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第58話:アルフォンス、自ら前線へ
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ガイウスが遺した黒い魔石。
シルフィがそれを分析した結果、俺たちは邪教団の力の源泉についていくつかの重要な知見を得ることができた。
「この魔石は純粋な負の感情――特に憎しみや嫉妬を触媒にして、所有者の生命力を喰らい莫大な魔力へと変換する装置のようです」
彼女は水晶の顕微鏡を覗き込みながら、険しい顔で説明した。「ガイウスの力が前回よりも増していたのはアルフォンスへの憎悪が増大したから。そして彼が塵となって消えたのは、この魔石に魂ごと喰らい尽くされてしまったからです」
「なんて悍ましい代物だ……」
リズベットが吐き捨てるように言う。
「だが弱点もある」俺は言った。「この力は持ち主の精神に大きく依存する。強い憎しみがあれば力は増すが心が折れれば途端に脆くなる。ガイウスが最後にあっけなく崩れたのはそのためだ」
そして何より重要な発見は、この魔石が微量の『神聖エネルギー』に対して極めて脆弱であるということだった。
シルフィが聖銀樹の葉から抽出した液体を魔石に一滴垂らすと、魔石は激しく反応し表面に亀裂が入ったのだ。
「……なるほどな」
俺は一つの確信を得た。
俺たちのこのアルフォ癇村そのものが、邪教団にとって最大の天敵となりうるのだ。
聖銀樹の加護、エリクサーリーフの浄化の力、そしてディバインメタル。俺たちが育ててきたすべてが、邪神の力に対抗するための最高の武器となる。
「……セレスティアは、おそらくこのことにまだ気づいていない」
俺は仲間たちに自分の考えを話した。「彼女はこの村をただ生命力に満ちた『贄』としか見ていない。この村が自分たちの力を無効化する『毒』であるとは夢にも思っていないだろう。それが俺たちの最大の勝機になる」
ガイウスという大きな犠牲を払ったが、俺たちは敵の正体と弱点を知るという計り知れない戦果を得た。
俺たちはこの情報を元に、村の防衛体制をさらに強化していった。
ガイア・ガーディアン部隊は常に聖銀樹の傍で待機させ、そのオリハルコンの武具に聖なる力を常にチャージさせる。村を覆う結界にも浄化のエネルギーをさらに強く練り込み、邪悪な魔力を持つ者はこの村の敷居を跨ぐことさえできないように改良した。
だが俺は、ただ守りを固めるだけでは不十分だと感じていた。
セレスティアはおそらく次なる手を打ってくるだろう。それはもっと狡猾で、もっと大規模な攻撃かもしれない。
いつまでも受け身でいるわけにはいかない。
「……俺も戦う力を、もっと磨かなければならない」
その日の夜、俺は一人ガイア・ガーディアンたちが待機する中央広場に立っていた。
これまで俺は指揮官として、後方からスキルを使い仲間やゴーレムたちを支援するのが役目だった。直接前線に立って戦うことは極力避けてきた。戦闘はシルフィやリズベット、そしてフェンリルの役割だと無意識に決めつけていたからだ。
だがガイウスとの最後の対峙で、俺は気づかされた。
この『ガイアズ・エッジ』はただの農具ではない。リズベットが魂を込めて鍛え上げた神話級の武器だ。そして俺の【神の農園】スキルもまた、戦闘において無限の可能性を秘めている。
俺はガイアズ・エッジを構え、一体のガイア・ガーディアンに向き合った。
「……訓練に付き合ってくれ」
俺の言葉に、ガーディアンは無言で頷くとオリハルコンの戦斧を構えた。
そこから俺の血の滲むような自己鍛錬が始まった。
相手はオリハルコンの武装を持つ最強のゴーレム。手加減など一切ない。
最初のうちは、俺はガーディアンの圧倒的なパワーと機械のように正確な動きに全く対応できなかった。何度も打ちのめされ、泥だらけになって地面を転がった。
だが俺は諦めなかった。
俺は戦闘の中で【神の農園】スキルの新たな応用方法を見出していった。
足元の地面を操作し相手の体勢を崩す。
土で分身を作り出し敵を幻惑する。
空気中の土の粒子を操り、目くらましや防御壁として利用する。
そしてガイアズ・エッジを通して、大地そのものから力を引き出し己の剣に乗せる。
俺の剣術は洗練された騎士のそれとは違う。
大地と一体となり自然の流れに身を任せる、どこまでも泥臭く、しかし予測不可能な独自の剣術へと進化していった。
シルフィは俺の無茶な訓練を知り、毎晩のように傷だらけになった俺の体をエリクサーリーフの軟膏で治療してくれた。
「……あまり無茶はしないでください。あなたはこの村の心臓なのですから」
彼女はそう言って、心配そうに俺の傷に触れる。その優しさが俺の心を支えてくれた。
リズベットは俺の訓練を見て、ガイアズ・エッジにさらなる改良を加えてくれた。
「お頭の戦い方は型にはまらねえ。なら武器もそれに合わせて進化しなきゃな」
彼女はアタッチメントを瞬時に切り替えられる機構や、俺の魔力に応じて刃の形状が変化する機能などを次々と追加してくれた。
仲間たちの支えを受け、俺は日に日に戦闘者としてその力を開花させていった。
それはもはや、かつての『雑用係』の面影などどこにもない、大地を統べる王としての力強い覚醒だった。
そして運命の日は唐突に訪れた。
訓練を始めてから一ヶ月が過ぎた、ある嵐の夜。
村全体を覆う浄化の結界が、警告を告げるかのように激しく明滅を始めた。
聖銀樹の葉が嵐でもないのにざわめき、悲鳴のような音を立てる。
「……来たか」
俺は訓練を中断し空を見上げた。
嵐雲が渦巻く漆黒の空。
その一点がまるで空間が裂けるかのように、禍々しい紫色の光を放ち始めた。
そこからゆっくりと、異形の者たちがこの世界へと降臨してくる。
それはもはや人間ではなかった。
ねじくれた角、昆虫のような甲殻、闇そのものでできた翼。
邪神に魂を捧げ、その身を異形へと変えた邪教団が誇る上級の魔人たち。
その数、十数体。
そしてその中心に、純白のローブを身に纏い、静かにこちらを見下ろすあの女の姿があった。
「――お久しぶりですわね、アルフォンス様」
セレスティアの声が雷鳴のようにアルカディア村全体に響き渡った。「今宵、あなたの理想郷を我が神の祭壇とするために、お迎えに上がりました」
邪教団『黄昏の蛇』による本格的な侵攻。
俺たちの本当の決戦の火蓋が、今、切って落とされた。
だが俺の心にもはや恐れはなかった。
俺は生まれ変わった相棒ガイアズ・エッジを握りしめ、仲間たちと共に闇を見据えた。
「……待ちくたびれたぜ、セレスティア」
俺は不敵な笑みを浮かべ、静かにそう呟いた。
シルフィがそれを分析した結果、俺たちは邪教団の力の源泉についていくつかの重要な知見を得ることができた。
「この魔石は純粋な負の感情――特に憎しみや嫉妬を触媒にして、所有者の生命力を喰らい莫大な魔力へと変換する装置のようです」
彼女は水晶の顕微鏡を覗き込みながら、険しい顔で説明した。「ガイウスの力が前回よりも増していたのはアルフォンスへの憎悪が増大したから。そして彼が塵となって消えたのは、この魔石に魂ごと喰らい尽くされてしまったからです」
「なんて悍ましい代物だ……」
リズベットが吐き捨てるように言う。
「だが弱点もある」俺は言った。「この力は持ち主の精神に大きく依存する。強い憎しみがあれば力は増すが心が折れれば途端に脆くなる。ガイウスが最後にあっけなく崩れたのはそのためだ」
そして何より重要な発見は、この魔石が微量の『神聖エネルギー』に対して極めて脆弱であるということだった。
シルフィが聖銀樹の葉から抽出した液体を魔石に一滴垂らすと、魔石は激しく反応し表面に亀裂が入ったのだ。
「……なるほどな」
俺は一つの確信を得た。
俺たちのこのアルフォ癇村そのものが、邪教団にとって最大の天敵となりうるのだ。
聖銀樹の加護、エリクサーリーフの浄化の力、そしてディバインメタル。俺たちが育ててきたすべてが、邪神の力に対抗するための最高の武器となる。
「……セレスティアは、おそらくこのことにまだ気づいていない」
俺は仲間たちに自分の考えを話した。「彼女はこの村をただ生命力に満ちた『贄』としか見ていない。この村が自分たちの力を無効化する『毒』であるとは夢にも思っていないだろう。それが俺たちの最大の勝機になる」
ガイウスという大きな犠牲を払ったが、俺たちは敵の正体と弱点を知るという計り知れない戦果を得た。
俺たちはこの情報を元に、村の防衛体制をさらに強化していった。
ガイア・ガーディアン部隊は常に聖銀樹の傍で待機させ、そのオリハルコンの武具に聖なる力を常にチャージさせる。村を覆う結界にも浄化のエネルギーをさらに強く練り込み、邪悪な魔力を持つ者はこの村の敷居を跨ぐことさえできないように改良した。
だが俺は、ただ守りを固めるだけでは不十分だと感じていた。
セレスティアはおそらく次なる手を打ってくるだろう。それはもっと狡猾で、もっと大規模な攻撃かもしれない。
いつまでも受け身でいるわけにはいかない。
「……俺も戦う力を、もっと磨かなければならない」
その日の夜、俺は一人ガイア・ガーディアンたちが待機する中央広場に立っていた。
これまで俺は指揮官として、後方からスキルを使い仲間やゴーレムたちを支援するのが役目だった。直接前線に立って戦うことは極力避けてきた。戦闘はシルフィやリズベット、そしてフェンリルの役割だと無意識に決めつけていたからだ。
だがガイウスとの最後の対峙で、俺は気づかされた。
この『ガイアズ・エッジ』はただの農具ではない。リズベットが魂を込めて鍛え上げた神話級の武器だ。そして俺の【神の農園】スキルもまた、戦闘において無限の可能性を秘めている。
俺はガイアズ・エッジを構え、一体のガイア・ガーディアンに向き合った。
「……訓練に付き合ってくれ」
俺の言葉に、ガーディアンは無言で頷くとオリハルコンの戦斧を構えた。
そこから俺の血の滲むような自己鍛錬が始まった。
相手はオリハルコンの武装を持つ最強のゴーレム。手加減など一切ない。
最初のうちは、俺はガーディアンの圧倒的なパワーと機械のように正確な動きに全く対応できなかった。何度も打ちのめされ、泥だらけになって地面を転がった。
だが俺は諦めなかった。
俺は戦闘の中で【神の農園】スキルの新たな応用方法を見出していった。
足元の地面を操作し相手の体勢を崩す。
土で分身を作り出し敵を幻惑する。
空気中の土の粒子を操り、目くらましや防御壁として利用する。
そしてガイアズ・エッジを通して、大地そのものから力を引き出し己の剣に乗せる。
俺の剣術は洗練された騎士のそれとは違う。
大地と一体となり自然の流れに身を任せる、どこまでも泥臭く、しかし予測不可能な独自の剣術へと進化していった。
シルフィは俺の無茶な訓練を知り、毎晩のように傷だらけになった俺の体をエリクサーリーフの軟膏で治療してくれた。
「……あまり無茶はしないでください。あなたはこの村の心臓なのですから」
彼女はそう言って、心配そうに俺の傷に触れる。その優しさが俺の心を支えてくれた。
リズベットは俺の訓練を見て、ガイアズ・エッジにさらなる改良を加えてくれた。
「お頭の戦い方は型にはまらねえ。なら武器もそれに合わせて進化しなきゃな」
彼女はアタッチメントを瞬時に切り替えられる機構や、俺の魔力に応じて刃の形状が変化する機能などを次々と追加してくれた。
仲間たちの支えを受け、俺は日に日に戦闘者としてその力を開花させていった。
それはもはや、かつての『雑用係』の面影などどこにもない、大地を統べる王としての力強い覚醒だった。
そして運命の日は唐突に訪れた。
訓練を始めてから一ヶ月が過ぎた、ある嵐の夜。
村全体を覆う浄化の結界が、警告を告げるかのように激しく明滅を始めた。
聖銀樹の葉が嵐でもないのにざわめき、悲鳴のような音を立てる。
「……来たか」
俺は訓練を中断し空を見上げた。
嵐雲が渦巻く漆黒の空。
その一点がまるで空間が裂けるかのように、禍々しい紫色の光を放ち始めた。
そこからゆっくりと、異形の者たちがこの世界へと降臨してくる。
それはもはや人間ではなかった。
ねじくれた角、昆虫のような甲殻、闇そのものでできた翼。
邪神に魂を捧げ、その身を異形へと変えた邪教団が誇る上級の魔人たち。
その数、十数体。
そしてその中心に、純白のローブを身に纏い、静かにこちらを見下ろすあの女の姿があった。
「――お久しぶりですわね、アルフォンス様」
セレスティアの声が雷鳴のようにアルカディア村全体に響き渡った。「今宵、あなたの理想郷を我が神の祭壇とするために、お迎えに上がりました」
邪教団『黄昏の蛇』による本格的な侵攻。
俺たちの本当の決戦の火蓋が、今、切って落とされた。
だが俺の心にもはや恐れはなかった。
俺は生まれ変わった相棒ガイアズ・エッジを握りしめ、仲間たちと共に闇を見据えた。
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