隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

文字の大きさ
13 / 97

第13話 週末の約束、あるいは完璧なデートプラン

しおりを挟む
保健室での一件以来、雪城さんの過保護っぷりはさらにエスカレートした。
階段を上り下りする時は、必ず俺の数段うしろを歩き、俺が足を踏み外さないか監視している。廊下を歩けば、曲がり角では俺より先に顔を出して、出会い頭の衝突事故を防ごうとする。昼休みに弁当を食べる時は、俺の箸の持ち方から咀嚼回数までチェックしてくる始末だ。
もはや、未来の嫁というより、敏腕のシークレットサービスか、あるいは口うるさい母親だ。
「雪城さん、さすがにやりすぎだ。俺はもう子供じゃないんだぞ」
俺が抗議しても、彼女は涼しい顔で答えるだけだった。
「あなたの安全と健康を守ることは、私の最優先事項です。未来のあなたからの厳命でもあります」
そう言われると、俺は何も言い返せない。未来の俺は、一体どれだけ彼女に心配をかけていたのだろうか。

そんな監視生活が数日続いた、金曜日の放課後。
いつものように図書室で数学の特訓を終え、二人で帰り道を歩いていた時のことだった。
「優斗さん」
彼女が、不意に俺の名前を呼んだ。その声は、いつもよりも少しだけ、緊張をはらんでいるように聞こえた。
「なんだ?」
「今週末、日曜日のご予定は?」
「週末? 別に何もないけど。家でゴロゴロしてるだけだな」
俺がそう答えると、彼女はぴたりと足を止めた。そして、俺の方に向き直る。
「それなら、私と出かけましょう」
「……え?」
予期せぬ誘いに、俺は戸惑った。今まで、学校生活という枠組みの中で強引に俺の日常に介入してきた彼女が、初めてプライベートな領域に踏み込んできた。
「どこへ行くんだ?」
「デートです」
きっぱりとした、一切の迷いもない返答。
俺は思わず、持っていた鞄を取り落としそうになった。
「デ、デート!?」
「はい。未来では、私たちは週末になるたびに、様々な場所へデートに出かけていました。そろそろ、こちらの時代でも、その習慣を復活させるべきだと判断しました」
彼女の口から語られる『デート』という単語には、甘い響きも、照れも、一切含まれていない。まるで、会議で新しいプロジェクトを提案するかのような、事務的な響きしかなかった。
「いや、待て待て。俺はまだ、お前とそんな関係じゃ……」
「これは、未来の関係性を盤石にするための、重要なプロセスです。拒否は認められません」
「またそれかよ!」
「それに、あなたも気分転換が必要でしょう。最近、私のせいで気苦労が絶えないようですから」
珍しく俺を気遣うようなことを言う。だが、その気苦労の原因が誰なのか、彼女は分かっているのだろうか。
俺が返答に窮していると、彼女は畳み掛けるように続けた。
「心配は無用です。未来で私たちが何度も繰り返し訪れ、その度にあなたが『最高の休日だった』と絶賛していた、完璧なデートプランがありますから」
自信満々に胸を張る彼女。表情は変わらないが、その瞳には「任せておけば間違いない」という絶対的な自信が満ち溢れていた。
未来の俺が絶賛した、完璧なデートプラン。
その言葉に、俺は少しだけ、ほんの少しだけ、興味を惹かれてしまった。
この完璧超人が計画するデートとは、一体どんなものなのだろうか。分刻みのスケジュールが組まれ、移動ルートは最適化され、訪れる店の評判は事前に全てリサーチ済み。そんな、軍事作戦のようなデートが目に浮かぶ。
「……まあ、別に断る理由もない、か」
どうせ、断ったところで、家の前まで押しかけてきて無理やり連れ出されるのがオチだ。それならば、最初から受け入れた方が、精神衛生上よろしい。
俺が承諾すると、彼女は満足げに頷いた。
「決定ですね。では、詳細を連絡します」
そう言うと、彼女はスマホを取り出し、高速で何かを打ち込み始めた。すぐに、俺のスマホがピコンと鳴る。

『【重要】週末デートに関する行動計画書』
という件名のメッセージだった。
俺は恐る恐る、そのメッセージを開いた。

『日時:日曜日 午前10時00分
集合場所:駅前時計台
行動計画:
10:00~10:15 集合、ブリーフィング
10:30~12:45 映画鑑賞(未来のあなたの評価が最も高かった作品を上映中)
13:00~14:00 昼食(未来のあなたが絶賛した、パスタの名店を予約済)
14:15~16:30 ショッピング(未来のあなたが、私に初めてプレゼントを買ってくれた商業施設)
16:45~17:15 カフェで休憩(未来のあなたが気に入っていた、眺めの良いカフェ)
17:30 解散予定
追伸:服装は、未来のあなたが『一番好きだ』と言っていた、青いチェックのシャツでお願いします』

「……」
俺は絶句した。
これは、デートプランではない。完璧な作戦行動計画書だ。分刻みでスケジュールが組まれ、予約まで完了している。しかも、俺の服装まで指定済みだ。
未来の俺の個人情報が、ダダ漏れどころの騒ぎではない。プライバシーの欠片もなかった。
「どうですか。完璧でしょう?」
目の前の『未来の嫁』は、涼しい顔で問いかけてくる。
「完璧すぎて、逆に怖い……」
俺は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
彼女の計画には、寸分の隙もない。俺が何かを考える余地も、意見を挟む隙間も、どこにも存在しなかった。
俺にできることはただ一つ。日曜日の朝、指定された服を着て、指定された時間に、指定された場所へ行くことだけだ。

「楽しみにしていますね、優斗さん。二人きりの、初めてのデート」
彼女はそう言うと、初めて会った日の放課後のように、ふっと柔らかく微笑んだ。
その破壊力抜群の笑顔に、俺の心臓が大きく跳ねる。
まずい。分かっている。これは彼女の計画の一部だ。この笑顔も、きっと未来のデータを基に算出された、最も効果的な表情なのだろう。
そう頭では理解しているのに、俺は顔が熱くなるのを止められなかった。
週末に待っているのが、軍事作戦のようなデートだとしても。
この完璧で、少しズレていて、そしてとてつもなく可愛い未来の嫁(自称)と過ごす初めての休日に、俺は柄にもなく、胸を高鳴らせていた。
その気持ちに気づかないふりをしながら、俺はただ「ああ」と短く答えるのが精一杯だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

処理中です...