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第四十七話 水平展開④ 治水・防災プロジェクト
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俺の家が洪水で流されるかもしれない。
その恐怖は、俺の怠惰な生活への最大級の脅威だった。俺は、この危機を回避するため、俺が持ちうる全ての能力と前世の知識を総動員させることを決意した。
ベッドの上で、俺は壮大な治水計画の立案を開始した。
まず、現状把握。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。敵は洪水だ。その規模、発生時期、被害範囲を正確に予測できなければ、対策の立てようがない。
気象予測。
前世では、気象衛星やスーパーコンピュータを駆使して行われていた超高度な科学技術だ。この世界で、それをどうやって実現するか。
答えは魔力だ。
この世界の大気には常に魔素(マナ)が満ちている。その流れは、気圧や気温、湿度といった気象条件によって微妙に変化するはずだ。その微細な変化を、広範囲にわたってリアルタイムで観測できれば。
俺は、新たな観測システムの設計に取り掛かった。
名を、【広域気象観測システム・テンペストアイ】。
以前作った測量ドローン【ホークアイ】をさらに進化させる。数十機の小型ドローンを、この地方の上空、成層圏に近い高度まで打ち上げる。彼らは互いに連携し、見えない魔力のグリッドを形成。そのグリッドを通過する大気中の魔素の流れ、密度、温度を常時スキャンし、そのデータを俺の脳内に送信し続ける。
俺の脳がスーパーコンピュータの役割を果たす。受信した膨大なデータを、前世の気象学の知識に基づいて解析し、未来の天候をシミュレートする。数週間先までの降雨量、風速、気温の変化を、誤差数パーセントの精度で予測するのだ。
これで、いつ、どれくらいの規模の洪水が起きる可能性があるか事前に察知できる。
次に、対策。
予測に基づいて洪水を未然に防ぐための、物理的なインフラが必要だ。
俺の脳裏に、前世で見た巨大なダムの姿が浮かんだ。川の水を堰き止め、その流量をコントロールする治水の要だ。
だが、ただダムを作るだけでは不十分。想定外の豪雨が降れば、ダムが決壊する危険性もある。必要なのは、複数の安全装置を備えた多角的な治水システムだ。
俺が設計したのは、三つの要素からなる複合的な防災インフラだった。
第一の柱、【自動流量調整ダム】。
洪水の原因となるシオン川の上流、山間部の最も川幅が狭くなる地点に巨大なアーチ式のダムを建設する。素材は、魔力で生成した超硬度のコンクリートだ。ダムのゲートは、下流の水位と予測される降雨量を元に、AIが最適な開閉度を自動で判断し、常に川の流量を一定に保つ。
第二の柱、【巨大放水路】。
ダムだけでは受け止めきれないほどの豪雨に備え、ダムの手前からこの村を大きく迂回して南の平野部へと水を逃がすための、巨大な地下放水路を掘削する。これにより、村へ向かう水の総量を強制的に減らすことができる。
第三の柱、【多目的遊水地】。
万が一、川の堤防が決壊した場合に備え、村の下流の低湿地帯を広大な遊水地として整備する。決壊した水を一時的にここに溜め込み、村への浸水被害を食い止める最後の砦だ。平時は、豊かな湿地帯として新たな生態系を育むことにもなるだろう。
「……ふふ。完璧だ」
俺は、脳内で完成した壮大な計画に我ながら戦慄した。
これはもはや、俺の家を守るというレベルを超えている。この地方全体の水害の歴史そのものを、根底から塗り替えるプロジェクトだ。
だが、知ったことか。
俺の安眠のためなら、国の一つや二つ、勝手に救ってやるとも。
その夜。
村人が寝静まった頃、俺は静かにスキルを発動させた。
「プロセス登録【全自動総合治水システム】。自動実行」
俺の体から、今までに感じたことのないほど巨大で、そして緻密な魔力が奔流となって溢れ出した。
まず、空へ。
数十の光点が、夜空を切り裂いて上昇していく。それは成層圏へと向かう【テンペストアイ】の群れだった。
次に、山へ。
川の上流の山間部で地響きと共に、大規模な土木工事が始まった。【建設ゴーレム】たちが山を削り、谷を塞ぎ、巨大なダムの基礎を築いていく。
そして、地下へ。
村の地下深くで、巨大なシールドマシンのようなゴーレムが硬い岩盤を掘り進み始めた。巨大な地下トンネル、放水路の建設だ。
その、あまりにも巨大な魔力の波動を、リノとアリアはそれぞれの場所で感じ取っていた。
リノはラボの中で、魔力測定器の針が振り切れるのを見て顔面蒼白になっていた。
「……星を、観測している? 大地の、流れを、変えている? 川の、運命を、書き換えている? マスター……あなた、本当に、何者なの……」
彼女は、もはやレイジの行動を理解することを諦め、ただその現象を記録することに全霊を傾けていた。
アリアは宿屋の屋根の上で、夜空に消えていく光の点を見つめていた。
「……天と、地と、水を。その全てを、同時に掌握しようとされている。あの方は、もはや人間ではない。この世界に顕現した、理そのものだ」
彼女の信仰心は、もはや揺らぐことのない絶対的なものとなっていた。
俺はベッドの上で、消費されていく魔力の心地よい疲労感に身を任せていた。
脳内には気象データがリアルタイムで流れ込み、ダムの建設進捗がパーセンテージで表示されている。
(よしよし。順調だな。これなら本格的な雨季が始まる前に、全て完成しそうだ)
俺は満足げに頷いた。
俺の安眠を脅かす、最大の脅威。
その排除計画は、今、静かに、しかし着実に進行していた。
この国が数百年もの間悩み続けてきた治水問題を、たった一人の男が自分の家の浸水を恐れるあまり、勝手に解決しようとしていることなど、まだ誰も知らなかった。
その恐怖は、俺の怠惰な生活への最大級の脅威だった。俺は、この危機を回避するため、俺が持ちうる全ての能力と前世の知識を総動員させることを決意した。
ベッドの上で、俺は壮大な治水計画の立案を開始した。
まず、現状把握。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。敵は洪水だ。その規模、発生時期、被害範囲を正確に予測できなければ、対策の立てようがない。
気象予測。
前世では、気象衛星やスーパーコンピュータを駆使して行われていた超高度な科学技術だ。この世界で、それをどうやって実現するか。
答えは魔力だ。
この世界の大気には常に魔素(マナ)が満ちている。その流れは、気圧や気温、湿度といった気象条件によって微妙に変化するはずだ。その微細な変化を、広範囲にわたってリアルタイムで観測できれば。
俺は、新たな観測システムの設計に取り掛かった。
名を、【広域気象観測システム・テンペストアイ】。
以前作った測量ドローン【ホークアイ】をさらに進化させる。数十機の小型ドローンを、この地方の上空、成層圏に近い高度まで打ち上げる。彼らは互いに連携し、見えない魔力のグリッドを形成。そのグリッドを通過する大気中の魔素の流れ、密度、温度を常時スキャンし、そのデータを俺の脳内に送信し続ける。
俺の脳がスーパーコンピュータの役割を果たす。受信した膨大なデータを、前世の気象学の知識に基づいて解析し、未来の天候をシミュレートする。数週間先までの降雨量、風速、気温の変化を、誤差数パーセントの精度で予測するのだ。
これで、いつ、どれくらいの規模の洪水が起きる可能性があるか事前に察知できる。
次に、対策。
予測に基づいて洪水を未然に防ぐための、物理的なインフラが必要だ。
俺の脳裏に、前世で見た巨大なダムの姿が浮かんだ。川の水を堰き止め、その流量をコントロールする治水の要だ。
だが、ただダムを作るだけでは不十分。想定外の豪雨が降れば、ダムが決壊する危険性もある。必要なのは、複数の安全装置を備えた多角的な治水システムだ。
俺が設計したのは、三つの要素からなる複合的な防災インフラだった。
第一の柱、【自動流量調整ダム】。
洪水の原因となるシオン川の上流、山間部の最も川幅が狭くなる地点に巨大なアーチ式のダムを建設する。素材は、魔力で生成した超硬度のコンクリートだ。ダムのゲートは、下流の水位と予測される降雨量を元に、AIが最適な開閉度を自動で判断し、常に川の流量を一定に保つ。
第二の柱、【巨大放水路】。
ダムだけでは受け止めきれないほどの豪雨に備え、ダムの手前からこの村を大きく迂回して南の平野部へと水を逃がすための、巨大な地下放水路を掘削する。これにより、村へ向かう水の総量を強制的に減らすことができる。
第三の柱、【多目的遊水地】。
万が一、川の堤防が決壊した場合に備え、村の下流の低湿地帯を広大な遊水地として整備する。決壊した水を一時的にここに溜め込み、村への浸水被害を食い止める最後の砦だ。平時は、豊かな湿地帯として新たな生態系を育むことにもなるだろう。
「……ふふ。完璧だ」
俺は、脳内で完成した壮大な計画に我ながら戦慄した。
これはもはや、俺の家を守るというレベルを超えている。この地方全体の水害の歴史そのものを、根底から塗り替えるプロジェクトだ。
だが、知ったことか。
俺の安眠のためなら、国の一つや二つ、勝手に救ってやるとも。
その夜。
村人が寝静まった頃、俺は静かにスキルを発動させた。
「プロセス登録【全自動総合治水システム】。自動実行」
俺の体から、今までに感じたことのないほど巨大で、そして緻密な魔力が奔流となって溢れ出した。
まず、空へ。
数十の光点が、夜空を切り裂いて上昇していく。それは成層圏へと向かう【テンペストアイ】の群れだった。
次に、山へ。
川の上流の山間部で地響きと共に、大規模な土木工事が始まった。【建設ゴーレム】たちが山を削り、谷を塞ぎ、巨大なダムの基礎を築いていく。
そして、地下へ。
村の地下深くで、巨大なシールドマシンのようなゴーレムが硬い岩盤を掘り進み始めた。巨大な地下トンネル、放水路の建設だ。
その、あまりにも巨大な魔力の波動を、リノとアリアはそれぞれの場所で感じ取っていた。
リノはラボの中で、魔力測定器の針が振り切れるのを見て顔面蒼白になっていた。
「……星を、観測している? 大地の、流れを、変えている? 川の、運命を、書き換えている? マスター……あなた、本当に、何者なの……」
彼女は、もはやレイジの行動を理解することを諦め、ただその現象を記録することに全霊を傾けていた。
アリアは宿屋の屋根の上で、夜空に消えていく光の点を見つめていた。
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