隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第11話 体育の女神、あるいは過保護すぎる未来の嫁

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週に二度の体育の授業は、俺にとって憂鬱な時間の一つだった。
運動神経が平凡な俺は、活躍もできなければ、足を引っ張って目立つこともない。ただ、その他大勢に紛れて、汗を流して疲れるだけの時間。それが今までの体育だった。
しかし、雪城冬花という隣人が現れてから、その構図は大きく変わった。
今日の種目は、男女混合のバレーボール。チーム分けの時点で、俺と雪城さんは運命のいたずらか、同じチームになった。当然、教室と同じように、クラス中の視線が俺たちに集中する。
「おいおい、相沢と雪城さんが同じチームかよ」
「氷の女王様って、運動できんのかね?」
「あのルックスで運動音痴だったら、それはそれで萌える」
男子たちの好き勝手な声が聞こえてくる。俺は準備体操をしながら、深いため息をついた。頼むから、何も起こらずに平穏に終わってくれ。

だが、そんな俺のささやかな願いは、試合開始のホイッスルと共に無惨に打ち砕かれた。
最初のサーブは、雪城さんだった。
彼女はボールを軽く手に持つと、静かにコートの端に立った。その立ち姿は、まるでこれから芸術作品でも創り出すかのように、気高く美しい。
ふわり、と軽くボールをトスする。そして、しなやかな腕の振りから放たれたボールは、鋭い軌道を描いて相手コートへと飛んでいった。
「うおっ!?」
相手チームの男子が反応するも、ボールは彼の腕を弾き、コートの隅に突き刺さった。完璧なサービスエース。
体育館が、一瞬シンと静まり返る。そして、次の瞬間、爆発的な歓声が上がった。
「すげええええええ!」
「なんだ今のサーブ!?」
陽平が「マジかよ……」と呆然と呟いている。
その後も、雪城さんの独壇場は続いた。
相手の強烈なスパイクを、涼しい顔でいとも容易くレシーブする。そのボールは、まるで計算され尽くしたかのように、セッターの位置へと正確に返っていく。
そして、味方が上げたトスに合わせ、高く、美しく跳躍する。空中で描かれる完璧なフォームから繰り出されるスパイクは、相手コートに次々と突き刺さった。
もはや、高校の体育の授業レベルを遥かに超越している。まるで、実業団の選手が混じっているかのようだ。
知的でクールなだけじゃない。スポーツまで万能。まさに完璧超人。
『氷の女王』は、いつしかクラス内で『体育の女神』へと称号を変えていた。

ただ、俺だけは気づいていた。
彼女の超絶プレーには、ある一つの特徴があった。それは、常に俺の位置を把握し、俺を守るように動いていることだ。
俺の方へボールが飛んでくると、彼女は俺が手を出すよりも早く、弾丸のような速さで回り込んで完璧に処理してしまう。
「優斗さんは、無理をする必要はありません。私が全て拾いますから」
すれ違い様、彼女は俺にだけ聞こえる声で囁いた。その過保護っぷりに、俺は嬉しいやら情けないやら、複雑な気持ちになる。
おかげで、俺はコートの中でほとんどボールに触れることなく、ただ右往左往するだけの地蔵と化していた。これもまた、別の意味で目立ってしまっている気がする。

試合は白熱し、最終セットまでもつれ込んだ。
デュースが続く緊迫した場面。相手チームのエース格の男子が、渾身の力を込めてスパイクを打ってきた。
ボールは、俺が守るエリアへと一直線に飛んでくる。
まずい。雪城さんは、逆サイドにいる。間に合わない。
俺はとっさに身体を投げ出した。ここで点を取られたら負ける。その一心だった。
床に滑り込みながら、必死に腕を伸ばす。
ドンッ、という鈍い衝撃が腕を襲った。ボールはなんとか、かろうじて俺の腕に当たり、高く舞い上がる。
「ナイスレシーブ!」
「繋げ!」
味方の声が飛ぶ。ボールは味方によって相手コートに返され、ラリーが続いた。
俺は床に手をついて、ゆっくりと立ち上がる。
「いった……」
ボールを受けた左手首が、ジンジンと痺れていた。無理な体勢で受けたせいで、少し捻ってしまったらしい。まあ、大したことはない。ただの突き指みたいなものだろう。俺は手首を軽く振りながら、プレーに戻ろうとした。

その瞬間だった。

「優斗さんっ!」

体育館中に響き渡ったのは、今まで聞いたこともないような、切羽詰まった悲鳴だった。
声の主は、雪城冬花。
クラス中の全ての視線が、彼女に釘付けになる。誰もが目を疑った。あの常に冷静沈着で、感情を表に出すことのなかった氷の女王が、今にも泣き出しそうな、絶望に満ちた顔で叫んでいる。
ラリー? 試合? そんなものは、彼女の頭からは完全に消え去っていた。
彼女はプレーを完全に放棄し、信じられないほどのスピードで俺のもとへと駆け寄ってきた。その姿は、まるで大切なものを壊された子供のようだった。

「大丈夫ですか!? どこを怪我したのですか!? 骨は折れていませんか!?」
俺の前に滑り込むようにしてたどり着いた彼女は、パニック状態で俺の体をペタペタと触りながらまくし立てる。その碧色の瞳は大きく見開かれ、潤んでいた。血の気が引いた顔は、真っ青だ。
「だ、大丈夫だって! ちょっと手首を捻っただけだから!」
「ダメです! ただの捻挫が、未来では致命傷になる可能性だってあるんです!」
「どんな未来だよ!」
「すぐに保健室へ! いえ、救急車を呼びますか!? それとも、私があなたを抱えて病院まで走った方が早いですか!?」
彼女の豹変ぶりに、俺だけでなく、体育教師もクラスメイトも、全員が呆然と立ち尽くしている。
陽平が「おい、雪城さんどうかしちまったぞ……」と呟いているのが聞こえた。どうかしちまったのは、今に始まったことじゃない。
「落ち着け! 雪城さん! 俺は大丈夫だから!」
俺が必死に彼女をなだめようとしても、パニックに陥った彼女には全く届かない。
「いいえ、大丈夫ではありません! あなたの体に傷がつくことは、未来の私が絶対に許しません! 未来のあなたの健康は、私が死守しなければならないんです!」
彼女はそう叫ぶと、俺の左腕を掴み、半ば強引に立たせた。その力は、やはり見た目に反してとんでもなく強い。
「さあ、行きますよ! 治療です!」
「ちょ、待て、試合中だって!」
「試合とあなたの体、比べるまでもないでしょう!」
有無を言わさぬ彼女の剣幕に、俺はなすすべもなかった。
体育教師が「あ、あのー、雪城くん? 相沢くん?」と困惑した声をかけてくるが、彼女は完全に無視。
俺は、クラス全員が見守る中、世界が終わるかのような顔をした美少女に腕を引かれ、まるで罪人のように体育館から連行されていった。

引きずられながら、俺は天を仰いだ。
彼女の過保護っぷりは、俺の想像を遥かに、遥かに超えていた。
未来の俺は、どれだけ彼女に心配をかけて生きていたのだろうか。
少し手首を捻っただけで、この大騒ぎ。もし俺が風邪でもひいた日には、この国は滅んでしまうのかもしれない。
俺は、これから待ち受けるであろう、保健室での更なる尋問と過剰な治療を想像し、心の底から深いため息をつくしかなかった。
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