スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第4話:第一階層・恵みの草原

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指先の傷を一瞬で癒やした緑色の液体。俺は、手のひらに残ったポーション草の香りを嗅いだ。爽やかで、どこか甘い香り。これが、この不思議な地下空間で最初に見つけた宝物だった。

「すごいな……本当に」

独り言が、静かな草原に吸い込まれていく。
ここは間違いなくダンジョンだ。だが、俺が知っているどのダンジョンとも違う。危険なモンスターの気配はなく、ただ穏やかで清浄な空気が満ちている。まるで、世界から切り離された楽園のようだった。

俺はもっとこの場所を知りたくなった。ショートソードの柄を握り直し、ゆっくりと草原を歩き始める。
足元の草は、踏みしめてもすぐに起き上がるほどの生命力を持っていた。少し歩くと、キラキラと輝く小さな小川が流れているのを見つけた。水は驚くほど透明で、川底の白い砂利まではっきりと見える。

屈んで水をすくってみる。冷たくて、口に含むと微かな甘みを感じた。
その瞬間、またしても頭の中に情報が流れ込んできた。

【マナウォーター:鑑定結果】
【効果:生命力を活性化させ、魔力をわずかに回復させる清浄な水。植物の成長を著しく促進する。】
【状態:極めて良質。飲用可能。】

「マナウォーター……」

なるほど。この草原の植物がこれほど瑞々しく育っているのは、この水のおかげらしい。ただの水ではない。魔力を含んだ特別な水だ。これを地上の畑に撒いたらどうなるだろうか。想像しただけで、期待に胸が膨らんだ。

小川に沿ってさらに進むと、少し開けた場所に様々な植物が群生しているのを発見した。そのどれもが、地上では見たことのないものばかりだ。俺は一つ一つに触れ、鑑定能力でその正体を確認していく。

【スタミナベリー:鑑定結果】
【効果:摂取すると疲労が回復し、活力が湧き上がる。甘酸っぱく美味。】
【状態:完熟。収穫可能。】

小指の先ほどの大きさの、真っ赤な実。試しに一粒口に放り込んでみると、ベリー特有の甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。そして、数秒もしないうちに、歩き回っていた疲れがすっと引いていくのを感じた。体が軽くなり、力がみなぎってくる。これはすごい。冒険者が携帯するレーション(非常食)とは比べ物にならない。

【グロウマッシュルーム:鑑定結果】
【効果:非常に栄養価が高く、濃厚な旨味を持つキノコ。あらゆる料理に適する。】
【状態:成長中。あと半日で収穫可能。】

傘が手のひらほどもある、立派なキノコ。鑑定結果によればまだ収穫には早かったが、その芳醇な香りは隠しきれていなかった。これを使えば、さぞ美味いスープが作れるだろう。

次から次へと見つかる有用な植物たち。
ここは、まるで宝の山だ。いや、宝を生み出し続ける魔法の畑そのものだ。

俺は夢中で収穫した。ポーション草を数十本。スタミナベリーを一袋分。幸い、少し成長したグロウマッシュルームもいくつか見つかったので、それも採取する。腰の袋はあっという間にパンパンになった。

一通り探索を終え、俺は最初の階段の場所まで戻ってきた。
この第一階層は、見渡す限り穏やかな草原と小さな森、そして清らかな小川が流れる空間のようだ。広さは、地上で俺が開墾した畑の二倍くらいだろうか。一人で管理するには広すぎるほどだ。

しかし、なぜこんな場所が俺の畑の下に?
俺は自分の手のひらを見つめた。スキル【土いじり】。
このダンジョンにいると、スキルとの結びつきがより強固になっている気がする。鑑定能力が使えたのも、マナウォーターや植物たちが俺の呼びかけに応えるように情報を開示してくれたのも、全て【土いじり】がこの空間と共鳴しているからではないだろうか。

もしかしたら、このダンジョンは俺のスキルによって『生まれた』のかもしれない。荒れ地を開墾したあの時、俺のスキルがこの土地の深くに眠っていた何らかの力を呼び覚ましてしまった……。
考えすぎかもしれない。だが、そうとしか思えなかった。

「……そろそろ地上に戻るか」

名残惜しいが、長居は禁物だ。ダンジョンの中は時間の感覚が狂いやすい。何時間もいたつもりで、地上では数日経っていた、なんて話もよく聞く。
俺は収穫物で膨らんだ袋をしっかりと背負い、石の階段を上った。

蓋を押し開け、外に出る。
眩しい光に一瞬目がくらんだが、すぐに慣れた。
太陽の位置を確認する。まだ真上だ。俺がダンジョンに入ったのは朝の作業が終わった直後だったから、体感では二、三時間ほど探索していたつもりだったが、地上では三十分も経っていなかったらしい。

このダンジョンは、地上と時間の流れが違う。それも、中の方がずっと速く進むようだ。
これは、とんでもない発見だった。
つまり、ダンジョンの中で一日かけて作物を育てても、地上ではほんの数時間しか経過しないということだ。作物の高速栽培が可能になる。

「はは……なんだか、すごすぎて笑えてくるな」

俺は乾いた笑いを漏らした。
追放された時は絶望の淵にいたはずなのに、今ではとてつもない可能性を手にしている。人生とは分からないものだ。

俺は小高い丘の上の拠点に戻ると、早速夕食の準備に取り掛かった。
今日のメニューは、ダンジョンから持ち帰ったばかりのグロウマッシュルームを使ったスープだ。鍋に小川で汲んできたマナウォーターを注ぎ、火にかける。そこに干し肉と、手で裂いたグロウマッシュルームを入れた。

ぐつぐつと煮えてくると、信じられないほど豊かで香ばしい香りが立ち上ってきた。思わずごくりと喉が鳴る。
塩で軽く味を調え、木の器によそって一口すする。

「……美味い!」

思わず声が出た。
なんだこの味は。濃厚なキノコの旨味が舌の上でとろける。干し肉の塩気と合わさり、今まで食べたどんな高級料理よりも深く、滋味深い味わいを生み出していた。マナウォーターを使ったせいか、体の中からじんわりと温まり、力が回復していくのが分かる。

夢中でスープを飲み干し、俺は満足のため息をついた。
食料は、もはや心配する必要はないだろう。スタミナベリーもある。回復薬になるポーション草もある。生活の基盤は、たった一日で盤石なものになった。

日が沈み、空が星々で埋め尽くされる。
俺は焚き火の炎を見つめながら、これからの計画を練っていた。

まず、ポーション草を安定して供給できるようにしたい。そのためには、ダンジョン内で栽培するのが一番だろう。第一階層の肥沃な土とマナウォーターを使えば、きっとすぐに増えるはずだ。
次に、このダンジョンのさらなる探索。まだ見ぬ植物や、鉱石のような資源が見つかるかもしれない。もしかしたら、下の階層へ続く道もあるかもしれない。

そして、このダンジョンの秘密を解き明かすこと。なぜ生まれたのか、俺のスキルとどう関係しているのか。それを知ることは、俺自身の力を知ることに繋がるはずだ。

追放された時は、ただ静かに、目立たずに暮らしていければいいと思っていた。
だが、今は違う。
この手にある力を、試してみたい。この農園とダンジョンを、最高の楽園に育て上げてみたい。

「新しい始まりだ」

俺は立ち上がると、昼間に汲んできたマナウォーターの残りを水差しに入れ、地上の畑へと向かった。
昨日耕したばかりの黒い土。そこに、種芋を植えるために掘った溝があった。
俺は祈るように、その溝にマナウォーターをゆっくりと注いだ。

水が土に染み込んでいく。
その瞬間、土が本当に、一瞬だけ淡い光を放ったように見えた。

気のせいかもしれない。
だが、俺の心には確かな手応えが残っていた。
明日、この畑がどうなっているか。それを確かめるのが楽しみで仕方がなかった。
俺は希望に満ちた心で、自分の寝床へと戻っていった。
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