隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第23話 天使のフォローと悪魔のスパルタ

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翌日の放課後、球技大会の練習が始まった。
昨夜、俺は雪城さんからのメッセージの嵐を覚悟していた。しかし、意外にも彼女からの連絡は一切なかった。スタンプの一つすら、送られてこなかったのだ。
それが逆に、嵐の前の静けさのようで、とてつもない恐怖だった。彼女のサイレントな怒りは、どんな罵倒よりも俺の心を抉る。
今日の練習で、何とかして誤解を解かなければ。その一心で、俺は重い足取りで体育館へと向かった。

体育館には、既にクラスメイトたちが集まり、和気あいあいと準備運動を始めている。
俺たちのチーム、『チーム天宮』も、天宮さんを中心に輪になってストレッチをしていた。
「あ、相沢くん! こっちこっち!」
天宮さんが、太陽のような笑顔で俺に手招きをする。その笑顔に癒されると同時に、胃がキリリと痛んだ。
なぜなら、体育館の対角線上、最も遠い場所で、一人黙々と壁に向かってボールを投げつけている、銀髪の少女の姿が見えるからだ。
雪城さんだった。
彼女は、俺たちのチームとは別のチームになったらしい。その表情は、いつも通りの完璧な無表情。だが、彼女が壁に叩きつけるボールは、ゴウッ、と唸りを上げており、明らかに殺意が込められていた。壁が、少し凹んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
俺は、生きた心地がしなかった。

練習が始まると、俺はすぐに現実を突きつけられた。
俺の運動神経は、良くも悪くも平凡だ。ドッジボールも、人並みにはできる。だが、『チーム天宮』のメンバーは、男女ともに運動神経の良い人気者ばかり。その中で、俺は明らかに浮いていた。
「相沢くん、パス!」
天宮さんからの、優しく正確なパス。俺はそれをキャッチしようとして、無様にファンブルしてしまった。ボールは、俺の手を弾いて無情にも転がっていく。
「あ、ごめん!」
俺が謝ると、チームメイトの一人が「なんだよ、ちゃんと取れよー」と小さく舌打ちしたのが聞こえた。肩身が狭い。
「気にしないで、相沢くん! 次、頑張ろう!」
天-宮さんが、天使のような笑顔で俺をフォローしてくれる。その優しさが、逆に俺の心を締め付けた。
その後も、俺のミスは続いた。投げたボールは味方の頭上を越え、飛んできたボールからは思わず顔を背けてしまう。完全に、チームのお荷物だった。
そのたびに、天宮さんは「ドンマイ!」「大丈夫だよ!」と励ましてくれる。チームメイトからの冷たい視線から、俺を守るように。
だが、その優しさが、体育館の反対側にいる『未来の嫁』の怒りのボルテージを、さらに上昇させているのを、俺は痛いほど感じていた。
彼女が壁打ちするボールの速度と威力が、時間と共に増している。もはや、それはドッジボールではなく、砲弾のようだった。

練習の終盤、ついにチーム同士での練習試合が行われることになった。
そして、運命のいたずらか、俺たちの最初の対戦相手は、雪城さんのいるチームだった。
俺は、試合開始のホイッスルを聞きながら、本気で神に祈った。どうか、俺にボールが飛んできますように、と。そして、どうか、それをキャッチできますように、と。
試合が始まると、コートの支配者はやはり雪城冬花だった。
彼女は、まるで未来予知でもしているかのように、相手のパスコースを完璧に読み切り、次々とボールをカットしていく。そして、彼女が投げるボールは、寸分の狂いもなく相手チームの選手を捉え、一人、また一人とアウトにしていく。
その姿は、もはや女神ではなく、戦場のヴァルキリーのようだった。
しかし、彼女の攻撃は、なぜか俺だけを避けていた。俺がボールを持っても、彼女はこちらに投げようとしない。まるで、俺の存在など、最初から認識していないかのように。
その完全な無視が、どんな攻撃よりも俺の心を抉った。

試合も終盤に差し掛かった頃、ついに俺に見せ場(という名の処刑台)がやってきた。
敵チームの男子が投げた渾身のボールが、俺を目掛けて飛んできたのだ。
周りには味方はいない。俺が取るしかない。
俺は意を決して、ボールを迎え撃った。だが、緊張で硬くなった俺の体は、ボールの勢いを殺しきれず、無様にも胸で弾いてしまう。
ボールは、高く宙を舞い、そして、ふらふらと雪城さんの足元へと転がっていった。
「しまった……!」
俺が顔を青くした瞬間、彼女はゆっくりとボールを拾い上げた。
そして、初めて、試合が始まってから初めて、彼女の氷のような瞳が、俺を真っ直ぐに捉えた。
時間が、止まった。
体育館の誰もが、息を呑む。
彼女は、何を言うでもなく、ただ静かに、俺を見つめている。その瞳には、怒りも、悲しみも、何の感情も浮かんでいない。ただ、底なしの虚無だけが広がっていた。
やがて、彼女はボールを構えた。その完璧なフォームから、ボールが放たれる。
それは、今までのような剛速球ではなかった。
山なりの、誰でも簡単に取れるような、優しいボール。
まるで、「あなたの実力では、この程度でしょう」と、言われているような。
そのボールは、ふわりと俺の胸元へと吸い込まれていった。俺は、それを呆然とキャッチすることしかできなかった。
それは、優しさの形をした、最大限の侮辱だった。
俺の心は、ポッキリと、音を立てて折れた。

試合は、結局俺たちのチームが負けた。
練習が終わり、後片付けをしている間も、俺は誰とも口を利けなかった。
天宮さんが「元気出して、相沢くん! まだ始まったばかりだよ!」と慰めてくれるが、その声も遠くに聞こえる。
俺はただ、体育館の隅で、一人黙々とボールを磨いている雪城さんの背中を、見つめることしかできなかった。
天使の優しさと、悪魔のスパルタ。
その両方を一度に浴びせられた俺の心は、完全にキャパオーバーを起こしていた。
この地獄のような練習は、まだ始まったばかりなのだ。
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