スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第34話:代官の失脚

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アウグスト騎士団長率いる王国騎士団は代官バルトークとジェラールの身柄を拘束すると、すぐさまテルマの街へと向かった。彼らの任務はもはや反乱の鎮圧ではなく、腐敗した領主の悪事を暴き、その統治体制を正常化することへと切り替わっていた。

俺たちの農園には再び平穏が訪れた。
だがその平穏は、以前とは少し質が違っていた。俺たちはただの辺境の開拓者から、一国の騎士団長にその正当性を認められた特別な存在へと変わっていたのだ。

数日後、農園を解放された元兵士の一人が街の様子を知らせにやってきてくれた。
彼が語るテルマの街の様子は、まさに激動という言葉がふさわしかった。

アウグスト騎士団長はバルトークの館を徹底的に捜索し、彼の不正な蓄財の証拠や民から搾取した税の裏帳簿を次々と発見した。さらに俺たちが提出した証言書を元に、被害を受けた村人たちからの聞き取り調査も行われた。
代官の悪行は次々と白日の下に晒されていった。その内容はテルマの民が想像していた以上に、陰湿で強欲なものだったという。

バルトークに連座する形で、オズワルドをはじめとする悪徳役人たちも次々と捕らえられた。彼らは騎士団の厳しい尋問の前に、あっさりとすべての罪を自白した。
ゴールデン商会のテルマ支店も、代官との癒着と不正取引の罪で家宅捜索を受け、その資産は一時的に王家によって凍結されることになった。

テルマの街は長年にわたる圧政という重い枷から、ついに解放されたのだ。
街の人々は騎士団の迅速かつ公正な裁きを称え、歓喜に沸いているという。
そしてそのきっかけを作ったのが、辺境の農園に住むアルフォンスという青年であるという噂も、まことしやかに囁かれ始めていた。

「……アルフォンスさん。あんたはこの街の英雄だよ」
知らせに来てくれた元兵士は、心からの感謝を込めて俺にそう言った。
「英雄なんて大げさだ」
俺は照れ隠しにそう返したが、悪い気はしなかった。自分たちの戦いが多くの人々を救うことに繋がった。その事実は俺の胸を温かくした。

さらに数日が過ぎ、アウグスト騎士団長が再び俺たちの農園を訪れた。
今度は物々しい騎士団の隊列ではなく、数名の側近だけを連れた穏やかな訪問だった。

「アルフォンス殿。先日の件、王都にご報告したところ、陛下も貴殿の働きに大変感謝しておられた」
アウグストは壁の前で出迎えた俺にそう切り出した。
「代官バルトークはすべての爵位と財産を剥奪の上、王都の地下牢へ送致されることが決定した。彼がこの地に戻ってくることは二度とないだろう」
その言葉はバルトークの完全な失脚を意味していた。

「そうですか。それはテルマの民にとっても良い報せですね」
俺がそう言うと、アウグストは深く頷いた。
「うむ。そして此度の貴殿の功績に対し、陛下より褒賞が下されることになった」
「褒賞?」
俺は予想外の言葉に眉をひそめた。褒賞など求めてもいない。

アウグストは懐から一通の羊皮紙を取り出した。そこには王家の印章が厳かに押されている。
「陛下は貴殿に二つの選択肢をお与えになった。一つは王都へ赴き、貴族として騎士団に仕官する道。貴殿の持つ類稀なる力と、その公正な精神は必ずや王国の力となるだろう、と」
貴族に、騎士団。
それは多くの若者が夢見る栄光への道筋だろう。
だが俺は静かに首を横に振った。
「お断りします。俺は都会の暮らしも誰かに仕えるのも、もうごりごりです。俺の居場所はこの土地だけですから」

俺の即答にアウグストは少しも驚いた様子はなく、むしろ満足げに微笑んだ。
「……貴殿ならそう言うと思っていた。陛下も、おそらくはそれを予期しておられたのだろう。だからこそもう一つの選択肢をご用意なされた」
彼は羊皮紙を俺に手渡した。

「アルフォンス殿。国王陛下は、この農園を中心とした渓谷地帯一帯を王家の直轄領とされた上で、その土地の『自治権』を貴殿に与える、と。これを受諾すれば貴殿は事実上この土地の領主となる。税の徴収も法の制定も、ある程度の範囲で貴殿の裁量に任されることになるだろう」

自治権。
事実上の領主。
それは俺が想像していたよりも遥かに大きな褒賞だった。
これを受け入れれば俺たちの農園はもはや誰からも干渉されることのない、独立した楽園となる。腐敗した代官のような者に理不尽な要求をされることも二度とない。

俺は隣に立つシルフィとリズベットの顔を見た。
二人とも驚きながらも、その瞳には賛成の色が浮かんでいる。
「……アルフォ-ンスの決めることなら、アタシはどこまでもついて行くぜ」
リズベットがニカッと笑う。
「私も同じ気持ちです。ここが私たちの家ですから」
シルフィも優しく微笑んだ。

仲間たちの後押しを受け、俺は決意を固めた。
「……謹んでお受けいたします」

俺の言葉に、アウグストは満足げに頷いた。
「賢明な判断だ。この土地は貴殿のような男が治めるのが最もふさわしい」
彼は去り際に一つだけ忠告を残していった。
「アルフォンス殿。貴殿の農園がもたらす富と技術は今後、良くも悪くも多くの者たちの注目を集めることになるだろう。中には今回のバルトークのように、邪な考えを持つ者も現れるやもしれん。自治権とは自由であると同時に、自らを守る責任を負うことでもある。そのことをゆめゆめ忘れるな」
その言葉は騎士団長としてではなく、一人の武人としての誠実な助言のように響いた。

アウグストたちが去った後、俺たちは三人(と一匹)で改めて自分たちの農園を見渡した。
「……領主、か。とんでもないことになっちまったな」
俺がどこか他人事のように呟くと、リズベットが俺の背中をバシンと叩いた。
「何言ってやがんでい、お頭! これで名実ともにこの場所はアタシたちの国になったってことじゃねえか! めでたいことずくめよ!」
彼女の底抜けに明るい声に、俺の心も軽くなる。

そうだ。難しく考える必要はない。
これまでとやることは何も変わらない。
土を耕し、仲間たちと笑い合い、この楽園をもっと豊かで、もっと幸せな場所に育てていくだけだ。

代官バルトークの失脚。そして自治権の獲得。
それは俺たちの農園の歴史における、一つの大きな節目だった。
俺たちのスローライフはもはや個人的な暮らしではなく、『国造り』という新たなステージへと足を踏み入れたのだ。
その先にどんな未来が待っているのか。
俺はこれから始まるであろう新しい日々に、大きな希望を抱いていた。
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