隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

文字の大きさ
66 / 97

第67話 フォークダンスの輪、あるいは繋がれた手

しおりを挟む
キャンプファイヤーの炎が少しずつその勢いを弱め始めた頃。
後夜祭のクライマックスを告げる陽気な音楽が校庭に流れ始めた。
フォークダンスだ。
文化祭の最後を飾る恒例行事。
「よっしゃー! みんな、輪になれー!」
陽平が誰よりも楽しそうに声を張り上げる。
クラスメイトたちが次々と手を取り合い、大きな、大きな一つの輪を作り上げていく。
その楽しそうな、しかし俺にとっては少しだけ気まずい光景。
俺は、どうすればいいのか分からず、その場で立ち尽くしていた。
隣にいる雪城さんも同じだった。彼女は少しだけ戸惑ったような顔で、その輪を遠巻きに眺めている。

「ほら、お二人さん! 何してんだよ、入った入った!」
陽平が俺たちを手招きする。
「いや、俺はいいよ。見てるだけで……」
俺が尻込みしていると、天宮さんがにこりと笑って俺たちの元へやってきた。
その笑顔には、もう何の翳りもなかった。
「行こうよ、相沢くん、雪城さん! 最後なんだから、みんなで楽しまなきゃ損だよ!」
彼女はそう言うと、俺と雪城さんの手をそれぞれぐいっと掴んだ。
そして、半ば強引に俺たちをダンスの輪の中へと引き入れていく。
「ほら、二人とも、ちゃんと手を繋いで!」
天宮さんは悪戯っぽく笑うと、俺の右手を雪城さんの左手と無理やり繋がせた。
その瞬間、俺の心臓がドクンと大きく跳ねた。
彼女の少しだけ冷たい華奢な手の感触。
そのあまりにも鮮烈な感触に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
隣の彼女も同じだったらしい。
俯いた彼女の耳が、キャンプファイヤーの炎よりも赤く染まっているのが見えた。

陽気なフォークダンスの音楽。
俺たちはぎこちない動きでクラスメイトたちの輪に加わった。
右に二歩。左に二歩。
前へ進んで手を叩き、そして隣のパートナーと入れ替わる。
ただ、それだけの簡単なステップ。
なのに、俺の体はまるでロボットのようにガチガチに固まっていた。
意識してしまう。
繋がれた彼女の手の温もりを。
時折、視線が合うたびに、お互い慌てて目を逸らしてしまう。
その甘酸っぱい気まずさ。

ステップを踏み、俺の隣のパートナーが別の女子に変わる。
知らない女子生徒。
「よろしく」とはにかんでくるその子と手を繋ぐ。
何も感じない。
ただ早く次のステップが来て、彼女が俺の隣に戻ってきてほしいと思うだけ。
そして、またステップを踏み、パートナーが変わっていく。
陽平がニヤニヤしながら俺の隣に来る。
「どうだ、役得だろ?」と囁いてくる。
俺は、「うるさい」と小声で返す。
天宮さんが優しい笑顔で俺の隣に来る。
「楽しんでる?」と聞いてくる。
俺は、「まあな」と曖昧に頷く。

そして、音楽が何度も、何度も巡って。
ついに、その時がやってきた。
軽快なステップの先。
俺の目の前に彼女が現れた。
雪城冬花が。
俺のたった一人の特別なパートナーが。
俺たちはどちらからともなく、すっと手を差し出した。
そして、その手が再び固く結ばれる。
もう、ぎこちなさはなかった。
ただ自然に、当たり前のように俺たちは手を繋いだ。
まるで最初からそうなることが決まっていたかのように。

俺たちは言葉を交わさなかった。
ただ、繋いだ手のひらから伝わる温もりだけを感じていた。
右に二歩。左に二歩。
彼女の軽やかなステップ。
俺の少しだけぎこちないステップ。
そのちぐはぐな二つのステップが、不思議と完璧に調和していく。
音楽が、俺たち二人を優しく包み込んでいくようだった。
キャンプファイヤーの揺らめく炎。
クラスメイトたちの楽しそうな笑い声。
そして、繋がれた彼女の、手の確かな温もり。
その全てが、俺の心に忘れられない大切な思い出として深く、深く刻まれていった。

やがて、音楽が終わりを告げる。
俺たちの短いダンスも終わりを迎えた。
俺たちは名残惜しそうにそっと手を離す。
「……楽しかった、な」
俺がそう呟くと、彼女は顔を上げて俺の目を真っ直ぐに見た。
そして、今までにないくらい幸せそうな、とろけるような笑顔でこう言った。

「はい。私も、です」

その笑顔を見た瞬間、俺はもう確信していた。
俺たちの名前のないこの関係。
その答えがもうすぐ見つかることを。
後夜祭の炎が最後の輝きを放ち、静かに消えていく。
俺たちの長い、長い文化祭はこうして本当に終わりを告げた。
そして、その終わりは新しい始まりの確かな予感をはらんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

俺のモテない学園生活を妹と変えていく!? ―妹との二人三脚で俺はリア充になる!―

小春かぜね
恋愛
俺ではフツメンだと感じているが、スクールカースト底辺の生活を過ごしている。 俺の学園は恋愛行為に厳しい縛りは無いので、陽キャラたちは楽しい学園生活を過ごしているが、俺には女性の親友すらいない…… 異性との関係を強く望む学園(高校生)生活。 俺は彼女を作る為に、学年の女子生徒たちに好意の声掛けをするが、全く相手にされない上、余りにも声掛けをし過ぎたので、俺は要注意人物扱いされてしまう。 当然、幼なじみなんて俺には居ない…… 俺の身近な女性と言えば妹(虹心)はいるが、その妹からも俺は毛嫌いされている! 妹が俺を毛嫌いし始めたのは、有る日突然からで有ったが、俺にはその理由がとある出来事まで分からなかった……

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編2が完結しました!(2025.9.15)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった! ……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。 なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ! 秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。 「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」 クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない! 秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。

沢田美
恋愛
この世の中には、勝者と敗者がいる。 ――恋人がいて、青春を謳歌し、学校生活をカラフルに染める勝者。 そしてその反対側、モブのように生きる俺・高一賢聖(たかいちけんせい)。 高校入学初日、ぼっちを貫くつもりだった俺の前に、 “二人の女王”が現れた。 ひとりは――雪のように白い髪を持つ、文芸部の女神・瀬良由良(せらゆら)。 もうひとりは――バスケ部の全国エースにして完璧超人、不知火優花(しらぬいゆうか)。 陰キャ代表の俺が、なんでこの二人に関わることになるんだ!? 「文芸部、入らない?」 「由良先輩、また新入生をたぶらかしてる〜!」 平凡で静かな高校生活を夢見ていたのに―― 気づけば俺の毎日は、ラブコメと混乱で埋め尽くされていた。 青春なんて関係ないと思ってた。 だけど、この春だけは違うらしい。

処理中です...