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第51話 共同戦線
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翌朝、【黎明の翼】の三人は、ギルドの巨大な作戦会議室に足を踏み入れた。円卓を囲むように配置された席には、すでに今回の討伐任務に召集されたAランクパーティのリーダーたちが集っており、部屋は張り詰めた緊張感に包まれていた。
その顔ぶれは、いずれも大陸中にその名を轟かせる猛者ばかりだった。
『不動の鉄壁』の異名を持つ、重騎士団パーティ【鋼の獅子】のリーダー、ゴードン。
『疾風の双剣』と謳われる、軽戦士姉妹パーティ【月光の舞姫】のリーダー、シルフィ。
『賢者の末裔』を自称する、魔術師ギルド出身のエリートパーティ【アカシック・アイ】のリーダー、ゼノン。
彼らは、Aランクの中でも上位に位置する、実力とプライドを兼ね備えた一流の冒険者たちだった。
アレンたちが部屋に入ると、それまで交わされていた会話がぴたりと止み、全ての視線が彼らに突き刺さった。その目には、好奇、侮蔑、そしてあからさまな敵意が混じり合っている。
「……ふん。あれが噂の『辺境の聖者』一行か。思ったより、ひよわそうな連中だな」
最初に口火を切ったのは、大柄な体躯を豪奢な鎧に包んだゴードンだった。その声は、まるで地響きのように低く、威圧的だ。
「まあ、見てくださいな。ヒーラーがリーダーで、メンバーは訳ありの元騎士と、素性の知れない獣人。まるで、おとぎ話の登場人物ですこと」
シルフィが、扇子で口元を隠しながら、くすくすと嘲笑を漏らした。彼女の双子の妹であるルナも、隣で同じように軽蔑の笑みを浮かべている。
アレンは、そんな彼らの敵意を意にも介さず、空いていた席へと静かに向かった。ソフィアは、今にも掴みかかりそうな勢いだったが、アレンに目線で制される。
彼らが席に着くと、作戦会議の主催者であるギルドマスターのダリウスが、重々しく口を開いた。
「全員、揃ったな。これより、ドラゴンゾンビ討伐作戦のブリーフィングを開始する」
ダリウスは、円卓の中央に広げられた『嘆きの山脈』の地図を指し示しながら、作戦の概要を説明し始めた。ドラゴンゾンビの出現地点、予想される行動パターン、そして、その弱点。
弱点は、アンデッドの常として、聖属性の攻撃と、頭部にあるとされる魔力コアの破壊。だが、そのコアは硬い骨に守られており、破壊は容易ではない。
「基本的な戦術は、こうだ。【鋼の獅子】が前衛となり、ドラゴンゾンビの攻撃を食い止める。その間に、【月光の舞姫】がその素早さを活かして攪乱し、攻撃のチャンスを作り出す。【アカシック・アイ】は、後方から強力な攻撃魔法で、敵の体力を削ってもらう」
ダリウスは、各パーティの役割を明確にした。
「そして、【黎明の翼】には……」
ダリウスは、アレンに視線を向けた。
「全体の支援と、負傷者の回復を担当してもらう。お前さんたちの回復能力が、この作戦の生命線となる。頼んだぞ」
それは、ヒーラーとしては当然の役割分担だった。だが、その言葉を聞いた他のリーダーたちの顔には、不満の色が浮かんだ。
「お待ちいただきたい、ギルドマスター」
魔術師のゼノンが、知的な顔を歪めて異を唱えた。
「我々【アカシック・アイ】のパーティにも、優秀なヒーラーはおります。わざわざ、実力も定かではない新参者に、全体の支援などという重要な役目を任せる必要がありましょうか?」
「その通りだ」
ゴードンも、腕を組んで尊大に頷いた。
「俺たち【鋼の獅子】は、これまで幾多の死線を乗り越えてきた。俺たちの連携は完璧だ。よそ者の、それもヒーラーの指示など、聞く必要はない。足手まといになるだけだ」
彼らは、【黎明の翼】と連携することを、真っ向から拒否したのだ。
噂は噂。Bランクに上がったばかりの、ぽっと出のパーティが、自分たちと同じ土俵に立つこと自体、彼らのプライドが許さなかった。
ダリウスは、その反応を予測していたかのように、ため息をついた。
「……気持ちは分かる。だが、今回の敵は、お前さんたちがこれまで戦ってきた相手とは格が違う。連携は、必須だ」
「連携ならば、我々三パーティで十分ですわ」
シルフィが、すげなく言い放った。
「あの者たちは、後方で自分たちの身でも守っていればよろしいのではなくて?それとも、私たちAランクの戦いを、特等席で見学でもされますか?」
あからさまな侮辱。ソフィアの拳が、ギリリと音を立てて握りしめられる。
その時だった。
これまで黙って話を聞いていたアレンが、静かに立ち上がった。
「……皆さんの懸念は、もっともです」
彼の穏やかな声が、緊張した会議室に響き渡った。
「俺たちは、新参者。皆さんのように、Aランクとしての輝かしい実績もありません。俺たちの力を信用できないというのも、当然のことでしょう」
そのあまりにも殊勝な態度に、ゴードンたちは少しだけ気勢を削がれた。
アレンは、円卓に集うリーダーたち一人一人の顔を見ながら、静かに続けた。
「ですから、提案があります」
「提案、だと?」
「はい。作戦開始後、俺たち【黎明の翼】は、皆さんとは少し離れた後方で待機します。そして、皆さんの戦いを見させていただきます」
その言葉に、ゴードンたちは「当然だ」とでも言いたげな表情を浮かべた。
「ですが」
アレンは、言葉を切った。その瞳に、静かだが、絶対的な自信の光が宿る。
「もし、皆さんの誰かが致命傷を負い、戦線が崩壊しかけた、その時は――」
彼は、きっぱりと言い切った。
「――指揮権を、俺に委譲していただきたい。全ての采配を、この俺に任せていただきたいのです。それで、よろしいですね?」
その言葉は、もはや提案ではなかった。
それは、絶対的な実力者だけが放つことのできる、未来を予言するかのような、挑戦的な宣言だった。
ゴードンたちは、一瞬言葉を失った。ヒーラー風情が、何を馬鹿なことを。そう一笑に付そうとした。
だが、アレンのあまりにも堂々とした態度と、その瞳に宿る底知れない光に、彼らはなぜか反論することができなかった。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように。
「……ふん。好きにしろ」
ゴードンは、吐き捨てるように言った。
「だが、覚えておけ。俺たちが、貴様ごときの助けを必要とする時など、永遠に来ん!」
会議は、険悪な雰囲気のまま、終了した。
討伐部隊は、それぞれのパーティが互いに不信感を抱いたまま、『嘆きの山脈』へと出発することになった。
それは、これから始まる死闘の、不吉な前兆のようだった。
アレンは、遠くに見える雪を頂いた山脈を見つめながら、静かに呟いた。
「……指揮権を、ね。おそらく、あんたたちがそれを懇願することになるだろうさ」
彼の予言が、現実のものとなるのに、そう時間はかからなかった。
その顔ぶれは、いずれも大陸中にその名を轟かせる猛者ばかりだった。
『不動の鉄壁』の異名を持つ、重騎士団パーティ【鋼の獅子】のリーダー、ゴードン。
『疾風の双剣』と謳われる、軽戦士姉妹パーティ【月光の舞姫】のリーダー、シルフィ。
『賢者の末裔』を自称する、魔術師ギルド出身のエリートパーティ【アカシック・アイ】のリーダー、ゼノン。
彼らは、Aランクの中でも上位に位置する、実力とプライドを兼ね備えた一流の冒険者たちだった。
アレンたちが部屋に入ると、それまで交わされていた会話がぴたりと止み、全ての視線が彼らに突き刺さった。その目には、好奇、侮蔑、そしてあからさまな敵意が混じり合っている。
「……ふん。あれが噂の『辺境の聖者』一行か。思ったより、ひよわそうな連中だな」
最初に口火を切ったのは、大柄な体躯を豪奢な鎧に包んだゴードンだった。その声は、まるで地響きのように低く、威圧的だ。
「まあ、見てくださいな。ヒーラーがリーダーで、メンバーは訳ありの元騎士と、素性の知れない獣人。まるで、おとぎ話の登場人物ですこと」
シルフィが、扇子で口元を隠しながら、くすくすと嘲笑を漏らした。彼女の双子の妹であるルナも、隣で同じように軽蔑の笑みを浮かべている。
アレンは、そんな彼らの敵意を意にも介さず、空いていた席へと静かに向かった。ソフィアは、今にも掴みかかりそうな勢いだったが、アレンに目線で制される。
彼らが席に着くと、作戦会議の主催者であるギルドマスターのダリウスが、重々しく口を開いた。
「全員、揃ったな。これより、ドラゴンゾンビ討伐作戦のブリーフィングを開始する」
ダリウスは、円卓の中央に広げられた『嘆きの山脈』の地図を指し示しながら、作戦の概要を説明し始めた。ドラゴンゾンビの出現地点、予想される行動パターン、そして、その弱点。
弱点は、アンデッドの常として、聖属性の攻撃と、頭部にあるとされる魔力コアの破壊。だが、そのコアは硬い骨に守られており、破壊は容易ではない。
「基本的な戦術は、こうだ。【鋼の獅子】が前衛となり、ドラゴンゾンビの攻撃を食い止める。その間に、【月光の舞姫】がその素早さを活かして攪乱し、攻撃のチャンスを作り出す。【アカシック・アイ】は、後方から強力な攻撃魔法で、敵の体力を削ってもらう」
ダリウスは、各パーティの役割を明確にした。
「そして、【黎明の翼】には……」
ダリウスは、アレンに視線を向けた。
「全体の支援と、負傷者の回復を担当してもらう。お前さんたちの回復能力が、この作戦の生命線となる。頼んだぞ」
それは、ヒーラーとしては当然の役割分担だった。だが、その言葉を聞いた他のリーダーたちの顔には、不満の色が浮かんだ。
「お待ちいただきたい、ギルドマスター」
魔術師のゼノンが、知的な顔を歪めて異を唱えた。
「我々【アカシック・アイ】のパーティにも、優秀なヒーラーはおります。わざわざ、実力も定かではない新参者に、全体の支援などという重要な役目を任せる必要がありましょうか?」
「その通りだ」
ゴードンも、腕を組んで尊大に頷いた。
「俺たち【鋼の獅子】は、これまで幾多の死線を乗り越えてきた。俺たちの連携は完璧だ。よそ者の、それもヒーラーの指示など、聞く必要はない。足手まといになるだけだ」
彼らは、【黎明の翼】と連携することを、真っ向から拒否したのだ。
噂は噂。Bランクに上がったばかりの、ぽっと出のパーティが、自分たちと同じ土俵に立つこと自体、彼らのプライドが許さなかった。
ダリウスは、その反応を予測していたかのように、ため息をついた。
「……気持ちは分かる。だが、今回の敵は、お前さんたちがこれまで戦ってきた相手とは格が違う。連携は、必須だ」
「連携ならば、我々三パーティで十分ですわ」
シルフィが、すげなく言い放った。
「あの者たちは、後方で自分たちの身でも守っていればよろしいのではなくて?それとも、私たちAランクの戦いを、特等席で見学でもされますか?」
あからさまな侮辱。ソフィアの拳が、ギリリと音を立てて握りしめられる。
その時だった。
これまで黙って話を聞いていたアレンが、静かに立ち上がった。
「……皆さんの懸念は、もっともです」
彼の穏やかな声が、緊張した会議室に響き渡った。
「俺たちは、新参者。皆さんのように、Aランクとしての輝かしい実績もありません。俺たちの力を信用できないというのも、当然のことでしょう」
そのあまりにも殊勝な態度に、ゴードンたちは少しだけ気勢を削がれた。
アレンは、円卓に集うリーダーたち一人一人の顔を見ながら、静かに続けた。
「ですから、提案があります」
「提案、だと?」
「はい。作戦開始後、俺たち【黎明の翼】は、皆さんとは少し離れた後方で待機します。そして、皆さんの戦いを見させていただきます」
その言葉に、ゴードンたちは「当然だ」とでも言いたげな表情を浮かべた。
「ですが」
アレンは、言葉を切った。その瞳に、静かだが、絶対的な自信の光が宿る。
「もし、皆さんの誰かが致命傷を負い、戦線が崩壊しかけた、その時は――」
彼は、きっぱりと言い切った。
「――指揮権を、俺に委譲していただきたい。全ての采配を、この俺に任せていただきたいのです。それで、よろしいですね?」
その言葉は、もはや提案ではなかった。
それは、絶対的な実力者だけが放つことのできる、未来を予言するかのような、挑戦的な宣言だった。
ゴードンたちは、一瞬言葉を失った。ヒーラー風情が、何を馬鹿なことを。そう一笑に付そうとした。
だが、アレンのあまりにも堂々とした態度と、その瞳に宿る底知れない光に、彼らはなぜか反論することができなかった。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように。
「……ふん。好きにしろ」
ゴードンは、吐き捨てるように言った。
「だが、覚えておけ。俺たちが、貴様ごときの助けを必要とする時など、永遠に来ん!」
会議は、険悪な雰囲気のまま、終了した。
討伐部隊は、それぞれのパーティが互いに不信感を抱いたまま、『嘆きの山脈』へと出発することになった。
それは、これから始まる死闘の、不吉な前兆のようだった。
アレンは、遠くに見える雪を頂いた山脈を見つめながら、静かに呟いた。
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