隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第18話 幸せな余韻と、寂しげな微笑み

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最高のデート、という言葉は、陳腐で手垢にまみれていると思っていた。
だが、今の俺たちの状況を表現するのに、これ以上ふさわしい言葉が見つからない。
ネックレスをプレゼントした後、俺たちは行動計画書の最終項目であるカフェへと向かった。窓から街を一望できる、お洒落なカフェ。もちろん、席は予約済みだった。
夕暮れ時のオレンジ色の光が差し込む店内で、俺たちは並んで席に着いた。
目の前には、運ばれてきたケーキと紅茶。俺が頼んだのは濃厚なチーズケーキで、彼女は見た目も美しい苺のショートケーキ。言うまでもなく、これも未来の俺たちの定番だったらしい。

俺は、今までとは全く違う気持ちで、隣に座る彼女を見ていた。
紅茶のカップを両手で包み込むように持つ、その白い指先。窓の外の景色に目を細める、長い睫毛。時折、無意識に胸元のネックレスにそっと触れては、はにかむように微笑む仕草。
その一つ一つが、俺の目にはキラキラと輝いて見えた。
これが、恋に落ちるということか。
世界は何も変わっていないはずなのに、俺の目に見える全てのものが、昨日までとはまるで違って見えた。
彼女が息をするたび、俺の心臓が共鳴するように音を立てる。ただ隣にいるだけで、胸がいっぱいで、苦しくて、そしてどうしようもなく幸せだった。

「優斗さん、どうかしましたか? ケーキ、お口に合いませんでしたか?」
俺がじっと見つめているのに気づいたのか、彼女が不思議そうに小首を傾げた。
「いや、美味いよ。すごく美味い」
俺は慌ててチーズケーキを一口頬張る。濃厚なクリームチーズの風味と、ザクザクとしたクッキー生地の食感が絶妙だ。これもまた、完璧な美味さだった。
「そういえば、今日のデート、未来の俺はなんて評価してたんだ?」
俺が尋ねると、彼女は少し考えてから、誇らしげに答えた。
「『最高の初デートだった。これで、俺たちの未来は盤石だな』と。あなたはそう言って、私の頭を優しく撫でてくれました」
「……そっか」
未来の俺に、少しだけ嫉妬した。だが、それ以上に、彼女がそんなにも幸せそうな顔で未来を語るのが、嬉しかった。俺たちの未来は、本当に幸福なものだったのだろう。
彼女がわざわざ、この時代までやってくるくらいに。

その時、ふと疑問が湧いた。
今までは、彼女の言う『未来』を、どこか他人事のように聞いていた。突拍子もない与太話か、あるいは抗いがたい運命か。そのどちらかとして、思考停止していた。
だが、今は違う。
恋をしてしまったからこそ、俺は、彼女が背負っている『未来』に、真剣に向き合わなければならないと思った。
俺たちの未来は、本当にただ幸せなだけだったのか?
だとしたら、なぜ彼女はここにいる?
幸せな未来から、わざわざ過去にやってくる理由なんて、どこにもないはずだ。

カフェを出て、駅へと向かう帰り道。
夕日はほとんど沈みかけ、空は深い藍色と燃えるようなオレンジ色が混じり合った、美しいグラデーションを描いていた。
最高のデートの余韻が、俺と彼女の間に心地よく流れている。
手を繋ぎたい。衝動的にそう思ったが、まだそんな勇気はなかった。
俺は一度、大きく息を吸い込んだ。そして、覚悟を決めて口を開く。
「なあ、雪城さん」
俺のいつもと違う、真剣なトーンに、彼女は少し驚いたように足を止めてこちらを向いた。
「俺たちの未来って、本当に、そんなに良いものだったのか?」
それは、俺がずっと避けてきた質問だった。
彼女は、俺の問いの意図を探るように、じっと俺の目を見つめている。
俺は続けた。
「お前が、こんな時代まで来なきゃいけないくらい、何かあったんじゃないのか? 俺、何かやらかしたのか? 未来で」
今までの「未来の話はいい!」という拒絶とは違う。俺は、彼女の背負うものを、少しでも分かち合いたいと思ったのだ。

俺の真剣な問いに、彼女の表情から、ふっと光が消えた。
今まで浮かべていた幸せそうなオーラが、まるで幻だったかのように霧散していく。
彼女は何も答えず、ただ、夕暮れの街並みに視線を落とした。その横顔に、今まで見たことのないような、深い悲しみの影がよぎる。
その表情を見ただけで、俺の胸は締め付けられるように痛んだ。
ああ、やはり、何かあるんだ。
彼女は、ただ幸せな思い出を語るために、ここに来たわけじゃない。

やがて、彼女はゆっくりと顔を上げた。
そして、その悲しみを全て隠すかのように、ふわりと、寂しげに微笑んだ。
それは、今までで一番、儚くて、美しい笑顔だった。

「……いいえ。あなたは、最高の夫でした」
彼女の声は、静かで、けれどどこか震えている。
「私が、この世で一番愛した人です」
『愛した人』。
まるで、全てが過去形で終わってしまったかのような言い方に、俺はぞくりと悪寒を覚えた。
「今はまだ、お話しすることはできません」
彼女は、懇願するような瞳で俺を見つめた。
「でも、いつか必ず。全てをお話しします。だから……私を信じて、待っていてくれますか?」
その問いかけは、俺の心を強く揺さぶった。
彼女が、何かとてつもなく重いものを、たった一人で背負っている。その事実だけが、痛いほどに伝わってきた。
これ以上、踏み込んではいけない。直感がそう告げていた。今の俺にできるのは、彼女の言葉を信じることだけだ。
「……わかった。待ってる」
俺がそう答えると、彼女は心底ホッとしたように、小さく息を吐いた。そして、「ありがとうございます」と囁いた。

駅の改札で、俺たちは向き合った。
今日一日の出来事が、走馬灯のように頭を駆け巡る。天使のような私服姿、ホラー映画での密着、そして、ネックレスをプレゼントした時の、彼女の涙と笑顔。
「今日は、本当にありがとうございました。最高の、一日でした」
彼女は、胸元で輝く雪の結晶をそっと握りしめながら、心からの感謝を告げた。
「……俺もだ」
俺は、照れを隠すように短く答えた。
彼女は名残惜しそうに一度お辞儀をすると、改札の中へと消えていく。
その小さな背中を見送りながら、俺は固く決意していた。

彼女が何を隠していようと、関係ない。
俺は、今、目の前にいる雪城冬花が好きだ。
彼女のあの寂しそうな微笑みを、いつか心からの笑顔に変えてみせる。
そのためなら、未来がどうだろうと関係ない。俺が、彼女の未来を、最高の未来にしてみせる。
初めてのデートは、最高の幸福感と、そして、胸を締め付けるような一つの大きな謎を残して、終わりを告げた。
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