Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第52話 崩壊する戦線

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『嘆きの山脈』は、その名の通り、常に悲鳴のような風が吹き荒れる、荒涼とした岩山だった。鋭く尖った岩肌が天を突き、万年雪がその頂を白く染めている。植物はほとんど育たず、生命の気配が希薄な、まさに死の世界だった。

討伐部隊は、そんな山脈の麓にベースキャンプを設営し、最後の準備を整えていた。しかし、その雰囲気は最悪だった。Aランクの三パーティは、【黎明の翼】を完全に無視し、自分たちだけで打ち合わせを進めている。彼らは、アレンたちの存在をいないものとして扱っていた。

「いいのか、アレン。本当にあいつらに任せきりで」
ソフィアが、忌々しげに吐き捨てた。
「ああ見えても、Aランクだ。自分たちの実力に絶対の自信があるんだろう。今は、好きにさせておけばいい」
アレンは、遠くの岩場で黙々と短剣を研ぐカイに視線を送りながら、冷静に答えた。

やがて、斥候からドラゴンゾンビを発見したという報告が入った。それは、山脈の中腹にある、巨大なクレーターのような盆地に巣くっているという。
討伐部隊は、緊張した面持ちで、決戦の地へと向かった。

盆地にたどり着いた彼らが目にしたのは、絶望的な光景だった。
全長三十メートルはあろうかという、巨大な竜の骸骨。その所々には腐り落ちた肉片がこびりつき、空っぽのはずの眼窩からは、禍々しい紫色の光が明滅している。その巨体からは、周囲の岩さえも黒く変色させるほどの、濃密な死の瘴気が絶えず放出されていた。

「……あれが、ドラゴンゾンビ」
シルフィが、扇子を持つ手を震わせながら呟いた。その圧倒的な威圧感は、彼らがこれまで対峙してきたどんな魔物とも次元が違っていた。

「怯むな!たかが骨くれいだ!」
ゴードンが、自らを鼓舞するように雄叫びを上げた。
「作戦通り、我ら【鋼の獅子】が前に出る!続け!」

重騎士たちが、巨大な塔のような盾を構え、大地を揺るがしながら突進していく。作戦開始だ。
アレンたち【黎明の翼】は、彼らの指示通り、戦場から少し離れた高台で見守っていた。

ドラゴンゾンビは、侵入者たちに気づくと、空っぽの顎を大きく開き、耳をつんざくような咆哮を上げた。それは、死者の怨念を全て集めたかのような、魂を凍らせる叫びだった。
そして、その口から、紫黒色のブレスが吐き出された。

「防げ!」
ゴードンが叫ぶ。
重騎士たちは、巨大な盾を密集させ、鉄壁の防御陣形を組んだ。
ブレスが、盾の壁に激突する。轟音と共に、凄まじい衝撃が騎士たちを襲った。

「ぐ……おおおおおっ!」
ゴードンのパーティは、その一撃をなんとか耐えきった。盾は黒く焼け焦げ、何人かは衝撃で膝をついている。だが、防ぎきった。

「今だ!行け!」
その隙を突き、【月光の舞姫】のシルフィとルナが、疾風のように駆け抜けた。彼女たちは、ドラゴンゾンビの巨大な脚に飛びつき、その骨の隙間を狙って双剣を突き立てる。
だが、その刃は、硬い骨に阻まれて深くは通らない。

「チッ、硬すぎる!」
ドラゴンゾンビは、脚に纏わりつく小さな虫を振り払うかのように、巨大な尻尾を薙ぎ払った。
シルフィとルナは、紙一重でそれを回避するが、その風圧だけで数メートルも吹き飛ばされてしまう。

「援護しろ!《サンダー・ストーム》!」
後方から、ゼノンの詠唱が響き渡った。空から、無数の雷が降り注ぎ、ドラゴンゾンビの巨体に突き刺さる。
聖属性ではないが、Aランク魔術師の最大魔法。それなりのダメージは与えているはずだった。

しかし、ドラゴンゾンビは怯まなかった。雷に打たれて黒く焦げた骨が、紫色の光と共に、みるみるうちに再生していく。
そして、その巨体から、さらに濃密な死の瘴気が放出された。

「ぐっ……!瘴気が、濃くなる……!」
前線で戦う者たちの顔色が悪くなっていく。瘴気は、ただそこにいるだけで体力を奪い、精神を蝕んでいく。解毒ポーションを飲んでも、気休めにしかならない。

戦況は、完全に膠着していた。
Aランクパーティたちは、確かに一流だった。彼らの連携も、個々の実力も、素晴らしいものだ。
だが、相手が悪すぎた。
圧倒的な再生能力。広範囲に及ぶ瘴気汚染。そして、全てを薙ぎ払う破壊的なパワー。
彼らの攻撃は、決定打にならず、逆にじわじわと体力を削られていくだけだった。

「まずいな……」
高台から戦況を見つめていたアレンが、静かに呟いた。
「このままでは、全滅する」

彼の隣で、ソフィアが焦れたように言った。
「だから言ったんだ!俺たちも行くぞ!」
「……いや、まだだ」
アレンは、首を横に振った。
「彼らのプライドが、完全に砕け散るまでは」

その時だった。
膠着状態を破るように、ドラゴンゾンビがこれまでとは違う動きを見せた。
その巨大な肋骨が、不気味に軋みながら開いていく。そして、その中から、無数の人型の骸骨――スケルトン・ウォリアーが、湧き出るように現れたのだ。

「なっ……!雑魚を召喚しやがった!」
ゴードンが、驚愕の声を上げる。
スケルトンの群れは、Aランクパーティたちへと殺到した。一体一体は弱いが、その数は五十を超えている。
彼らは、ドラゴンゾンビの相手をしながら、無限に湧き出る雑魚の処理までしなければならなくなった。

その瞬間、これまで完璧だった彼らの連携に、明らかな綻びが生じた。
「くそっ、邪魔だ!」
「シルフィ、下がりなさい!囲まれるわ!」
「詠唱の時間が……!」

そして、ついに、最初の犠牲者が出た。
【月光の舞姫】のルナが、スケルトンの剣に気を取られた一瞬、ドラゴンゾンビの爪による薙ぎ払いを、避けきれなかったのだ。

「きゃあああああっ!」
悲鳴と共に、彼女の華奢な体は、玩具のように宙を舞い、岩壁に叩きつけられた。鎧は砕け散り、その体はぐったりと動かなくなる。

「ルナ!」
姉のシルフィが、絶叫した。
その動揺が、さらなる悲劇を呼ぶ。
彼女の足元がおろそかになった隙を、別のスケルトンが見逃さなかった。錆びた剣が、シルフィの太腿を深々と貫く。

「ぐっ……!」

戦線が、音を立てて崩れ始めた。
【鋼の獅子】の騎士たちも、瘴気と疲労で動きが鈍り、次々とスケルトンに囲まれて傷を負っていく。
後方の【アカシック・アイ】も、仲間を庇おうとして、詠唱が途切れてしまい、有効な攻撃魔法を放てなくなっていた。

「くそっ……!ここまで、なのか……!」
ゴードンが、膝をつきながら、悔しげに呻いた。
ゼノンも、魔力が尽きかけているのか、顔面蒼白で杖にすがりついている。
シルフィは、瀕死の妹の元へ駆け寄ろうとするが、足の傷が深く、動くことさえままならない。

Aランクパーティの、完全な敗北。
誰もが、死を覚悟した。
その、絶望が戦場を支配した、その瞬間だった。

戦場に、一つの声が響き渡った。
それは、穏やかで、しかし、絶対的な自信に満ちた声だった。

「―――皆さん。そろそろ、指揮権をこちらに渡していただけますか?」

声の主は、高台の上に静かに立つ、一人のヒーラー。
アレンだった。
彼は、まるでこの状況を最初から予見していたかのように、静かに、崩壊した戦線を見下ろしていた。
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