隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第86話 年末の来訪者、あるいは未来の家族

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クリスマス・イヴのあの光に満ちた夜から数日が過ぎた。
街はきらびやかなイルミネーションをそのままに、どこか慌ただしい年末の空気に入れ替わっていた。
俺たちの運命の日は着実に近づいている。
だが、俺たちの心は不思議なくらい穏やかだった。
覚悟を決めたから。
二人で共に戦うと誓ったから。
その揺るぎない絆が俺たちを恐怖から守ってくれていた。

十二月二十九日。
俺は母親から下された厳命により、朝から自室の大掃除と格闘していた。
「年内に部屋をきれいにしなかったら、お年玉はなしだからね!」
そんな理不尽な最後通告を突きつけられては従うしかない。
俺は溜まりに溜まった漫画雑誌を紐で縛り、ベッドの下からまたしても新たな黒歴史グッズを発掘しては悲鳴を上げていた。
「終わらない……。こんなの一人で終わるわけがない……」
俺が絶望に打ちひしがれていた、その時だった。
ポケットのスマホがピコンと軽やかな音を立てた。
冬花からのメッセージだった。
『大掃除、苦戦しているようですね。未来のデータによれば、あなたは掃除中に昔のアルバムを見つけてしまい、三時間は作業が停滞するはずですが』
そのあまりにも的確すぎる未来予知。
俺はちょうどその中学時代の卒業アルバムを手に取ってしまっていたところだった。
『……助けてくれ』
俺はプライドも何もかも捨ててSOSを送る。
すぐに返信が来た。
『承知しました。五分で向かいます』
そのあまりにも頼もしすぎる返信に、俺はまたしても救われたのだった。

そして五分後。
我が家のチャイムが鳴り、俺の部屋に最強の助っ人が降臨した。
「お邪魔します」
ラフなニットのセーターにジーンズという動きやすい服装。銀色の髪は邪魔にならないように高い位置でお団子にまとめられている。
そのあまりにも完璧な『大掃除スタイル』。
「あら、冬花ちゃん! いらっしゃい!」
階下からは母親の弾むような声が聞こえてくる。
もはや母親は、冬花がいつ我が家を訪れても驚かない。それどころか心待ちにしている節すらあった。
「すみません、お母様。優斗さんが一人では年を越せないとお聞きしましたので」
「まあ、そうなのよ! 本当にあの子は手がかかるんだから! 冬花ちゃんがビシバシしつけてやってちょうだい!」
そんな嫁と姑のような会話が聞こえてくる。
俺は少しだけ気恥ずかしいような、でも誇らしいような複雑な気持ちで、そのやり取りを聞いていた。

俺の部屋に入った冬花は、その惨状を一瞥すると深いため息をついた。
「……想定を上回るエントロピーの増大です。ですが、問題ありません」
彼女はそう言うと、持ってきたエプロンをテキパキと身につけた。
そこから彼女の神がかり的な片付け能力が、遺憾なく発揮された。
「漫画雑誌は年代別にこちらへ。教科書と参考書は本棚のこの位置が最も効率的です」
「その黒歴史ノートは見なかったことにしますので、速やかに焼却処分を推奨します」
「ベッドの下は未来のあなたが隠し事をしていた聖域(サンクチュアリ)です。徹底的に浄化しましょう」
彼女の的確すぎる指示。
俺はただその指示通りに動くだけ。
すると、あれほど混沌としていた俺の部屋がまるで魔法のようにみるみるうちに片付いていくではないか。
俺が呆然とその光景を見つめていると、彼女はふふんと完璧なドヤ顔で俺を見た。
「未来では、あなたの散らかし放題の書斎を片付けるのが私の日曜日の日課でしたから。これくらい朝飯前です」
そのあまりにも頼もしすぎる未来の嫁。
俺はもう彼女に頭が上がらなかった。

大掃除があらかた終わった頃。
ひょっこりと母親がお茶とお菓子を持って部屋にやってきた。
「わあ、すごい! まるで新築みたい!」
母親は生まれ変わった俺の部屋を見て、感嘆の声を上げる。
そして冬花のその働きぶりに、心からの尊敬の眼差しを向けた。
「本当にありがとうね、冬花ちゃん。あなたみたいな子が優斗のお嫁さんに来てくれたら、お母さん思い残すことは何もないわ」
「か、母さん!」
俺が顔を真っ赤にして慌てる。
だが、冬花は動じなかった。
彼女は母親のその真っ直ぐな瞳を見つめ返すと、にっこりと完璧な淑女の笑みを浮かべた。
「光栄です、お母様。その未来を、絶対に実現させてみせます」
そのあまりにも堂々とした勝利宣言。
母親はもうメロメロだった。
「まあ! まあ! なんて良い子なの!」
彼女は冬花の手を両手でぎゅっと握りしめ、感動に打ち震えている。
その光景はもはやただの息子の彼女と母親という関係性を遥かに超えていた。
そこにいたのは。
未来の新しい家族の姿、そのものだった。

その夜。
俺たちは三人で食卓を囲んだ。
冬花が手伝ってくれた温かい鍋料理。
母親と冬花が楽しそうに談笑している。
俺は、そのあまりにも幸せで、あまりにも温かい光景をただ黙って見つめていた。
俺が守りたいものはこれなんだ。
冬花との未来だけじゃない。
こうして俺の大切な家族と彼女が笑い合える、この何気ない日常。
その全てを、俺はこの手で守り抜かなければならない。
俺は心の中で固く、固く誓った。

冬花が帰った後。
母親が俺の隣に来て、しみじみと言った。
「優斗」
「……なんだよ」
「あんなに良い子、絶対に逃しちゃだめよ。お母さんが許しませんからね」
その真剣な眼差し。
俺は照れくさそうに、しかし力強く頷いた。
「……分かってるよ」
俺のその返事に、母親は満足そうに微笑んだ。
年末の慌ただしい一日。
それは俺たちの絆を、そして未来の家族の温もりを確かめ合うための、かけがえのない一日となったのだった。
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