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第64話 片付けの終わり、あるいは私のための感謝
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屋上での、あの夢のような時間から現実へと引き戻された俺たちは、後片付けが続く教室へと、少しだけ気まずい、しかし温かい空気を纏って戻ってきた。
俺たちが二人で教室に入ってきた瞬間、後片付けをしていたクラスメイトたちの動きが、一瞬だけぴたりと止まった。
そして、次の瞬間、陽平がニヤニヤと全てを悟った顔で、俺たちに近づいてきた。
「よお、おかえり。ずいぶんと長いトイレだったじゃねえか」
その、からかいの言葉に、俺の隣で雪城さんの肩がびくりと震えた。
「う、うるさい! ちゃんと仕事してたんだよ!」
俺が顔を真っ赤にして言い返すと、クラス中から「ひゅーひゅー!」という生暖かい歓声が上がる。
「まあ、お前らの顔見りゃ分かるっての。色々、ご苦労さん」
陽平はそう言って、俺の背中をバンと力強く叩いた。その笑顔は、どこまでも優しかった。
俺たちがいない間もクラスメイトたちは、テキパキと後片付けを進めてくれていたらしい。
黒いビニールシートが剥がされ、ダンボールの壁が解体されていく。
三日三晩かけて創り上げた俺たちの夢の城が、少しずつ元の、ただの教室へと戻っていく。
その光景は少しだけ寂しかったけれど。
でも、俺たちの心の中にはこの文化祭で得た、かけがえのない思い出と確かな絆がしっかりと残っていた。
俺も雪城さんも、すぐに後片付けの輪に加わった。
俺は男子たちと一緒に、力仕事を担当する。解体したダンボールを、校舎裏のゴミ捨て場まで何度も往復して運んだ。
雪城さんは女子たちと一緒に、散らかった小道具を整理したり床を掃除したりしている。その手際の良さは相変わらず完璧だった。
俺たちは言葉を交わすことはなかった。
でも、時折遠くから視線が合う。
そのたびに、お互い少しだけはにかんで、すぐに自分の作業に戻る。
そのささやかな、秘密のやり取り。
それが今の俺たちにとっては、何よりも心地よかった。
全ての片付けが終わり、教室が完全に元の姿を取り戻した頃には、窓の外はすっかり夜の闇に包まれていた。
「よーし、みんな、お疲れ様! これで、俺たちの文化祭は全部おしまいだ!」
陽平が感慨深げにそう叫んだ。
その声に、クラス中から拍手と歓声が自然と湧き上がる。
やりきった、という達成感。そして、終わってしまったという一抹の寂しさ。
その二つの感情が入り混じった、温かい空気が教室を満たしていた。
「最後に!」
その時、教壇の前にすっと雪城さんが立った。
クラス中の視線が、俺たちの完璧な委員長に集まる。
彼女はクラスの生徒一人一人をゆっくりと見回した。
その瞳には、いつものような氷の冷たさはない。
ただ、深い、深い感謝と慈しみの色が浮かんでいた。
「皆さん、三日間、本当にお疲れ様でした」
彼女は深く、深く頭を下げた。
その、あまりにも丁寧で真摯な姿に、クラスメイトたちは少しだけ戸惑っているようだった。
「私が立てた無茶な計画に、文句一つ言わずついてきてくれて、本当にありがとうございました」
彼女は顔を上げて、続ける。
「最初はただ、未来のデータをなぞるだけのつもりでした。でも、皆さんと一緒にトラブルを乗り越え、笑い合い、一つのものを創り上げていく中で、私は学びました」
彼女の言葉は静かだったけれど、その一言一言に確かな重みがあった。
「計画通りに進めることよりも、ずっと大切なことがある、と。みんなで力を合わせることの素晴らしさを」
彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、その視線を真っ直ぐに俺の上に注いだ。
「特に、副委員長として最後まで私を支え続けてくれた、相沢優斗さん」
俺の名前が呼ばれ、俺の心臓が大きく跳ねた。
クラス中の視線が、一斉に俺に集まる。
彼女はそんな視線など気にも留めず、ただ俺だけを見つめて言った。
「あなたがいなければ、この文化祭は決して成功しませんでした」
「私の足りないところを、いつも補ってくれた。私が間違えそうになった時、正しい道へと導いてくれた。私が諦めそうになった時、勇気を与えてくれた」
それは、あまりにも過分な賞賛の言葉だった。
俺はそんな大したこと、何もしていない。
ただ、彼女の隣にいただけだ。
「私のために、本当に、ありがとうございました」
彼女はそう言うと、再び俺に向かって深く、深く頭を下げた。
その姿に、俺はもう何も言えなかった。
胸が熱い。
込み上げてくる、このどうしようもない感情を、どう表現すればいいのか分からなかった。
教室がシンと静まり返っている。
誰もが固唾をのんで、俺たちのことを見守っていた。
やがて、その静寂を破ったのは陽平の大きな、大きな拍手だった。
それに続くように、クラス中から嵐のような拍手が巻き起こった。
それは俺たちの完璧な委員長と、その頼りない副委員長へのクラス全員からの、最大級の賛辞と祝福だった。
俺はその拍手の音を聞きながら、ただ頭を下げたままの彼女の小さな銀色のつむじを見つめていた。
俺のために、じゃない。
俺こそ、お前のおかげで最高の文化祭になったんだ。
ありがとう、冬花。
その、言葉にならない感謝を俺は心の中で何度も、何度も繰り返していた。
俺たちが二人で教室に入ってきた瞬間、後片付けをしていたクラスメイトたちの動きが、一瞬だけぴたりと止まった。
そして、次の瞬間、陽平がニヤニヤと全てを悟った顔で、俺たちに近づいてきた。
「よお、おかえり。ずいぶんと長いトイレだったじゃねえか」
その、からかいの言葉に、俺の隣で雪城さんの肩がびくりと震えた。
「う、うるさい! ちゃんと仕事してたんだよ!」
俺が顔を真っ赤にして言い返すと、クラス中から「ひゅーひゅー!」という生暖かい歓声が上がる。
「まあ、お前らの顔見りゃ分かるっての。色々、ご苦労さん」
陽平はそう言って、俺の背中をバンと力強く叩いた。その笑顔は、どこまでも優しかった。
俺たちがいない間もクラスメイトたちは、テキパキと後片付けを進めてくれていたらしい。
黒いビニールシートが剥がされ、ダンボールの壁が解体されていく。
三日三晩かけて創り上げた俺たちの夢の城が、少しずつ元の、ただの教室へと戻っていく。
その光景は少しだけ寂しかったけれど。
でも、俺たちの心の中にはこの文化祭で得た、かけがえのない思い出と確かな絆がしっかりと残っていた。
俺も雪城さんも、すぐに後片付けの輪に加わった。
俺は男子たちと一緒に、力仕事を担当する。解体したダンボールを、校舎裏のゴミ捨て場まで何度も往復して運んだ。
雪城さんは女子たちと一緒に、散らかった小道具を整理したり床を掃除したりしている。その手際の良さは相変わらず完璧だった。
俺たちは言葉を交わすことはなかった。
でも、時折遠くから視線が合う。
そのたびに、お互い少しだけはにかんで、すぐに自分の作業に戻る。
そのささやかな、秘密のやり取り。
それが今の俺たちにとっては、何よりも心地よかった。
全ての片付けが終わり、教室が完全に元の姿を取り戻した頃には、窓の外はすっかり夜の闇に包まれていた。
「よーし、みんな、お疲れ様! これで、俺たちの文化祭は全部おしまいだ!」
陽平が感慨深げにそう叫んだ。
その声に、クラス中から拍手と歓声が自然と湧き上がる。
やりきった、という達成感。そして、終わってしまったという一抹の寂しさ。
その二つの感情が入り混じった、温かい空気が教室を満たしていた。
「最後に!」
その時、教壇の前にすっと雪城さんが立った。
クラス中の視線が、俺たちの完璧な委員長に集まる。
彼女はクラスの生徒一人一人をゆっくりと見回した。
その瞳には、いつものような氷の冷たさはない。
ただ、深い、深い感謝と慈しみの色が浮かんでいた。
「皆さん、三日間、本当にお疲れ様でした」
彼女は深く、深く頭を下げた。
その、あまりにも丁寧で真摯な姿に、クラスメイトたちは少しだけ戸惑っているようだった。
「私が立てた無茶な計画に、文句一つ言わずついてきてくれて、本当にありがとうございました」
彼女は顔を上げて、続ける。
「最初はただ、未来のデータをなぞるだけのつもりでした。でも、皆さんと一緒にトラブルを乗り越え、笑い合い、一つのものを創り上げていく中で、私は学びました」
彼女の言葉は静かだったけれど、その一言一言に確かな重みがあった。
「計画通りに進めることよりも、ずっと大切なことがある、と。みんなで力を合わせることの素晴らしさを」
彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、その視線を真っ直ぐに俺の上に注いだ。
「特に、副委員長として最後まで私を支え続けてくれた、相沢優斗さん」
俺の名前が呼ばれ、俺の心臓が大きく跳ねた。
クラス中の視線が、一斉に俺に集まる。
彼女はそんな視線など気にも留めず、ただ俺だけを見つめて言った。
「あなたがいなければ、この文化祭は決して成功しませんでした」
「私の足りないところを、いつも補ってくれた。私が間違えそうになった時、正しい道へと導いてくれた。私が諦めそうになった時、勇気を与えてくれた」
それは、あまりにも過分な賞賛の言葉だった。
俺はそんな大したこと、何もしていない。
ただ、彼女の隣にいただけだ。
「私のために、本当に、ありがとうございました」
彼女はそう言うと、再び俺に向かって深く、深く頭を下げた。
その姿に、俺はもう何も言えなかった。
胸が熱い。
込み上げてくる、このどうしようもない感情を、どう表現すればいいのか分からなかった。
教室がシンと静まり返っている。
誰もが固唾をのんで、俺たちのことを見守っていた。
やがて、その静寂を破ったのは陽平の大きな、大きな拍手だった。
それに続くように、クラス中から嵐のような拍手が巻き起こった。
それは俺たちの完璧な委員長と、その頼りない副委員長へのクラス全員からの、最大級の賛辞と祝福だった。
俺はその拍手の音を聞きながら、ただ頭を下げたままの彼女の小さな銀色のつむじを見つめていた。
俺のために、じゃない。
俺こそ、お前のおかげで最高の文化祭になったんだ。
ありがとう、冬花。
その、言葉にならない感謝を俺は心の中で何度も、何度も繰り返していた。
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