スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第37話:移住者たち

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自治権を獲得し、俺たちの農園が事実上の独立した村『アルカディア村』として歩み始めてから数週間が過ぎた。
その変化は、俺が想像していた以上に大きなものだった。

噂が噂を呼び、アルカディア村の名はテルマの街だけでなく近隣の村々にも広く知れ渡るようになっていた。
『アルカディアへ行けば、腹一杯飯が食える』
『病気や怪我も、不思議な薬で治してくれる』
『腐敗した代官はおらず、若く公正な領主が治めている』
そんな希望に満ちた噂は、これまで圧政と貧困に苦しんできた人々にとって何よりの福音だった。

そしてその日を境に、俺たちの村へ移住を希望する人々が次々と現れるようになったのだ。
最初は家族を連れた元兵士たちだった。彼らは代官の元に戻るよりも、俺たちの下で暮らすことを選んだのだ。
次にテルマの街で代官の息がかかった商人に仕事を奪われた職人たちや、重税で畑を手放さざるを得なかった農民たちが、なけなしの荷物を背負ってやってきた。
彼らは皆、新しい生活、新しい希望を求めてこのアルカディア村へとたどり着いたのだった。

「お頭! また新しい連中が来たぜ!」
門番を自称するリズベットが楽しげに報告に来る。
俺は領主としての仕事場と定めた、村の中央に建てた一番大きな家の前で移住希望者たちと面会した。
彼らの顔には長旅の疲れと新しい生活への不安が浮かんでいる。だがその瞳の奥には、確かな希望の光が宿っていた。

「俺はアルフォンス。この村の代表だ」
俺は彼らの前に立ち、静かに語り始めた。「ここには腐敗した代官も法外な税もない。あるのは豊かな大地と、共に働く仲間だけだ。働く意志がある者なら誰でも歓迎する。家と仕事と三度の食事は、俺が保証しよう」

俺の言葉に、人々の中から安堵のどよめきが起こった。
俺はスキル【大地の恵み】を使い、彼らのために新たな住居を次々と建設した。村は日に日に大きくなり、活気に満ちていく。
シルフィは薬草の知識を活かして診療所を開き、病気や怪我をした人々の治療にあたった。彼女の優しさと的確な治療は、村の人々の心の支えとなった。
リズベットは工房で農具や生活道具を作り、人々の生活を支えた。彼女の作る道具はどれも頑丈で使いやすく、村の生産性を大いに向上させた。

移住者たちもまた、俺たちの期待に応えてくれた。
元農民たちは俺がゴンスケたちと共に開墾した広大な畑で、その経験と知識を存分に発揮した。彼らの手によって畑はより効率的に管理され、収穫量は目に見えて増えていった。
元職人たちは村にパン屋や仕立て屋、桶屋といった店を開き、村の生活を豊かにした。特に元宮廷料理人だったという老人が開いた食堂は、ダンジョン産の食材を使った絶品料理が評判を呼び、すぐに村一番の人気スポットとなった。

俺たちのアルカディア村は急速に発展していった。
それは俺一人では決して成し遂げられなかったことだ。様々な知識や技術を持つ人々が集い、互いに協力し合うことで村は一つの大きな生命体のように力強く成長していく。
その光景は俺に領主としての新たな喜びと、責任の重さを教えてくれた。

ある晴れた日の午後。
俺は新しく村に加わった建築家と一緒に、村のインフラ整備の計画を練っていた。
「やはり用水路を整備し、各家庭に水を引くのが急務でしょうな。それと共同浴場があれば、皆の疲れも癒せるかと」
経験豊富な建築家の提案は的確で、俺が思いつきもしなかったものばかりだった。

そんな時、シルフィが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「アルフォンス! 大変です! 畑に……畑に、見慣れないものが!」

俺たちは何事かと畑へと急いだ。
そこには村人たちが集まり、不安げに何かを遠巻きに見つめている。
俺が人垣をかき分けて前に出ると、その光景に息を呑んだ。

広大な畑のど真ん中。
これまで何もなかったはずの場所に、地面から巨大な『何か』がまるでタケノコのように突き出ていたのだ。
それは赤黒く、ゴツゴツとした岩のような質感で不気味な熱気を放っている。まるで大地の腫瘍。あるいは異世界への入り口。
その形状は俺がよく知るものに似ていた。
俺の農園に最初に出現した、あのダンジョンへの入り口に。

「……まさか」
俺はその不気味な岩に、おそるおそる手を触れてみた。
その瞬間、俺の頭の中に新たな情報が流れ込んできた。

【第四階層へのゲート(未開放):鑑定結果】
【条件:アルカディア村の発展度、及び領主アルフォンスの力が一定値に達したため出現。】
【状態:安定。ゲートを開放するには、領主の承認が必要。】

「第四階層……」
俺の呟きに、隣にいたシルフィとリズベットの顔色が変わった。
俺たちのダンジョンはまだ終わってはいなかったのだ。
村の発展という新たなエネルギーを得て、ダンジョンは自らもまた新たな階層を生み出し、進化を遂げようとしていた。

その赤黒いゲートは俺たちの村にさらなる恵みをもたらすのか。
それとも新たな脅威を呼び込む、災いの門となるのか。
俺はまだ熱を帯びるゲートを見つめながら、これから始まるであろう新たな冒険の予感に身震いを禁じ得なかった。
俺たちの国造りは俺たちのダンジョンと共に、次のステージへと進もうとしていた。
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