかけた時。クラスの誰もが押し黙る中、すっと手を挙げたのは雪城さんだった。
「はい、雪城」
指名された彼女は静かに立ち上がると、淀みない口調で完璧な解答を口にした。その知的で美しい姿に、クラス中の生徒が感嘆のため息を漏らす。女子からは憧れの眼差し、男子からは畏敬の念。まさに『氷の女王』の名にふさわしい、圧巻の光景だった。
俺は思った。こいつ、昨日の夜、俺に『おやすみなさい』って言いながら羊が柵を飛び越えるスタンプを10回連続で送ってきたやつだぞ、と。このギャップを知っているのは、世界で俺だけだ。その事実に、なぜか少しだけ優越感が湧いてくるから始末に負えない。

休み時間になれば、彼女は俺にだけ聞こえる声で話しかけてくる。
「昨日の問題、解けましたか? 分からない箇所があれば、後ほど解説します」
その声も表情も、あまりにクールで事務的。だから、周囲の生徒たちには、ただ真面目なクラスメイトが勉強の話をしているようにしか聞こえない。
「お、おう。なんとか……」
俺がどもりながら答えていると、そこに陽平がやってきた。
「よお、未来の夫婦。勉強熱心で結構なこった。で、進展はどうなんだよ?」
ニヤニヤと下世話な笑みを浮かべる陽平に対し、雪城さんは完全なる無視を決め込んだ。視線すら向けない。まるで、そこに陽平など存在しないかのように、彼女は静かにページをめくっている。
「うわ、鉄壁すぎ……」
陽平がその絶対零度のオーラに気圧されて、すごすごと引き返していく。
その背中を見送りながら、俺だけは聞こえない声を聞いた気がした。『夫の友人は大切にすべきですが、今は邪魔されたくありません』と。彼女なら、きっとそう思っているに違いない。

昼休み、俺たちは当然のように屋上へと向かった。
もはや、そこは俺たちの聖域と化している。誰にも邪魔されない空間で、彼女が差し出した弁当箱を開ける。
「……唐揚げ」
中には、黄金色に輝く唐揚げがぎっしりと詰められていた。
昨夜のメッセージの嵐の中、俺が「明日は唐揚げが食べたい気分だな」と冗談半分で送ったのを、彼女は完璧に覚えていたのだ。
一口頬張る。衣はサクサク、中はジューシー。醤油と生姜の風味が絶妙で、白米がいくらあっても足りない。文句のつけようがない、完璧な唐揚げだった。
「美味いか?」と聞くまでもない。美味いに決まっている。
俺が夢中で唐揚げを頬張っていると、雪城さんはスマホを取り出した。そして、その画面を俺に見せてくる。
『今日の気分はこれです』
そこに表示されていたのは、頬をほんのり赤らめて、幸せそうに目を細めている猫のスタンプだった。
「……お前、本当に別人みたいだな」
俺が呆れて言うと、彼女はスマホをしまい、クールな顔で俺を見つめた。
「当然です。私の可愛い部分は、夫であるあなただけに見せるものですから。他の人間に見せる価値はありません」
きっぱりと言い切る彼女の瞳には、強い独占欲の色が浮かんでいた。その真っ直ぐな視線に、俺の心臓がドクリと大きく脈打つ。
このギャップは、反則だ。分かっている。分かっているのに、俺の心は確実に彼女のペースに引きずり込まれていた。

その完璧なスイッチング能力が、最もスリリングな形で発揮されたのは、放課後の図書室だった。
いつものように数学の特訓を受けていると、俺は彼女が出した応用問題を、初めてノーヒントで解くことができた。
「……できた! どうだ!」
思わず興奮して、解き終わったノートを彼女に見せる。彼女はそれを検分すると、小さく頷いた。
「正解です。素晴らしい。あなたの学習能力には、いつも驚かされます」
淡々とした口調だが、その声には確かな賞賛が込められていた。俺はそれが嬉しくて、少し照れてしまう。
「よくできましたね、優斗さん」
彼女はそう言うと、ふっと右手を持ち上げた。その白い手が、ゆっくりと俺の頭に向かって伸びてくる。
まずい。これは、頭を撫でる流れだ。未来の俺が、さんざんやられてきたという、あの!
俺が固まっていると、彼女の手が俺の髪に触れる、まさにその寸前。
さっ、と近くの書架の陰から、図書委員の女子生徒が顔を出した。
「静かにしてくださいねー」
俺の心臓が、喉から飛び出しそうになった。終わった。見られた。氷の女王が、俺の頭を撫でようとしていた現場を。
しかし、俺の心配は杞憂に終わる。
雪城さんは、俺の頭に向かっていた手を、まるで最初からそうするつもりだったかのように、滑らかな動きで軌道を変えた。そして、その手で自分の銀色の髪を、すっと耳にかけるという、信じられないほど自然でクールな仕草に転換させたのだ。
あまりに完璧なムーブ。女子生徒は何も気づかずに、「失礼しました」と会釈して去っていく。
俺はしばらく、息をすることも忘れていた。
「……心臓に悪いから、やめてくれ」
かろうじて絞り出した声は、震えていた。
すると、彼女は何事もなかったかのように、教科書に視線を落としたまま答えた。
「すみません。未来では、あなたが問題を解くたびにこうして褒めていましたから。つい、昔の癖が」
悪びれる様子は、一切ない。
この女、やはり只者ではなかった。クールとデレの使い分けが、もはや神業の域に達している。そして、そのデレの部分を知っているのは、世界で俺だけ。
その事実は、言いようのない優越感と、背徳的な喜びを俺に与えていた。
マズい。本当にマズい。
俺は、この未来から来た完璧な美少女に、確実に、そして急速に、絆され始めている。
その抗いがたい事実に気づいてしまった俺は、もはや彼女から逃れる術を持っていなかった。
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