隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

第70話 通じ合った想い、あるいは絆の萌芽

後夜祭の最後の花火が消え、文化祭の喧騒が遠ざかっていく。
俺たちは校門の前で、どちらからともなく立ち止まった。
「俺も、今の君の隣にいたい」
「私も、優斗さんの隣にいたいです」
お互いのありのままの想いを伝え合った。
もう、俺たちの間に何の壁も、何の隔たりもなかった。
あるのは、ただ言葉にならない温かくて、少しだけ切ない幸福感だけ。

「……送っていくよ」
長い、長い沈黙の後。
俺がなんとか絞り出したのは、そんなありきたりな言葉だった。
彼女は、こくりと小さく頷く。その頬は、まだほんのりと赤い。
俺たちは、ゆっくりと夜道を歩き始めた。
もう手は繋いでいなかった。
でも、不思議と寂しくはなかった。
繋いでいなくても分かる。彼女の心が、すぐ隣にあることを。
その確かな感覚が、俺の心を穏やかに満たしていた。

「……今日の、お化け屋敷」
しばらく歩いた後、彼女がぽつりと呟いた。
「陽平くんが脅かし役の時、一番悲鳴が大きかったですね。未来のデータ通りでした」
「ははっ、あいつ、ああいうの本気でやるからな」
「天宮さんのメイド服姿も、未来の記録通り驚異的な破壊力でした。計算以上の脅威でしたが」
「脅威って……」
彼女の口から語られるのは、もう未来の再現の話ではない。
ただの今日の、楽しかった文化祭の思い出。
普通の高校生の女の子が、友達とその日一日の出来事を、楽しそうに話している。
その当たり前の光景が、俺にとっては、何よりも新鮮で、そして愛おしかった。

「……でも」
彼女はふと立ち止まった。
そして、俺の顔をじっと見上げる。
「一番すごかったのは、あなたですよ」
「え？」
「トラブルが起きた時、『作るしかない』って言った、あなたの顔。すごく頼もしかったです。未来のあなたよりも、ずっと、ずっと格好良かった」
そのあまりにもストレートな賞賛。
俺は不意打ちを食らって言葉に詰まった。顔が熱い。
「そ、そうか……？」
「はい。私、あの時、少しだけ見惚れてしまいました」
彼女はそう言って、悪戯っぽくふふ、と笑った。
そのあまりにも破壊力抜群の笑顔。
俺は、もうダメだった。
降参だ。完敗だ。
この未来から来た、完璧で、少しだけ意地悪なこの少女に、俺は一生勝てないのかもしれない。

彼女の家のアパートの前までたどり着いた。
短いようで、長い帰り道だった。
「……じゃあ、また明日」
俺がそう言うと、彼女も「はい。また明日」と小さく答えた。
そのありふれた挨拶。
それが今までとは全く違う重みと甘さを持っているように感じられた。
俺は踵を返そうとして、でもできなかった。
名残惜しくて離れがたかった。
彼女も同じ気持ちだったのだろう。
ただ黙ってその場に立ち尽くしている。
そんな俺たちの間に、柔らかな秋の夜風が吹き抜けていった。

「……あのさ」
俺は言った。
「俺たちって、今、どういう関係なんだろうな」
それは、ずっと聞きたかった、でも聞けなかった質問。
俺のその問いに、彼女は少しだけ驚いたように目を見開いた。
そして、しばらくの間何かを考えるように視線を彷徨わせる。
やがて彼女は顔を上げて、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
そして、今までで一番穏やかで、そして確信に満ちた声で、こう言った。

「まだ、恋人ではありません」
「え……」
その意外な言葉に、俺は少しだけ戸惑った。
彼女は続ける。
「だって、あなたはまだ私に言っていませんから」
「……何を？」
「『好きです。付き合ってください』と」
彼女はそう言って、くすりと悪戯っぽく笑った。
その小悪魔のような微笑み。
俺は、その意味を理解した。
ああ、そうか。
そうだったのか。
俺たちはまだ、スタートラインに立ったばかりなんだ。
未来の確定した関係じゃない。
今の俺たちが、これから一つ一つ積み上げていく新しい関係。
その最初の、一番大切な言葉を、彼女は俺自身の口から聞きたいのだ。
そのあまりにも健気で、あまりにもいじらしい彼女の願い。
俺はもう、どうしようもない愛おしさで胸がいっぱいになった。

「……そっか。そうだよな」
俺は照れ笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「じゃあ、それはまた今度、ちゃんと、言わせてもらうよ。俺の、一番格好いい最高のタイミングでな」
俺がそう宣言すると、彼女は心の底から幸せそうに微笑んだ。
「はい。楽しみに待っています」
その笑顔は、夜空のどの星よりも明るく輝いて見えた。

気持ちが通じ合った二人。
まだ恋人ではないけれど。
そこには未来とか、過去とか、そんなものを遥かに超えた、強くて温かくて、そして揺るぎない確かな絆が、確かに生まれていた。
それは、これから始まる俺たちの本当の物語の、ほんの序章。
最高の恋の始まりの合図。
俺は、その輝かしい未来を予感しながら、彼女の小さな背中がアパートの中に消えていくのを、いつまでも見送っていた。
この文化祭で得た、宝物のような温かい気持ちを胸に抱いて。

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### **第3章まとめ**

**【これまでの流れ】**
高校二年生の二学期。物語の舞台は、文化祭へと移りました。
クラスの出し物が「お化け屋敷」に決まり、雪城冬花がその卓越した能力から実行委員長に、そして主人公・相沢優斗がそのサポート役である副委員長に任命されます。
二人で協力して準備を進める中で、二人の距離は急速に縮まっていきます。しかし、準備中に優斗がミスをした際、クラスのアイドルである天宮夏帆が彼を庇ったことをきっかけに、優斗と冬花の間に初めてのすれ違いが生じます。
冬花は、優斗が自分以外の女性に頼る姿を見て静かな嫉妬と悲しみに心を閉ざしてしまいます。一方、優斗も親友・陽平からの忠告で、自分が冬花の気持ちを全く見ていなかったことに気づき、深く後悔します。
文化祭前夜、トラブルが発生するも、今度こそお互いを信じ、クラスメイトたちと協力して乗り越えたことで、二人の絆はより強固なものになりました。
そして、文化祭の片付け後、天宮夏帆が優斗に告白。優斗は彼女の真剣な想いに誠実に向き合い、「気になる人がいる」とはっきりと断ります。その「気になる人」が冬花であることを、優斗は明確に自覚しました。
その夜、優斗と冬花は、お互いに「未来とか関係なく、今の相手の隣にいたい」とありのままの想いを伝え合います。まだ正式な恋人ではないものの、二人の心は確かに結ばれ、物語は新たなステージへと進むことになりました。

**【キャラクターシート（第3章終了時点）】**

*   **相沢 優斗（あいざわ ゆうと）**
    *   **変化**: 雪城冬花への恋心を明確に自覚。彼女を守り、支えたいという強い意志を持つようになった。以前の流されがちな性格から脱却し、自分の意見をはっきりと主張できるようになるなど、精神的に大きく成長した。冬花のクールな仮面の下にある、嫉妬深さや不器用さといった人間らしい一面を、何よりも愛おしいと感じている。
    *   **現状**: 冬花と気持ちは通じ合ったが、まだ正式な告白はできていない。最高のタイミングで、自分の言葉で伝えようと決意している。

*   **雪城 冬花（ゆきしろ ふゆか）**
    *   **変化**: 当初は「未来の再現」に固執していたが、優斗と文化祭を乗り越える中で「今」を生きることの大切さを学んだ。未来の夫としてではなく、「今の優斗」そのものに惹かれていることを自覚。クールな仮面をかなぐり捨て、嫉妬や悲しみ、喜びといった感情を、優斗の前では素直に見せるようになった。
    *   **現状**: 優斗と気持ちが通じ合い、幸福の絶頂にいる。彼からの正式な告白を、心待ちにしている。しかし、物語の核心である「未来の事故」という重い秘密は、まだ胸の内に隠したままである。

*   **赤坂 陽平（あかさか ようへい）**
    *   **変化**: 優斗と冬花の関係を、単なる面白い見世物としてではなく、心から応援する真の親友としての立ち位置を確立した。時に鋭い指摘で、二人の関係を進展させる重要な役割を担った。
    *   **現状**: 二人の恋の行方を、温かく見守っている。

*   **天宮 夏帆（あまみや かほ）**
    *   **変化**: 優斗への恋心を自覚し、勇気を出して告白したが、誠実に振られた。優斗と冬花の間に存在する特別な絆の強さを認め、潔く身を引いた。失恋の痛みを知りながらも、二人を祝福できる精神的な強さを見せた。
    *   **現状**: 優斗への恋心に一つの区切りをつけた。これからは、良き友人として二人を見守っていくことになる。

**【次の章で書くこと：第4章 真実と決意編】**
第4章では、物語の核心である「未来の謎」がいよいよ明らかになります。

*   **修学旅行**: プロット通り、修学旅行を舞台に二人の甘い時間を描きつつ、冬花が未来から来た本当の理由、つまり「優斗を失う未来」と「事故の存在」を、少しずつ優斗に明かしていきます。縁結びの神社や、星空の下での二人きりの会話など、シリアスな展開の中にも読者が求める糖度を確保します。
*   **「運命の修正力」の顕在化**: 冬花が真実を語り始めたことで、「運命の修正力」が二人を妨害する形でより明確に現れ始めます。これは、物理的な敵ではなく、二人の周りで頻発する小さな不運や、すれ違いの原因となるトラブルとして描かれます。
*   **クリスマスと運命の日**: クリスマスデートという甘いイベントを通して、二人の絆をさらに深めます。そして、そのクライマックスで冬花から、事故が起こる「運命の日」がバレンタインデーであることが告げられ、物語の緊張感を一気に高めます。
*   **優斗の決意**: 悲しい未来の真実を知り、一度は恐怖に苛まれる優斗。しかし、彼は冬花を失う未来を受け入れることを拒否し、「彼女を絶対に守り抜く」という強い決意を固めます。受け身だった主人公が、自らの意志で運命に抗おうとする大きな成長を描きます。

第4章の目的は、これまでの甘いラブコメの雰囲気にサスペンスとシリアスな要素を加え、物語に深みを与えることです。そして、最終章であるクライマックスに向けて、読者のボルテージを最高潮に高めていきます。