隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第90話 決意の夜、あるいは二人なら怖くない

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「怖くない、と言えば嘘になります」

電話の向こうで、冬花がぽつりと呟いた。
俺が無理に明るく振る舞って見せた、その裏側にある本当の恐怖を、彼女はちゃんと見抜いていた。
「私も、怖いです。毎日、眠りにつくたびに考えてしまう。もし、明日、あなたに何かあったら、と」
その声は静かだったが、その奥に深い、深い恐怖が澱のように溜まっているのが分かった。
彼女は俺の前では気丈に、完璧な司令官として振る舞ってくれている。
だが、その心の中は俺と同じように、いや、俺以上に不安でいっぱいなのだ。
何しろ彼女は一度、俺を失うという絶望を経験しているのだから。

「……でも」
彼女は続けた。
その声に、凛とした芯の強さが戻ってくる。

「でも、優斗さんと一緒なら乗り越えられると信じています」

その、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも力強い信頼の言葉。
俺の心の中にあった最後の小さな恐怖の欠片が、すっと消えていくのを感じた。
そうだ。
怖いのは俺だけじゃない。
彼女も怖いんだ。
でも、彼女は俺を信じてくれている。
だったら俺が怖がっている場合じゃない。
俺が彼女を支えなければ。俺が彼女の盾にならなければ。

「……ああ。俺もだ」
俺は力強く答えた。
「俺も、お前と一緒だから怖くない。むしろワクワクしてるくらいだぜ。どんなクソみたいな運命も、二人でなら笑い飛ばせるってな」
俺のその言葉に、電話の向こうで彼女がふふっと優しく笑う気配がした。
「……はい。そうですね」
その穏やかな笑い声。
それだけで俺の心は不思議なくらい静かに、そして熱く満たされていった。
俺は彼女を守り抜く。
彼女が信じてくれる俺になる。
その固い、固い決意が俺の全身を駆け巡った。
これはもう、ただ彼女に守られるだけの戦いじゃない。
俺が彼女を、そして俺たちの未来を守るための戦いなのだ。

運命の日、二月十四日まであと数日。
俺たちの周りで起こる不運の頻度は、さらに増していた。
学校の廊下で、突然上から黒板消しが落ちてきたり。
帰り道、信号が青になった瞬間に、目の前で車がスリップしたり。
その一つ一つが、まるで警告のようだった。
運命が『諦めろ』と俺たちに囁いているかのようだった。
だが、俺たちの心はもう揺るがなかった。
むしろ、その露骨なまでの干渉が俺たちの闘志をさらに燃え上がらせていた。
「見てろよ、運命とやら」
俺は心の中で、見えない敵に呟く。
「俺たちは絶対にお前の思い通りにはならない」

そして、運命の日の三日前。
俺は冬花と二人で最後の作戦会議を開いていた。
場所は俺の部屋。
テーブルの上には、駅前の大きな地図が広げられている。
「事故が起きる交差点はここです」
冬花が赤いペンで、地図の一点を指し示した。
駅の東口を出てすぐの、大きな五差路。
「時間は午後二時十七分。未来の記録によれば、間違いありません」
「分かった。その日、その時間、俺たちは絶対にこの場所には近づかない。家から一歩も出ない。それが基本方針だ」
俺がそう言うと、彼女もこくりと頷いた。
「はい。それが最も安全で、確実な回避策です」

だが、俺たちの心の中には同じ懸念があった。
本当にそれだけでいいのだろうか。
『運命の修正力』はきっと何か別の罠を仕掛けてくるはずだ。
俺たちを外に誘い出すための巧妙な罠を。
「……もし、何かあったら」
俺が口を開いた。
「もし俺たち以外の誰かが危険な目に遭うようなことがあったら……。例えば陽平とか、天宮さんとか」
それは考えたくない、最悪の可能性。
運命が俺たちを動かすために、俺たちのたい大切な人たちを人質に取るかもしれない。
俺のその問いに、彼女はしばらく黙り込んでいた。
そして静かに顔を上げた。
その瞳には、深い、深い覚悟の色が宿っている。

「その時は……」
彼女は一度言葉を切り、そしてはっきりと告げた。
「その時は、非情になるしかありません」
「え……?」
「どんな悲劇が起ころうとも私たちは家から出てはいけない。それがどんなに辛い選択でも。それが私たちの未来を掴むための唯一の道だからです」
彼女のその、あまりにも冷徹で、あまりにも残酷な言葉。
俺は息を呑んだ。
彼女はそこまでの覚悟を決めているのだ。
自分の心を鬼にしてでも、俺を守り抜くと。
そのあまりにも壮絶な愛情の深さ。
俺はもう何も言えなかった。
ただ、彼女のその覚悟を俺も一緒に背負うしかないのだと悟った。

「……分かった」
俺は力強く頷いた。
「どんなことがあっても、俺たちは家から出ない。二人で一緒に運命の時間が過ぎ去るのを待つ。それでいいんだな」
「……はい」
彼女もこくりと頷いた。
その瞳の奥に、一瞬だけ深い悲しみの色がよぎったのを、俺は見逃さなかった。
だが俺はもう何も聞かなかった。
ただ彼女のその小さな手を、強く、強く握りしめるだけだった。

決戦の前夜。
俺たちは、お互いの最後の覚悟を確かめ合った。
怖くない、と言えば嘘になる。
足が震えそうだ。
でも、俺はもう一人じゃない。
隣には俺よりもずっと強い覚悟を持った、最高のパートナーがいてくれる。
俺は彼女を守り抜く。
その固い、固い決意だけを胸に。
俺たちは運命のバレンタインデーを、静かに待っていた。
それが俺たちの未来を懸けた最後の戦いの、始まりとなることを知りながら。
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