スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第25話 決裂

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「……断る」

俺の口から放たれた言葉は静かだった。だが、その響きは鋼のように硬く、一切の妥協を拒絶していた。
その場にいた誰もが息を呑んだ。
特に役人のオズワルドは、信じられないという顔で目を丸くしている。彼にとって、俺がその要求を拒否することなど想定の範囲外だったのだろう。

「……き、貴様、今、何と言った?」
オズワルドの声がわずかに震えていた。
「聞こえなかったのか。そのふざけた要求は断ると言ったんだ」
俺は一歩前に出た。「金貨百枚? 全量献上? それは税じゃない、ただの強奪だ。そんなものに、俺たちが従う義理はない」

俺の毅然とした態度に、オズワルドの顔が怒りでみるみるうちに赤黒く染まっていく。
「き、貴様……! 代官様の、バルトーク子爵様のご命令に逆らうというのか! それがどういうことか分かっているのか!」
「分かっているさ。あんたたちの主人は法律を笠に着て、俺たちからすべてを奪い取ろうとしているんだろう。だが、残念だったな。俺たちはあんたたちの奴隷になるつもりは毛頭ない」

俺の言葉は、この場にいる仲間たちの総意だった。
シルフィが静かに俺の隣に並び立つ。その手にはいつの間にか美しい弓が握られていた。
リズベットはウォーハンマーを肩に担ぎ、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべている。
フェンリルは低い姿勢で唸り声を上げ、その銀色の瞳で兵士たちを射抜いていた。
そして、俺たちの背後では数十体のゴンスケたちが、その無機質な視線を一斉に役人たちへと向けていた。

その異様で圧倒的なプレッシャーに、オズワルドの護衛についていた兵士たちが明らかに怯え、後ずさった。
彼らは自分たちがとんでもない場所に来てしまったことを、ようやく理解したのだ。

「馬鹿な……! たかが農夫風情が領主様に逆らうなど……!」
オズワルドはまだ現実を受け入れられないようだった。彼は最後の切り札を切るように、ヒステリックに叫んだ。
「いいだろう! そこまで言うのなら、貴様らを反逆者として認定する! 代官様の名において、この場で処刑してくれるわ!」
彼は護衛の兵士たちに向かって叫んだ。
「やれ! こいつらを皆殺しにしろ!」

だが、兵士たちは動かなかった。
動けなかったのだ。
目の前のドワーフが持つ尋常ではない大きさのウォーハンマー。エルフの弓から放たれる殺気のこもった視線。そして、伝説の聖獣としか思えない狼の剥き出しの牙。
勝てるわけがない。戦えば一瞬でミンチにされる。それが兵士としての彼らの本能的な結論だった。

「な、何をしている! 早くやれと言っているんだ!」
オズワルドが喚き散らす。
その無様な姿を見て、俺は深く失望のため息をついた。
こいつらはどこまでも腐っている。自分たちの権力と立場を過信し、相手が人間であることすら忘れている。

「……もういい。お前たちと話すことは何もない」
俺は静かに言い放った。「失せろ。二度と、俺たちの家の敷居をまたぐな」

俺がそう告げると同時に、背後のゴンスケたちが一斉に一歩前に出た。
ズシン、という地響き。
数十体の土のゴーレムが無言で前進してくる光景は、凄まじい威圧感を放っていた。

「ひぃぃぃぃぃっ!」
ついに兵士の一人が恐怖に耐えきれず、槍を放り出して逃げ出した。
それを皮切りに、残りの兵士たちも我先にと背を向けて逃げていく。
「お、おい! 待て! 私を置いていくな!」
オズワルドが情けない悲鳴を上げるが、誰も振り返らない。

あっという間に門の前にはオズワルドが一人だけ取り残された。
彼は絶望的な顔で、ゆっくりと迫ってくるゴーレム軍団と、冷たい目で彼を見下ろす俺たちを交互に見た。
そして、ついに彼のプライドも限界を超えた。

「お、覚えていろ……! 必ず、必ず後悔させてやるからな……!」
彼はそんなありきたりな捨て台詞を吐くと、みっともなく転びそうになりながら兵士たちの後を追って逃げていった。

嵐のようにやってきて、嵐のように去っていく。
残されたのは不快な後味と、決定的な対立だけだった。

「……行っちまったな」
リズベットが、つまらなそうにウォーハンマーを下ろした。
「はい。ですが……」シルフィが憂いを帯びた表情で呟く。「これで、私たちは正式にこの土地の領主と敵対することになりました」

彼女の言う通りだった。
ゴールデン商会の時とは訳が違う。
今度の相手は国家権力そのものだ。代官はおそらく私兵のすべてを動員し、本気で俺たちを潰しにかかってくるだろう。
『反逆者』というレッテルを貼られてしまえば、王都の騎士団が派遣されてくる可能性すらある。

俺たちの農園は、かつてないほどの大きな脅威に直面することになった。
俺は仲間たちの顔を見回した。
シルフィもリズベットも、不安な表情を浮かべている。だが、その瞳の奥には恐怖よりも、共に戦うという強い意志が宿っていた。

俺はそんな頼もしい仲間たちに向かって、笑いかけた。
「……ああ。敵対することになったな」
そして、続けた。
「だが、それがどうした? 俺たちは間違ったことなんて何もしていない。ただ、自分たちの家と暮らしを守ろうとしているだけだ」

俺の言葉に、シルフィとリズベットの表情がわずかに和らいだ。

「相手が領主だろうと、軍隊だろうと関係ない。俺たちの楽園を奪おうとする奴は、誰であろうと全力で叩き潰す」
俺は完成したばかりの壮大な壁を見上げた。
「そのための準備は、もうできている」

決裂は避けられなかった。
ならば、迎え撃つまでだ。
俺たちの農園は、ただの生産拠点ではない。難攻不落の要塞でもあるのだから。

俺は来るべき戦いを思い、静かに闘志を燃やした。
俺のスローライフは今、それを守り抜くための大きな試練の時を迎えようとしていた。
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