Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第6話 聖女の沈黙

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ガリウスたちが去った後、アレンはどれくらいの時間、その場に立ち尽くしていたのだろうか。時間の感覚は麻痺し、ただ耳の奥でキーンという音が鳴り響いているだけだった。追放された。クビになった。その事実が、重い現実として彼の肩にのしかかる。

(嘘だ……何かの間違いだ)

頭のどこかで、まだそう信じたい自分がいた。これはきっと、ひどい悪夢なのだと。目を覚ませば、いつものようにキャンプの準備をしていて、仲間たちの笑い声が聞こえてくる。そんな都合のいい幻想が、何度も脳裏をよぎっては消えていった。

だが、目の前には無残なミノタウロスの死骸が転がり、足元には自分が脱ぎ捨てた装備が散らばっている。これが、現実だった。

ふと、アレンの脳裏に一人の少女の姿が浮かんだ。
リリア。
俯き、何も言えなかった彼女。その潤んだ瞳には、確かに苦悩の色が浮かんでいた。彼女はガリウスが怖くて、逆らえなかっただけだ。本心では、きっとこんなこと望んでいない。

(リリアなら……)

そうだ、リリアなら戻ってきてくれるかもしれない。
ガリウスたちを説得して、もう一度、謝るチャンスをくれるかもしれない。
そんな淡い、あまりにも儚い希望が、アレンの心に芽生えた。彼は凍りついたように動かなかった体をゆっくりと動かし、ガリウスたちが消えていった暗い通路の先をじっと見つめた。

彼女だけは、幼い頃からずっと一緒だった。ヒーラーとしての才能がない自分を、それでも「一緒に冒険しよう」と誘ってくれたのは、リリアだった。彼女だけは、自分の唯一の理解者だと信じていた。だから、きっと――。

その時だった。
暗闇の奥から、一つの足音が聞こえてきた。コツ、コツ、と一定のリズムを刻む音。それは徐々にこちらへ近づいてくる。

「……!」

アレンの心臓が大きく跳ねた。来た。リリアが戻ってきてくれたんだ。彼の顔に、この日初めてわずかな光が差す。

「リリア……!」

希望に満ちた声で、彼は通路に向かって呼びかけた。
やがて、闇の中から姿を現したのは――リリアではなかった。

「よぉ。まだいたのか」

そこに立っていたのは、盗賊のジェイクだった。彼は気まずさなど微塵も感じさせない、ひどく軽い口調でアレンに話しかけた。その手には、何も持っていない。

「忘れ物か?」

アレンの問いに、ジェイクは肩をすくめた。

「まあ、そんなとこだ。お前が置いてった装備、あれも一応は金になるからな。回収しておかねえと」

彼はそう言うと、アレンの足元に転がっている革鎧や杖を無造作に拾い集め始めた。まるでゴミ拾いでもするかのような手付きだった。

アレンは呆然としながらも、尋ねずにはいられなかった。

「リリアは……リリアはどうしてる?」

その問いに、ジェイクは一瞬だけ手を止め、心底おかしいというように鼻で笑った。

「はっ、リリア?お前、もしかしてあの女が戻ってくるとでも思ってたのか?」

「……」

「甘ぇんだよ。お前の考えてることなんざお見通しだ。幼馴染の絆?聖女様の優しさ?そんなもんでSランクの地位が守れるかよ」

ジェイクは拾い集めた装備をひとまとめに抱えると、アレンを見下して言った。

「あの女も結局はガリウスさんには逆らえねえのさ。そりゃあ、お前のこと、ちょっとは可哀想だと思ってたかもしれねえがな。だが、お前一人を庇って、自分がパーティから睨まれるリスクを負うほど、お人好しじゃねえってことだ」

その言葉は、冷たい氷の刃となってアレンの最後の希望を貫いた。
そうか。リリアも、結局は同じだったのか。自分の地位と、俺の存在を天秤にかけて、迷わず自分を選んだのか。
幼い頃からの思い出も、交わした約束も、全てはその程度のものだったのか。

「あいつは聖女様だ。俺たちみてえな荒くれ者とは違う。神に仕える清らかな存在だ。……だがな、聖女だって腹は減るし、いい暮らしもしてえのさ。そのためには【熾天の剣】っていうブランドが必要なんだよ。わかるか?」

ジェイクの言葉は、もうアレンの耳には半分も届いていなかった。頭が真っ白になり、何も考えられない。ただ、胸にぽっかりと大きな穴が開いたような、途方もない喪失感だけが彼を支配していた。

全ての装備を回収し終えたジェイクは、満足げに頷くと、踵を返した。そして、何かを思い出したように振り返り、懐から数枚の銅貨を取り出すと、アレンの足元に投げ捨てた。

チャリン、と乾いた音が広間に響く。

「まあ、これでもくれてやるよ。街まで戻るにしたって、一文無しじゃどうにもならんだろ。野垂れ死にされて、寝覚めが悪いのもごめんだからな」

それは、施しだった。
かつての仲間から、哀れな物乞いへの、最後の情け。
いや、それは情けですらない。お前はもはや、俺たちとは住む世界が違うのだと突きつける、最大級の侮辱だった。

「じゃあな。達者でやれよ」

ジェイクは今度こそ本当に背を向け、闇の中へと消えていった。

アレンは、足元に転がる数枚の銅貨を、ただじっと見つめていた。リリアは来なかった。誰も助けには来なかった。自分が信じていた絆は、脆くも崩れ去った。

膝から力が抜け、アレンはその場に崩れ落ちた。
もう涙も出なかった。
ただ、空っぽの心が、ひどく冷えていくのを感じるだけだった。
聖女は、沈黙した。そして、アレンの心もまた、深い静寂の底へと沈んでいった。
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