スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第32話:王都からの調査騎士団

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戦いが終わった俺たちの農園には、奇妙な静寂が満ちていた。
武器を捨てた百数十人の兵士たちは、もはや敵ではなかった。彼らはただ、呆然と、あるいは恐々と、巨大なクレーターと土の腕に捕らえられた代官バルトークの姿を眺めている。

「……お前たちに、罪はない」
俺は壁の上から、彼らに向かって語りかけた。魔力を込めた声は、戦場となった平原の隅々まで響き渡る。
「腐敗した領主の命令に、逆らえなかっただけだろう。武器はここに置いていけ。食料と水を少し分け与える。それぞれの村へ帰れ」

俺の言葉に、兵士たちの間にどよめきが広がった。
処刑されるか、奴隷にされるか。彼らはそのどちらかを覚悟していたに違いない。だが、俺が下した処遇は、予想外の寛大なものだった。
やがて、一人の年配の兵士がおそるおそる前に進み出て、地面に膝をついた。

「あ、ありがとうございます……! このご恩は、決して忘れませぬ!」
それを皮切りに、次々と兵士たちが膝をつき、頭を下げ始めた。
彼らの多くは、テルマ周辺の村から無理やり徴兵された農民たちだった。代官の圧政と重税に苦しめられてきた彼らにとって、バルトークは恐怖の対象でしかなかったのだ。
その代官を、たった一人で打ち破った俺の姿は、彼らの目には救世主のように映ったのかもしれない。

俺はゴンスケたちに命じ、解放した兵士たちに黒パンと水、そしてシルフィが作った簡単な傷薬を配らせた。
彼らは何度も頭を下げながら、三々五々、自分たちの村へと帰っていく。その背中には、敗残兵の惨めさはなく、むしろ圧政からの解放を喜ぶかのような、軽い足取りさえ感じられた。

「お頭、いいのかい? あいつらをこのまま帰しちまって」
リズベットが、少し心配そうに尋ねてきた。
「ああ。彼らはもう、俺たちの敵じゃない。それに……」
俺は、土の腕に捕らえられたまま気を失っているバルトークに目をやった。「こいつさえいなければ、彼らが俺たちに刃を向けることは二度とないだろう」

問題は、この捕らえた代官の処遇と、彼が言っていた王都の騎士団だった。
俺たちは、バルトークを農園の makeshift の牢屋へと放り込んだ。意識を取り戻した彼は、予想通り、少しも反省することなく喚き散らした。

「この反逆者どもめ! よくも私をこんな目に遭わせたな!」
牢の格子を掴み、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「もうすぐ、王都の騎士団がここへやって来る! そうなれば、貴様らなど一捻りだ! この農園は焼き払われ、貴様らは逆賊として広場で首を晒すことになる! それが楽しみで仕方ないわ!」
彼は、自分の勝利を信じて疑っていなかった。王家の権威という絶対的な虎の威を借りて。

彼の言葉で、騎士団の派遣が単なる脅しではないことが確定した。
「どうしますか、アルフォンス。騎士団と戦うとなれば、国そのものを敵に回すことになります」
シルフィが、憂いを帯びた表情で言う。
「戦うつもりはない」
俺は首を横に振った。「俺たちに、国に逆らう意思はない。悪いのは、私利私欲のために権力を乱用した、こいつ一人だ。騎士団がまともな連中なら、話せば分かるはずだ」

だが、そのためには証拠が必要だった。
代官が、どれほど非道な統治を行ってきたか。今回の攻撃が、いかに不当なものであったか。それを、客観的に証明する物証が。

幸い、俺たちには協力者がいた。
解放した兵士たちだ。彼らの何人かは、帰る前に、代官の悪行を涙ながらに訴えていった。法外な税率、村の娘を無理やり差し出させたこと、逆らう者を容赦なく処刑したこと。
俺は、彼らの証言を羊皮紙にまとめ、署名をもらっておいた。さらに、農園に残ることを希望した十数人の元兵士たちからも、同様の証言を得ることができた。

「これだけあれば、ただの一方的な反乱ではないと、主張できるはずだ」
俺は、集まった証拠の山を前に、静かに呟いた。
あとは、騎士団がいつ来るか。そして、彼らが俺たちの言葉に耳を傾けてくれる、理性的な相手であるかに賭けるしかない。

その時は、俺たちの予想よりも、ずっと早く訪れた。
バルトークを捕らえてから、わずか二日後の早朝。
再び、フェンリルの鋭い遠吠えが、農園に響き渡った。

俺たちが壁の上に駆け上がると、地平線の彼方に、新たな軍勢の姿が見えた。
それは、バルトークの私兵とは、明らかに練度も装備も、そして気配も違っていた。
整然と、一糸乱れぬ隊列。陽光を反射して輝く、磨き上げられた白銀の甲冑。そして、風にはためく旗には、この国の王家を示す『黄金の獅子』の紋章が誇らしげに刺繍されている。
その数、およそ百。数は代官の軍より少ないが、一人一人が放つ圧力は、比較にさえならない。

王家直属、王国騎士団。
この国最強の武力集団が、ついにその姿を現したのだ。

「……来たか」
俺の隣で、リズベットがゴクリと喉を鳴らす。シルフィも、緊張した面持ちで弓を握りしめていた。
俺は、深呼吸を一つすると、仲間たちに告げた。
「門を開ける。俺が、一人で会う」
「危険です!」
シルフィが反対する。
「いや、大丈夫だ」俺は彼女の肩に手を置いた。「こっちは、国に喧嘩を売るつもりはない。その意思を、まず示さなければならない。それに……」
俺は、自分の畑を見下ろした。「この農園(ばしょ)にいる限り、俺は負けない」

俺は壁を降りると、一人で門の外へと歩み出た。
騎士団は、俺たちの農園を囲む巨大な壁と、その前の戦闘でできた巨大なクレーターを見て、明らかに警戒を強めていた。彼らは壁から距離を取って陣形を組むと、一人の騎士が馬を進めて前に出てきた。

その騎士は、一際立派な白銀の鎧に身を包み、威厳に満ちた顔立ちをしていた。年の頃は四十代だろうか。厳しいが、公正さを感じさせる瞳が、真っ直ぐに俺を射抜いている。おそらく、この部隊の長、騎士団長その人だろう。

彼は、馬上から俺を見下ろすと、地の底から響くような、重い声で言った。
「……貴様が、この地の反乱軍を率いる首魁、アルフォンスか」
その声には、問答無用で断罪するような響きはなかった。ただ、事実を確認しようとする、冷静な響きがあった。
俺は、この男なら話が通じるかもしれないと、直感した。

「俺はアルフォンス。反乱軍の首魁ではない。この農園の、ただの主だ」
俺は、臆することなく、真っ直ぐに騎士団長を見返して答えた。
「あなた方に、お話したいことがある」

騎士団長は、俺の言葉に何も答えず、ただじっと、俺の目を見つめている。
俺たちの農園の運命を左右する、静かで、しかし張り詰めた対峙が、今、始まろうとしていた。
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