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第53話 戦場の支配者
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アレンの声は、不思議なほどクリアに、混乱の極みにある戦場の隅々にまで響き渡った。絶望の淵にいたAランク冒険者たちは皆、声の主である高台のヒーラーを見上げた。その姿は後光が差しているかのように神々しく見えた。
「……何を、言っている……?」
ゴードンがかすれた声で呟いた。
「指揮権だと? この状況で、貴様に何ができるというのだ……!」
彼の声にはもはや以前のような傲慢さはなく、ただ藁にもすがりたいという悲痛な響きがあった。
アレンは、その問いには答えなかった。彼はただ、隣に立つ二人の仲間に静かに告げた。
「ソフィア、カイ。行くぞ」
次の瞬間、【黎明の翼】の三人は、高台から戦場の中心へと鳥のように舞い降りた。
彼らが着地したのは、最も負傷者が多く崩壊寸前だった【月光の舞姫】と【鋼の獅子】の間だった。
「まずい! あいつら、死にに来たのか!」
ゼノンが遠くから叫んだ。
だが、アレンは落ち着き払っていた。彼は周囲に群がるスケルトンたちを一瞥すると、両腕を大きく広げ、深く息を吸い込んだ。
そして、新たな奇跡を紡ぎ出す。
「《リジェネレーション・フィールド》」
アレンの体から、温かく、そして力強い緑色の光の波紋が、戦場全体へと広がっていった。
それは彼がこれまで使ってきた単体回復の《ヒール》とは全く違う、広範囲に及ぶ継続回復魔法だった。
光の波紋に触れた瞬間、Aランク冒険者たちの身に信じられない変化が起きた。
シルフィの太腿を貫いていた剣傷が、みるみるうちに塞がっていく。
ゴードンの騎士たちが負っていた無数の切り傷が、まるで最初からなかったかのように消えていく。
瘴気に蝕まれていた体から倦怠感が消え、代わりに力がみなぎってくるのが分かった。
そして、奇跡はそれだけでは終わらなかった。
岩壁の下で、すでに事切れているかのように見えたルナの体もまた、緑色の光に包まれた。砕けていたはずの骨が繋がり、止まりかけていた呼吸が再び力強さを取り戻していく。彼女は死の淵から文字通り引き戻されたのだ。
「な……なんだ、これは……!?」
「傷が……癒える……! 力が、戻ってくる……!」
戦場のあちこちから、驚愕と歓喜の声が上がる。
アレンが展開した回復のフィールドは、ただ傷を癒すだけではない。対象の生命力そのものを活性化させ、疲労さえも回復させる、まさに神の領域の魔法だった。
「……さて、反撃開始だ」
アレンは、フィールドを展開したまま冷静に指示を出し始めた。その声は、もはやただのヒーラーのものではない。戦場全体を支配する、絶対的な指揮官の響きを持っていた。
「ソフィア! 前線へ! 【鋼の獅子】の盾と連携し、ドラゴンゾンビを正面から押さえつけろ!」
「任せろ!」
ソフィアは、アレンから《オーバーヒール・ブースト》の支援を受け、蒼い光を纏って突進した。彼女の剣は先程までとは比較にならないほどの速度と重さで、ドラゴンゾンビの脚を打ち据える。
ゴードンたちもアレンの回復力に驚きながらも、歴戦の勇士としての本能でソフィアの動きに合わせて盾を構え、完璧な防御壁を再構築した。
「カイ! 【月光の舞姫】と共に、スケルトンの掃討を! 奴らの機動力を活かせ!」
「……了解」
カイは影となってスケルトンの群れへと切り込んだ。シルフィも妹の命が救われたことに感謝と驚愕を覚えながらも、カイの神出鬼没な動きに合わせ、双剣を閃かせる。二つの疾風がスケルトンの群れを瞬く間に切り裂いていった。
「そして、【アカシック・アイ】! 詠唱に集中してください! 狙うはドラゴンゾンビの頭部! 聖属性魔法があれば、それで!」
「せ、聖属性……! 分かった!」
ゼノンはアレンの的確な指示に、もはや何の疑いも抱かなかった。彼は仲間たちに護衛されながら、パーティ最強の攻撃魔法である、大天使を召喚する魔法の詠唱を開始した。
戦場の流れは、アレンというたった一人の指揮官の登場によって完全に変わった。
彼の広域回復は、討伐部隊を文字通り『死なない軍団』へと変貌させた。どんな傷を負っても、次の瞬間には全快している。疲労することもない。冒険者たちは死の恐怖から解放され、持てる力の120%を発揮して戦うことができた。
アレンは、戦場全体をチェス盤のように見下ろし、的確に駒を動かしていく。
「ゴードン殿、三歩下がってブレスに備えろ!」
「シルフィ殿、右翼のスケルトンが薄い! そこを崩せ!」
「ゼノン殿、詠唱完了まであと十秒! 全パーティ、総力を挙げて時間を稼げ!」
彼の指示は、まるで未来予知のように正確だった。
ゴードンたちは最初こそ戸惑っていたが、彼の指示に従うことで戦況が明らかに好転していくのを肌で感じ、いつしか何の疑いもなくその声に全幅の信頼を寄せるようになっていた。
彼らは、ようやく理解したのだ。
噂は真実だった。いや、噂以上だった。
このヒーラーは、ただ傷を癒すだけの存在ではない。
彼は戦場の全てを掌握し、仲間を勝利へと導く、本物の『聖者』であり、そして恐るべき『戦場の支配者』なのだと。
ゴードンは、盾を構えながら高台に立つアレンを見上げた。
(……指揮権だと? ふざけるな。あれは、もはや指揮官などというレベルではない。あれは……神だ)
彼の脳裏に先程までの自分の傲慢な態度が蘇り、羞恥と畏怖で身が震えた。
そして、彼は心の底から叫んだ。
もはや、この戦いは自分たちだけのものではない。あの聖者に、全てを託すのだ、と。
戦場の全ての冒険者たちが、同じ思いを共有していた。
【黎明の翼】の名の下に、彼らは一つの最強の軍団へと生まれ変わったのだ。
「……何を、言っている……?」
ゴードンがかすれた声で呟いた。
「指揮権だと? この状況で、貴様に何ができるというのだ……!」
彼の声にはもはや以前のような傲慢さはなく、ただ藁にもすがりたいという悲痛な響きがあった。
アレンは、その問いには答えなかった。彼はただ、隣に立つ二人の仲間に静かに告げた。
「ソフィア、カイ。行くぞ」
次の瞬間、【黎明の翼】の三人は、高台から戦場の中心へと鳥のように舞い降りた。
彼らが着地したのは、最も負傷者が多く崩壊寸前だった【月光の舞姫】と【鋼の獅子】の間だった。
「まずい! あいつら、死にに来たのか!」
ゼノンが遠くから叫んだ。
だが、アレンは落ち着き払っていた。彼は周囲に群がるスケルトンたちを一瞥すると、両腕を大きく広げ、深く息を吸い込んだ。
そして、新たな奇跡を紡ぎ出す。
「《リジェネレーション・フィールド》」
アレンの体から、温かく、そして力強い緑色の光の波紋が、戦場全体へと広がっていった。
それは彼がこれまで使ってきた単体回復の《ヒール》とは全く違う、広範囲に及ぶ継続回復魔法だった。
光の波紋に触れた瞬間、Aランク冒険者たちの身に信じられない変化が起きた。
シルフィの太腿を貫いていた剣傷が、みるみるうちに塞がっていく。
ゴードンの騎士たちが負っていた無数の切り傷が、まるで最初からなかったかのように消えていく。
瘴気に蝕まれていた体から倦怠感が消え、代わりに力がみなぎってくるのが分かった。
そして、奇跡はそれだけでは終わらなかった。
岩壁の下で、すでに事切れているかのように見えたルナの体もまた、緑色の光に包まれた。砕けていたはずの骨が繋がり、止まりかけていた呼吸が再び力強さを取り戻していく。彼女は死の淵から文字通り引き戻されたのだ。
「な……なんだ、これは……!?」
「傷が……癒える……! 力が、戻ってくる……!」
戦場のあちこちから、驚愕と歓喜の声が上がる。
アレンが展開した回復のフィールドは、ただ傷を癒すだけではない。対象の生命力そのものを活性化させ、疲労さえも回復させる、まさに神の領域の魔法だった。
「……さて、反撃開始だ」
アレンは、フィールドを展開したまま冷静に指示を出し始めた。その声は、もはやただのヒーラーのものではない。戦場全体を支配する、絶対的な指揮官の響きを持っていた。
「ソフィア! 前線へ! 【鋼の獅子】の盾と連携し、ドラゴンゾンビを正面から押さえつけろ!」
「任せろ!」
ソフィアは、アレンから《オーバーヒール・ブースト》の支援を受け、蒼い光を纏って突進した。彼女の剣は先程までとは比較にならないほどの速度と重さで、ドラゴンゾンビの脚を打ち据える。
ゴードンたちもアレンの回復力に驚きながらも、歴戦の勇士としての本能でソフィアの動きに合わせて盾を構え、完璧な防御壁を再構築した。
「カイ! 【月光の舞姫】と共に、スケルトンの掃討を! 奴らの機動力を活かせ!」
「……了解」
カイは影となってスケルトンの群れへと切り込んだ。シルフィも妹の命が救われたことに感謝と驚愕を覚えながらも、カイの神出鬼没な動きに合わせ、双剣を閃かせる。二つの疾風がスケルトンの群れを瞬く間に切り裂いていった。
「そして、【アカシック・アイ】! 詠唱に集中してください! 狙うはドラゴンゾンビの頭部! 聖属性魔法があれば、それで!」
「せ、聖属性……! 分かった!」
ゼノンはアレンの的確な指示に、もはや何の疑いも抱かなかった。彼は仲間たちに護衛されながら、パーティ最強の攻撃魔法である、大天使を召喚する魔法の詠唱を開始した。
戦場の流れは、アレンというたった一人の指揮官の登場によって完全に変わった。
彼の広域回復は、討伐部隊を文字通り『死なない軍団』へと変貌させた。どんな傷を負っても、次の瞬間には全快している。疲労することもない。冒険者たちは死の恐怖から解放され、持てる力の120%を発揮して戦うことができた。
アレンは、戦場全体をチェス盤のように見下ろし、的確に駒を動かしていく。
「ゴードン殿、三歩下がってブレスに備えろ!」
「シルフィ殿、右翼のスケルトンが薄い! そこを崩せ!」
「ゼノン殿、詠唱完了まであと十秒! 全パーティ、総力を挙げて時間を稼げ!」
彼の指示は、まるで未来予知のように正確だった。
ゴードンたちは最初こそ戸惑っていたが、彼の指示に従うことで戦況が明らかに好転していくのを肌で感じ、いつしか何の疑いもなくその声に全幅の信頼を寄せるようになっていた。
彼らは、ようやく理解したのだ。
噂は真実だった。いや、噂以上だった。
このヒーラーは、ただ傷を癒すだけの存在ではない。
彼は戦場の全てを掌握し、仲間を勝利へと導く、本物の『聖者』であり、そして恐るべき『戦場の支配者』なのだと。
ゴードンは、盾を構えながら高台に立つアレンを見上げた。
(……指揮権だと? ふざけるな。あれは、もはや指揮官などというレベルではない。あれは……神だ)
彼の脳裏に先程までの自分の傲慢な態度が蘇り、羞恥と畏怖で身が震えた。
そして、彼は心の底から叫んだ。
もはや、この戦いは自分たちだけのものではない。あの聖者に、全てを託すのだ、と。
戦場の全ての冒険者たちが、同じ思いを共有していた。
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