スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第35話:自治権の獲得

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自治権獲得の知らせはテルマの街と周辺の村々に瞬く間に広がっていった。
それは驚きと共に、多くの人々から歓迎された。圧政を敷いていた代官を打ち破り街を解放した英雄が、自分たちの新しい領主になる。その事実は人々の心に大きな安堵と希望を与えたのだ。

俺たちの農園には連日多くの人々が訪れるようになった。
テルマの街の商人たちは俺たちの農園で採れる規格外の野菜や高品質なポーションとの正式な取引を申し出に。周辺の村々の村長たちはこれまでの感謝と、これからの協力関係を誓うために。そして代官の元で苦しんでいた農民たちは、新しい領主である俺の人柄を一目見ようと興味津々でやってきた。

「なんだい、ずいぶんと賑やかになったじゃねえか」
リズベットが工房の前で腕を組みながら、門の前で列をなす人々の姿を見て面白そうに笑う。
「仕方ありません。アルフォンスはもうただの農夫ではなく、この土地の領主様なのですから」
シルフィも少し困ったように、しかしどこか誇らしげに微笑んでいた。

俺自身は突然の環境の変化に戸惑うばかりだった。
「領主様、どうか我々の村の用水路の修復にお力添えを!」
「アルフォンス様、ぜひ我が店の看板商品であるパンを味わってください!」
「英雄様! 娘がぜひ一度お会いしたいと……」
訪れる人々からの陳情や挨拶、贈り物攻勢に俺はただただ頭を掻くことしかできなかった。俺は英雄になどなりたかったわけではないのだ。

だが彼らの目には、嘘偽りのない尊敬と期待が宿っていた。
俺は、この人々を失望させるわけにはいかない。自治権を得たということは彼らの生活を守り、豊かにする責任を負ったということでもあるのだ。

俺は訪れる人々一人一人と誠実に向き合うことにした。
村の用水路の修復にはゴンスケ部隊を派遣し、【土いじり】のスキルで一日もかからずに完了させた。商人たちとはシルフィとリズベットにも同席してもらい、不当に買い叩かれることのないよう公正な取引価格を設定した。
俺の、そして仲間たちの実直で誠実な対応は、さらに人々の信頼を勝ち取っていくことになった。

そんなある日。
俺は農園の片隅で、一人静かに土をいじっていた。
領主としての仕事は山積みだったが、この時間だけは誰にも邪魔されたくない、俺にとっての原点だったからだ。
ふかふかの土の感触、生命の息吹。それが俺の心を何よりも落ち着かせてくれた。

すると不意に、俺の体の中から温かい光が溢れ出した。
「……なんだ、これは?」
光は俺のスキル【土いじり】が大地と、そして人々の感謝の念と共鳴しているかのようだった。
俺の脳裏に不思議な声が響き渡る。

『……汝の功績を認め、更なる力を与えん……』
『汝のスキル、【土いじり】はこれより【大地の恵み(アース・ブレス)】へと進化する……』

声が消えると同時に、俺の体から溢れ出ていた光も収まった。
だが俺の中には確かな変化が起きていた。
これまでとは比較にならないほどの強大な力が体中にみなぎっている。大地との一体感がさらに増している。まるでこの農園全体が、俺の体の一部になったかのような感覚。

俺は試しに目の前の地面に手をかざした。
『芽吹け』
そう念じただけで地面から小さな双葉がみるみるうちに芽吹き、成長し、あっという間に手のひらほどの大きさにまで育った。これまではもっと集中しなければ、ここまでの芸当はできなかった。

「……スキルが、進化したのか」

【土いじり】から、【大地の恵み】へ。
その名が示す通り、それはもはや単なる土いじりのレベルを超えた、生命そのものを育み大地を豊かにする神聖な力へと変貌を遂げていた。
作物の育成速度の向上。より強力で、より精巧なゴーレムの生成。そしてより大規模な地形操作。
俺はこの土地の領主として、その責務を果たすにふさわしい新たな力を手に入れたのだ。

俺は進化したスキルで、早速一つの実験を試みることにした。
それは以前から考えていた新たな居住区の建設だった。
農園に残ることを決めた元兵士たちや、代官の圧政から逃れてきた人々が安心して暮らせる家が必要だったからだ。

俺は農園の東側の、まだ手つかずだった平原に立った。
そしてスキル【大地の恵み】を最大限に解放する。
「来たれ、安息の住処よ!」

ゴゴゴゴゴ……!
再び大地が唸りを上げた。
だがそれは以前のような破壊的な揺れではない。もっと穏やかで創造的な脈動だった。
地面がまるで粘土細工のように隆起し、形作られていく。
壁が立ち、屋根が組み上がり、窓や扉の形がくり抜かれていく。
それは魔法というよりも、奇跡と呼ぶにふさわしい光景だった。

わずか半日でそこには十数軒の、頑丈で住み心地の良さそうな石造りの家々が立ち並ぶ小さな集落が出現していた。
その光景を見ていた人々は皆言葉を失い、やがて歓声を上げて涙を流して喜んだ。
彼らはようやく、本当の意味で自分たちの『家』を手に入れたのだ。

「すげえ……。おい、お頭。あんたもう人間やめて神様になった方がいいんじゃねえか?」
リズベットが呆れと感嘆が入り混じった顔で言う。
「本当に……。あなたはどこまで行ってしまうのですか、アルフォンス」
シルフィも畏敬の念を込めた瞳で俺を見つめていた。

自治権の獲得、そしてスキルの進化。
俺たちの農園は新たな時代へと突入した。
それはもはや単なる農園ではない。人々が集い、笑い、暮らす一つの『村』の誕生の瞬間だった。
俺は眼下で広がる人々の笑顔を見ながら、領主としての責任の重さとそれを超えるほどの大きなやりがいを感じていた。

俺の国造りは、まだ始まったばかりだ。
この小さな村を、世界で一番豊かで平和な場所にしてみせる。
俺は夕日に染まる新しい家々を眺めながら、心にそう固く誓った。
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