隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第87話 年始の訪問、あるいは完璧なおせち料理

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年末の大掃除から数日が過ぎ、街はすっかり新しい年の訪れを祝う穏やかな空気に包まれていた。
俺はいわゆる寝正月を決め込み、こたつでみかんを食べながら録り溜めたテレビ番組を消化するという、最高に自堕落な三が日を過ごしていた。
そんな平和を絵に描いたような元旦の昼下がり。
俺のスマホが静かに、しかし確かな存在感を主張して震えた。
冬花からのメッセージだった。
『あけましておめでとうございます、優斗さん。本年もよろしくお願いいたします』
そのあまりにも丁寧で淑やかな新年の挨拶。
その下に紋付袴姿のペンギンが深々と頭を下げているスタンプが添えられていた。可愛すぎる。
俺はにやけそうになる口元を必死に抑えながら返信する。
『あけおめ。今年もよろしくな』
するとすぐに既読がつき、新たなメッセージが届いた。

『つきましては、明日の午後、私の家へお越しください。未来のあなたも毎年年始には私の手料理を食べに来るのが恒例でしたから』

彼女の家。
そのあまりにも破壊力のある単語に、俺はこたつから飛び起きそうになった。
彼女はこの街で一人暮らしをしている。それは前にちらりと聞いていた。
だが、その聖域(サンクチュアリ)に足を踏み入れる日が、こんなにも早く訪れるなんて。
俺の心臓は新年の祝い太鼓のように、ドンドコとけたたましく鳴り響き始めた。
これはただの年始の挨拶ではない。
未来の夫婦生活の予行演習だ。
俺はゴクリと喉を鳴らした。

翌日、一月二日。
俺は母親に「冬花ちゃんによろしくね!」という温かい(?)プレッシャーを背中に受けながら、彼女が指定したマンションへと向かった。
それは駅前の新しくて綺麗なマンションだった。
オートロックのインターホンを押し、緊張しながら彼女の部屋番号を告げる。
『はい』
スピーカーから聞こえてくる彼女のいつも通りのクールな声。
それになぜか少しだけ安堵しながら、俺はエレベーターで彼女が待つ階へと上がっていった。
ドアの前で一度深呼吸をする。
そしてチャイムを鳴らした。
すぐにガチャリとドアが開き、彼女が姿を現した。

「いらっしゃいませ、優斗さん」

その姿を見た瞬間、俺はまたしても言葉を失った。
彼女は着物を着ていた。
淡い桜色の生地に雪の結晶の模様が上品にあしらわれた、美しい振袖。
銀色の髪は夏祭りの時と同じように綺麗に結い上げられ、そこには小さな椿の花のかんざしが挿してある。
いつもよりも少しだけ丁寧に引かれた紅。
そのあまりにも完璧な和装姿。
それは夏祭りの浴衣姿とはまた違う、凛とした気品と清らかさに満ちていた。
まるで旧家の深窓の令嬢。
そのあまりの美しさに、俺はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「……あけまして、おめでとう」
俺がかろうじて絞り出した声は、ひどく上ずっていた。
「おめでとうございます」
彼女はそう言って、ふわりと花が綻ぶように微笑んだ。
その笑顔だけで、俺は今年一年幸せに暮らせることを確信した。

部屋の中に通される。
そこは彼女のイメージ通りの、清潔で洗練された空間だった。
無駄なものは何一つなく、全てがあるべき場所に完璧に収まっている。
だが、冷たい印象は全くなかった。
窓から差し込む柔らかな冬の日差し。
小さなテーブルの上に飾られた可愛らしい季節の花。
その一つ一つが彼女の温かい人柄を物語っているようだった。
「どうぞ、こちらへ」
彼女に促され、俺はローテーブルの前に腰を下ろした。
すると彼女はキッチンから、大きな三段重ねの立派な重箱を運んできた。
そして俺の目の前で、その蓋をゆっくりと開ける。

その瞬間、俺は三度息を呑んだ。
重箱の中にぎっしりと詰められていたのは、色とりどりの宝石のように美しいおせち料理だった。
伊達巻、栗きんとん、黒豆、数の子。
その一つ一つがまるで料亭で出されるかのように、丁寧に、そして美しく盛り付けられている。
「……これ、全部お前が作ったのか?」
俺の信じられないという問いに、彼女はこくりと当たり前のように頷いた。
「はい。未来のあなたも私のおせちが大好物でしたから。『これがないと一年が始まらない』と、毎年楽しみにしてくれていました」
そのあまりにも完璧すぎる未来の嫁。
俺はもう感動を通り越して、畏敬の念すら抱いていた。

「さあ、どうぞ。お雑煮もありますよ」
彼女が差し出してくれたお椀。
中には透き通ったおすましに焼いた角餅と鶏肉、そして彩りの良い野菜が入っている。
俺は震える手で箸を取った。
そしてまず、お雑煮のおつゆを一口。
途端に口いっぱいに上品な出汁の香りと優しい旨味が広がった。
美味い。
心の底から温まるような、そんな優しい味だった。
俺は夢中で箸を進めた。
おせち料理もどれもこれも絶品だった。
甘さ、塩加減、食感。その全てが完璧に計算され尽くしている。
俺は生まれて三十年以上(未来の記憶を含む)、こんなに美味いおせち料理を食べたことがなかった。

俺が無言で一心不乱に食べ進めるのを、彼女は嬉しそうに、そして愛おしそうに見つめている。
やがて俺が最後の一口を飲み込んだ時。
彼女は満足げに微笑んだ。
「お粗末様でした」
「……いや、本当に美味かった。ごちそうさま」
俺が心からの感謝を伝えると、彼女は少しだけ照れたようにはにかんだ。
その笑顔はどんなご馳走よりも、俺の心を満たしてくれた。

年始の穏やかな昼下がり。
彼女の部屋で彼女の手料理を二人きりで味わう。
それはまるで未来の俺たちのささやかな幸せな日常を垣間見たような、そんな不思議で温かい時間だった。
俺はこの幸せを絶対に失わない。
その決意を胸に固く、固く刻み込んだ。
運命の日まであと一ヶ月と少し。
俺たちの戦いはもうすぐそこまで迫っていた。
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