スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第8話:最初の仲間

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故郷の森が病んでいる。
シルフィの言葉は、俺の心の奥に重く響いた。彼女の翠の瞳には、深い悲しみと、それでも諦めないという強い意志が宿っている。
俺は追放され、帰る場所を失った。だが彼女には、守りたい故郷がある。そのために、たった一人で伝説の薬草を探す旅を続けているのだ。

俺はクワを地面に置き、一つ息をついた。
こいつは信用できるかもしれない。いや、信用したいと思った。
追放されて以来、俺は他人を遠ざけてきた。もう誰も信じまいと、自分の殻に閉じこもっていた。だが、目の前のエルフの真摯な姿は、その殻に小さなひびを入れた。

「……分かった。見せてやる」
俺が決意を口にすると、シルフィの顔がぱっと明るくなった。
「本当ですか!?」
「ただし、条件がある。ここで見たことは、絶対に誰にも話さないこと。あんたの言うエルフの名にかけて、だ」
「もちろんです! 誓います!」
シルフィは胸に手を当て、力強く頷いた。その真剣な表情に、嘘の色は見えない。

俺は彼女を促し、畑の中心へと歩き始めた。シルフィは俺の後ろを、土を踏まないように慎重についてくる。
やがて、あの石の蓋の前にたどり着いた。
「まさか、この下に……?」
シルフィが驚きの声を上げる。彼女ほどの人物なら、この蓋がただの遺跡ではないことを見抜いているのだろう。

俺は無言で蓋に手をかけ、【土いじり】の力で補助しながらゆっくりと脇にずらした。
冷たく、しかし清浄な空気が吹き上げてくる。闇へと続く階段が、再びその姿を現した。
「……ついてこい」
俺は魔光石を手に、先に階段を降り始めた。シルフィは一瞬ためらったようだが、すぐに意を決して俺の後に続いた。

階段を降りきり、第一階層の草原に足を踏み入れた瞬間。
俺の後ろから、はっと息を呑む音が聞こえた。

「これは……」

シルフィは、目の前に広がる光景に完全に言葉を失っていた。
地下にあるとは思えない柔らかな光。青々と茂る草原。色とりどりの花々。
彼女は呆然と立ち尽くし、信じられないものを見るかのように周囲を見渡している。エルフである彼女にとって、この生命力に満ちた空間は、地上のどんな森よりも衝撃的だったのかもしれない。

「太陽も月もないのに、植物が育っている……。流れる水はマナを帯び、空気はどこまでも清浄……。まるで、神話の時代のようです」
その声は、感動で震えていた。
俺はそんな彼女を横目に、ポーション草が群生している場所まで案内した。

「あんたが探している薬草がこれかは分からない。だが、俺がポーションに使ったのは、この草だ」
俺が指差した先。エメラルドグリーンの葉を持つ植物を見て、シルフィは吸い寄せられるように駆け寄った。
彼女は膝をつくと、まるで聖遺物に触れるかのように、そっとポーション草の葉に指を触れさせた。そして、目を閉じ、深く集中している。エルフ独自の鑑定法か何かだろう。

長い沈黙が流れる。
やがて、彼女はゆっくりと目を開けた。その翠の瞳は潤み、一筋の涙が頬を伝っていた。
「……間違いない。これです。古文書に記された『生命の雫』の原種……! まさか、本当に実在したなんて……!」

彼女は感極まった様子で、ポーション草を愛おしそうに撫でた。
「この草が持つ生命力は、伝説以上です。これを育て、正しく調合すれば、私の故郷の森は……救われます!」
確信に満ちた声だった。俺は、自分の畑で生まれたものが、遠いエルフの森を救うかもしれないという事実に、不思議な感動を覚えていた。

シルフィは立ち上がると、俺に向き直り、エルフの流儀なのか、深く、丁寧にお辞儀をした。
「ありがとうございます、アルフォンス。あなたのおかげで、私は希望を見つけることができました」
いつの間にか、俺の名前を呼ばれていた。
「礼を言われる筋合いはない。俺はただ、あんたの覚悟を信じただけだ」
俺はぶっきらぼうに答える。照れ臭かったのだ。

すると、シルフィは真剣な表情で、とんでもないことを言い出した。
「アルフォンス。一つ、お願いがあります」
「なんだ?」
「どうか、私をここに住まわせてください!」
「……は?」

予想外の申し出に、俺は素っ頓狂な声を上げた。
「住むって……ここに? この農園にか?」
「はい!」
シルフィは力強く頷いた。「この『生命の雫』……ポーション草は、あまりにも未知の要素が多すぎます。その生態、最適な栽培法、そして最も効果的な調合方法。それらを研究するには、この場所で、あなたの側で学ぶのが一番です」
彼女の瞳は、研究者の情熱で燃え上がっていた。
「薬師として、この奇跡の薬草を解明する手伝いをさせてください。私の知識と技術は、必ずあなたの役に立ちます。家賃の代わりに、ポーションの開発や薬の調合はすべて私が引き受けます。どうでしょうか?」

とんでもない提案だった。
この人里離れた農園で、見ず知らずの、それも絶世の美女と二人で暮らす?
そんなこと、考えたこともなかった。追放された心の傷は、まだ完全には癒えていない。他人と暮らすことに、一抹の不安があった。

だが、それと同時に、俺の心の中には別の感情も芽生えていた。
それは、孤独感からの解放。
一人きりの生活は自由で気楽だった。だが、夜、焚き火を一人で見つめていると、どうしようもない寂しさに襲われることもあった。
ここに、仲間がいたら。
共に食卓を囲み、今日の出来事を語り合う相手がいたら。
それは、俺が「竜の牙」にいた頃に、心のどこかで求めていたものなのかもしれない。

シルフィの申し出は、薬師としての労働力を提供するという、対等な取引だ。彼女は俺に依存しようとしているわけではない。お互いの知識と技術を持ち寄り、協力しようと言っているのだ。
それなら、悪くないかもしれない。

「……分かった」
俺は、観念したように息を吐いた。
「寝床は自分で確保しろよ。俺はテント一つしか持ってないからな」
「本当ですか! ありがとうございます!」

俺の許可が出ると、シルフィは子供のようにはしゃいだ。さっきまでの冷静沈着な姿からは想像もつかない。
「寝床なら問題ありません。エルフは森の木々と語らい、枝を借りて眠ることもできますから」
そう言うと、彼女は俺の農園の端に生えている一本の樫の木を見つめ、にこりと微笑んだ。

こうして、俺の農園に最初の仲間ができた。
エルフの薬師、シルフィ。
彼女の存在が、俺の孤独なスローライフに、彩りと、そして新たな可能性をもたらすことになる。
まだ、その時の俺は漠然とそう感じているだけだった。
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