隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

文字の大きさ
70 / 97

第71話 修学旅行と甘い既視感、あるいは未来のハネムーン

しおりを挟む
文化祭の熱狂が過ぎ去り、俺たちの高校には秋の穏やかな日常が戻ってきた。
燃え尽きたような虚脱感と、やり遂げたという確かな達成感。クラスの空気は以前よりもずっと一体感を増し、温かいものになっていた。
そして、俺と雪城冬花――いや、冬花との関係も新しい季節を迎えていた。
まだ、「恋人」という明確な名前はない。
だが、俺たちの心は確かに繋がっていた。
朝、家の前で待っていてくれる彼女の姿を見るだけで、一日が輝き出す。
休み時間に交わす、他愛のない筆談。
時折、ふと目が合っては、どちらからともなく微笑んでしまう、あの瞬間。
その一つ一つが、俺の心を温かくて、どうしようもなく甘いもので満たしていく。
未来とか、運命とか、そんな難しいことはもう考えない。ただ今の彼女との時間を大切にしたい。
俺は心からそう思っていた。

「えー、お前ら、浮かれてるところ悪いが、二学期はまだイベントが残ってるぞー」
その日のホームルーム。担任のタナチューが教壇の上でニヤリと笑った。
その言葉に、文化祭ロスに陥っていたクラスメイトたちがざわめき始める。
「なんだなんだ?」「また何かあんのか?」
タナチューはもったいぶるように一度タメを作ると、黒板に大きな文字でこう書きなぐった。

『修学旅行』

その三文字が視界に入った瞬間、教室は文化祭の時とはまた違う、爆発的な歓声に包まれた。
「うおおおおお!」「キターーー!」
高校生活最大のイベント。友人たちと寝食を共にし、枕投げをし、そして淡い恋が生まれるかもしれない特別な三泊四日。
「先生! 行き先はどこですか!?」
誰かが叫ぶと、タナチューは満足げに頷いた。
「今年の二年生は、古都の歴史と文化に触れてもらう。行き先は、京都・奈良だ!」
京都! 奈良!
そのあまりにも王道で、あまりにも魅力的な行き先に、クラスのボルテージは最高潮に達する。
「清水寺!」「金閣寺!」「鹿に会えるじゃん!」
生徒たちは思い思いの観光名所を口にし、早くも浮かれ気分だ。
俺も例外ではなかった。陽平と顔を見合わせ、「こりゃ、楽しくなりそうだな!」と拳を突き合わせる。
夜、男子部屋でどんな馬鹿な話をしてやろうか。そんなことばかりが頭に浮かんでいた。

だが、その時。
俺はふと、隣の席に座る彼女の異変に気づいた。
冬花はクラスの喧騒など意にも介さず、ただじっと黒板に書かれた『京都・奈良』の文字を見つめていた。
その表情は、いつものクールなポーカーフェイスとは少しだけ違っていた。
驚きと、懐かしさと、そしてほんの少しの切なさが入り混じったような複雑な色。
まるで、遠い昔の大切なアルバムを開いた時のような。
そんな表情だった。
俺だけが、その彼女の微かな変化に気づいていた。

その日の放課後。
俺は文化祭の時と同じように、後片付けの雑務をこなすため教室に残っていた。もちろん、彼女も一緒だ。
クラスメイトたちが帰り、静かになった教室で、俺は意を決して彼女に尋ねた。
「なあ、冬花」
俺が名前を呼ぶと、彼女の肩がぴくりと小さく震えた。まだ名前で呼ばれるのには慣れていないらしい。その反応がたまらなく愛おしい。
「今日のホームルームの時、修学旅行の行き先が発表された時さ。お前、なんか変な顔してなかったか?」
俺の問いに、彼女は書類を整理する手をぴたりと止めた。
そして、ゆっくりとこちらを振り返る。
その顔は、もういつものクールな彼女に戻っていた。
「……気のせいでは、ありませんか?」
「いや、気のせいじゃない。絶対に何か感じてたはずだ」
俺が真っ直гуに彼女の目を見つめ返すと、彼女は観念したようにふっと息を吐いた。
そして、その表情を少しだけはにかむように緩ませる。

「……バレてしまいましたか」
彼女は少しだけ恥ずかしそうに言った。
「驚いただけです。まさか、同じ場所だったなんて」
「同じ場所?」
俺が、きょとんとして聞き返す。
その俺のあまりにも無垢な問いに、彼女の頬がぽっと夕日のように赤く染まった。
彼女は俯きがちに、もじもじと指先を弄んでいる。
そして、蚊の鳴くような小さな、小さな声で告白した。

「……未来で、私たち」
「そこに、新婚旅行へ、行ったんです」

「………………は?」

しんこん、りょこう。
ハネムーン。
そのあまりにも破壊力抜群のパワーワード。
俺の脳は、その言葉の意味を理解するのに数秒間の長い、長い時間を要した。
そして、完全に理解した瞬間。
俺の顔はカッと沸騰したように熱くなった。
「し、し、し、新婚旅行!?」
「はい」
俺の狼狽しきった声とは対照的に、彼女の声はどこか嬉しそうだ。
「あなたが、『日本の美しい場所をもう一度二人でゆっくり巡りたい』と言って、計画してくれました。とても素敵な旅行でしたよ」
俺のただの高校の修学旅行が。
その行き先が。
未来の俺たちの、ハネムーンの聖地だったなんて。
そんなこと、聞いてない!
「ちょ、待て待て待て! それ、マジか!?」
「マジです」
彼女はこくりと力強く頷いた。
そして、その瞳をキラキラと夢見るように輝かせながら語り始めた。
「清水の舞台から、二人で見た京都の街並み。未来ではもっと高いビルが建っていましたけど、それでも綺麗でした」
「奈良公園では、鹿せんべいを巡って鹿とあなたが本気で戦っていましたね。微笑ましかったです」
「あの嵐山の竹林の道を、手を繋いで歩きました。あの時の木漏れ日の美しさは、今でも忘れられません」
次々と彼女の口から語られる甘すぎるハネムーンの思い出。
そのあまりにも具体的で、あまりにも幸せそうな光景。
俺の頭はもう完全にパンク寸前だった。
期待と、羞恥と、そしてどうしようもない高揚感でぐちゃぐちゃになっていく。
修学旅行がただの旅行じゃなくなった。
これは未来の俺たちの愛の軌跡をたどる聖地巡礼だ。

「……だから」
彼女はそう言って、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、今までで一番甘く、そして熱い光が宿っている。
「最高の思い出を。もう一度、あなたと作りたいんです。未来の再現なんかじゃない。今の私たちだけの、新しい思い出を」
彼女はそう言って、ふわりと幸せの絶頂というように微笑んだ。
その笑顔は、あまりにも眩しくて。
俺はただ頷くことしかできなかった。

だが、その時。
俺は見逃さなかった。
その完璧な笑顔の裏側に。
夏祭りの夜に見たような、ほんの、ほんのわずかな影がよぎったのを。
ただの甘い旅行では終わらない。
この修学旅行で、きっと何かが起こる。
俺たちの未来に関わる、何か重大な出来事が。
そんな確かな予感を、俺は胸に抱いていた。
だが、今はその予感に蓋をする。
今はただ、これから始まる未来のハネ-ムーン(仮)への期待に胸を高鳴らせていたかったから。
俺たちの秋は、まだ始まったばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

処理中です...