スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第71話:アルカディア包囲網

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ヴァルケンハインの命令は絶対だった。
翌日から、一万の帝国軍はその圧倒的な物量を活かし、アルカディア村の周囲に恐るべき速度で巨大な包囲網を築き始めた。
それはバルトークの私兵が行ったような、ただ遠巻きに囲むだけの杜撰なものではない。
工兵部隊が寸分の狂いもなく測量を行い、塹壕を掘り、土塁を築く。その外側には逆茂木や鉄条網のような、騎馬隊の突撃を防ぐための障害物が何重にも設置された。
さらに一定間隔で巨大な攻城櫓が建設され、その上にはこちらのバリスタさえ射程に収める帝国製の長距離投石機『カタパルト』が据え付けられていく。

彼らは俺たちのゲリラ戦を完全に封じるつもりだった。
森には伐採部隊が送り込まれ、トレントたちが潜む木々を片っ端から切り倒していく。俺のスキルで森を操ろうにも、彼らは火を放ち森全体を焼き払うことさえ躊躇しないだろう。
補給路も何重もの警備部隊によって固められ、もはや奇襲の入り込む隙はなかった。

わずか数日で、アルカディア村の周囲は帝国軍によって築かれた巨大な『死の領域』へと変貌した。
それはもはや村を囲む包囲網というよりも、アルカディアという国を大陸から完全に隔離し、孤立させるための巨大な壁だった。

「……ちっ、とんでもねえ要塞を逆さに作りやがったな」
壁の上からその光景を見ていたリズベットが、感心したように、しかし忌々しげに呟いた。
「ヴァルケンハイン将軍……。噂に違わぬ恐ろしい指揮官です。彼は私たちの戦力を正確に分析し、その長所を一つ一つ着実に潰しに来ています」
シルフィも厳しい表情で敵陣を睨んでいる。

俺たちのゲリラ戦術は完全に封じられた。
森の巨人たちももはや使うことはできない。
残された選択肢は、この城壁の内側で敵の攻撃をひたすら耐え忍ぶ籠城戦のみ。

帝国の狙いは明らかだった。
圧倒的な物量で俺たちを完全に封じ込め、外部との接触を一切断つ。そしてカタパルトによる遠距離からの砲撃で、こちらの防衛設備と士気をじわじわと削り取っていく。
壁が崩れ、俺たちが疲弊しきったところで満を持して総攻撃を仕掛ける。
それはあまりにも正攻法で、あまりにも確実な王者の戦術だった。

その日の夕暮れ。
帝国軍の陣地から最初の砲撃が開始された。
ヒュオオオッ、という不気味な風切り音と共に、巨大な岩塊が放物線を描いて俺たちの村へと飛来してくる。

「全軍、衝撃に備えよ!」
俺は壁の上に立つ義勇軍に叫んだ。
ドッゴオオオオオン!
岩塊が俺たちの城壁に激突し、凄まじい衝撃と轟音を撒き散らす。
壁は大きく揺れ、表面の土がパラパラと崩れ落ちた。だが、俺が大地と一体化させているこの城壁は、その程度の衝撃で崩れるほど脆くはなかった。

だが、砲撃は一発では終わらない。
第二射、第三射……。
帝国軍のカタパルト部隊は、寸分の狂いもない精度で次々と壁の同じ箇所を狙って砲撃を繰り返してくる。
一点集中攻撃。
どんなに頑強な壁であろうと、同じ場所に何度も衝撃を受け続ければいずれは限界が来る。
ヴァルケンハインはそれを冷徹に、そして正確に実行していた。

「くそっ、このままじゃジリ貧だ!」
リズベットが悔しそうに叫ぶ。「こっちからもバリスタで撃ち返せねえのか!?」
「無駄です」シルフィが首を横に振る。「彼らの陣地は私たちのバリスタのわずかに射程外です。こちらの攻撃は届かず、向こうの攻撃だけが一方的に届く……。計算し尽くされています」

俺は唇を噛み締めた。
これが大陸最強の軍事国家の実力。
これが鋼鉄の虐殺者の戦い方。
小細工も奇策も一切通用しない。ただ、圧倒的な物量と規律と計算によって敵を確実に、そして無慈悲にすり潰していく。

砲撃は夜になっても続いた。
着弾の衝撃と轟音が周期的に村を揺らし、人々の眠りを妨げる。
村人たちの間に少しずつ疲労と、そして先の見えない戦いへの恐怖が影を落とし始めていた。
シェルターに避難している子供たちの中には、轟音が響くたびに泣き出す子もいた。

俺は領主として村中を歩き回り、人々を励まして歩いた。
「大丈夫だ! この壁は絶対に崩れない!」
「食料も水も無限にある! 俺たちが先に根を上げることは絶対にない!」
俺の言葉は人々の心をかろうじて繋ぎ止めていた。
だが、俺自身も内心では焦りを感じ始めていた。

このまま、ただ耐え忍ぶだけで本当に勝てるのか。
邪教団との決戦の前に、俺たちの村は人間の手によって疲弊し、崩壊してしまうのではないか。
何かこの状況を打破する新たな一手が必要だった。

俺は一人聖銀樹の下に立ち、思考を巡らせた。
敵の弱点はどこにある?
この完璧に見える包囲網の、唯一の『穴』はどこにある……?

俺はスキル【神の農園】の感覚を極限まで研ぎ澄ませた。
俺の意識は大地を駆け巡り、帝国軍の広大な陣地の隅々にまで染み渡っていく。
兵士たちの配置。
物資の集積所。
そして後方にある、指揮官ヴァルケンハインがいるであろう本陣の位置。
そのすべてを俺は手に取るように把握していた。

そして、俺は気づいた。
彼らの唯一にして最大の弱点に。
それはあまりにも当たり前で、そしてあまりにも致命的な弱点だった。
「……そうか」

俺の口元に笑みが浮かんだ。
それは反撃の狼煙を上げる不敵な笑みだった。
「兵糧攻めか。面白い。ならば教えてやろう、ヴァルケンハイン。本当の『兵糧攻め』とはどういうものかをな」

俺は仲間たちを緊急に招集した。
そして、この絶望的な状況を一変させる起死回生の作戦を告げた。
その作戦名は、あまりにもシンプルで、そしてあまりにも俺たちらしいものだった。

「――史上最大の収穫祭を始める」
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