「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第四十九話 垂直展開② ダムと放水路の建設

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気象予測と洪水シミュレーションは完了した。結果は最悪。このままでは、俺の快適な引きこもり生活は濁流と共に終わりを告げる。

猶予はない。
予測によれば、破局的な豪雨がこの地を襲うのは一週間後。それまでに、ダムと放水路という二つの巨大インフラを完成させなければならない。

常識的に考えれば不可能だ。国家プロジェクトとして何十年とかけて行うべき事業を、たった一人で一週間でやり遂げるなど。

だが、俺の辞書に『不可能』の文字はない。『面倒くさい』という文字があるだけだ。そして、家が流されるのは最高に面倒くさい。

俺はベッドの上で、建設フェーズの最終設計に取り掛かった。

労働力は、既に量産体制が整っている【建設ゴーレム】たちだ。街道建設でその性能は実証済み。だが、今回は相手が違う。山を削り、地下を掘り進む、よりパワフルで特殊な能力を持ったゴーレムが必要になる。

俺は、既存のゴーレムを今回のプロジェクトに合わせてカスタマイズすることにした。

【掘削整地ゴーレム・グランドレベラー】改め、【山岳掘削ゴーレム・マウンテンイーター】。
その腕には岩盤を豆腐のように削り取る超振動ブレードを装備。ダムの基礎を築くため、川沿いの山肌を設計図通りに寸分の狂いもなく削り取っていく。

【石畳敷設ゴーレム・パズルマスター】改め、【コンクリート打設ゴーレム・リキッドシェイパー】。
そのアームは超硬度コンクリートを流し込むための巨大なノズルに換装。内部の魔法炉で生成された特殊な液体コンクリートを、型枠に流し込み魔力で瞬時に硬化させる。

そして、今回のプロジェクトの目玉となる新型ゴーレム。

名を、【地下掘削ゴーレム・アースワーム】。
その姿は巨大なミミズか、あるいは前世のSF映画に出てきたサンドワームのようだ。円筒形の巨大な体で、その先端には回転する超硬度のドリルヘッドが取り付けられている。体内で掘削した土砂を後方へと排出しながら、硬い岩盤の中をまるで水の中を進むかのように掘り進んでいく。地下放水路建設のための究極のシールドマシンだ。

これらの特殊ゴーレム軍団を、数百体規模で投入する。

建設現場は三箇所。
シオン川上流のダム建設予定地。
村の地下深く、放水路の始点。
そして、村の下流、遊水地の造成エリア。

これら三つの現場で、同時に並行して工事を進める。

「……よし。これでいける」

俺は全ての計画を脳内で最終確認し、静かに、しかし力強くスキルを発動させた。

「【全自動総合治水システム】、第二フェーズへ移行。特殊ゴーレムの生産を開始。全機、完成次第、指定された各工区へ展開。建設を開始せよ」

俺の体から、再び莫大な魔力が流れ出し始めた。それはもはや川の流れではなく、大河の奔流だった。

家の裏にある【素材生成ゴーレム・マテリアルクリエイター】がフル稼働を始める。排出されるのは、もはや石畳ブロックではない。ゴーレムのパーツとなる複雑な形状の金属部品や、液体状の特殊コンクリートだ。

それらがひとりでに組み上がり、新たなゴーレムたちが次々と産声を上げていく。

山を喰らう巨人。液体を操る魔人。そして、大地を穿つ鋼の蟲。

神話の怪物のような異形のゴーレム軍団は、誰の目にも触れることなく夜の闇に紛れて、それぞれの持ち場へと静かに、そして迅速に移動を開始した。

川の上流では、山肌が巨大なスプーンで抉り取られるかのように削られていく。
村の地下では、巨大な鋼鉄のミミズが硬い岩盤をがりがりと削りながら進んでいく。
下流の湿地帯では、無数のゴーレムたちが広大な土地を掘り下げ、巨大な貯水池を造成し始めていた。

人知れず、この地方の地形そのものが猛烈な勢いで作り変えられていく。

アリアは、その夜も宿屋の屋根の上からレイジの家を監視していた。
彼女は、家から放たれる魔力の質が再び劇的に変化したことに気づいていた。

(……土木工事? いや、それだけではない。山を、川を、そして大地の奥深くを同時に……。あの方は、一体、何を)

彼女の理解は、もはや目の前の現象に追いついていなかった。だが、確信だけはあった。

賢者様が、再びこの世界を救うための大いなる奇跡を起こされようとしている。

そして、その奇跡の渦の中心で、一人のエルフがついに決断を下した。

リノはラボの中で、震える手で羊皮紙に一枚の嘆願書を書き上げていた。
そして、覚悟を決めた顔で俺の寝室の扉の前に静かに正座した。

俺が朝、目を覚ますと、扉の外にはいつものようにリノがいた。だが、その表情はいつもの狂的な好奇心とは違う、どこか悲壮なまでの真剣さに満ちていた。

彼女は俺が姿を現すなり、深々と額が床につくほどに頭を下げた。

「マスター!」

その声は震えていた。

「……どうか、この私をあなたの御業のほんの片隅にでも加えてはいただけないでしょうか!」

彼女は顔を上げた。その紫色の瞳は涙で潤んでいた。

「私は、もうただ見ているだけではいられません! あなたが成し遂げようとしている、この世界の理を書き換えるという偉業! その一部始終をこの目で見届け、記録し、そしてもし許されるのなら、私の持つ知識の全てを捧げ、ほんの少しでもお力になりたいのです!」

彼女は、自らが書き上げた嘆願書を俺の前に差し出した。

「どうか、私をあなたの助手としてお使いください!」

天才エルフ、リノ・シルヴァリーが、そのプライドも何もかもを捨てて俺に頭を下げた瞬間だった。
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