隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第75話 旅館の夜と未来予知、あるいは妻の勘

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清水寺を後にした俺たちは、バスに揺られ今夜の宿である旅館へとたどり着いた。
古都の風情が漂う立派な木造建築。手入れの行き届いた庭園と上品な和の香りが、俺たちの旅の疲れを優しく癒してくれるようだった。
部屋割りは男子四人、女子四人の大部屋。俺は当然のように陽平と同じ部屋になった。
夕食は広々とした宴会場で、学年全員が一堂に会しての豪華な会席料理。見たこともないような綺麗な料理の数々に、俺たちは目を輝かせた。
「うおー! すき焼きだ!」
「この天ぷら、サクサクでやべえ!」
男子生徒たちが育ち盛りの食欲を爆発させる中、俺は少し離れた席に座る彼女の姿をそっと盗み見ていた。
冬花は女子たちのグループの中で、静かに、しかし完璧な作法で箸を進めている。その姿はまるで一枚の絵のようだった。
時折、ふとこちらに視線を送り、目が合うと小さくはにかむように微笑んでくれる。
その二人だけの秘密のやり取り。
それだけで、豪華な料理がさらに何倍も美味しく感じられた。

夕食後、俺たちは旅館自慢の大浴場で汗を流した。
そして、部屋に戻ると、そこからが修学旅行の本番だった。
「よっしゃー! 恋バナの時間だぜー!」
陽平がどこからか調達してきた枕を、高々と掲げて叫ぶ。
部屋には、俺と陽平、そして班のメンバーの男子二人の計四人。
布団を並べ、その中央にコンビニで買い込んできたお菓子とジュースを広げる。
まさに男子高校生の理想郷。
「で、どうなんだよ、優斗。お前、雪城さんと今日なんかいい感じだったじゃねえか。縁結び神社で、二人して何をお願いしてきたんだよ」
陽平が早速ニヤニヤしながら俺に話を振ってきた。
「別に、何も……」
俺が照れ隠しにごまかそうとすると、他の二人も「いいから、白状しろよー!」「キスくらいしたのかー?」と囃し立ててくる。
「するわけねえだろ!」
俺は枕を投げつけて必死に抵抗する。
そんな他愛のない馬鹿騒ぎ。
それが楽しくて、心地よかった。

「まあまあ、優斗の話は後でゆっくり聞くとしてだ」
陽平はそう言うと、パンパンと手を叩いた。
「まずは腹ごしらえだ! 見ろ、この俺様が厳選した最強のお菓子の布陣を!」
彼は得意げに袋の中から次々とお菓子を取り出していく。
ポテトチップスのうすしお味とコンソメ味。
チョコレート菓子は、きのこの山とたけのこの里、両方を揃えるという完璧な配慮。
そして、デザートにはコンビニスイーツの王道、プレミアムロールケーキ。
「どうだ! 完璧だろ!」
「おー! さすが陽平!」
俺たちは歓声を上げ、そのお菓子の山に群がった。

俺がポテトチップスの袋を開けようとした、その時だった。
ポケットに入れていたスマホが、ブブッと短く震えた。
俺は誰にも気づかれないようにそっとスマホを取り出す。
メッセージの送り主は、もちろん冬花だった。
俺は高鳴る胸を抑えながらそのメッセージを開いた。
そこに書かれていたのは、俺の予想を遥かに超える衝撃的な内容だった。

『楽しそうですね』

まず、その一文。
そして、その下に箇条書きでこう続いていた。

『・ポテトチップス(うすしお、コンソメ)
・きのこの山
・たけのこの里
・プレミアムロールケーキ』

「………………は?」

俺は声もなく固まった。
なんだ、これは。
なぜ彼女が、俺たちの部屋にあるお菓子のラインナップを完璧に把握しているんだ?
盗聴器でも仕掛けられているのか?
それとも、壁の向こうから透視でもしているのか?
俺の背筋を、冷たい汗がつーっと流れた。
俺が呆然としていると、スマホが再び震える。
彼女からの追伸メッセージだった。

『ちなみに、未来のあなたは、そのプレミアムロールケーキを陽平くんに横取りされて、本気で喧嘩になります。お気をつけください』

プレミアムロールケーキを、横取りされて、喧嘩。
あまりにも具体的で、あまりにもレベルの低い未来予言。
俺はゴクリと喉を鳴らした。
そして、目の前で「やっぱ、デザートは最後のお楽しみだよな!」とロールケーキの箱を愛おしそうに撫でている陽平の姿を見る。
こいつが犯人か。

「……どうした、優斗? 腹でも痛いのか?」
俺が険しい顔で黙り込んでいるのに気づいた陽平が、不思議そうに尋ねてきた。
俺は何も言わずにすっと立ち上がった。
そして、陽平の手からプレミアムロールケーキの箱をひったくるように奪い取る。
「うおっ!? なんだよ、優斗!」
「これは、俺が食う」
俺はそう宣言すると箱を開け、猛烈な勢いでロールケーキを口の中に詰め込み始めた。
「あー! ずりいぞ、優斗! 一人で食うなよ!」
「うるさい! これは未来を守るための戦いだ!」
訳の分からないことを叫びながら、俺は必死にロールケーキを飲み込んでいく。
部屋の隅では、他の二人が「何やってんだ、あいつら……」と呆れた顔でこちらを見ていた。

結局、プレミアムロール-ケーキを巡る攻防は、俺がクリームまみれになりながらもなんとか死守することで幕を閉じた。
未来は変わった。
俺は息を切らしながらスマホにメッセージを送る。
『未来、変えといたぞ』
すぐに返信が来た。
『お見事です。さすがは、私の夫ですね』
そのメッセージの下には、親指をぐっと立てたペンギンのスタンプが添えられていた。
俺は、その画面を見ながら一人満足げに微笑んだ。

だが、その時。
俺はまだ気づいていなかった。
彼女のその恐るべき未来予知能力が、ただのお菓子の好みや男子高校生のくだらない喧嘩だけに留まるものではないということに。
そして、彼女が本当に見ている『未来』が、もっとずっと深刻で、そして悲しいものであるということに。
旅館の夜はまだ始まったばかりだった。
そして、俺たちの運命の歯車もまた、静かに、しかし確実に回り始めていたのだ。
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