隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第63話 自覚した想い、あるいは彼の隣

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天宮さんに自分の気持ちを伝えた後、私は屋上のフェンスに寄りかかって、一人夕日を見ていた。
相沢くんを、幸せにしてあげてね。
彼女の、あの涙ながらの笑顔。それが私の胸に温かく、そして少しだけちくりと痛く残っていた。
私は彼女から、大切なものを奪ってしまったのだろうか。
そんなことを考えていた時だった。
背後で扉の開く音がして、彼が現れた。
私の、たった一人の愛おしい人。相沢優斗さん。
彼の顔を見た瞬間、私の心臓が大きく音を立てた。
彼は真っ直ぐに、私の元へと歩いてくる。
そして彼は、言った。
『俺が、気になってるのは、雪城冬花。お前のことなんだ』と。

その言葉を聞いた瞬間、私の世界から音が消えた。
時間が止まった。
頭が真っ白になる。
嬉しい、とか、そういう単純な感情ではなかった。
ずっと心の奥底で凍りついていた、最後の、一番か弱い部分が、彼の、そのたった一人の言葉で、陽だまりのように温かく溶かされていくような、そんな感覚。

私はずっと怖かった。
未来を知っているという、絶対的なアドバンテージ。
それがあるから、彼は私を受け入れてくれているだけなのではないか、と。
未来で私たちが結ばれると知っているから、彼は私に優しくしてくれるだけなのではないか、と。
今の、この時代の、ただの雪城冬花という、不器用でわがままで嫉妬深い、ただの女の子を、彼は本当に見てくれているのだろうか。
その不安がずっと、私の胸の中に氷の棘のように突き刺さっていた。

でも、彼は違った。
彼は、未来とか運命とか、そんなもの関係なく。
ただ、今の私を見てくれていた。
『気になる』という、その少しだけ照れくさそうな、でもどこまでも誠実な、彼のありのままの言葉。
それが私の心の氷を、完全に溶かしてくれた。
涙が溢れて、止まらなかった。
でも、それは悲しい涙じゃない。
ただひたすらに、温かくて幸せな涙だった。

彼が私の頬を、その大きくて少しだけ不器用な手で包み込んでくれた時。
彼が、『俺が、好きなのは、お前だけだ』と言ってくれた時。
私はもう、自分を抑えることができなかった。
気づけば、私は彼の胸に飛び込んでいた。
彼の温かい胸の中。
トクン、トクン、と響く彼の力強い心臓の音。
それが私にとって、世界で一番安心できる場所だった。
ああ、私はこの瞬間のために、未来から来たんだ。
この温もりを、この幸せを、守るために私は全てを懸けてきたんだ。
そう、確信した。

彼に抱きしめられながら、私は自分の気持ちをはっきりと自覚していた。
私が惹かれているのは、『未来で、私の夫になる、相沢優斗』じゃない。
今、目の前で私を力強く抱きしめてくれている、不器用で、優しくて、時々意地悪で、でも誰よりも私のことを真剣に考えてくれる、『今の、相沢優斗』、その人なのだ、と。
未来で結ばれる運命だから、じゃない。
私がこの人を、好きだから。
ただ、それだけのシンプルな真実。
その当たり前のことに、私はようやくたどり着くことができた。

「……ありがとうございます」
私は彼の胸に顔をうずめたまま、くぐもった声で言った。
何に対する、ありがとう、なのか。自分でもよく分からなかった。
私を見つけてくれて、ありがとう。
私のことを、好きになってくれて、ありがとう。
私を一人にしないでくれて、ありがとう。
その全ての気持ちが、そのたった一言に込められていた。
彼は何も言わずに、ただ私の頭を優しく、優しく撫でてくれた。
その不器用な優しさが、たまらなく愛おしかった。

夕日が完全に沈みきって。
屋上には、私たち二人だけの影が長く伸びていた。
まだ、恋人じゃない。
まだ、好きだ、とは伝えられていない。
でも、それでよかった。
今の、この言葉にならない温かい気持ち。
それを、もう少しだけ味わっていたかったから。
俺が、気になっているのは、雪城冬花。
その彼の言葉を、私は一生の宝物のように胸の中で何度も、何度も繰り返していた。
彼の隣。
そこが、私のたった一つの居場所。
未来とか、過去とか、関係ない。
今の彼の隣こそが、私が本当にいたかった場所なのだから。
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