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第54話 聖者の奇跡
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アレンの指揮の下、討伐部隊は完全に息を吹き返した。それはもはや個々のパーティの寄せ集めではない。アレンという絶対的な司令塔を中心に、完璧に機能する一つの生命体と化していた。
「ゼノン殿、詠唱完了まであと五秒! ソフィア、カイ! 今だ!」
アレンの声が戦場に響き渡る。
その合図と同時に、ソフィアとカイはドラゴンゾンビへの猛攻を仕掛けた。
ソフィアの剣が、まるで光の鞭のようにしなり、ドラゴンゾンビの両膝の骨を同時に打ち砕く。巨体がバランスを崩し、大きくよろめいた。
その隙を突き、カイが竜の背骨を駆け上がり、首の付け根にある神経の集中点に、麻痺毒を塗った短剣を深々と突き立てた。
「ギシャアアアア!」
ドラゴンゾンビの動きが、ほんの一瞬完全に停止した。
「今です! 放て!」
アレンが叫ぶ。
その瞬間、後方で詠唱を終えたゼノンの頭上に巨大な魔法陣が展開された。
「いでよ、大天使! その聖なる槍にて、不浄なる魂を浄化したまえ! 《アークエンジェル・ランス》!」
魔法陣から、まばゆいばかりの光を放つ翼を持つ天使の姿が出現した。大天使は、その手に握った光の槍を、動きの止まったドラゴンゾンビの頭部めがけて投擲する。
光の槍は空気を切り裂きながら飛翔し、寸分の狂いもなくドラゴンゾンビの眉間に突き刺さった。
轟音。
聖なる力が炸裂し、ドラゴンゾンビの頑強な頭蓋骨に大きな亀裂が走った。
「やったか!?」
誰かが期待の声を上げる。
だが、ドラゴンゾンビはまだ倒れていなかった。
頭蓋骨に亀裂は入ったものの、その奥にある魔力コアを破壊するには至らなかったのだ。
「ギ……ギ……オオオオオオッ!」
致命傷を負った獣は、最後の力を振り絞るかのように、これまでで最も激しい咆哮を上げた。その体から、凄まじい量の死の瘴気が嵐のように吹き荒れる。
「まずい! 最後の足掻きだ!」
ゴードンが叫んだ。
瘴気の嵐は、アレンの《リジェネレーション・フィールド》の浄化能力さえも上回り、冒険者たちの体を再び蝕み始めた。
さらに、ドラゴンゾンビは、その空っぽの顎を天に向け、紫黒色のエネルギーを収束させ始めた。最後のブレス。その魔力量はこれまでの比ではない。まともに食らえば、この盆地ごと消し飛びかねない。
「もはや、これまでか……!」
ゼノンが魔力を使い果たし、絶望の声を上げた。
誰もが死を覚悟した。
アレンの奇跡をもってしても、この絶対的な破壊の前には無力なのか。
だが、アレンは諦めていなかった。
彼の表情は依然として冷静そのものだった。
「……いいや。まだだ」
彼は隣に立つソフィアとカイに、静かに告げた。
「二人とも、俺に力を貸せ」
アレンは両手を前方に突き出した。
「ソフィア、あんたの不屈の闘志を、その剣を通して俺に」
「カイ、あんたの研ぎ澄まされた魂を、その短剣を通して俺に」
二人はアレンの意図を即座に理解した。彼らはアレンの背中に、それぞれの愛用の武器の柄を押し当てる。
そして、アレンは戦場にいる全ての冒険者たちに向かって叫んだ。
「皆さん! 俺に、皆さんの魔力を少しだけ分けてください! この戦いを終わらせるために!」
その声には不思議な力が宿っていた。
ゴードンも、シルフィも、ゼノンも、そして名もなき騎士や魔法使いたちも、誰もが何の疑いもなくアレンの言葉に従った。
彼らは残された最後の魔力や生命力を、祈りと共にアレンへと向けて放出した。
戦場にいる全ての者たちの想いが、光の帯となってアレンの体へと収束していく。
アレンの体が、金色と緑色と蒼色が入り混じった神々しい光に包まれた。
「……これが、俺たちの最後の切り札だ」
ドラゴンゾンビが滅びのブレスを吐き出す。
世界が紫黒色の絶望に染まる。
それに対し、アレンは仲間たちから集めた全ての力を束ね、一つの魔法として解き放った。
それは、彼がかつてカイを救った、あの奇跡の魔法。
「――《リバース・ペイン》!!」
アレンの掌から放たれたのは光ではなかった。
それは、空間そのものを歪ませるほどの巨大な『鏡』だった。
仲間たちの想いで作られた、因果を逆転させる奇跡の盾。
滅びのブレスが、その鏡に激突した。
しかし、鏡は砕けない。ブレスは、その絶望的なエネルギーの全てを鏡に吸収され、そして――
―――完全に、跳ね返された。
紫黒色のブレスは、来た時と同じ、いや、それ以上の勢いを持ってドラゴンゾンビ自身へと殺到した。
ドラゴンゾンビは、自らが放った滅びの力に、なすすべもなく飲み込まれていく。
その眼窩に宿っていた禍々しい光が、驚愕に見開かれたかのように見えた。
断末魔の叫びはなかった。
ただ、巨大な骨の体が音もなく内側から崩壊し、塵となって風に消えていった。
後に残されたのは、静寂と晴れ渡った空、そして呆然と立ち尽くす冒険者たちだけだった。
彼らは目の前で起きた、まさに神話の一場面のような光景を、ただ信じられない思いで見つめていた。
やがて、誰からともなく歓声が上がった。
それは一つの小さな声から始まり、やがて地響きのような割れんばかりの大歓声となって、嘆きの山脈にこだました。
彼らは勝ったのだ。
絶望的な戦いに勝利したのだ。
その歓声の中心で、アレンは仲間たちに支えられながら静かに立っていた。
彼の顔には疲労の色が濃く浮かんでいたが、その口元には確かな笑みが浮かんでいる。
ゴードンが、シルフィが、ゼノンが、そして全ての冒険者たちが彼らの元へと駆け寄ってきた。
彼らはアレンの前に進み出ると、誰一人として例外なく、その場で深く膝をついた。
それは、騎士が王に捧げる最上級の敬意の表れだった。
「……ありがとう、アレン殿」
ゴードンが感極まった声で言った。
「貴公がいなければ我々は皆、死んでいた。貴公こそ、我々を救った真の英雄だ」
その言葉に、他の者たちも次々と感謝と賞賛の言葉を口にした。
彼らの瞳には、もはや侮蔑の色など一片もない。
あるのは、絶対的な実力者に対する心からの尊敬と畏怖だけだった。
アレンは、その光景を静かに見つめていた。
彼は英雄になどなりたくはなかった。ただ、仲間を、そして目の前で苦しむ人々を救いたかっただけだ。
だが、運命は彼をただのヒーラーでいることを許してはくれなかったらしい。
Aランク昇格試験。
それは、アレンが『辺境の聖者』から『大陸の英雄』へとその第一歩を踏み出した瞬間として、歴史に刻まれることになった。
彼と【黎明の翼】の伝説は、今、まさに大きく羽ばたこうとしていた。
「ゼノン殿、詠唱完了まであと五秒! ソフィア、カイ! 今だ!」
アレンの声が戦場に響き渡る。
その合図と同時に、ソフィアとカイはドラゴンゾンビへの猛攻を仕掛けた。
ソフィアの剣が、まるで光の鞭のようにしなり、ドラゴンゾンビの両膝の骨を同時に打ち砕く。巨体がバランスを崩し、大きくよろめいた。
その隙を突き、カイが竜の背骨を駆け上がり、首の付け根にある神経の集中点に、麻痺毒を塗った短剣を深々と突き立てた。
「ギシャアアアア!」
ドラゴンゾンビの動きが、ほんの一瞬完全に停止した。
「今です! 放て!」
アレンが叫ぶ。
その瞬間、後方で詠唱を終えたゼノンの頭上に巨大な魔法陣が展開された。
「いでよ、大天使! その聖なる槍にて、不浄なる魂を浄化したまえ! 《アークエンジェル・ランス》!」
魔法陣から、まばゆいばかりの光を放つ翼を持つ天使の姿が出現した。大天使は、その手に握った光の槍を、動きの止まったドラゴンゾンビの頭部めがけて投擲する。
光の槍は空気を切り裂きながら飛翔し、寸分の狂いもなくドラゴンゾンビの眉間に突き刺さった。
轟音。
聖なる力が炸裂し、ドラゴンゾンビの頑強な頭蓋骨に大きな亀裂が走った。
「やったか!?」
誰かが期待の声を上げる。
だが、ドラゴンゾンビはまだ倒れていなかった。
頭蓋骨に亀裂は入ったものの、その奥にある魔力コアを破壊するには至らなかったのだ。
「ギ……ギ……オオオオオオッ!」
致命傷を負った獣は、最後の力を振り絞るかのように、これまでで最も激しい咆哮を上げた。その体から、凄まじい量の死の瘴気が嵐のように吹き荒れる。
「まずい! 最後の足掻きだ!」
ゴードンが叫んだ。
瘴気の嵐は、アレンの《リジェネレーション・フィールド》の浄化能力さえも上回り、冒険者たちの体を再び蝕み始めた。
さらに、ドラゴンゾンビは、その空っぽの顎を天に向け、紫黒色のエネルギーを収束させ始めた。最後のブレス。その魔力量はこれまでの比ではない。まともに食らえば、この盆地ごと消し飛びかねない。
「もはや、これまでか……!」
ゼノンが魔力を使い果たし、絶望の声を上げた。
誰もが死を覚悟した。
アレンの奇跡をもってしても、この絶対的な破壊の前には無力なのか。
だが、アレンは諦めていなかった。
彼の表情は依然として冷静そのものだった。
「……いいや。まだだ」
彼は隣に立つソフィアとカイに、静かに告げた。
「二人とも、俺に力を貸せ」
アレンは両手を前方に突き出した。
「ソフィア、あんたの不屈の闘志を、その剣を通して俺に」
「カイ、あんたの研ぎ澄まされた魂を、その短剣を通して俺に」
二人はアレンの意図を即座に理解した。彼らはアレンの背中に、それぞれの愛用の武器の柄を押し当てる。
そして、アレンは戦場にいる全ての冒険者たちに向かって叫んだ。
「皆さん! 俺に、皆さんの魔力を少しだけ分けてください! この戦いを終わらせるために!」
その声には不思議な力が宿っていた。
ゴードンも、シルフィも、ゼノンも、そして名もなき騎士や魔法使いたちも、誰もが何の疑いもなくアレンの言葉に従った。
彼らは残された最後の魔力や生命力を、祈りと共にアレンへと向けて放出した。
戦場にいる全ての者たちの想いが、光の帯となってアレンの体へと収束していく。
アレンの体が、金色と緑色と蒼色が入り混じった神々しい光に包まれた。
「……これが、俺たちの最後の切り札だ」
ドラゴンゾンビが滅びのブレスを吐き出す。
世界が紫黒色の絶望に染まる。
それに対し、アレンは仲間たちから集めた全ての力を束ね、一つの魔法として解き放った。
それは、彼がかつてカイを救った、あの奇跡の魔法。
「――《リバース・ペイン》!!」
アレンの掌から放たれたのは光ではなかった。
それは、空間そのものを歪ませるほどの巨大な『鏡』だった。
仲間たちの想いで作られた、因果を逆転させる奇跡の盾。
滅びのブレスが、その鏡に激突した。
しかし、鏡は砕けない。ブレスは、その絶望的なエネルギーの全てを鏡に吸収され、そして――
―――完全に、跳ね返された。
紫黒色のブレスは、来た時と同じ、いや、それ以上の勢いを持ってドラゴンゾンビ自身へと殺到した。
ドラゴンゾンビは、自らが放った滅びの力に、なすすべもなく飲み込まれていく。
その眼窩に宿っていた禍々しい光が、驚愕に見開かれたかのように見えた。
断末魔の叫びはなかった。
ただ、巨大な骨の体が音もなく内側から崩壊し、塵となって風に消えていった。
後に残されたのは、静寂と晴れ渡った空、そして呆然と立ち尽くす冒険者たちだけだった。
彼らは目の前で起きた、まさに神話の一場面のような光景を、ただ信じられない思いで見つめていた。
やがて、誰からともなく歓声が上がった。
それは一つの小さな声から始まり、やがて地響きのような割れんばかりの大歓声となって、嘆きの山脈にこだました。
彼らは勝ったのだ。
絶望的な戦いに勝利したのだ。
その歓声の中心で、アレンは仲間たちに支えられながら静かに立っていた。
彼の顔には疲労の色が濃く浮かんでいたが、その口元には確かな笑みが浮かんでいる。
ゴードンが、シルフィが、ゼノンが、そして全ての冒険者たちが彼らの元へと駆け寄ってきた。
彼らはアレンの前に進み出ると、誰一人として例外なく、その場で深く膝をついた。
それは、騎士が王に捧げる最上級の敬意の表れだった。
「……ありがとう、アレン殿」
ゴードンが感極まった声で言った。
「貴公がいなければ我々は皆、死んでいた。貴公こそ、我々を救った真の英雄だ」
その言葉に、他の者たちも次々と感謝と賞賛の言葉を口にした。
彼らの瞳には、もはや侮蔑の色など一片もない。
あるのは、絶対的な実力者に対する心からの尊敬と畏怖だけだった。
アレンは、その光景を静かに見つめていた。
彼は英雄になどなりたくはなかった。ただ、仲間を、そして目の前で苦しむ人々を救いたかっただけだ。
だが、運命は彼をただのヒーラーでいることを許してはくれなかったらしい。
Aランク昇格試験。
それは、アレンが『辺境の聖者』から『大陸の英雄』へとその第一歩を踏み出した瞬間として、歴史に刻まれることになった。
彼と【黎明の翼】の伝説は、今、まさに大きく羽ばたこうとしていた。
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