37 / 54
第37話:移住者たち
しおりを挟む
自治権を獲得し、俺たちの農園が事実上の独立した村『アルカディア村』として歩み始めてから数週間が過ぎた。
その変化は、俺が想像していた以上に大きなものだった。
噂が噂を呼び、アルカディア村の名はテルマの街だけでなく近隣の村々にも広く知れ渡るようになっていた。
『アルカディアへ行けば、腹一杯飯が食える』
『病気や怪我も、不思議な薬で治してくれる』
『腐敗した代官はおらず、若く公正な領主が治めている』
そんな希望に満ちた噂は、これまで圧政と貧困に苦しんできた人々にとって何よりの福音だった。
そしてその日を境に、俺たちの村へ移住を希望する人々が次々と現れるようになったのだ。
最初は家族を連れた元兵士たちだった。彼らは代官の元に戻るよりも、俺たちの下で暮らすことを選んだのだ。
次にテルマの街で代官の息がかかった商人に仕事を奪われた職人たちや、重税で畑を手放さざるを得なかった農民たちが、なけなしの荷物を背負ってやってきた。
彼らは皆、新しい生活、新しい希望を求めてこのアルカディア村へとたどり着いたのだった。
「お頭! また新しい連中が来たぜ!」
門番を自称するリズベットが楽しげに報告に来る。
俺は領主としての仕事場と定めた、村の中央に建てた一番大きな家の前で移住希望者たちと面会した。
彼らの顔には長旅の疲れと新しい生活への不安が浮かんでいる。だがその瞳の奥には、確かな希望の光が宿っていた。
「俺はアルフォンス。この村の代表だ」
俺は彼らの前に立ち、静かに語り始めた。「ここには腐敗した代官も法外な税もない。あるのは豊かな大地と、共に働く仲間だけだ。働く意志がある者なら誰でも歓迎する。家と仕事と三度の食事は、俺が保証しよう」
俺の言葉に、人々の中から安堵のどよめきが起こった。
俺はスキル【大地の恵み】を使い、彼らのために新たな住居を次々と建設した。村は日に日に大きくなり、活気に満ちていく。
シルフィは薬草の知識を活かして診療所を開き、病気や怪我をした人々の治療にあたった。彼女の優しさと的確な治療は、村の人々の心の支えとなった。
リズベットは工房で農具や生活道具を作り、人々の生活を支えた。彼女の作る道具はどれも頑丈で使いやすく、村の生産性を大いに向上させた。
移住者たちもまた、俺たちの期待に応えてくれた。
元農民たちは俺がゴンスケたちと共に開墾した広大な畑で、その経験と知識を存分に発揮した。彼らの手によって畑はより効率的に管理され、収穫量は目に見えて増えていった。
元職人たちは村にパン屋や仕立て屋、桶屋といった店を開き、村の生活を豊かにした。特に元宮廷料理人だったという老人が開いた食堂は、ダンジョン産の食材を使った絶品料理が評判を呼び、すぐに村一番の人気スポットとなった。
俺たちのアルカディア村は急速に発展していった。
それは俺一人では決して成し遂げられなかったことだ。様々な知識や技術を持つ人々が集い、互いに協力し合うことで村は一つの大きな生命体のように力強く成長していく。
その光景は俺に領主としての新たな喜びと、責任の重さを教えてくれた。
ある晴れた日の午後。
俺は新しく村に加わった建築家と一緒に、村のインフラ整備の計画を練っていた。
「やはり用水路を整備し、各家庭に水を引くのが急務でしょうな。それと共同浴場があれば、皆の疲れも癒せるかと」
経験豊富な建築家の提案は的確で、俺が思いつきもしなかったものばかりだった。
そんな時、シルフィが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「アルフォンス! 大変です! 畑に……畑に、見慣れないものが!」
俺たちは何事かと畑へと急いだ。
そこには村人たちが集まり、不安げに何かを遠巻きに見つめている。
俺が人垣をかき分けて前に出ると、その光景に息を呑んだ。
広大な畑のど真ん中。
これまで何もなかったはずの場所に、地面から巨大な『何か』がまるでタケノコのように突き出ていたのだ。
それは赤黒く、ゴツゴツとした岩のような質感で不気味な熱気を放っている。まるで大地の腫瘍。あるいは異世界への入り口。
その形状は俺がよく知るものに似ていた。
俺の農園に最初に出現した、あのダンジョンへの入り口に。
「……まさか」
俺はその不気味な岩に、おそるおそる手を触れてみた。
その瞬間、俺の頭の中に新たな情報が流れ込んできた。
【第四階層へのゲート(未開放):鑑定結果】
【条件:アルカディア村の発展度、及び領主アルフォンスの力が一定値に達したため出現。】
【状態:安定。ゲートを開放するには、領主の承認が必要。】
「第四階層……」
俺の呟きに、隣にいたシルフィとリズベットの顔色が変わった。
俺たちのダンジョンはまだ終わってはいなかったのだ。
村の発展という新たなエネルギーを得て、ダンジョンは自らもまた新たな階層を生み出し、進化を遂げようとしていた。
その赤黒いゲートは俺たちの村にさらなる恵みをもたらすのか。
それとも新たな脅威を呼び込む、災いの門となるのか。
俺はまだ熱を帯びるゲートを見つめながら、これから始まるであろう新たな冒険の予感に身震いを禁じ得なかった。
俺たちの国造りは俺たちのダンジョンと共に、次のステージへと進もうとしていた。
その変化は、俺が想像していた以上に大きなものだった。
噂が噂を呼び、アルカディア村の名はテルマの街だけでなく近隣の村々にも広く知れ渡るようになっていた。
『アルカディアへ行けば、腹一杯飯が食える』
『病気や怪我も、不思議な薬で治してくれる』
『腐敗した代官はおらず、若く公正な領主が治めている』
そんな希望に満ちた噂は、これまで圧政と貧困に苦しんできた人々にとって何よりの福音だった。
そしてその日を境に、俺たちの村へ移住を希望する人々が次々と現れるようになったのだ。
最初は家族を連れた元兵士たちだった。彼らは代官の元に戻るよりも、俺たちの下で暮らすことを選んだのだ。
次にテルマの街で代官の息がかかった商人に仕事を奪われた職人たちや、重税で畑を手放さざるを得なかった農民たちが、なけなしの荷物を背負ってやってきた。
彼らは皆、新しい生活、新しい希望を求めてこのアルカディア村へとたどり着いたのだった。
「お頭! また新しい連中が来たぜ!」
門番を自称するリズベットが楽しげに報告に来る。
俺は領主としての仕事場と定めた、村の中央に建てた一番大きな家の前で移住希望者たちと面会した。
彼らの顔には長旅の疲れと新しい生活への不安が浮かんでいる。だがその瞳の奥には、確かな希望の光が宿っていた。
「俺はアルフォンス。この村の代表だ」
俺は彼らの前に立ち、静かに語り始めた。「ここには腐敗した代官も法外な税もない。あるのは豊かな大地と、共に働く仲間だけだ。働く意志がある者なら誰でも歓迎する。家と仕事と三度の食事は、俺が保証しよう」
俺の言葉に、人々の中から安堵のどよめきが起こった。
俺はスキル【大地の恵み】を使い、彼らのために新たな住居を次々と建設した。村は日に日に大きくなり、活気に満ちていく。
シルフィは薬草の知識を活かして診療所を開き、病気や怪我をした人々の治療にあたった。彼女の優しさと的確な治療は、村の人々の心の支えとなった。
リズベットは工房で農具や生活道具を作り、人々の生活を支えた。彼女の作る道具はどれも頑丈で使いやすく、村の生産性を大いに向上させた。
移住者たちもまた、俺たちの期待に応えてくれた。
元農民たちは俺がゴンスケたちと共に開墾した広大な畑で、その経験と知識を存分に発揮した。彼らの手によって畑はより効率的に管理され、収穫量は目に見えて増えていった。
元職人たちは村にパン屋や仕立て屋、桶屋といった店を開き、村の生活を豊かにした。特に元宮廷料理人だったという老人が開いた食堂は、ダンジョン産の食材を使った絶品料理が評判を呼び、すぐに村一番の人気スポットとなった。
俺たちのアルカディア村は急速に発展していった。
それは俺一人では決して成し遂げられなかったことだ。様々な知識や技術を持つ人々が集い、互いに協力し合うことで村は一つの大きな生命体のように力強く成長していく。
その光景は俺に領主としての新たな喜びと、責任の重さを教えてくれた。
ある晴れた日の午後。
俺は新しく村に加わった建築家と一緒に、村のインフラ整備の計画を練っていた。
「やはり用水路を整備し、各家庭に水を引くのが急務でしょうな。それと共同浴場があれば、皆の疲れも癒せるかと」
経験豊富な建築家の提案は的確で、俺が思いつきもしなかったものばかりだった。
そんな時、シルフィが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「アルフォンス! 大変です! 畑に……畑に、見慣れないものが!」
俺たちは何事かと畑へと急いだ。
そこには村人たちが集まり、不安げに何かを遠巻きに見つめている。
俺が人垣をかき分けて前に出ると、その光景に息を呑んだ。
広大な畑のど真ん中。
これまで何もなかったはずの場所に、地面から巨大な『何か』がまるでタケノコのように突き出ていたのだ。
それは赤黒く、ゴツゴツとした岩のような質感で不気味な熱気を放っている。まるで大地の腫瘍。あるいは異世界への入り口。
その形状は俺がよく知るものに似ていた。
俺の農園に最初に出現した、あのダンジョンへの入り口に。
「……まさか」
俺はその不気味な岩に、おそるおそる手を触れてみた。
その瞬間、俺の頭の中に新たな情報が流れ込んできた。
【第四階層へのゲート(未開放):鑑定結果】
【条件:アルカディア村の発展度、及び領主アルフォンスの力が一定値に達したため出現。】
【状態:安定。ゲートを開放するには、領主の承認が必要。】
「第四階層……」
俺の呟きに、隣にいたシルフィとリズベットの顔色が変わった。
俺たちのダンジョンはまだ終わってはいなかったのだ。
村の発展という新たなエネルギーを得て、ダンジョンは自らもまた新たな階層を生み出し、進化を遂げようとしていた。
その赤黒いゲートは俺たちの村にさらなる恵みをもたらすのか。
それとも新たな脅威を呼び込む、災いの門となるのか。
俺はまだ熱を帯びるゲートを見つめながら、これから始まるであろう新たな冒険の予感に身震いを禁じ得なかった。
俺たちの国造りは俺たちのダンジョンと共に、次のステージへと進もうとしていた。
1
あなたにおすすめの小説
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!
こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」
主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。
しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。
「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」
さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。
そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)
かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜
咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。
笑えて、心温かくなるダンジョン物語。
※この小説はフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係ありません。
日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる