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第27話 第二次攻撃
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斥候部隊の惨憺たる敗走は、すぐに代官バルトークの耳に届いた。
代官の館では、生き残った斥候隊長が恐怖に震えながら報告を行っていた。
「……は、はい。地面は沼となり、植物が兵士に絡みつき、大地には底なしの穴が口を開けておりました。我々は姿なき敵によって、なすすべもなく……」
「黙れ、この役立たずが!」
バルトークは報告を最後まで聞くことなく、手に持っていた銀の杯を床に叩きつけた。ガシャンと甲高い音が響き、高価なワインが絨毯に染みを作る。
「たかが農夫一人に、我が精鋭が手も足も出なかっただと!? 恥を知れ!」
彼の怒りは斥候たちの不甲斐なさだけでなく、自身の権威が傷つけられたことに対するものだった。
「どうやら、小手先の脅しだけでは足りぬらしい。よろしい。ならば、力には力で応えてやるまで」
バルトークの顔に、残忍な笑みが浮かんだ。
「オズワルド! 私兵の中から五十名を選抜し、あの農園へ向かわせろ。今度は夜襲ではない。白昼堂々、正面から攻めかかれ! 罠があろうが沼があろうが、数で押し潰してしまえ! あの忌々しい壁を乗り越え、中にいる者どもを一人残らず捕らえてこい!」
その命令は、もはや法の執行などという建前すらかなぐり捨てた、私怨による殲滅宣告だった。
そして、斥候部隊が撃退された二日後の昼下がり。
壁の上で見張りをしていたフェンリルの鋭い遠吠えが農園に響き渡った。
俺たちは櫓の上に駆け上がり、森の向こうを見据える。
地平線の彼方から黒い一団が砂塵を巻き上げながら、まっすぐにこちらへ向かってくるのが見えた。
その数、およそ五十。槍と剣で武装し、分厚い革鎧に身を固めた本格的な兵士の一団だった。
「来たか」
俺は静かに呟いた。
「へっ、今度は昼間に、真正面から来やがったか。よほど、この前の夜襲が堪えたと見えるな」
隣でリズベットがウォーハンマーを肩の上で軽く回しながら言う。
「斥候からの報告で、罠の存在は承知しているはずです。力押しで突破してくるでしょう」
シルフィが冷静に分析する。その手にはすでに弓が握られていた。
彼女の予測通り、兵士たちの動きは前回とは全く違っていた。
彼らは俺たちが仕掛けた罠地帯の手前で一旦停止すると、数人がかりで丸太を運び、ぬかるみの上に簡易的な橋を架けていく。粘着ツタが潜んでいそうな茂みは、遠くから火矢を放って焼き払った。
落とし穴がありそうな場所は、長い棒で地面を突きながら慎重に、しかし着実に前進してくる。
斥候部隊を苦しめた俺たちの罠は、数の力と周到な準備の前では時間稼ぎにしかならなかった。
やがて、兵士たちはほとんど損害を出すことなく、俺たちの農園を囲む巨大な壁の前までたどり着いた。
「よし、壁に取り付け!」
隊長らしき男が号令をかける。
兵士たちは背負っていた長い梯子を次々と壁に立てかけ、鬨の声を上げながら登り始めた。また、別の部隊は巨大な丸太を担ぎ出し、リズベットが作った正門を破壊しようと突進してくる。
本格的な攻城戦がついに始まった。
「させません!」
壁の上から、シルフィの凛とした声が響く。
彼女が放った矢は、吸い込まれるように梯子を登る兵士の眉間を正確に射抜いた。悲鳴を上げる間もなく兵士は壁から落下していく。
シルフィは休むことなく次々と矢を番えては放つ。その精密射撃は、まるで死神の鎌のように壁を登ろうとする者たちの命を的確に刈り取っていった。
「そらよっ、ドワーフ印の熱々オイルだ!」
リズベットも櫓の上で大釜に煮えたぎらせていた油を、壁に取り付く兵士たちの頭上からぶちまけた。
「ぎゃあああああっ!」
地獄の釜が開いたかのような絶叫が上がる。熱い油を浴びた兵士たちが、もがき苦しみながら地面を転げ回った。
ドン! ドン! ドン!
正門では兵士たちが丸太で何度も門扉を打ち付けている。だが、ミスリルで補強された門はその衝撃にびくともしない。表面の鉄板がわずかに凹むだけで、破壊される気配は全くなかった。
壁の上からの迎撃は効果的だった。
だが、敵の数は多い。シルフィの矢にも限りがあるし、リズベットの油も無限ではない。何人かはすでに壁の上まで到達し、壁上の兵士と斬り合いになっている。
このままでは、いずれ突破される。
「……潮時か」
俺は戦況を見極め、静かに呟いた。
そして、壁の下で待機していた者たちに命令を下す。
「ゴンスケ部隊、出撃!」
俺の号令を受け、リズベットが門の傍にある巨大な閂を操作した。
ギイイイイッという重い音を立てて、あれほど頑強だった正門が内側からゆっくりと開いていく。
門を破壊しようと丸太を構えていた兵士たちは、突然の出来事に呆然と足を止めた。
門の奥の暗闇から、ずらりとならんだ土くれの人形たちが姿を現す。
その数、三十体。
リズベットが鍛えたミスリル混じりの盾と剣を装備し、その体は粘土で補強され焼き固められている。一体一体が並の兵士を遥かに凌ぐ戦闘能力を秘めた、俺の農園が誇る最強の防衛戦力だ。
「な、なんだ、あいつらは……!?」
兵士たちが目の前の異様な光景に動揺する。
その一瞬の隙を、ゴンスケたちが見逃すはずはなかった。
号令も雄叫びもない。
ただ、無言で、無慈悲に、ゴンスケ部隊は前進を開始した。
先頭の兵士が恐怖を振り払うように槍を突き出す。だが、ゴンスケはそれをミスリル製の盾で軽々と弾くと、カウンターで剣を薙ぎ払った。
兵士の革鎧は紙のように切り裂かれ、その体は力なく地面に崩れ落ちた。
そこから先は、もはや戦闘ではなく一方的な蹂躙だった。
ゴンスケたちの剣は兵士たちの防御を容易く貫き、その盾はどんな攻撃も受け付けない。一体を数人がかりで囲んでも、その圧倒的なパワーと耐久力の前に次々と打ち倒されていく。
感情のない土の人形がただ淡々と敵を排除していく光景は、兵士たちの心を恐怖で支配するには十分すぎた。
「だめだ……勝てねえ……!」
「こいつら、化け物だ!」
誰かがそう叫んだのをきっかけに、兵士たちの戦線は完全に崩壊した。彼らは武器を放り出し、我先にと逃げ惑う。
だが、その背後からシルフィの追撃の矢が容赦なく突き刺さった。
結局、五十人いた兵士のうち半数以上がその場に倒れ伏し、残った者たちも散り散りになって敗走していった。
戦いは、俺たちの圧倒的な勝利に終わった。
だが、俺たちの表情に喜びの色はなかった。
門の前には敵兵の死体と、呻き声を上げる負傷者たちが転がっている。血の匂いが収穫間近の畑にまで漂ってきていた。
「……後片付けだ」
俺は短く仲間に告げた。
これが戦争。
俺たちが望んだものでは決してなかったが、平穏を守るためにはこの血塗られた道を進むしかないのだ。
代官バルトークは、この敗北の報告を受けさらに激怒するだろう。
次は小隊規模では済まない。彼が動かせるすべての戦力を率いて、この農園を完全に更地にしようとするに違いない。
決戦の時は近い。
俺は夕焼けに染まる血の戦場を見つめながら、静かに拳を握りしめた。
俺たちの農園の本当の力が試される時が、すぐそこまで迫っていた。
代官の館では、生き残った斥候隊長が恐怖に震えながら報告を行っていた。
「……は、はい。地面は沼となり、植物が兵士に絡みつき、大地には底なしの穴が口を開けておりました。我々は姿なき敵によって、なすすべもなく……」
「黙れ、この役立たずが!」
バルトークは報告を最後まで聞くことなく、手に持っていた銀の杯を床に叩きつけた。ガシャンと甲高い音が響き、高価なワインが絨毯に染みを作る。
「たかが農夫一人に、我が精鋭が手も足も出なかっただと!? 恥を知れ!」
彼の怒りは斥候たちの不甲斐なさだけでなく、自身の権威が傷つけられたことに対するものだった。
「どうやら、小手先の脅しだけでは足りぬらしい。よろしい。ならば、力には力で応えてやるまで」
バルトークの顔に、残忍な笑みが浮かんだ。
「オズワルド! 私兵の中から五十名を選抜し、あの農園へ向かわせろ。今度は夜襲ではない。白昼堂々、正面から攻めかかれ! 罠があろうが沼があろうが、数で押し潰してしまえ! あの忌々しい壁を乗り越え、中にいる者どもを一人残らず捕らえてこい!」
その命令は、もはや法の執行などという建前すらかなぐり捨てた、私怨による殲滅宣告だった。
そして、斥候部隊が撃退された二日後の昼下がり。
壁の上で見張りをしていたフェンリルの鋭い遠吠えが農園に響き渡った。
俺たちは櫓の上に駆け上がり、森の向こうを見据える。
地平線の彼方から黒い一団が砂塵を巻き上げながら、まっすぐにこちらへ向かってくるのが見えた。
その数、およそ五十。槍と剣で武装し、分厚い革鎧に身を固めた本格的な兵士の一団だった。
「来たか」
俺は静かに呟いた。
「へっ、今度は昼間に、真正面から来やがったか。よほど、この前の夜襲が堪えたと見えるな」
隣でリズベットがウォーハンマーを肩の上で軽く回しながら言う。
「斥候からの報告で、罠の存在は承知しているはずです。力押しで突破してくるでしょう」
シルフィが冷静に分析する。その手にはすでに弓が握られていた。
彼女の予測通り、兵士たちの動きは前回とは全く違っていた。
彼らは俺たちが仕掛けた罠地帯の手前で一旦停止すると、数人がかりで丸太を運び、ぬかるみの上に簡易的な橋を架けていく。粘着ツタが潜んでいそうな茂みは、遠くから火矢を放って焼き払った。
落とし穴がありそうな場所は、長い棒で地面を突きながら慎重に、しかし着実に前進してくる。
斥候部隊を苦しめた俺たちの罠は、数の力と周到な準備の前では時間稼ぎにしかならなかった。
やがて、兵士たちはほとんど損害を出すことなく、俺たちの農園を囲む巨大な壁の前までたどり着いた。
「よし、壁に取り付け!」
隊長らしき男が号令をかける。
兵士たちは背負っていた長い梯子を次々と壁に立てかけ、鬨の声を上げながら登り始めた。また、別の部隊は巨大な丸太を担ぎ出し、リズベットが作った正門を破壊しようと突進してくる。
本格的な攻城戦がついに始まった。
「させません!」
壁の上から、シルフィの凛とした声が響く。
彼女が放った矢は、吸い込まれるように梯子を登る兵士の眉間を正確に射抜いた。悲鳴を上げる間もなく兵士は壁から落下していく。
シルフィは休むことなく次々と矢を番えては放つ。その精密射撃は、まるで死神の鎌のように壁を登ろうとする者たちの命を的確に刈り取っていった。
「そらよっ、ドワーフ印の熱々オイルだ!」
リズベットも櫓の上で大釜に煮えたぎらせていた油を、壁に取り付く兵士たちの頭上からぶちまけた。
「ぎゃあああああっ!」
地獄の釜が開いたかのような絶叫が上がる。熱い油を浴びた兵士たちが、もがき苦しみながら地面を転げ回った。
ドン! ドン! ドン!
正門では兵士たちが丸太で何度も門扉を打ち付けている。だが、ミスリルで補強された門はその衝撃にびくともしない。表面の鉄板がわずかに凹むだけで、破壊される気配は全くなかった。
壁の上からの迎撃は効果的だった。
だが、敵の数は多い。シルフィの矢にも限りがあるし、リズベットの油も無限ではない。何人かはすでに壁の上まで到達し、壁上の兵士と斬り合いになっている。
このままでは、いずれ突破される。
「……潮時か」
俺は戦況を見極め、静かに呟いた。
そして、壁の下で待機していた者たちに命令を下す。
「ゴンスケ部隊、出撃!」
俺の号令を受け、リズベットが門の傍にある巨大な閂を操作した。
ギイイイイッという重い音を立てて、あれほど頑強だった正門が内側からゆっくりと開いていく。
門を破壊しようと丸太を構えていた兵士たちは、突然の出来事に呆然と足を止めた。
門の奥の暗闇から、ずらりとならんだ土くれの人形たちが姿を現す。
その数、三十体。
リズベットが鍛えたミスリル混じりの盾と剣を装備し、その体は粘土で補強され焼き固められている。一体一体が並の兵士を遥かに凌ぐ戦闘能力を秘めた、俺の農園が誇る最強の防衛戦力だ。
「な、なんだ、あいつらは……!?」
兵士たちが目の前の異様な光景に動揺する。
その一瞬の隙を、ゴンスケたちが見逃すはずはなかった。
号令も雄叫びもない。
ただ、無言で、無慈悲に、ゴンスケ部隊は前進を開始した。
先頭の兵士が恐怖を振り払うように槍を突き出す。だが、ゴンスケはそれをミスリル製の盾で軽々と弾くと、カウンターで剣を薙ぎ払った。
兵士の革鎧は紙のように切り裂かれ、その体は力なく地面に崩れ落ちた。
そこから先は、もはや戦闘ではなく一方的な蹂躙だった。
ゴンスケたちの剣は兵士たちの防御を容易く貫き、その盾はどんな攻撃も受け付けない。一体を数人がかりで囲んでも、その圧倒的なパワーと耐久力の前に次々と打ち倒されていく。
感情のない土の人形がただ淡々と敵を排除していく光景は、兵士たちの心を恐怖で支配するには十分すぎた。
「だめだ……勝てねえ……!」
「こいつら、化け物だ!」
誰かがそう叫んだのをきっかけに、兵士たちの戦線は完全に崩壊した。彼らは武器を放り出し、我先にと逃げ惑う。
だが、その背後からシルフィの追撃の矢が容赦なく突き刺さった。
結局、五十人いた兵士のうち半数以上がその場に倒れ伏し、残った者たちも散り散りになって敗走していった。
戦いは、俺たちの圧倒的な勝利に終わった。
だが、俺たちの表情に喜びの色はなかった。
門の前には敵兵の死体と、呻き声を上げる負傷者たちが転がっている。血の匂いが収穫間近の畑にまで漂ってきていた。
「……後片付けだ」
俺は短く仲間に告げた。
これが戦争。
俺たちが望んだものでは決してなかったが、平穏を守るためにはこの血塗られた道を進むしかないのだ。
代官バルトークは、この敗北の報告を受けさらに激怒するだろう。
次は小隊規模では済まない。彼が動かせるすべての戦力を率いて、この農園を完全に更地にしようとするに違いない。
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