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第59話:完全な敗北
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嵐の空に開いた禍々しいゲートから、セレスティアと十数体の魔人たちがアルカディア村の中央広場へと舞い降りた。
俺たちが築き上げた浄化の結界は、彼らの降臨を防ぎきれなかった。セレスティアがおそらくはガイウスが遺した魔石から得た情報をもとに、結界のわずかな隙間を突き、ピンポイントで内部への転移を成功させたのだ。
「ふふ、見事な結界ですわね。ですが、完全ではなかったようですわ」
セレスティアは余裕の笑みを浮かべて周囲を見渡した。
彼女の背後に控える魔人たちは、一体一体が以前のガイウスに匹敵するか、それ以上の邪悪なオーラを放っている。彼らは涎を垂らし、この村に満ちる生命エネルギーを前に、飢えた獣のように目をぎらつかせていた。
だが、俺たちの間に動揺はなかった。
俺はこの一ヶ月間、この瞬間をずっと待ち続けていたのだから。
「……お前たちの狙いはこの村の生命力か。だが残念だったな。お前たちにとってここは祭壇なんかじゃない。墓場になる」
俺の言葉を合図に、広場の周囲を取り囲んでいた建物の屋上から無数の影が姿を現した。
リズベット率いる村の義勇軍だ。彼らはディバインメタル製の矢じりをつけた弓を構え、一斉に魔人たちに狙いを定める。
さらに広場へと続くすべての道は、いつの間にかオリハルコンの武装を持つガイア・ガーディアン部隊によって完全に封鎖されていた。
完璧な包囲殲滅陣。
「……ほう」
セレスティアは眉一つ動かさない。「わたくしたちの来訪を予測していたと。ですが、その程度の兵力で我が神の使徒たちに対抗できるとでも?」
彼女が優雅に指を鳴らす。
それを合図に、魔人たちが一斉に雄叫びを上げて襲いかかってきた。
「放て!」
リズベットの号令が響き渡る。
屋上から聖なる力を帯びた矢の雨が、魔人たちへと降り注いだ。
矢は魔人たちの硬い甲殻に突き刺さり、その体を浄化の光で焼く。
「ギイイイッ!?」
予想外のダメージに魔人たちが苦痛の声を上げた。彼らの邪悪な肉体にとって、ディバインメタルの力はまさに劇毒だったのだ。
怯んだ彼らの前に、ガイア・ガーディアンたちが重い足音を響かせて立ちはだかる。
オリハルコンの戦斧と魔人の爪が激突し、凄まじい火花を散らす。
戦いは広場の至る所で、激しい乱戦の様相を呈し始めた。
だが戦況は明らかに俺たちに有利だった。
魔人たちは確かに一体一体が強力だ。だが聖銀樹の加護が満ちるこの広場では、彼らは本来の力の七割も発揮できていない。さらに俺たちの武器は、すべてが彼らの弱点を突く対邪教団仕様。
ガーディアンの一体が魔人の腕を叩き斬る。
義勇軍の連携攻撃が、別の魔人の動きを封じる。
戦いの流れは完全に俺たちが掴んでいた。
セレスティアはその光景を、少しだけ面白そうに、しかしどこか冷めた目で見つめていた。
「……なるほど。これがあなたの答え、というわけですな。実に見事なものですわ。ですが――」
彼女の瞳が、すっと俺に向けられた。
「――王がいなければ、兵隊はただの人形ですわよね?」
次の瞬間、彼女の姿が掻き消えた。
高速移動。いや、短距離の連続転移。
俺の【神の農園】の監視網がかろうじてその動きを捉える。
彼女の狙いはただ一つ。指揮官である俺の首。
「アルフォンス!」
シルフィの悲鳴が響く。
だが遅い。
セレスティアはすでに俺の背後に回り込み、その黒曜石の短剣を俺の心臓めがけて突き出していた。
その動きはあまりにも速く、そして洗練されていた。聖女などではない。一流の暗殺者の動きだ。
俺は振り返らなかった。
その必要はなかったからだ。
俺はただ静かに、右手に握るガイアズ・エッジを背後へと突き出した。
それはまるで背中に目があるかのような、完璧なタイミングと角度だった。
キイイイインッ!
オリハルコンの刃と黒曜石の短剣が、寸分違わぬ位置で激突した。
甲高い音が響き、衝撃波が周囲に拡散する。
「……!?」
セレスティアの顔に初めて本物の驚愕の色が浮かんだ。
自分の神速の一撃が完璧に防がれた。その事実が彼女の冷静さをわずかに揺るがした。
「……驚いたか?」
俺はゆっくりと振り返りながら彼女に言った。「お前が俺を狙ってくることくらい、最初からお見通しだ。この一ヶ月、俺がただゴーレムを作って遊んでいたとでも思ったか?」
俺の体から大地と共鳴する強大な魔力が、オーラとなって立ち上る。
それはもはや、かつての雑用係のそれではない。幾多の死線を乗り越え、仲間を守るために覚醒した王のオーラだった。
「わたくしの動きを、読んだ……?」
「読む、じゃない。感じるんだ」
俺はガイアズ・エッジを構え直した。「このアルカディアにいる限り、大地も風も光さえも、すべてが俺の味方だ。お前の動きはすべて俺に筒抜けなんだよ、セレスティア」
俺は大地を蹴った。
今度は俺から仕掛ける番だった。
俺の剣術は騎士団のそれのように美しくはない。
だがそれは大地と一体となり、次の一手を予測させない変幻自在の剣。
俺が右に動けば足元の地面が盛り上がり、俺の加速を助ける。
俺が左に跳べば風が俺の体を押し、ありえない角度からの攻撃を可能にする。
セレスティアは俺の予測不能な猛攻に、防戦一方に追い込まれていった。
彼女もまた一流の戦士だ。だがここは俺の庭、俺の『神の農園』。
地の利は完全に俺にあった。
「くっ……! この土臭いだけの男が……!」
初めてセレスティアの口から焦りと侮蔑の言葉が漏れた。
そのわずかな心の隙。
俺はそれを見逃さなかった。
「――終わりだ」
俺のガイアズ・エッジが黄金の軌跡を描いて閃いた。
それは大地を耕し生命を育むための一振り。
だがその一振りは、邪悪を断ち切る聖なる審判の刃でもあった。
ザンッ!
セレスティアの純白のローブの右腕が、肩から綺麗に切り飛ばされた。
黒曜石の短剣がカランと音を立てて地面に落ちる。
「……ああ……」
セレスティアは自分の失われた腕と俺の持つ剣を、信じられないという顔で見下ろしていた。
完全な敗北。
彼女が生まれて初めて味わう屈辱。
他の魔人たちも主であるセレスティアが敗れたのを見て、その動きが完全に止まった。
その隙をガーディアンたちと義勇軍が見逃すはずもなく、彼らは次々と打ち倒され浄化の光の中に消えていった。
戦いは終わった。
俺たちの完全な勝利だった。
俺は右腕を失い呆然と立ち尽くすセレスティアに、静かに歩み寄った。
「……言ったはずだ。ここがお前たちの墓場になると」
俺はガイアズ・エッジを彼女の喉元に突きつけた。
俺たちの長く、そして激しい戦いが今、ここでついに幕を閉じる。
俺はそう確信していた。
俺たちが築き上げた浄化の結界は、彼らの降臨を防ぎきれなかった。セレスティアがおそらくはガイウスが遺した魔石から得た情報をもとに、結界のわずかな隙間を突き、ピンポイントで内部への転移を成功させたのだ。
「ふふ、見事な結界ですわね。ですが、完全ではなかったようですわ」
セレスティアは余裕の笑みを浮かべて周囲を見渡した。
彼女の背後に控える魔人たちは、一体一体が以前のガイウスに匹敵するか、それ以上の邪悪なオーラを放っている。彼らは涎を垂らし、この村に満ちる生命エネルギーを前に、飢えた獣のように目をぎらつかせていた。
だが、俺たちの間に動揺はなかった。
俺はこの一ヶ月間、この瞬間をずっと待ち続けていたのだから。
「……お前たちの狙いはこの村の生命力か。だが残念だったな。お前たちにとってここは祭壇なんかじゃない。墓場になる」
俺の言葉を合図に、広場の周囲を取り囲んでいた建物の屋上から無数の影が姿を現した。
リズベット率いる村の義勇軍だ。彼らはディバインメタル製の矢じりをつけた弓を構え、一斉に魔人たちに狙いを定める。
さらに広場へと続くすべての道は、いつの間にかオリハルコンの武装を持つガイア・ガーディアン部隊によって完全に封鎖されていた。
完璧な包囲殲滅陣。
「……ほう」
セレスティアは眉一つ動かさない。「わたくしたちの来訪を予測していたと。ですが、その程度の兵力で我が神の使徒たちに対抗できるとでも?」
彼女が優雅に指を鳴らす。
それを合図に、魔人たちが一斉に雄叫びを上げて襲いかかってきた。
「放て!」
リズベットの号令が響き渡る。
屋上から聖なる力を帯びた矢の雨が、魔人たちへと降り注いだ。
矢は魔人たちの硬い甲殻に突き刺さり、その体を浄化の光で焼く。
「ギイイイッ!?」
予想外のダメージに魔人たちが苦痛の声を上げた。彼らの邪悪な肉体にとって、ディバインメタルの力はまさに劇毒だったのだ。
怯んだ彼らの前に、ガイア・ガーディアンたちが重い足音を響かせて立ちはだかる。
オリハルコンの戦斧と魔人の爪が激突し、凄まじい火花を散らす。
戦いは広場の至る所で、激しい乱戦の様相を呈し始めた。
だが戦況は明らかに俺たちに有利だった。
魔人たちは確かに一体一体が強力だ。だが聖銀樹の加護が満ちるこの広場では、彼らは本来の力の七割も発揮できていない。さらに俺たちの武器は、すべてが彼らの弱点を突く対邪教団仕様。
ガーディアンの一体が魔人の腕を叩き斬る。
義勇軍の連携攻撃が、別の魔人の動きを封じる。
戦いの流れは完全に俺たちが掴んでいた。
セレスティアはその光景を、少しだけ面白そうに、しかしどこか冷めた目で見つめていた。
「……なるほど。これがあなたの答え、というわけですな。実に見事なものですわ。ですが――」
彼女の瞳が、すっと俺に向けられた。
「――王がいなければ、兵隊はただの人形ですわよね?」
次の瞬間、彼女の姿が掻き消えた。
高速移動。いや、短距離の連続転移。
俺の【神の農園】の監視網がかろうじてその動きを捉える。
彼女の狙いはただ一つ。指揮官である俺の首。
「アルフォンス!」
シルフィの悲鳴が響く。
だが遅い。
セレスティアはすでに俺の背後に回り込み、その黒曜石の短剣を俺の心臓めがけて突き出していた。
その動きはあまりにも速く、そして洗練されていた。聖女などではない。一流の暗殺者の動きだ。
俺は振り返らなかった。
その必要はなかったからだ。
俺はただ静かに、右手に握るガイアズ・エッジを背後へと突き出した。
それはまるで背中に目があるかのような、完璧なタイミングと角度だった。
キイイイインッ!
オリハルコンの刃と黒曜石の短剣が、寸分違わぬ位置で激突した。
甲高い音が響き、衝撃波が周囲に拡散する。
「……!?」
セレスティアの顔に初めて本物の驚愕の色が浮かんだ。
自分の神速の一撃が完璧に防がれた。その事実が彼女の冷静さをわずかに揺るがした。
「……驚いたか?」
俺はゆっくりと振り返りながら彼女に言った。「お前が俺を狙ってくることくらい、最初からお見通しだ。この一ヶ月、俺がただゴーレムを作って遊んでいたとでも思ったか?」
俺の体から大地と共鳴する強大な魔力が、オーラとなって立ち上る。
それはもはや、かつての雑用係のそれではない。幾多の死線を乗り越え、仲間を守るために覚醒した王のオーラだった。
「わたくしの動きを、読んだ……?」
「読む、じゃない。感じるんだ」
俺はガイアズ・エッジを構え直した。「このアルカディアにいる限り、大地も風も光さえも、すべてが俺の味方だ。お前の動きはすべて俺に筒抜けなんだよ、セレスティア」
俺は大地を蹴った。
今度は俺から仕掛ける番だった。
俺の剣術は騎士団のそれのように美しくはない。
だがそれは大地と一体となり、次の一手を予測させない変幻自在の剣。
俺が右に動けば足元の地面が盛り上がり、俺の加速を助ける。
俺が左に跳べば風が俺の体を押し、ありえない角度からの攻撃を可能にする。
セレスティアは俺の予測不能な猛攻に、防戦一方に追い込まれていった。
彼女もまた一流の戦士だ。だがここは俺の庭、俺の『神の農園』。
地の利は完全に俺にあった。
「くっ……! この土臭いだけの男が……!」
初めてセレスティアの口から焦りと侮蔑の言葉が漏れた。
そのわずかな心の隙。
俺はそれを見逃さなかった。
「――終わりだ」
俺のガイアズ・エッジが黄金の軌跡を描いて閃いた。
それは大地を耕し生命を育むための一振り。
だがその一振りは、邪悪を断ち切る聖なる審判の刃でもあった。
ザンッ!
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黒曜石の短剣がカランと音を立てて地面に落ちる。
「……ああ……」
セレスティアは自分の失われた腕と俺の持つ剣を、信じられないという顔で見下ろしていた。
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その隙をガーディアンたちと義勇軍が見逃すはずもなく、彼らは次々と打ち倒され浄化の光の中に消えていった。
戦いは終わった。
俺たちの完全な勝利だった。
俺は右腕を失い呆然と立ち尽くすセレスティアに、静かに歩み寄った。
「……言ったはずだ。ここがお前たちの墓場になると」
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