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第43話:シルフィとの進展
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スキルが【神の農園】へと進化してから、俺の日常はさらに充実したものになった。
村の運営はもはや俺一人の仕事ではなかった。移住者の中から内政や会計、インフラ整備に長けた者たちが現れ、彼らが自主的に村の評議会を組織し俺を補佐してくれるようになったのだ。俺は領主として最終的な決定を下すが、日々の細かな業務からは解放され、再び研究やダンジョン探索に時間を割けるようになった。
特に俺が力を入れていたのは、シルフィとの共同研究だった。
彼女の薬草学の知識と俺の進化したスキルの創造能力を組み合わせれば、これまでにない全く新しい植物を生み出せるのではないか。俺たちはそんな壮大な仮説に挑んでいた。
研究は村の診療所に併設された、ガラス張りの大きな温室で行われた。
そこにはダンジョンの各階層から持ち帰った、多種多様な植物が栽培されている。
「アルフォンス。このポーション草の遺伝子情報に、第三階層の『癒やしの苔』が持つ細胞活性化の特性を組み込むことはできますか?」
シルフィが真剣な眼差しで俺に尋ねる。彼女の手には複雑な植物の系統図が描かれた羊皮紙があった。
俺は彼女の指示に従い、ポーション草の種子に手をかざす。
【神の農園】の力でその内部構造、遺伝子の配列をミクロのレベルで把握する。そして別の植物……癒やしの苔が持つ特性の情報を、そこにそっと組み込んでいく。
それは神の領域に踏み込むかのような、極めて繊細で高度な作業だった。
「……できた」
俺が額の汗を拭うと、手のひらの上の種子が淡い緑色の光を放っていた。
「素晴らしいです!」
シルフィはその種子を宝物のように受け取ると、すぐに特別な培養土が入った鉢に植えた。
俺たちは息を殺して、その変化を見守る。
すると種子は数分もしないうちに芽吹き、驚くべき速度で成長を始めた。
やがて現れたのは元のポーション草とは似ても似つかない、全く新しい植物だった。
その葉はまるでエメラルドの結晶のように透き通り、葉脈からは生命の光そのものが脈打っているかのように穏やかな光を放っている。
「……なんて、美しい……」
シルフィがうっとりと呟く。
俺は、その植物に触れ鑑定を行った。
【エリクサーリーフ:鑑定結果】
【効果:一片の葉を煎じて飲むことで、あらゆる傷や病を癒やし、失われた生命力をも回復させる。死者蘇生は不可能だが、瀕死の重傷者であれば確実に救うことができる。】
【状態:成熟。】
エリクサー。
伝説の中にのみ登場する、万能の霊薬。
俺たちはついにそれを、人工的に生み出すことに成功したのだ。
「やりましたね、アルフォンス!」
シルフィは子供のようにはしゃいで、俺の手を握った。その白い手は興奮でわずかに震えている。
「ああ。シルフィの知識があったからこそだ」
俺も彼女の手を握り返した。
その時、俺たちはお互いの距離が思った以上に近いことに気づいた。温室の中の植物の甘い香りと、シルフィから香る森の匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。
シルフィははっとしたように顔を赤らめ、慌てて手を離した。
「……す、すみません。つい、興奮して……」
「いや……」
俺もなぜかどぎまぎしてしまい、言葉が続かない。
気まずい沈黙が二人の間に流れた。
これまで俺たちは最高の『研究パートナー』だった。
だがこの瞬間、俺たちの間にある空気が少しだけ変わったのを、お互いに感じていた。
俺はシルフィをただの仲間としてだけではなく、一人の美しい『女性』として強く意識してしまっていた。
その夜。
俺は自室でエリクサーリーフの量産化計画について考えていたが、どうにも集中できなかった。
昼間のシルフィの潤んだ翠の瞳と赤らんだ頬が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。
彼女は俺のことをどう思っているのだろうか。
追放されて以来、恋愛など考えたこともなかった。だが俺の心の中には、確かに彼女への特別な感情が芽生え始めていた。
「……少し、風にでも当たってくるか」
俺は考えをまとめるために、夜の村を散歩することにした。
月明かりが静まり返った村を優しく照らしている。家々からは温かい光と、家族の団らんの笑い声が漏れてきていた。
この平和な光景を守れたことを、俺は心から誇りに思う。
ふとシルフィが寝床にしている、あの大きな樫の木の方へと足が向いた。
木の根元に彼女の姿があった。
ハンモックで眠っているのではなく、木の幹に背を預け静かに本を読んでいる。月明かりに照らされたその横顔は、昼間見た時とは違うどこか物憂げな美しさをたたえていた。
「……シルフィ」
俺が声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げた。
「アルフォンス。どうしたのですか、こんな夜更けに」
「いや……お前こそ」
「……少し眠れなくて。故郷の森のことを、考えていました」
彼女の言葉に、俺ははっとした。
そうだ。彼女がこの村に来た目的。それは病んだ故郷の森を救うためだった。
俺たちの研究はエリクサーリーフという、とてつもない成果を生んだ。だがそれは彼女の本来の目的から、少し道を逸れてしまっていたのかもしれない。
「……悪い。俺、浮かれてた」
俺は彼女の隣に腰を下ろし、素直に謝った。「エリクサーリーフができたことに満足して、あんたの一番大事なことを忘れかけてた」
「いいえ、そんなことはありません」
シルフィは静かに首を横に振った。「あなたとの研究は私にとってもかけがえのない時間です。それにエリクサーリーフはきっと森を救うための、大きな手がかりになるはずです」
彼女はそう言うと、俺の顔をじっと見つめた。
その翠の瞳には深い信頼と、そしてそれ以上の何か温かい感情が宿っているように見えた。
「アルフォンス。私はあなたに出会えて、この村に来られて本当に良かったと思っています」
「……俺もだよ、シルフィ」
俺たちはどちらからともなく、ゆっくりと顔を近づけていった。
お互いの呼吸が感じられるほどの距離。
だがその唇が触れ合う寸前で、俺たちはどちらともなくふっと笑って体を離した。
まだ、その時ではない。
俺たちにはまだやるべきことがある。
言葉にはしなかったが、お互いの心は通じ合っていた。
「……もう少し、夜風にあたっていかないか」
「はい」
俺たちは肩を並べて座り、言葉もなくただ静かに夜空を眺めていた。
だがその沈黙は少しも気まずくはなかった。むしろ心地よい一体感に満ちていた。
俺たちの関係は今、仲間という言葉だけではもう表せない新しい段階へと、確かに進み始めていた。
それはエリクサーリーフの誕生と同じくらい温かく、そして奇跡的な出来事のように俺には感じられた。
村の運営はもはや俺一人の仕事ではなかった。移住者の中から内政や会計、インフラ整備に長けた者たちが現れ、彼らが自主的に村の評議会を組織し俺を補佐してくれるようになったのだ。俺は領主として最終的な決定を下すが、日々の細かな業務からは解放され、再び研究やダンジョン探索に時間を割けるようになった。
特に俺が力を入れていたのは、シルフィとの共同研究だった。
彼女の薬草学の知識と俺の進化したスキルの創造能力を組み合わせれば、これまでにない全く新しい植物を生み出せるのではないか。俺たちはそんな壮大な仮説に挑んでいた。
研究は村の診療所に併設された、ガラス張りの大きな温室で行われた。
そこにはダンジョンの各階層から持ち帰った、多種多様な植物が栽培されている。
「アルフォンス。このポーション草の遺伝子情報に、第三階層の『癒やしの苔』が持つ細胞活性化の特性を組み込むことはできますか?」
シルフィが真剣な眼差しで俺に尋ねる。彼女の手には複雑な植物の系統図が描かれた羊皮紙があった。
俺は彼女の指示に従い、ポーション草の種子に手をかざす。
【神の農園】の力でその内部構造、遺伝子の配列をミクロのレベルで把握する。そして別の植物……癒やしの苔が持つ特性の情報を、そこにそっと組み込んでいく。
それは神の領域に踏み込むかのような、極めて繊細で高度な作業だった。
「……できた」
俺が額の汗を拭うと、手のひらの上の種子が淡い緑色の光を放っていた。
「素晴らしいです!」
シルフィはその種子を宝物のように受け取ると、すぐに特別な培養土が入った鉢に植えた。
俺たちは息を殺して、その変化を見守る。
すると種子は数分もしないうちに芽吹き、驚くべき速度で成長を始めた。
やがて現れたのは元のポーション草とは似ても似つかない、全く新しい植物だった。
その葉はまるでエメラルドの結晶のように透き通り、葉脈からは生命の光そのものが脈打っているかのように穏やかな光を放っている。
「……なんて、美しい……」
シルフィがうっとりと呟く。
俺は、その植物に触れ鑑定を行った。
【エリクサーリーフ:鑑定結果】
【効果:一片の葉を煎じて飲むことで、あらゆる傷や病を癒やし、失われた生命力をも回復させる。死者蘇生は不可能だが、瀕死の重傷者であれば確実に救うことができる。】
【状態:成熟。】
エリクサー。
伝説の中にのみ登場する、万能の霊薬。
俺たちはついにそれを、人工的に生み出すことに成功したのだ。
「やりましたね、アルフォンス!」
シルフィは子供のようにはしゃいで、俺の手を握った。その白い手は興奮でわずかに震えている。
「ああ。シルフィの知識があったからこそだ」
俺も彼女の手を握り返した。
その時、俺たちはお互いの距離が思った以上に近いことに気づいた。温室の中の植物の甘い香りと、シルフィから香る森の匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。
シルフィははっとしたように顔を赤らめ、慌てて手を離した。
「……す、すみません。つい、興奮して……」
「いや……」
俺もなぜかどぎまぎしてしまい、言葉が続かない。
気まずい沈黙が二人の間に流れた。
これまで俺たちは最高の『研究パートナー』だった。
だがこの瞬間、俺たちの間にある空気が少しだけ変わったのを、お互いに感じていた。
俺はシルフィをただの仲間としてだけではなく、一人の美しい『女性』として強く意識してしまっていた。
その夜。
俺は自室でエリクサーリーフの量産化計画について考えていたが、どうにも集中できなかった。
昼間のシルフィの潤んだ翠の瞳と赤らんだ頬が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。
彼女は俺のことをどう思っているのだろうか。
追放されて以来、恋愛など考えたこともなかった。だが俺の心の中には、確かに彼女への特別な感情が芽生え始めていた。
「……少し、風にでも当たってくるか」
俺は考えをまとめるために、夜の村を散歩することにした。
月明かりが静まり返った村を優しく照らしている。家々からは温かい光と、家族の団らんの笑い声が漏れてきていた。
この平和な光景を守れたことを、俺は心から誇りに思う。
ふとシルフィが寝床にしている、あの大きな樫の木の方へと足が向いた。
木の根元に彼女の姿があった。
ハンモックで眠っているのではなく、木の幹に背を預け静かに本を読んでいる。月明かりに照らされたその横顔は、昼間見た時とは違うどこか物憂げな美しさをたたえていた。
「……シルフィ」
俺が声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げた。
「アルフォンス。どうしたのですか、こんな夜更けに」
「いや……お前こそ」
「……少し眠れなくて。故郷の森のことを、考えていました」
彼女の言葉に、俺ははっとした。
そうだ。彼女がこの村に来た目的。それは病んだ故郷の森を救うためだった。
俺たちの研究はエリクサーリーフという、とてつもない成果を生んだ。だがそれは彼女の本来の目的から、少し道を逸れてしまっていたのかもしれない。
「……悪い。俺、浮かれてた」
俺は彼女の隣に腰を下ろし、素直に謝った。「エリクサーリーフができたことに満足して、あんたの一番大事なことを忘れかけてた」
「いいえ、そんなことはありません」
シルフィは静かに首を横に振った。「あなたとの研究は私にとってもかけがえのない時間です。それにエリクサーリーフはきっと森を救うための、大きな手がかりになるはずです」
彼女はそう言うと、俺の顔をじっと見つめた。
その翠の瞳には深い信頼と、そしてそれ以上の何か温かい感情が宿っているように見えた。
「アルフォンス。私はあなたに出会えて、この村に来られて本当に良かったと思っています」
「……俺もだよ、シルフィ」
俺たちはどちらからともなく、ゆっくりと顔を近づけていった。
お互いの呼吸が感じられるほどの距離。
だがその唇が触れ合う寸前で、俺たちはどちらともなくふっと笑って体を離した。
まだ、その時ではない。
俺たちにはまだやるべきことがある。
言葉にはしなかったが、お互いの心は通じ合っていた。
「……もう少し、夜風にあたっていかないか」
「はい」
俺たちは肩を並べて座り、言葉もなくただ静かに夜空を眺めていた。
だがその沈黙は少しも気まずくはなかった。むしろ心地よい一体感に満ちていた。
俺たちの関係は今、仲間という言葉だけではもう表せない新しい段階へと、確かに進み始めていた。
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