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第66話 後夜祭の炎、あるいは名前のない関係
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後夜祭の打ち上げ花火が、俺たちの初めてのキスを祝福するように夜空を彩っていた。
夢のような時間。
永遠にこのままでいたいと願った、あの瞬間。
だが、最後の花火が消え、夜の静寂が戻ってきた時、俺たちは同時に現実へと引き戻された。
そして、訪れたのはとてつもなく気まずい沈黙だった。
「……」
「……」
さっきまで、あんなに熱く確かめ合ったはずの唇。
だが、いざ顔を見合わせると、お互い何を話していいのか全く分からない。
意識してしまう。何もかも。
彼女の潤んだ瞳。少しだけ赤く腫れているようにも見える唇。そして、俺自身のあり得ないくらいに速く、そして大きく鳴り響いている心臓の音。
「あ、あのさ」
「す、すみません」
同時に口を開いてしまい、また気まずい沈黙が流れる。
だめだ。完全に空回りしている。
告白して、キスまでした。普通なら、ここで「じゃあ、俺たち、今日から恋人だな!」なんてなるのかもしれない。
だが、俺にはそんな軽々しいことは到底言えなかった。
俺たちの関係は、あまりにも特殊で複雑で。
未来とか、運命とか、そういう大きすぎる物語を背負ってしまっているから。
「そ、そろそろ、学校戻らないと。みんな、心配してるかも」
俺がなんとか絞り出したのは、そんなありきたりな言葉だった。
「……はい。そうですね」
彼女もこくりと小さく頷く。
俺たちは、どちらからともなくゆっくりと歩き始めた。
もう手は繋いでいなかった。
さっきまで、あんなに近かったはずの距離が、今はなんだかすごく遠くに感じられた。
学校に戻ると、校庭の真ん中に大きなキャンプファイヤーが組まれ、メラメラとオレンジ色の炎を夜空へと立ち上らせていた。
後夜祭だ。
クラスメイトたちがその炎を囲んで輪になって、歌ったり、踊ったり、文化祭の成功を最後の最後まで楽しんでいる。
俺たちの姿を見つけた陽平が、ニヤニヤしながら駆け寄ってきた。
「おー、主役のお二人さん、おかえりー。どこで油売ってたんだよ」
「う、うるさい! 色々、あったんだよ!」
俺が顔を赤くして言い返すと、陽平は「まあ、色々あったんだろうな」と全てを悟ったような顔で、俺と俺の隣に立つ雪城さんを交互に見た。
「で? どうなんだよ、結局。委員長と副委員長は、晴れて公認カップルにでもなったのか?」
そのあまりにも直接的な問い。
俺は、ぐっと言葉に詰まった。
隣の雪城さんも俯いて、自分の浴衣の裾をきゅっと握りしめている。
その俺たちのあまりにも分かりやすい反応を見て、陽平は「あー、はいはい」と何かを察したように苦笑いを浮かべた。
「まあ、なんだ。色々、大変なんだろうな、お前らも。ほら、火でも見て、あったまってこいよ」
陽平はそう言って、俺たちの背中をぽんと優しく押した。
その絶妙な気遣いがありがたかった。
俺と雪-城さんは、クラスメイトたちの輪から少しだけ離れた静かな場所に並んで立った。
目の前で燃え盛るキャンプファイヤーの炎。
パチ、パチ、と木が爆ぜる音が夜の空気に響き渡る。
炎の熱が、冷え始めた俺たちの体を温めてくれるようだった。
俺たちは、どちらからともなくその揺らめく炎をただじっと見つめていた。
何を話せばいいのだろう。
さっきのキスのことを、どう切り出せばいい?
あれはどういう意味だったのか、と聞くべきなのか?
俺の頭の中はぐるぐると同じ問いでいっぱいだった。
「……あのさ」
俺は意を決して口を開いた。
「さっきは、その……悪かった。なんか、勢いで……」
結局、俺の口から出たのはそんな情けない謝罪の言葉だった。
すると、彼女も小さな声で答えた。
「いえ……。私も、どうかしていました。舞い上がってしまって……」
彼女も俯いたままそう言う。
違う。
俺たちが本当に言いたいことは、そんなことじゃないはずだ。
でも、その本当に言いたい言葉だけが、どうしても喉の奥でつっかえて出てこない。
俺たちの間には、まだ名前がなかった。
この、どうしようもなく愛おしくて、切なくて、そして少しだけ臆病な、この気持ちに。
この関係に。
何と名前を付ければいいのか、二人とも分からなかったのだ。
炎が揺らめく。
その光が、彼女の横顔を美しく照らし出す。
俺は、その横顔を盗み見た。
彼女も、同じように俺のことを見ていた。
視線が合う。
そして、俺たちはどちらからともなく、ふっと小さく笑い合った。
言葉はなかった。
でも、それで十分だった。
それで、全てが伝わった気がした。
まだ、恋人じゃないかもしれない。
まだ、お互いの気持ちを本当の意味で確かめ合えたわけではないのかもしれない。
でも、俺たちの心は確かにここにある。
この燃え盛る炎のように、熱く、そして確かだ。
今はそれでいい。
焦る必要なんてないんだ。
俺は、この名前のない特別な関係を、もう少しだけ大切に味わっていたいと思った。
炎の光が、俺たち二人の影を寄り添うように一つに結びつけていた。
後夜祭の夜は、言葉にならないたくさんの想いを乗せて、静かに、そしてゆっくりと更けていく。
俺たちの新しい物語は、まだ始まったばかりなのだから。
夢のような時間。
永遠にこのままでいたいと願った、あの瞬間。
だが、最後の花火が消え、夜の静寂が戻ってきた時、俺たちは同時に現実へと引き戻された。
そして、訪れたのはとてつもなく気まずい沈黙だった。
「……」
「……」
さっきまで、あんなに熱く確かめ合ったはずの唇。
だが、いざ顔を見合わせると、お互い何を話していいのか全く分からない。
意識してしまう。何もかも。
彼女の潤んだ瞳。少しだけ赤く腫れているようにも見える唇。そして、俺自身のあり得ないくらいに速く、そして大きく鳴り響いている心臓の音。
「あ、あのさ」
「す、すみません」
同時に口を開いてしまい、また気まずい沈黙が流れる。
だめだ。完全に空回りしている。
告白して、キスまでした。普通なら、ここで「じゃあ、俺たち、今日から恋人だな!」なんてなるのかもしれない。
だが、俺にはそんな軽々しいことは到底言えなかった。
俺たちの関係は、あまりにも特殊で複雑で。
未来とか、運命とか、そういう大きすぎる物語を背負ってしまっているから。
「そ、そろそろ、学校戻らないと。みんな、心配してるかも」
俺がなんとか絞り出したのは、そんなありきたりな言葉だった。
「……はい。そうですね」
彼女もこくりと小さく頷く。
俺たちは、どちらからともなくゆっくりと歩き始めた。
もう手は繋いでいなかった。
さっきまで、あんなに近かったはずの距離が、今はなんだかすごく遠くに感じられた。
学校に戻ると、校庭の真ん中に大きなキャンプファイヤーが組まれ、メラメラとオレンジ色の炎を夜空へと立ち上らせていた。
後夜祭だ。
クラスメイトたちがその炎を囲んで輪になって、歌ったり、踊ったり、文化祭の成功を最後の最後まで楽しんでいる。
俺たちの姿を見つけた陽平が、ニヤニヤしながら駆け寄ってきた。
「おー、主役のお二人さん、おかえりー。どこで油売ってたんだよ」
「う、うるさい! 色々、あったんだよ!」
俺が顔を赤くして言い返すと、陽平は「まあ、色々あったんだろうな」と全てを悟ったような顔で、俺と俺の隣に立つ雪城さんを交互に見た。
「で? どうなんだよ、結局。委員長と副委員長は、晴れて公認カップルにでもなったのか?」
そのあまりにも直接的な問い。
俺は、ぐっと言葉に詰まった。
隣の雪城さんも俯いて、自分の浴衣の裾をきゅっと握りしめている。
その俺たちのあまりにも分かりやすい反応を見て、陽平は「あー、はいはい」と何かを察したように苦笑いを浮かべた。
「まあ、なんだ。色々、大変なんだろうな、お前らも。ほら、火でも見て、あったまってこいよ」
陽平はそう言って、俺たちの背中をぽんと優しく押した。
その絶妙な気遣いがありがたかった。
俺と雪-城さんは、クラスメイトたちの輪から少しだけ離れた静かな場所に並んで立った。
目の前で燃え盛るキャンプファイヤーの炎。
パチ、パチ、と木が爆ぜる音が夜の空気に響き渡る。
炎の熱が、冷え始めた俺たちの体を温めてくれるようだった。
俺たちは、どちらからともなくその揺らめく炎をただじっと見つめていた。
何を話せばいいのだろう。
さっきのキスのことを、どう切り出せばいい?
あれはどういう意味だったのか、と聞くべきなのか?
俺の頭の中はぐるぐると同じ問いでいっぱいだった。
「……あのさ」
俺は意を決して口を開いた。
「さっきは、その……悪かった。なんか、勢いで……」
結局、俺の口から出たのはそんな情けない謝罪の言葉だった。
すると、彼女も小さな声で答えた。
「いえ……。私も、どうかしていました。舞い上がってしまって……」
彼女も俯いたままそう言う。
違う。
俺たちが本当に言いたいことは、そんなことじゃないはずだ。
でも、その本当に言いたい言葉だけが、どうしても喉の奥でつっかえて出てこない。
俺たちの間には、まだ名前がなかった。
この、どうしようもなく愛おしくて、切なくて、そして少しだけ臆病な、この気持ちに。
この関係に。
何と名前を付ければいいのか、二人とも分からなかったのだ。
炎が揺らめく。
その光が、彼女の横顔を美しく照らし出す。
俺は、その横顔を盗み見た。
彼女も、同じように俺のことを見ていた。
視線が合う。
そして、俺たちはどちらからともなく、ふっと小さく笑い合った。
言葉はなかった。
でも、それで十分だった。
それで、全てが伝わった気がした。
まだ、恋人じゃないかもしれない。
まだ、お互いの気持ちを本当の意味で確かめ合えたわけではないのかもしれない。
でも、俺たちの心は確かにここにある。
この燃え盛る炎のように、熱く、そして確かだ。
今はそれでいい。
焦る必要なんてないんだ。
俺は、この名前のない特別な関係を、もう少しだけ大切に味わっていたいと思った。
炎の光が、俺たち二人の影を寄り添うように一つに結びつけていた。
後夜祭の夜は、言葉にならないたくさんの想いを乗せて、静かに、そしてゆっくりと更けていく。
俺たちの新しい物語は、まだ始まったばかりなのだから。
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