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第28話 勝利の余韻と、絡められた指先
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奇跡の逆転勝利から数分。俺はまだ、夢見心地のままだった。
チームメイトたちからの賞賛の嵐は止まず、特に今まで俺を侮りがちだった男子生徒たちが、「やるじゃん、相沢!」と肩を叩いてくる。手のひらの返し方が、あまりにも見事だ。
「いやー、マジで凄かったぜ、優斗! 最後のアレ、狙ってやったのか?」
興奮冷めやらぬ陽平が、俺の背中をバンバン叩く。
「狙うわけないだろ……ただの偶然だよ」
「それを奇跡って言うんだぜ! お前、今日だけはヒーローだな!」
ヒーロー、か。柄にもない称号に、俺は苦笑するしかなかった。
「相沢くん!」
その時、天宮さんが俺の前に駆け寄ってきた。その大きな瞳は、勝利の喜びでキラキラと輝いている。
「本当に、すごかった! 最後、諦めないでくれてありがとう!」
そう言って、彼女は満面の笑みで、ぱちん、と俺の手にハイタッチをしてきた。
柔らかくて、少しだけ汗ばんだ彼女の手のひらの感触に、俺の心臓が一瞬だけ跳ねる。
「いや、俺だけの力じゃないよ。天宮さんの声援のおかげだ」
俺がそう言うと、彼女は「えへへ」と照れくさそうに笑った。その仕草に、周囲の男子たちが「可愛い…」と骨抜きになっている。恐るべし、クラスのアイドルの破壊力。
俺たちのチームは、その後も快進撃を続けた。
初戦の奇跡的な勝利で勢いに乗った俺たちは、まるで別人のように連携が噛み合い始めたのだ。俺も、一度成功体験を積んだことで自信がつき、以前のようなミスはなくなった。
そして何より、俺の目には、コートサイドから送られる、雪城さんの静かな視線が常に映っていた。
彼女が見ていてくれる。その事実が、俺のパフォーマンスを何倍にも引き上げていた。
俺は、彼女のためにプレーしていた。
天宮さんの明るい声援がチーム全体を鼓舞し、陽平がムードメーカーとして場を盛り上げる。そして、俺が、ここぞという場面で不思議な集中力を発揮する。
そんな奇妙な化学反応が功を奏し、俺たちはあれよあれよという間に勝ち進み、ついに決勝戦へと駒を進めた。
決勝戦の相手は、やはり、雪城さんのチームだった。
体育館のボルテージは、この日最高潮に達している。
『太陽の女神・天宮夏帆が率いる奇跡のチーム』対『氷の絶対支配者・雪城冬花が君臨する最強チーム』。
そんな、まるでラノベのタイトルのような構図が、自然と出来上がっていた。
そして、その二人の女神が、なぜか俺という平凡な男を巡って、火花を散らしているように見える、と。そんな噂まで流れ始めていた。
「いよいよ決勝だね、相沢くん。相手は雪城さんのチームか……手強いね」
天宮さんが、少しだけ真剣な表情で俺に話しかけてくる。
「ああ。でも、勝つのは俺たちだ」
俺は、力強く言い切った。
コートの反対側では、雪城さんが静かにこちらを見つめている。その瞳には、今までのような冷たさはない。ただ、純粋な好敵手として、俺たちの挑戦を待ち受けているようだった。
『手加減はしませんよ』
彼女の視線が、そう語りかけてくる。
『望むところだ』
俺も、視線でそう返した。
決勝戦は、予想通り、一進一退の激しい攻防となった。
雪城さんの精密機械のようなコントロールと、天宮さんの太陽のようなカリスマ性。二人の女神が、それぞれのチームを牽引し、試合は拮抗したまま終盤へともつれ込む。
俺も、今出せる全ての力を振り絞って戦った。
だが、最後は、やはり地力で勝る雪城さんチームにじりじりと追い詰められていく。
そして、試合終了間際。俺たちのチームの内野は、俺と天宮さんの二人だけになってしまった。
雪城さんが、静かにボールを構える。その視線は、天宮さんを捉えていた。
投げられたボールは、鋭く、そして正確に天宮さんの足元を襲う。
「きゃっ!」
天宮さんは懸命に避けるが、ボールは彼女の靴の先を掠めた。
非情なアウトの宣告。
これで、内野に残ったのは、俺一人。相手は、雪城さんを含めてまだ三人も残っている。
状況は、絶望的だった。
だが、俺は諦めていなかった。
ボールを手にした雪城さんが、俺と真っ直ぐに向き合う。
体育館の全ての視線が、俺たち二人に注がれていた。
これが、最後の一球。
彼女は、静かに、そして力強く、ボールを投げた。
それは、今までで一番速く、一番重いボールだった。手加減など一切ない、彼女の全力の一投。
俺は、そのボールから目を逸らさなかった。
真正面から、受け止めてやる。
そう覚悟を決めた、その瞬間。
―――ピーッ!
試合終了を告げる、長いホイッスルが体育館に鳴り響いた。
時間切れ。
ルールにより、内野に残った人数の多い、雪城さんチームの勝利が決定した。
俺は、その場に崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えた。
負けた。
あと一歩、及ばなかった。
整列し、礼をする。
健闘を称え合い、両チームの選手が握手を交わしていく。
俺の目の前に、雪城さんが立った。
その顔には、勝利の喜びも、俺を打ち負かしたという優越感もなかった。ただ、静かで、穏やかな表情があるだけだ。
「……ナイスゲームでした」
彼女が、小さな声で言った。
「……ああ。完敗だよ」
俺は、悔しさを滲ませながら、彼女に右手を差し出した。
彼女も、すっと右手を差し出す。
握手のために。
だが、彼女の手は、俺の手のひらを掴むことはなかった。
その代わりに。
彼女の白く、繊細な指が、俺の指の間に、するりと、滑り込んできた。
そして、ぎゅっと、優しく、しかし力強く、握りしめる。
それは、握手ではなかった。
恋人同士がするような、指と指を絡め合う、繋ぎ方。
俺の心臓が、大きく、ドクンと音を立てた。
顔が、一気に熱くなる。
俺が驚いて彼女の顔を見ると、彼女は、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、意地悪そうに微笑んでいた。
その瞳は、こう語っていた。
『勝ったのは、私ですよ』と。
それは、試合の勝利宣言であると同時に、もっと別の、もっと深い意味での、勝利宣言のようだった。
俺は、何も言い返すことができなかった。ただ、絡められた指先の熱を感じながら、呆然と立ち尽くすだけ。
天宮さんが、少しだけ寂しそうな顔で、その光景を見ていたことにも、俺は気づかないふりをした。
勝利のハイタッチ。
天宮さんとは、普通に。
雪城冬花とは、まるで世界の中心に二人だけしかいないかのように、熱く、甘く、指を絡めるように。
球技大会は、俺たちの間に、新しい関係性の熱を残して、幕を閉じたのだった。
チームメイトたちからの賞賛の嵐は止まず、特に今まで俺を侮りがちだった男子生徒たちが、「やるじゃん、相沢!」と肩を叩いてくる。手のひらの返し方が、あまりにも見事だ。
「いやー、マジで凄かったぜ、優斗! 最後のアレ、狙ってやったのか?」
興奮冷めやらぬ陽平が、俺の背中をバンバン叩く。
「狙うわけないだろ……ただの偶然だよ」
「それを奇跡って言うんだぜ! お前、今日だけはヒーローだな!」
ヒーロー、か。柄にもない称号に、俺は苦笑するしかなかった。
「相沢くん!」
その時、天宮さんが俺の前に駆け寄ってきた。その大きな瞳は、勝利の喜びでキラキラと輝いている。
「本当に、すごかった! 最後、諦めないでくれてありがとう!」
そう言って、彼女は満面の笑みで、ぱちん、と俺の手にハイタッチをしてきた。
柔らかくて、少しだけ汗ばんだ彼女の手のひらの感触に、俺の心臓が一瞬だけ跳ねる。
「いや、俺だけの力じゃないよ。天宮さんの声援のおかげだ」
俺がそう言うと、彼女は「えへへ」と照れくさそうに笑った。その仕草に、周囲の男子たちが「可愛い…」と骨抜きになっている。恐るべし、クラスのアイドルの破壊力。
俺たちのチームは、その後も快進撃を続けた。
初戦の奇跡的な勝利で勢いに乗った俺たちは、まるで別人のように連携が噛み合い始めたのだ。俺も、一度成功体験を積んだことで自信がつき、以前のようなミスはなくなった。
そして何より、俺の目には、コートサイドから送られる、雪城さんの静かな視線が常に映っていた。
彼女が見ていてくれる。その事実が、俺のパフォーマンスを何倍にも引き上げていた。
俺は、彼女のためにプレーしていた。
天宮さんの明るい声援がチーム全体を鼓舞し、陽平がムードメーカーとして場を盛り上げる。そして、俺が、ここぞという場面で不思議な集中力を発揮する。
そんな奇妙な化学反応が功を奏し、俺たちはあれよあれよという間に勝ち進み、ついに決勝戦へと駒を進めた。
決勝戦の相手は、やはり、雪城さんのチームだった。
体育館のボルテージは、この日最高潮に達している。
『太陽の女神・天宮夏帆が率いる奇跡のチーム』対『氷の絶対支配者・雪城冬花が君臨する最強チーム』。
そんな、まるでラノベのタイトルのような構図が、自然と出来上がっていた。
そして、その二人の女神が、なぜか俺という平凡な男を巡って、火花を散らしているように見える、と。そんな噂まで流れ始めていた。
「いよいよ決勝だね、相沢くん。相手は雪城さんのチームか……手強いね」
天宮さんが、少しだけ真剣な表情で俺に話しかけてくる。
「ああ。でも、勝つのは俺たちだ」
俺は、力強く言い切った。
コートの反対側では、雪城さんが静かにこちらを見つめている。その瞳には、今までのような冷たさはない。ただ、純粋な好敵手として、俺たちの挑戦を待ち受けているようだった。
『手加減はしませんよ』
彼女の視線が、そう語りかけてくる。
『望むところだ』
俺も、視線でそう返した。
決勝戦は、予想通り、一進一退の激しい攻防となった。
雪城さんの精密機械のようなコントロールと、天宮さんの太陽のようなカリスマ性。二人の女神が、それぞれのチームを牽引し、試合は拮抗したまま終盤へともつれ込む。
俺も、今出せる全ての力を振り絞って戦った。
だが、最後は、やはり地力で勝る雪城さんチームにじりじりと追い詰められていく。
そして、試合終了間際。俺たちのチームの内野は、俺と天宮さんの二人だけになってしまった。
雪城さんが、静かにボールを構える。その視線は、天宮さんを捉えていた。
投げられたボールは、鋭く、そして正確に天宮さんの足元を襲う。
「きゃっ!」
天宮さんは懸命に避けるが、ボールは彼女の靴の先を掠めた。
非情なアウトの宣告。
これで、内野に残ったのは、俺一人。相手は、雪城さんを含めてまだ三人も残っている。
状況は、絶望的だった。
だが、俺は諦めていなかった。
ボールを手にした雪城さんが、俺と真っ直ぐに向き合う。
体育館の全ての視線が、俺たち二人に注がれていた。
これが、最後の一球。
彼女は、静かに、そして力強く、ボールを投げた。
それは、今までで一番速く、一番重いボールだった。手加減など一切ない、彼女の全力の一投。
俺は、そのボールから目を逸らさなかった。
真正面から、受け止めてやる。
そう覚悟を決めた、その瞬間。
―――ピーッ!
試合終了を告げる、長いホイッスルが体育館に鳴り響いた。
時間切れ。
ルールにより、内野に残った人数の多い、雪城さんチームの勝利が決定した。
俺は、その場に崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えた。
負けた。
あと一歩、及ばなかった。
整列し、礼をする。
健闘を称え合い、両チームの選手が握手を交わしていく。
俺の目の前に、雪城さんが立った。
その顔には、勝利の喜びも、俺を打ち負かしたという優越感もなかった。ただ、静かで、穏やかな表情があるだけだ。
「……ナイスゲームでした」
彼女が、小さな声で言った。
「……ああ。完敗だよ」
俺は、悔しさを滲ませながら、彼女に右手を差し出した。
彼女も、すっと右手を差し出す。
握手のために。
だが、彼女の手は、俺の手のひらを掴むことはなかった。
その代わりに。
彼女の白く、繊細な指が、俺の指の間に、するりと、滑り込んできた。
そして、ぎゅっと、優しく、しかし力強く、握りしめる。
それは、握手ではなかった。
恋人同士がするような、指と指を絡め合う、繋ぎ方。
俺の心臓が、大きく、ドクンと音を立てた。
顔が、一気に熱くなる。
俺が驚いて彼女の顔を見ると、彼女は、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、意地悪そうに微笑んでいた。
その瞳は、こう語っていた。
『勝ったのは、私ですよ』と。
それは、試合の勝利宣言であると同時に、もっと別の、もっと深い意味での、勝利宣言のようだった。
俺は、何も言い返すことができなかった。ただ、絡められた指先の熱を感じながら、呆然と立ち尽くすだけ。
天宮さんが、少しだけ寂しそうな顔で、その光景を見ていたことにも、俺は気づかないふりをした。
勝利のハイタッチ。
天宮さんとは、普通に。
雪城冬花とは、まるで世界の中心に二人だけしかいないかのように、熱く、甘く、指を絡めるように。
球技大会は、俺たちの間に、新しい関係性の熱を残して、幕を閉じたのだった。
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