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第89話 運命の足音、あるいは頻発する不運
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年始の、あの穏やかで幸せな一日から、俺たちの日常は静かに、しかし確実にその様相を変え始めていた。
運命の日、二月十四日まであと一ヶ月を切った。
それは俺たちにとって、決戦への最終カウントダウンの始まりを意味していた。
俺と冬花の絆は、もはや揺るぎない。
だが、俺たちの敵である『運命の修正力』もまた、その力を日に日に増してきているようだった。
それは最初は、本当に些細な不運の連続だった。
朝、家を出ようとしたら靴紐がぷつりと切れる。
通学路のいつもの自動販売機でジュースを買おうとしたら、なぜか俺の時だけ売り切れのランプが点灯する。
授業中、教師に当てられ完璧に答えられるはずの問題で、うっかり言い間違えてしまう。
一つ一つはただの偶然で片付けられるような、小さな小さなアンラッキー。
だが、それが毎日、それも俺の身にだけ立て続けに起これば話は別だ。
「……始まったな」
俺がため息混じりに呟くと、隣の冬花も険しい表情で頷いた。
「はい。運命の干渉がより直接的になってきています。警戒レベルを一段階引き上げる必要がありますね」
彼女はまるで司令官のように冷静に状況を分析する。
その頼もしすぎる姿に、俺は少しだけ救われる思いだった。
だが、運命の攻撃は日に日にその悪意を増していった。
それはもはや、ただの不運では済まされないレベルへとエスカレートしていく。
ある日の化学の実験中。
俺がビーカーに薬品を注いでいると、隣の班の生徒が肘を滑らせて俺にぶつかってきた。
その衝撃で俺の手からビーカーが滑り落ち、床に叩きつけられて粉々に砕け散った。
もし、ぶつかられたタイミングがあと一秒ずれていたら。
もし、ビーカーの中身がもっと危険な薬品だったら。
そう思うと、俺の背筋を冷たい汗がつーっと流れた。
また、ある日の帰り道。
冬花と二人で駅のホームで電車を待っていると、後ろから何者かに強く突き飛ばされた。
「うわっ!」
俺は体勢を崩し、ホームの黄色い線の内側へとよろめく。
その鼻先を、轟音と共に猛スピードで通過していく特急列車。
風圧で俺の髪が激しく揺れた。
あと一歩。
あと一歩でも前に出ていたら……。
俺は血の気が引くのを感じた。
突き飛ばした犯人は人混みの中に、あっという間に紛れてしまい見つけることはできなかった。
それは本当に、ただの事故だったのだろうか。
それとも……。
俺はもう何も信じられなくなっていた。
「……大丈夫ですか、優斗さん!」
冬花が青ざめた顔で俺の腕を掴む。
その手は小さく、そして激しく震えていた。
「……ああ。大丈夫だ」
俺は彼女を安心させるように、無理に笑ってみせた。
だが、俺自身の心臓はまだ破裂しそうなほど激しく脈打っていた。
怖い。
正直、怖かった。
いつ、どこで、どんな形で運命が牙を剥いてくるか分からない。
この常に死と隣り合わせの緊張感。
それは確実に俺たちの精神を蝕んでいった。
その日の夜。
俺は冬花と電話で話していた。
毎晩こうして、お互いの無事を確かめ合うのが俺たちの新しい日課になっていた。
『……ごめんなさい』
電話の向こうで彼女がか細い声で謝った。
『え?』
『私があなたを巻き込んでしまったから……。あなたがこんな危険な目に遭うのは、全て私のせいです』
その声は罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
俺はそんな彼女の健気さがたまらなくて、胸が締め付けられるようだった。
「馬鹿、言うなよ」
俺はできるだけ優しい声で言った。
「お前のせいなんかじゃない。これは俺たちの問題だろ」
「でも……!」
「それに俺は、別に不幸だなんて思ってないぜ」
俺は窓の外の冬の夜空を見上げながら続けた。
「むしろ逆だ。俺は今、結構燃えてる」
『え……?』
「だってそうだろう? 相手は運命だぜ? そんなラスボスみたいなやつと戦えるなんて、なんか主人公みたいでかっこいいじゃねえか」
俺のその、あまりにも楽観的で、あまりにも不謹d慎な言葉。
電話の向こうで彼女が息を呑むのが分かった。
そして、次の瞬間。
くすっ、と小さな笑い声が聞こえてきた。
『……あなたは本当に、いつもそうですね』
その声にはもう涙の響きはなかった。
ただ、いつもの少しだけ呆れたような、でもどうしようもなく愛おしそうな響きがあった。
「だから心配すんな」
俺は力強く言った。
「俺が絶対にお前を守るから。そして二人で絶対に勝つんだ」
俺のその言葉に、電話の向-こうで彼女が力強く頷くのが分かった。
『……はい!』
その元気な声を聞いて、俺はようやく心から安堵した。
運命の日が近づくにつれて、俺たちの周りでは小さな不運が頻発し始める。
だが、それは俺たちの心を折ることはできなかった。
むしろ逆だ。
一つ、また一つと困難を乗り越えるたびに、俺たちの絆はより強く、より固くなっていく。
俺たちはもうただの高校生じゃない。
運命に抗う、たった二人の戦士なのだから。
その誇りを胸に、俺たちは決戦の日へと向かっていく。
たとえその先に、どんな絶望が待ち受けていようとも。
運命の日、二月十四日まであと一ヶ月を切った。
それは俺たちにとって、決戦への最終カウントダウンの始まりを意味していた。
俺と冬花の絆は、もはや揺るぎない。
だが、俺たちの敵である『運命の修正力』もまた、その力を日に日に増してきているようだった。
それは最初は、本当に些細な不運の連続だった。
朝、家を出ようとしたら靴紐がぷつりと切れる。
通学路のいつもの自動販売機でジュースを買おうとしたら、なぜか俺の時だけ売り切れのランプが点灯する。
授業中、教師に当てられ完璧に答えられるはずの問題で、うっかり言い間違えてしまう。
一つ一つはただの偶然で片付けられるような、小さな小さなアンラッキー。
だが、それが毎日、それも俺の身にだけ立て続けに起これば話は別だ。
「……始まったな」
俺がため息混じりに呟くと、隣の冬花も険しい表情で頷いた。
「はい。運命の干渉がより直接的になってきています。警戒レベルを一段階引き上げる必要がありますね」
彼女はまるで司令官のように冷静に状況を分析する。
その頼もしすぎる姿に、俺は少しだけ救われる思いだった。
だが、運命の攻撃は日に日にその悪意を増していった。
それはもはや、ただの不運では済まされないレベルへとエスカレートしていく。
ある日の化学の実験中。
俺がビーカーに薬品を注いでいると、隣の班の生徒が肘を滑らせて俺にぶつかってきた。
その衝撃で俺の手からビーカーが滑り落ち、床に叩きつけられて粉々に砕け散った。
もし、ぶつかられたタイミングがあと一秒ずれていたら。
もし、ビーカーの中身がもっと危険な薬品だったら。
そう思うと、俺の背筋を冷たい汗がつーっと流れた。
また、ある日の帰り道。
冬花と二人で駅のホームで電車を待っていると、後ろから何者かに強く突き飛ばされた。
「うわっ!」
俺は体勢を崩し、ホームの黄色い線の内側へとよろめく。
その鼻先を、轟音と共に猛スピードで通過していく特急列車。
風圧で俺の髪が激しく揺れた。
あと一歩。
あと一歩でも前に出ていたら……。
俺は血の気が引くのを感じた。
突き飛ばした犯人は人混みの中に、あっという間に紛れてしまい見つけることはできなかった。
それは本当に、ただの事故だったのだろうか。
それとも……。
俺はもう何も信じられなくなっていた。
「……大丈夫ですか、優斗さん!」
冬花が青ざめた顔で俺の腕を掴む。
その手は小さく、そして激しく震えていた。
「……ああ。大丈夫だ」
俺は彼女を安心させるように、無理に笑ってみせた。
だが、俺自身の心臓はまだ破裂しそうなほど激しく脈打っていた。
怖い。
正直、怖かった。
いつ、どこで、どんな形で運命が牙を剥いてくるか分からない。
この常に死と隣り合わせの緊張感。
それは確実に俺たちの精神を蝕んでいった。
その日の夜。
俺は冬花と電話で話していた。
毎晩こうして、お互いの無事を確かめ合うのが俺たちの新しい日課になっていた。
『……ごめんなさい』
電話の向こうで彼女がか細い声で謝った。
『え?』
『私があなたを巻き込んでしまったから……。あなたがこんな危険な目に遭うのは、全て私のせいです』
その声は罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
俺はそんな彼女の健気さがたまらなくて、胸が締め付けられるようだった。
「馬鹿、言うなよ」
俺はできるだけ優しい声で言った。
「お前のせいなんかじゃない。これは俺たちの問題だろ」
「でも……!」
「それに俺は、別に不幸だなんて思ってないぜ」
俺は窓の外の冬の夜空を見上げながら続けた。
「むしろ逆だ。俺は今、結構燃えてる」
『え……?』
「だってそうだろう? 相手は運命だぜ? そんなラスボスみたいなやつと戦えるなんて、なんか主人公みたいでかっこいいじゃねえか」
俺のその、あまりにも楽観的で、あまりにも不謹d慎な言葉。
電話の向こうで彼女が息を呑むのが分かった。
そして、次の瞬間。
くすっ、と小さな笑い声が聞こえてきた。
『……あなたは本当に、いつもそうですね』
その声にはもう涙の響きはなかった。
ただ、いつもの少しだけ呆れたような、でもどうしようもなく愛おしそうな響きがあった。
「だから心配すんな」
俺は力強く言った。
「俺が絶対にお前を守るから。そして二人で絶対に勝つんだ」
俺のその言葉に、電話の向-こうで彼女が力強く頷くのが分かった。
『……はい!』
その元気な声を聞いて、俺はようやく心から安堵した。
運命の日が近づくにつれて、俺たちの周りでは小さな不運が頻発し始める。
だが、それは俺たちの心を折ることはできなかった。
むしろ逆だ。
一つ、また一つと困難を乗り越えるたびに、俺たちの絆はより強く、より固くなっていく。
俺たちはもうただの高校生じゃない。
運命に抗う、たった二人の戦士なのだから。
その誇りを胸に、俺たちは決戦の日へと向かっていく。
たとえその先に、どんな絶望が待ち受けていようとも。
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