Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第25話 獣人の斥候

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毒矢が雨のように降り注ぎ、暗殺者たちが影の中から音もなく殺到する。常人であれば、一瞬で蜂の巣にされて終わりだろう。しかし、ソフィアは元王国騎士団副隊長。その剣は、伊達ではなかった。

「はあっ!」

彼女は雄叫びと共に、長剣を風車のように回転させた。鋼の嵐が巻き起こり、飛来する矢をことごとく弾き返す。同時に、懐に飛び込んできた二人の暗殺者の喉笛を、流れるような動きで正確に切り裂いた。返り血を浴びた彼女の姿は、まさに戦場の鬼神だった。

だが、敵の数が多い。一瞬の隙を突かれ、ソフィアの脇腹に毒の塗られた短剣が深々と突き刺さった。

「ぐっ……!」

ソフィアは苦痛に顔を歪める。毒が瞬時に体を駆け巡り、視界がぐらりと揺れた。
しかし、その傷は次の瞬間には塞がっていた。アレンの《ヒール》が、寸分の遅れもなく彼女の体に注がれたのだ。傷だけでなく、体内の毒までもが、強力な治癒の光によって浄化されていく。

「なっ……!?」

傷を負わせたはずの暗殺者が、驚愕に目を見開く。その隙を、ソフィアは見逃さない。

「甘い!」

体勢を立て直した彼女の長剣が、閃光となって暗殺者の首を刎ね飛ばした。

「すごいな、あんたの回復魔法……」
ソフィアは背後のアレンに声をかけながら、迫りくる次の敵に備えた。
「これなら、いくらでも戦える!」

「言ったはずだ。あんたは盾に徹してくれればいい」
アレンは冷静に答えた。彼の意識は、ソフィアだけでなく、戦場全体に向けられている。敵の位置、攻撃のタイミング、ソフィアの体力の消耗具合。その全てを把握し、最適解を導き出していた。

ソフィアはアレンという絶対的な生命線を背に、水を得た魚のように暴れまわった。防御を半ば捨て、攻撃に全神経を集中させる。かつてガリウスが見せた無謀な戦い方。だが、それとは根本的に違っていた。アレンはソフィアに無茶を強いているのではない。彼女が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、完璧な支援を行っているのだ。

次々と仲間が倒れていく様に、仮面をつけた暗殺者たちの間に、初めて動揺が走った。彼らの計算では、ソフィア一人なら数で押し切れるはずだった。だが、その後ろにいるヒーラーの存在が、全ての前提を覆していた。あのヒーラーを先に潰さなければ、この戦いに勝ち目はない。

暗殺者たちのうち三人が、ソフィアを無視してアレンへとターゲットを切り替えた。彼らは森の影に溶け込むように姿を消し、気配を殺してアレンの死角へと回り込もうとする。

「アレン!後ろだ!」

ソフィアが警告の声を上げた。だが、アレンは振り返らない。彼はソフィアの治療に集中しており、背後は完全に無防備だった。
三本の毒刃が、アレンの背中に向けて、必殺の角度で突き出される。

絶体絶命。
ソフィアが助けに向かおうにも、他の暗殺者たちに阻まれて間に合わない。
アレンの命運は、尽きたかに思われた。

その、刹那だった。
アレンの背後の空間が、ぐにゃりと歪んだ。そして、何もないはずの場所から、漆黒の影が稲妻のように迸った。

影は、まるで黒豹を思わせるしなやかさと俊敏さで、三人の暗殺者たちの間に割り込む。そして、両手に握られた黒塗りの短剣が、残像を描いて閃いた。

ザシュッ、という肉を断つ音が三度響く。
アレンを狙っていた暗殺者たちは、何が起きたのか理解できないまま、首から血を噴き出してその場に崩れ落ちた。

「……何者だ」

ソフィアは、目の前で起きた光景に息を呑んだ。
突如として現れた影は、ゆっくりとその姿を闇の中から現した。
それは、一人の青年だった。
しなやかな黒豹のような体躯。陽に焼けた褐色の肌。そして、頭からはピンと立った獣の耳が生え、腰からは長い尻尾が揺れている。
獣人族。それも、俊敏さと隠密能力に長けると言われる、黒豹族の青年だった。

彼は感情の読めない金色の瞳で、残った暗殺者たちを一瞥すると、低く、静かな声で言った。
「……邪魔をするな。こいつらは、俺の獲物だ」

その声には、氷のような冷たさと、底知れない憎悪が込められていた。

「てめえ……どこから現れやがった!」
残った暗殺者の一人が、動揺を隠せない声で叫んだ。
獣人の青年は答えなかった。彼はただ、ゆっくりと短剣を構え直す。その姿からは、尋常ではない殺気が放たれていた。

アレンは、この予期せぬ乱入者に驚きながらも、すぐさま状況を判断した。敵の敵は、味方だ。
「ソフィア!彼と連携する!」
「……分かった!」

ソフィアもアレンの指示に頷き、剣を構え直す。
こうして、森の中の戦いは、暗殺者たちと、アレン、ソフィア、そして謎の獣人という、三つ巴の乱戦へと発展した。

獣人の青年の動きは、まさに異次元だった。彼は影から影へと音もなく移動し、暗殺者たちが反応するよりも早く、その急所を的確に貫いていく。その戦闘スタイルは、ソフィアの正々堂々とした剣技とは対極にある、純粋な暗殺術だった。

ソフィアが正面から敵を引きつけ、獣人が背後から仕留める。そして、二人が負った傷は、どんなものであろうとアレンが瞬時に癒す。
それは、即席で組んだとは思えないほど、完璧な連携だった。

やがて、最後の暗殺者が獣人の刃に貫かれ、絶命した。
森には、血の匂いと、死体だけが残された。

戦いが終わり、ソフィアは警戒を解かずに、剣先を獣人の青年に向けた。
「あんた、何者だ。なぜ、俺たちを助けた?」

獣人の青年は、短剣についた血を振るうと、感情の籠もらない目でソフィアを見返した。
「助けたつもりはない。言ったはずだ。こいつらは、俺の獲物だと」
彼の金色の瞳が、暗殺者たちの仮面に描かれた蛇の紋様を、強い憎しみを込めて睨みつけていた。

アレンは、彼のただならぬ様子に気づき、一歩前に出た。
「その仮面に、何か見覚えがあるのか?」
獣人の青年は、初めてアレンの方に視線を向けた。そして、少しの間、アレンを値踏みするように見つめた後、静かに口を開いた。
「……ああ。俺の一族を滅ぼした、忌まわしい紋様だ」
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