スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第33話:潔白の証明

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の言葉を聞いても、騎士団長の厳しい表情は変わらなかった。彼は馬上から俺を見下ろし、その視線はまるで、俺の魂の奥底まで見透かそうとしているかのようだ。

「話、だと?」
やがて、騎士団長は重々しく口を開いた。「代官バルトーク殿より、緊急の派兵要請があった。『貴様が邪法を用いて民を扇動し、国家への反乱を企てている』と。我々は、その反乱を鎮圧し、首謀者である貴様を捕縛するためにここへ来た。話があるというのなら、まずはその手に持つ得物を捨て、投降するのが筋ではないか」
彼の言葉は、正論だった。国家の騎士として、当然の対応だ。
だが、俺は首を横に振った。

「投降はできない。あんたたちが、俺たちの話を聞き、真実を見極めてくれると信じられるまでは」
俺は、手に持っていたミスリル製の万能農具を、地面に突き立てた。
「俺たちは、国に弓引くつもりなど毛頭ない。ただ、自分たちの平和な暮らしを、腐敗した権力者から守ろうとしただけだ。俺が反逆者かどうか、あんた自身の目で確かめてほしい」

俺の真っ直ぐな瞳に、騎士団長はわずかに眉を動かした。彼はしばらく黙考していたが、やがて馬から静かに降り立った。その堂々とした所作には、一切の隙がない。
「……よかろう。貴様の言葉、信じるに値するか、この目で確かめさせてもらう」
彼は、部下の騎士たちに「ここで待機せよ。私が合図するまで、決して動くな」と厳命すると、一人で俺の方へと歩み寄ってきた。

「私は、王国騎士団第三騎士隊隊長、アウグスト・フォン・ヴァレンシュタイン。この国の法と正義にのみ、仕える者だ」
アウグストと名乗る騎士団長は、俺の目の前で足を止め、その兜を脱いだ。現れたのは、厳格だが、誠実さを感じさせる顔立ちだった。
「貴様の案内で、その農園とやらを見せてもらおう。もし、貴様の言葉に偽りがあると判断すれば、その場で斬る。覚悟はいいな」
「ああ。望むところだ」

俺はアウグストを伴い、門の中へと入った。
門をくぐった瞬間、アウグストは明らかに息を呑んだ。
彼の目に映ったのは、反乱軍の拠点というには、あまりにも平和で、豊かな光景だったからだ。

広大な畑では、多種多様な野菜が青々と育ち、ゴンスケたちが黙々と農作業に勤しんでいる。果樹園では、たわわに実った果実が甘い香りを放っている。小川には清らかな水が流れ、そのほとりでは、元兵士だった男たちが、笑顔で子供たちと水遊びをしていた。(彼らは、代官の圧政から逃れるため、家族を連れてこの農園に移住してきた者たちだった)

「……これが、反乱軍の拠点だと?」
アウグストは、信じられないといった様子で呟いた。彼の想像していた、殺伐とした砦や要塞とは、かけ離れすぎている。ここは、まるで理想郷(ユートピア)の一場面のようだった。

俺は、彼を農園の奥へと案内しながら、事の顛末をすべて話した。
パーティを追放され、この地で静かに暮らし始めたこと。ダンジョンを発見し、仲間たちと出会ったこと。ゴールデン商会に目をつけられ、そして代官バルトークから不当な要求を突きつけられたこと。すべてを、ありのままに。

俺たちは、シルフィの研究小屋や、リズベットの工房も見て回った。
シルフィは、アウグストに自らが調合したポーションを見せ、その驚異的な効果を説明した。リズベットは、ミスリルのインゴットを前に、誇らしげに自らの技術を語った。
アウグストは、その一つ一つに驚きを隠せない様子だったが、黙って俺たちの話に耳を傾けていた。

そして、俺は最後に、彼を牢屋へと案内した。
そこには、みすぼらしい姿でうずくまる、代官バルトークがいた。
「……騎士団長殿! よくぞ来てくださいました! さあ、早くその反逆者を捕らえ、私をここからお出しください!」
バルトークは、アウグストの姿を認めると、狂喜して叫んだ。

だが、アウグストは、そんな彼に冷たい視線を向けただけだった。
「バルトーク殿。貴殿の報告では、ここは邪法使いが民を苦しめる、地獄のような場所だと聞いていたが」
彼は、牢の外に広がる平和な農園を指差した。「私の目には、むしろ貴殿の治めるテルマの街よりも、よほど民が幸福そうに見えるのだが。これは、一体どういうことかな?」

アウグストの静かな、しかし有無を言わせぬ詰問に、バルトークの顔から血の気が引いていく。
「そ、それは……こやつらが、民を騙して……!」
「言い訳は結構」
アウグストは、バルトークの言葉を遮った。「アルフォンス殿から、すべて伺った。貴殿がこの農園に課したという法外な税、そして、この地で行ってきたという数々の悪行についてもな」

俺は、懐から用意していた羊皮紙の束を取り出し、アウグストに手渡した。
「これは、あんたの元兵士たちや、周辺の村人たちから集めた証言だ。あんたがどれだけ、この地の人々を苦しめてきたか、その証拠だ」
アウグストは、一枚一枚、その証言に目を通していく。
その顔は、次第に厳しい怒りの色に染まっていった。

「……見苦しいにも、程がある」
すべての書類を読み終えたアウグストは、深く、失望のため息をついた。「貴殿は、領主としての務めを忘れ、私利私欲のために民を搾取し、あまつさえ、その罪を他者に押し付け、王家の騎士団を私兵のように使おうとした。その罪、万死に値する」

「なっ……! 私は、何も……!」
言い逃れようとするバルトーク。
だが、その時、牢の隣の部屋から、一人の男が引きずり出されてきた。
それは、ゴールデン商会のジェラールだった。彼は、敗走した後もテルマの街に潜伏していたところを、俺の土の監視網によって発見され、捕らえられていたのだ。

「この男からも、話は聞かせてもらった。あんたたちが共謀して、この農園を乗っ取ろうとしていた、その計画のすべてをな」
「……っ!」
バルトークは、ついに言葉を失い、その場にへたり込んだ。

アウグストは、そんな彼を冷ややかに見下ろすと、俺に向き直った。
そして、彼は、その厳格な騎士の作法に則り、俺に対して深々と頭を下げた。
「……アルフォンス殿。私の不明を、詫びる。貴殿は、反逆者などではなかった。むしろ、腐敗した権力から民を守ろうとした、真の勇士であった」
その言葉は、俺の潔白が、完全に証明されたことを意味していた。

「顔を上げてください、騎士団長殿」
俺は、静かに言った。「俺は、ただ、俺の家を守りたかっただけです」

アウグストは顔を上げ、俺の目を真っ直ぐに見据えた。
「貴殿の功績と、この農園が持つ価値については、私が責任を持って国王陛下にご報告しよう。バルトークの処遇も、王家の名の下に、厳正に執り行う」

彼は、壁の外で待機している部下たちに、合図を送った。
すぐに、数人の騎士が駆けつけ、もはや抜け殻のようになったバルトークとジェラールの身柄を拘束していく。

こうして、俺たちと代官との戦いは、本当の意味で終結した。
血を流すことなく、ただ真実の力によって。
俺は、騎士団が撤収していくのを眺めながら、安堵のため息をついた。

ようやく、本当に穏やかな日々が戻ってくる。
その時の俺は、まだ、そう信じていた。
この事件が、俺と、この農園の運命を、さらに大きな舞台へと押し上げていくことになるなど、知る由もなかったのだから。
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