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第28話 代官、激怒
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テルマの街にある代官の館は、かつてないほどの怒声に揺れていた。
「……全滅だと!? 五十人の兵士を送り込んで、半分以上が死傷し、残りは敗走しただと!? 馬鹿なことがあるか!」
代官バルトークは第二次攻撃部隊の生き残りである隊長の報告を聞き、怒りのあまり顔を真っ赤にして絶叫していた。彼の目の前では隊長が額を床にこすりつけ、必死に許しを乞うている。
「も、申し訳ございません! しか、しかし! 敵の戦力は我々の想像を遥かに超えておりました! 謎のゴーレム部隊は鋼のように硬く、エルフの弓は百発百中、ドワーフの女は一人で一隊を壊滅させるほどの怪力……。あれはもはや人間の域を超えております!」
「言い訳は聞きたくない!」
バルトークは近くにあった豪華な壺を掴むと、壁に向かって叩きつけた。ガシャンと耳障りな音を立てて、壺は粉々に砕け散る。
「私の兵が! この私が手塩にかけて育てた私兵が、たかが農夫どもに敗れたのだぞ! この屈辱が貴様らに分かるか!」
彼のプライドはズタズタに引き裂かれていた。
領主としての権威も男としての面子も、すべてあの辺境の農園に踏みにじられたのだ。
最初は金儲けのための軽い脅しのつもりだった。だが、もはやそんな次元の話ではない。これは彼とあの農夫、どちらが上かを決める意地と意地のぶつかり合い、戦争だった。
「……良いだろう」
しばらく荒れ狂った後、バルトークは不気味なほど静かな声で言った。その瞳にはもはや理性のかけらもなく、ただどす黒い憎悪と狂気だけが渦巻いている。
「そこまで私を本気にさせたのだ。相応の覚悟はできているのだろうな、アルフォンスとやら……」
彼は椅子に深く腰掛けると、震える指でペンを執った。そして羊皮紙に何やら書きつけ始めると、それを隊長に突きつけた。
「これを持って王都の騎士団駐屯所へ行け。そして、こう伝えろ。『我が領地にて大規模な反乱が発生せり。首謀者はアルフォンスと名乗る邪悪な魔術師。周辺の村々を扇動し、国家転覆を企てている。至急、騎士団の派遣を要請する』とな」
「き、騎士団、でございますか!?」
隊長が驚愕の声を上げた。王家直属の騎士団を動かすなど、ただ事ではない。
「そうだ。だが、騎士団が到着するには時間がかかる。それまでに私がケリをつける」
バルトークは立ち上がり、壁にかかっていた自身の剣を鞘から引き抜いた。それは彼の権威を示すためだけの飾り物の剣だった。
「オズワルド! 私兵のすべてを招集せよ! 動ける者は一人残らずだ! 傭兵ギルドにも声をかけろ! 金はいくらでも払うと伝えろ!」
彼の声は館全体に響き渡った。
「テルマの街のすべての戦力を結集するのだ。その数、およそ二百。これだけの軍勢を前にして、あの農園が持ちこたえられるはずがない」
彼は完全に正気を失っていた。
領地の統治や民の生活など、もはや彼の頭にはない。ただ、自分に恥をかかせたアルフォンスたちを根絶やしにすることしか考えていなかった。
「出陣は三日後だ」
バルトークは血走った目で宣言した。「今度こそ、あの忌々しい農園を壁ごと、土くれの一つも残さず完全に消し去ってくれるわ……!」
その頃、俺たちの農園では静かに次の戦いの準備が進められていた。
第二次攻撃で倒した兵士たちの亡骸は丁重に埋葬した。彼らとて腐敗した代官の命令に従っただけの犠牲者なのだ。負傷者はシルフィが最低限の治療を施した後、森の入り口に解放した。彼らが代官の元へ戻れば、俺たちの農園の実力がより正確に伝わるだろう。それは無用な犠牲を避けるための、俺なりのメッセージでもあった。
だが、代官がそのメッセージを正しく受け取るとは思えなかった。
「おそらく、次は総力戦になるでしょう」
櫓の上で、シルフィが遠くのテルマの街の方角を見つめながら言った。
「ああ。二百……いや、三百くらいの兵力で来るかもしれないな」
俺も同じ予測を立てていた。
「へっ、上等じゃねえか!」
リズベットは工房の炉の火を眺めながら、好戦的に笑う。「数が多けりゃ、それだけ戦利品も増えるってもんだ。あいつらの鎧を全部溶かせば、ゴンスケたちをもう十体は増やせるぜ」
彼女の豪胆さは、この状況において非常に頼もしかった。
だが、俺は楽観視していなかった。
二百を超える軍勢。それはもはや小競り合いのレベルではない。本格的な戦争だ。
ゴンスケ部隊は強力だが、数には限りがある。シルフィやリズベットにしても、体力や魔力は無限ではない。
正攻法でぶつかれば、いずれは押し切られる。
「……迎え撃つ場所を変える」
俺は仲間たちに自分の考えを告げた。
「これまでは壁の外で敵を食い止めてきた。だが、次は違う。敵を壁の内側……俺たちの畑にあえて引きずり込む」
「なんですって!?」
シルフィが驚きの声を上げる。「それでは、畑が荒らされてしまいます!」
「ああ。だが、それ以上のメリットがある」
俺は黒々とした自分たちの畑を見渡した。「この場所こそが、俺のスキル【土いじり】の効果が最大限に発揮される、俺だけの戦場だ。地形も、足場も、すべてを俺の意のままに操れる」
俺の意図を察したリズベットがニヤリと笑った。
「なるほどな。敵を自分の一番得意な土俵に引きずり込んで、一網打尽にするってわけかい。面白え、実に面白えじゃねえか!」
シルフィも最初は戸惑っていたが、やがて俺の作戦の真意を理解し、静かに頷いた。
「……分かりました。アルフォンスの力があれば、それも可能でしょう。畑が荒れるのは悲しいですが、この農園を守るためです。私も全力で協力します」
仲間たちの同意を得て、俺たちは最後の決戦に向けた最終準備に取り掛かった。
それはこれまでのような罠の設置ではない。
この農園そのものを、巨大な一つの『殺戮兵器』へと変貌させるための大掛かりな仕掛け作りだった。
代官バルトークが私怨と狂気に駆られて軍を集めている頃。
俺たちは静かに、そして着実にその牙を研いでいた。
次にこの門をくぐる時が、お前たちの最期だ。
俺はテルマの街の方角を睨みつけながら、心の中でそう呟いた。
決戦の時は、刻一刻と迫っていた。
俺たちの楽園の運命を賭けた最大の戦いが、始まろうとしていた。
「……全滅だと!? 五十人の兵士を送り込んで、半分以上が死傷し、残りは敗走しただと!? 馬鹿なことがあるか!」
代官バルトークは第二次攻撃部隊の生き残りである隊長の報告を聞き、怒りのあまり顔を真っ赤にして絶叫していた。彼の目の前では隊長が額を床にこすりつけ、必死に許しを乞うている。
「も、申し訳ございません! しか、しかし! 敵の戦力は我々の想像を遥かに超えておりました! 謎のゴーレム部隊は鋼のように硬く、エルフの弓は百発百中、ドワーフの女は一人で一隊を壊滅させるほどの怪力……。あれはもはや人間の域を超えております!」
「言い訳は聞きたくない!」
バルトークは近くにあった豪華な壺を掴むと、壁に向かって叩きつけた。ガシャンと耳障りな音を立てて、壺は粉々に砕け散る。
「私の兵が! この私が手塩にかけて育てた私兵が、たかが農夫どもに敗れたのだぞ! この屈辱が貴様らに分かるか!」
彼のプライドはズタズタに引き裂かれていた。
領主としての権威も男としての面子も、すべてあの辺境の農園に踏みにじられたのだ。
最初は金儲けのための軽い脅しのつもりだった。だが、もはやそんな次元の話ではない。これは彼とあの農夫、どちらが上かを決める意地と意地のぶつかり合い、戦争だった。
「……良いだろう」
しばらく荒れ狂った後、バルトークは不気味なほど静かな声で言った。その瞳にはもはや理性のかけらもなく、ただどす黒い憎悪と狂気だけが渦巻いている。
「そこまで私を本気にさせたのだ。相応の覚悟はできているのだろうな、アルフォンスとやら……」
彼は椅子に深く腰掛けると、震える指でペンを執った。そして羊皮紙に何やら書きつけ始めると、それを隊長に突きつけた。
「これを持って王都の騎士団駐屯所へ行け。そして、こう伝えろ。『我が領地にて大規模な反乱が発生せり。首謀者はアルフォンスと名乗る邪悪な魔術師。周辺の村々を扇動し、国家転覆を企てている。至急、騎士団の派遣を要請する』とな」
「き、騎士団、でございますか!?」
隊長が驚愕の声を上げた。王家直属の騎士団を動かすなど、ただ事ではない。
「そうだ。だが、騎士団が到着するには時間がかかる。それまでに私がケリをつける」
バルトークは立ち上がり、壁にかかっていた自身の剣を鞘から引き抜いた。それは彼の権威を示すためだけの飾り物の剣だった。
「オズワルド! 私兵のすべてを招集せよ! 動ける者は一人残らずだ! 傭兵ギルドにも声をかけろ! 金はいくらでも払うと伝えろ!」
彼の声は館全体に響き渡った。
「テルマの街のすべての戦力を結集するのだ。その数、およそ二百。これだけの軍勢を前にして、あの農園が持ちこたえられるはずがない」
彼は完全に正気を失っていた。
領地の統治や民の生活など、もはや彼の頭にはない。ただ、自分に恥をかかせたアルフォンスたちを根絶やしにすることしか考えていなかった。
「出陣は三日後だ」
バルトークは血走った目で宣言した。「今度こそ、あの忌々しい農園を壁ごと、土くれの一つも残さず完全に消し去ってくれるわ……!」
その頃、俺たちの農園では静かに次の戦いの準備が進められていた。
第二次攻撃で倒した兵士たちの亡骸は丁重に埋葬した。彼らとて腐敗した代官の命令に従っただけの犠牲者なのだ。負傷者はシルフィが最低限の治療を施した後、森の入り口に解放した。彼らが代官の元へ戻れば、俺たちの農園の実力がより正確に伝わるだろう。それは無用な犠牲を避けるための、俺なりのメッセージでもあった。
だが、代官がそのメッセージを正しく受け取るとは思えなかった。
「おそらく、次は総力戦になるでしょう」
櫓の上で、シルフィが遠くのテルマの街の方角を見つめながら言った。
「ああ。二百……いや、三百くらいの兵力で来るかもしれないな」
俺も同じ予測を立てていた。
「へっ、上等じゃねえか!」
リズベットは工房の炉の火を眺めながら、好戦的に笑う。「数が多けりゃ、それだけ戦利品も増えるってもんだ。あいつらの鎧を全部溶かせば、ゴンスケたちをもう十体は増やせるぜ」
彼女の豪胆さは、この状況において非常に頼もしかった。
だが、俺は楽観視していなかった。
二百を超える軍勢。それはもはや小競り合いのレベルではない。本格的な戦争だ。
ゴンスケ部隊は強力だが、数には限りがある。シルフィやリズベットにしても、体力や魔力は無限ではない。
正攻法でぶつかれば、いずれは押し切られる。
「……迎え撃つ場所を変える」
俺は仲間たちに自分の考えを告げた。
「これまでは壁の外で敵を食い止めてきた。だが、次は違う。敵を壁の内側……俺たちの畑にあえて引きずり込む」
「なんですって!?」
シルフィが驚きの声を上げる。「それでは、畑が荒らされてしまいます!」
「ああ。だが、それ以上のメリットがある」
俺は黒々とした自分たちの畑を見渡した。「この場所こそが、俺のスキル【土いじり】の効果が最大限に発揮される、俺だけの戦場だ。地形も、足場も、すべてを俺の意のままに操れる」
俺の意図を察したリズベットがニヤリと笑った。
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