Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第11話 辺境の村

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夜の森に訪れた静寂の中、アレンは自分の体に起きた変化にただ呆然としていた。数時間前まで死の淵を彷徨っていたのが嘘のように、体は活気に満ちている。空腹も喉の渇きも、足の傷の痛みも全てが消え去っていた。まるで生まれ変わったかのようだ。

(一体、何が起きたんだ……?)

彼は混乱しながらも、もう一度ステータスウィンドウを開く。そこに表示された【完全蘇生】という四文字。そのスキルが今の自分の状態と何か関係があるのだろうか。しかし、スキルの詳細を確認しようとしても『情報開示不可』と表示されるだけで、何も分からない。

ただ一つ確かなことは、自分は生きているということ。そして、前に進む力が残っているということだ。
今は、この不可解な現象の原因を探るよりも、一刻も早く人里へたどり着くことが先決だった。

「故郷の村は……こっちの方角のはずだ」

アレンは記憶を頼りに、東へ向かって歩き始めた。その足取りは、驚くほど軽かった。以前なら半日かかって進むような険しい獣道を、彼は息も切らさずに踏破していく。木々の間をすり抜け、岩場を軽々と飛び越える。自分の身体能力が、明らかに常軌を逸していることを実感した。

夜が明け、朝日が木々の隙間から差し込む頃、彼の視界が開けた。森を抜けたのだ。そして、その先に広がる光景に、アレンは息を呑んだ。
なだらかな丘陵地帯。どこまでも続く麦畑。その向こうに、小さな家々が寄り集まる集落が見える。煙突からは、朝食の支度をする煙が細く立ち上っていた。

見間違えるはずもない。あれが、アレンが生まれ育った故郷、クレリア村だった。

(着いた……本当に、帰ってきたんだ)

胸に熱いものが込み上げてくる。彼は丘を駆け下り、懐かしい村へと続く一本道へと足を踏み入れた。
村は、彼の記憶にある姿とほとんど変わっていなかった。木造の素朴な家々。石畳の道。村の中央に立つ大きな井戸。ただ、以前よりもどこか活気がなく、少し寂れているように感じられた。

村の入り口には、粗末な木でできた門があり、その脇の見張り台で一人の老人が欠伸をしながら座っていた。アレンが近づくと、老人は眠そうな目をこすりながら彼をじろじろと見た。

「ん……?旅の方かの。こんな辺境の村に、何の用じゃ」

その老人は、アレンが子供の頃によく遊んでもらった、村長のバルトロだった。ずいぶんと歳をとったが、その優しい目元に面影が残っている。

「バルトロさん……ご無沙汰しています」

アレンがフードを深く被ったまま、少し掠れた声で言うと、バルトロは怪訝そうに眉をひそめた。

「わしの名を知っておるのか?どなたかな……」

「アレンです。昔、この村にいた……」

「アレン……?」

バルトロはその名前を何度か口の中で繰り返し、やがて何かを思い出したように目を見開いた。彼は椅子から立ち上がると、信じられないものを見るかのようにアレンの顔を覗き込んだ。

「まさか……お前、本当にあの腕白坊主のアレンか!?冒険者になるんじゃと言って、都へ行った……!」

「はい。そうです」

アレンがフードを取って頷くと、バルトロの顔が喜びでくしゃりと歪んだ。

「おお……おお!本当にアレンじゃないか!よく帰ってきた!生きておったか!」

バルトロはアレンの肩を力強く掴み、その無事を何度も確かめるように体を揺さぶった。その手は温かく、少し震えていた。アレンのボロボロの服装や、やつれた顔つきに気づいているはずなのに、彼は何も聞かなかった。ただ、アレンの帰還そのものを心から喜んでくれているのが伝わってきた。

「みんな!大変じゃ!アレンが帰ってきたぞー!」

バルトロが村中に響き渡るような大声で叫ぶと、その声に気づいた村人たちが、家々から次々と顔を覗かせた。そして、アレンの姿を認めると、皆が驚きと喜びの声を上げた。

「あれ、本当にアレンかい?」
「うわあ、大きくなったなあ!」
「立派な冒険者になったんだろ!」

村人たちはアレンの周りに集まり、口々に歓迎の言葉をかけた。彼らはアレンの汚れた姿を見ても、誰も侮蔑したり、嘲笑したりはしない。むしろ、「大変な旅だったんだろう」「よく頑張ったな」と、その労をねぎらってくれるだけだった。

人の温かさに触れたのは、本当に久しぶりだった。
追放され、ギルドで辱められ、凍てついていたアレンの心が、ゆっくりと溶けていくのを感じた。目頭が熱くなり、滲む視界の中で、村人たちの笑顔が優しく揺れていた。

しばらくして、歓迎の輪が少し落ち着いた頃、アレンはバルトロに尋ねた。

「あの……父さんと母さんの、墓は……」

その言葉に、バルトロは穏やかな顔で頷いた。

「ああ、分かっておる。村の西の丘の上じゃ。お前が出て行った後も、みんなでずっと綺麗にしておったからの」

「……ありがとうございます」

アレンは深く頭を下げ、一人で丘へと向かった。
丘の上には、二つの質素な墓石が寄り添うように並んでいた。その周りには雑草一本なく、誰かが供えてくれたのだろう、新しい野の花が風に揺れている。

彼はその場に膝をつき、墓石にそっと手を触れた。冷たい石の感触が、両親がもうこの世にいないという事実を改めて突きつけてくる。

「父さん、母さん……ただいま」

声が、震えた。

「ごめん。立派な冒見者になって帰ってくるって約束したのに……俺、駄目だったよ」

言葉を続けるうちに、堪えていた感情が堰を切ったように溢れ出した。

「パーティを追い出されて……全部、失くした。俺には、ヒーラーの才能なんてなかったんだ。結局、何一つ成し遂げられないまま、こんな惨めな姿で……帰ってくることしか、できなかった……!」

嗚咽が漏れる。彼は子供のように、墓石の前で泣きじゃくった。
それは、ギルドの裏路地で流した絶望の涙とは違った。
悔しさ。情けなさ。そして、それでも温かく迎えてくれた村人たちへの感謝。帰る場所があったことへの安堵。それら全てがごちゃ混ぜになった、温かい涙だった。

どれだけそうしていただろうか。ひとしきり泣いて、少しだけ気持ちが落ち着いた頃、背後からそっと声がかけられた。

「腹、減っとるじゃろ」

振り返ると、バルトロが木の皿に乗せた焼きたてのパンと、スープの入った椀を持って立っていた。

「さあ、食え。話は後でいくらでも聞く。今はまず、腹を満たすのが先じゃ」

バルトロは多くを語らず、アレンの隣に腰を下ろした。アレンは差し出されたパンを受け取る。ふかふかと温かいパンからは、小麦の香ばしい匂いがした。
彼はそれを一口齧る。口の中に、優しい味が広がった。それは、彼が【熾天の剣】で食べていたどんな豪華な食事よりも、遥かに美味しく感じられた。スープを啜ると、温かい液体が疲弊しきった体にじんわりと染み渡っていく。

アレンは無言のまま、夢中で食事を平らげた。その様子を、バルトロは何も言わず、ただ優しい目で見守っていた。

その夜、アレンはバルトロの家に泊めてもらうことになった。
用意されたのは、客間の小さなベッド。干し草を詰めた簡素なマットレスだったが、彼にとっては王侯貴族の寝台よりも快適に思えた。
久しぶりに浸かった風呂で体の汚れを落とし、清潔な寝間着に袖を通す。

横になると、一気に疲労が押し寄せてきた。
追放されてから、心休まる夜など一度もなかった。常に恐怖と絶望に苛まれ、浅い眠りを繰り返すだけの日々。
しかし、今夜は違う。
人々の優しさに包まれ、安全な寝床がある。ただそれだけのことが、これほどまでに心を安らかにするとは知らなかった。

アレンの意識は、穏やかな闇の中へとゆっくりと沈んでいった。
Sランクパーティを追放されてから初めて、彼は悪夢を見ることなく、深く、静かな眠りについた。
彼の魂が、束の間の平穏の中で、ゆっくりと癒されていく。まだ【完全蘇生】の謎は解明されないままだが、今はただ、この温もりの中に身を委ねていたかった。
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