スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第36話:【幕間】竜の牙② -凋落-

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王都の冒険者ギルド。その一角にある薄暗く、酸っぱいエールの匂いが立ち込める安酒場。
かつてAランクパーティ「竜の牙」が祝杯を上げていた華やかな高級店とは、何もかもが違っていた。今の彼らにとって、この寂れた酒場こそが定位置となっていた。
テーブルを囲むメンバーの顔は誰もが暗く、疲弊しきっている。以前のような活気はどこにもない。

リーダーであるガイウスは黙ってエールを呷っていた。その手甲は泥に汚れ、いくつかのリベットが外れてしまっている。
盾役のドワーフ、ボルガンの兜にはオークの棍棒で殴られたのであろう、深い凹みがあった。
魔術師のリオネルは腕に巻いた汚れた包帯を、苦々しい顔で見つめている。傷口がまだズキズキと痛むのだ。
聖女セレスティアだけがいつもと変わらぬ穏やかな表情で紅茶を飲んでいたが、その微笑みはどこか虚ろで、この場の重苦しい空気とは馴染んでいなかった。

彼らはつい先ほど、Cランクの依頼に失敗して帰還したばかりだった。
依頼内容は「オーク・ウォリアー五体の討伐」。
Aランクパーティにとってはウォームアップにもならないはずの簡単な仕事。そのはずだった。

「……なぜだ。なぜ、オークごときに後れを取る!」
ガイウスがテーブルを拳で叩きつけた。エールのジョッキが倒れ、中身がこぼれる。
「リーダー。オークの数が報告より多かった。それに、連携が……」
リオネルがか細い声で言い訳をしようとするが、ガイウスの怒声がそれを遮った。
「連携だと!? お前たちが俺の動きについてこれなかっただけだろうが!」
「そんな……!」
「そもそも、お前の魔法の威力が落ちているんじゃないのか? 詠唱も遅い。Aランクの魔術師が聞いて呆れるぜ」

理不尽な罵倒。リオネルは悔しさに唇を噛み、俯いた。
ボルガンが見かねて口を挟む。
「まあ待て、ガイウス。リオネルだけのせいじゃねえ。俺の盾も最近どうも調子が悪くてな……。踏ん張りが利かねえんだ」
彼の言う通り、ボルガンの大盾は留め具の革が緩み、構えるたびにガタついていた。だがそれを修理するための工具も予備の革も、そしてそれらを管理する知識を持つ者も、このパーティにはもういなかった。

「道具のせいにするな! 気合が足りんのだ、気合が!」
ガイウスは喚き散らす。だが彼の内心にも、黒い焦りが渦巻いていた。
分かっているのだ。原因は気合などという精神論ではない。
すべてがあの雑用係――アルフォンスを追放してから、狂い始めたのだ。

あいつがいた頃は、装備はいつも完璧な状態に保たれていた。どんな小さな刃こぼれも鎧の緩みも、見逃さずに修理されていた。
野営の準備も食事の用意も、斥候の報告のまとめも、すべてがあいつ一人で完璧にこなされていた。
そして、あのポーション。
リオネルが腕に巻いている包帯には市販の安物ポーションが染み込んでいる。気休め程度の効果しかなく、傷の治りは驚くほど遅い。
アルフォンスがどこからか調達してきていたあのポーションは、一体何だったのか。あれさえあればこんな軽傷、一日もあれば完治していたはずだ。

だが、そんなこと今更口が裂けても言えるわけがない。
あいつを役立たずだと断じ、パーティの格を下げていると罵り、追放したのは他の誰でもない、この俺なのだから。

「……ガイウス様」
その時、セレスティアが慈愛に満ちた声でガイウスの手にそっと触れた。
「皆様、少しお疲れなのですわ。Aランクパーティとしての重圧が、皆様の肩に重くのしかかっているのでしょう。少し休養が必要なのかもしれません」
彼女の言葉はまるで優しい慰めのようだった。
だがその実、ガイウスの傷ついたプライドを巧妙に刺激していた。
「休養だと? 俺たちがこんなCランク依頼ごときでか? ふざけるな!」
ガイウスはセレスティアの手を振り払った。「俺はまだやれる! 次の依頼だ! もっと難易度の高い依頼を成功させて、俺たちの健在ぶりをギルドの連中に見せつけてやる!」

焦りが彼をさらに無謀な判断へと駆り立てていた。
その様子をセレスティアはわずかに口角を上げて、満足そうに見つめていた。彼女にとって、パーティがどうなろうと関係のないことだった。

その時だった。
一人のギルド職員が彼らのテーブルへと近づいてきた。その顔には事務的な冷たさしか浮かんでいない。
「『竜の牙』の皆さんですね。ギルドマスターから伝言です」
職員は一枚の羊皮紙をテーブルの上に置いた。
「……なんだ、これは」
ガイウスが訝しげにそれを取り上げる。
そこに書かれていたのは、簡潔だが残酷な文章だった。

『貴パーティの最近の依頼達成率の低下、及びAランクパーティとして不適切な行動を鑑み、一時的にBランクへの降格を勧告する。異議がある場合はギルドマスターとの面談に応じること』

降格勧告。
Aランクという彼らの唯一のプライドを、根底から揺るがす通達だった。
「……ふざけるなあああああっ!」

ガイウスの絶叫が安酒場に響き渡った。
他の客たちが何事かと、侮蔑と好奇の入り混じった視線を彼らに向ける。
かつて羨望と尊敬の眼差しを一身に浴びていた英雄パーティの姿は、もうそこにはなかった。
あるのは仲間を信じられず、過去の栄光にすがりつき、ゆっくりと、しかし確実に泥沼へと沈んでいく哀れな冒険者たちの姿だけだった。

「竜の牙」の凋落はもはや誰の目にも明らかだった。
そしてその崩壊の音は、これからさらに大きくなっていく。
まだ誰もそのことに気づいていなかったが、パーティという名の船はすでに大きく傾き、沈み始めていた。
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