Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第43話 古代遺跡の罠

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『静寂の神殿』の内部は、外から見た荘厳さとは裏腹に、シンプルで無機質な石の回廊がどこまでも続いていた。壁には等間隔で松明がかけられているが、そのほとんどは燃え尽きており、アレンが持つ松明の光だけが、三人の周囲を頼りなく照らし出している。

「……静かすぎる」
ソフィアが、息を殺しながら囁いた。
その言葉通り、神殿の内部は完全な無音に支配されていた。自分たちの足音と、呼吸の音だけが、不気味に壁に反響する。空気はひどく冷たく、まるで巨大な墓の中にいるかのようだった。

先頭を行くのは、カイだ。彼は獣のように四肢を低くし、全身の感覚を研ぎ澄ませていた。その金色の瞳は、暗闇の奥に潜むかすかな気配も見逃すまいと、鋭く動いている。

しばらく進んだところで、カイがぴたりと足を止めた。そして、右手を上げて、後続の二人を制止する。

「……どうした?」
アレンが小声で尋ねる。
カイは何も答えず、ただ床の一点をじっと見つめていた。そこは、他の部分と何ら変わりのない、ただの石畳に見える。
しかし、カイは懐から小さな石を取り出すと、その石畳に向かって軽く放り投げた。

石が床に触れた、その瞬間だった。
シュッ!という鋭い音と共に、左右の壁から無数の鋼鉄の矢が、凄まじい勢いで発射された。矢は、石が落ちた地点を中心に、十字を描くようにして反対側の壁に深々と突き刺さる。もし誰かがそこを踏んでいれば、一瞬でハリネズミになっていただろう。

「……感圧式の罠か」
ソフィアは、冷や汗を流しながら呟いた。
「カイがいなければ、俺たちは今頃……」

カイは、涼しい顔で言った。
「床の石の色が、ほんのわずかに違う。空気の流れも、そこだけ僅かに乱れていた」
常人には到底感知できない、微細な変化。彼の斥候としての能力は、まさに超人的だった。

それからも、カイは次々と神殿に仕掛けられた悪質な罠を発見し、無力化していった。
床が突然抜け落ちる落とし穴。
天井から巨大な刃が振り下ろされる振り子鎌。
触れると強力な麻痺毒が噴き出す、壁のレリーフ。
そのどれもが、侵入者を確実に殺すために、巧妙に仕掛けられていた。

「ちっ、作った奴は相当性格が悪いな」
ソフィアが悪態をつく。
アレンは、罠の精巧さに感心しながらも、あることに気づいていた。
「この神殿……ただの遺跡じゃない。まるで、何かを『守る』ために作られた要塞のようだ」

罠をいくつも乗り越え、彼らは最初の広間へとたどり着いた。そこは、天井がドーム状になった円形の部屋で、壁には古代の神々と思われるレリーフがいくつも刻まれている。
そして、その広間の中央に、それは鎮座していた。

高さ五メートルはあろうかという、一体の巨大なゴーレム。
その体は、鈍い銀色に輝く未知の金属――ミスリルで構成されていた。関節部分には青白い魔力の光が明滅しており、それがこのゴーレムの動力源であることを示している。
その手には、体躯に見合った巨大な戦斧が握られていた。

彼らが広間に足を踏み入れた瞬間、それまで石像のように静止していたゴーレムの目が、カッと紅蓮の光を放った。

『――侵入者を、確認。――排除、スル』

機械的で、感情のない声が、広間全体に響き渡った。
ゴーレムは、ギギギ、と軋むような音を立てて立ち上がると、その巨体を揺らしながら、三人に歩み寄ってくる。一歩進むごとに、石の床がメシリと音を立てて沈んだ。

「こいつが、この神殿の最初の守護者か!」
ソフィアは、怯むことなく長剣を構えた。
「面白そうだ!俺が相手をしてやる!」

彼女は雄叫びを上げて、ゴーレムへと突進した。アレンは、即座に彼女に《オーバーヒール・ブースト》をかける。蒼い光を纏ったソフィアの剣が、ゴーレムの胴体へと叩き込まれた。

キィィィィン!
甲高い金属音が響き渡り、火花が散った。
しかし、ソフィアの渾身の一撃は、ゴーレムのミスリルの装甲に、わずかな傷一つつけることができなかった。逆に、その衝撃でソフィアの手が痺れ、彼女は後方へと大きく弾き飛ばされてしまう。

「なっ……硬え!」

「物理攻撃は、ほとんど通用しないらしいな」
アレンは冷静に分析する。
ゴーレムは、ソフィアの攻撃など意にも介さず、巨大な戦斧を振り上げた。その動きは鈍重に見えるが、一撃の破壊力は凄まじい。戦斧が振り下ろされた床は、轟音と共に砕け散った。

カイが、影の中からゴーレムの背後へと回り込み、関節の隙間を狙って短剣を突き立てる。だが、それもまた硬い装甲に阻まれ、カン、と乾いた音を立てて弾かれてしまった。

「くそっ、どこを狙っても手応えがない!」
ソフィアが、焦りの声を上げる。
アレンは、戦況を見つめながら、必死に弱点を探していた。
物理攻撃が効かないとなれば、魔法か。だが、自分には攻撃魔法がない。
ゴーレムの動力源は、関節部分で光る魔力のコアだ。あそこを破壊できれば……。しかし、コアは硬い装甲の奥にあり、直接攻撃するのは不可能に近い。

ゴーレムの無慈悲な攻撃が続く。ソフィアとカイは、その猛攻をかわすだけで精一杯だった。アレンの回復支援がなければ、とっくに戦闘不能になっていただろう。
このままでは、ジリ貧だ。何か、決定的な一撃が必要だった。

アレンは、一つの可能性に賭けることにした。
「ソフィア!カイ!ゴーレムの動きを止めてくれ!ほんの数秒でいい!」

彼の切羽詰まった声に、二人は即座に反応した。
「分かった!」
「……やってみる!」

カイは、懐からワイヤーを取り出すと、ゴーレムの両足に素早く絡みつかせた。そして、近くの柱にワイヤーの端を固定し、全体重をかけて引き絞る。
ゴーレムの巨体が、わずかにぐらついた。

「今だ!」
その隙を、ソフィアは見逃さなかった。
彼女は、ゴーレムの戦斧の柄に飛び乗ると、その腕を駆け上がり、肩口まで一気に到達した。そして、自分の全体重を乗せた渾身の盾攻撃(シールドバッシュ)を、ゴーレムの頭部に叩き込んだ。

ゴッ、という鈍い音。
ゴーレムの頭部が大きく揺らぎ、その動きが完全に停止した。
ほんの、数秒間の硬直。

「アレン!」
「任せろ!」

アレンは、その数秒間に全てを懸けていた。
彼は、ソフィアに向かって手をかざす。だが、彼が放ったのは、回復の光ではなかった。

「ソフィアの剣に、俺の魔力を!」
アレンは、自身の莫大な魔力を、純粋なエネルギーとしてソフィアの長剣へと注ぎ込んだ。
ソフィアの剣が、まばゆいばかりの蒼い光を放ち始める。それは、アレンの生命エネルギーそのものだった。

「これで、斬れ!」

ソフィアは、アレンの意図を即座に理解した。彼女は、光り輝く剣を両手で握りしめ、ゴーレムの胸部、魔力のコアがあるであろう位置へと、渾身の力で突き立てた。

「おおおおおおっ!」

蒼い光を纏った剣は、今度こそミスリルの硬い装甲を、まるでバターのように貫いた。
切っ先が、内部の魔力コアを正確に破壊する。

『……警、告……動力炉、臨界……』

ゴーレムの体から、青白い光が激しく明滅し始める。そして、内部からパチパチと嫌な音が聞こえてきた。
「まずい!離れろ!」
アレンが叫ぶ。

三人は、同時に後方へと飛び退いた。
その直後、ミスリルゴーレムは、内部から凄まじい魔力爆発を起こし、轟音と共に木っ端微塵に砕け散った。

爆風が収まった後、広間には静寂が戻った。後には、ゴーレムの残骸が散らばっているだけだった。

「はぁ……はぁ……とんでもない奴だったな」
ソフィアが、肩で息をしながら言った。
アレンも、大量の魔力を放出したことで、軽いめまいを覚えていた。

彼らは、神殿の最初の守護者を、見事打ち破ったのだ。
しかし、彼らの表情に、安堵の色はなかった。
こんな化け物が、まだこの先に待ち構えているかもしれない。
そして、この神殿が守ろうとしている『何か』は、これほどまでの守護者を必要とするほど、重大な秘密であるに違いない。

三人は、しばしの休息の後、決意を新たにして、広間の奥へと続く、新たな通路へと足を踏み入れた。
彼らの本当の試練は、まだ始まったばかりだった。
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